十四 冒険者ギルド
「ティーさん、ここは人が多いから、手を離さないでね」
入る前にレオが言っていたとおり、ギルドの中は人が多かった。それも体の大きな男性ばかり、鎧を身につけて腰には太い剣が見える。あそこには杖を片手にローブ姿の男性。あ、男性の中に女性もいた腰に爪のようなものをぶら下げていた。
みんなは体も声も大きい、その中でひとぎわ賑わう大きな掲示板があった。そこに集まってみんなは何を見てるの?
「ティーさん驚いちゃった? 受け付けで依頼の報告すれば終わるから」
「はい、冒険者ギルドに来るのは初めてで、目移りてしまいました」
「そうか、ティーさん、ギルド来るの初めか……ゆっくり見せてあげたいけど、手を離さない様にね」
「わかりました」
冒険者ギルドの人の数は故郷の村の人達よりも、ここの人の方が多いかも。
「おっ、レオ、レオもギルドに来てたのかぁ!」
一人の冒険がレオを呼んだ。その人はレオと同じ耳と尻尾が生えた、黒髪の男性が声を上げてコッチに走って来た。レオもその男性に気が付き手を上げた。
「ルフか、久しぶりだな。いつこっちに戻って来たんだ?」
「ほんの二、三日前だ、さっきまで西で大猪討伐に参加してたんだ」
「大猪か、大猪の牙を煎じて飲めば滋養強壮薬になるよな、高値で取引されてる」
「だよな、すげぇ楽しかった。レオも来ればよかったのに」
レオ、お友達と会って楽しそう。私は話には加わらないけど、彼らの近くで話を楽しく聞いていた。彼の耳がピクンと動き、うんうんと話を聞いた後に。
「おい、レオ、東の谷にドラゴンが出るらしいぞ、仲間を集めて見にいかねぇかぁ」
ドラゴン⁉︎ 昔、読んだ絵本に出てきた火を吐く魔物だわ。それを見に行くの? 思わずレオの手を強く握ってしまった。
「大丈夫だよ、ティーさん。誘ってくれるのは嬉しいが、悪いなルフ……俺は森の管理もある。昔と違って、他の仕事もあるし、長いこと家を空けるわけにはいかないんだ」
「あぁ、国の森かぁ。そんなの他の奴に任せろよ、レオがやらなくても、いいだろう? ん、なんだ? 隣のこのちんまいのは?」
ルフさんが私に気が付く。
私たちが手を繋いでいる所を見て眉を潜めた。
「レオ、お前、人間と結婚したのか?」
「ああ、できたら……いやっ、この人はティーさんと言って、僕のお手伝いさんだよ」
お手伝い⁉︎ ルフの黒い瞳が私を探るかのように見て、居心地が悪い。
はっ、挨拶。
「は、初めまして、ティーラと言います」
「ティーラか、俺は狼のルフだ」
ルフは獣人の狼なんだ……ルフが別に狼だから怖いのではない、彼は私を人間を嫌っている感じがする。
「ルフ、少しでいいんだけど、ティーさんといてくれない? 採取の報告をしてくる」
「いいよ、オレとティーさんとで休憩スペースで待ってる」
「ティーさん、ごめんね」
「だ、大丈夫です」
と、レオの手が離れたそれだけで寂しく感じた。
そして、レオの姿が見えなくなると、ルフは私を睨んできた。
「おい人間、お前はどうやってレオに近付いたんだぁ? どうせ金目当てだろう? お前の見た目が貧乏そうだもんな? それになんだ、そのヘッタクソなライオンのアップリケはあいつかぁ? ご機嫌とりも大変だなぁ」
「……っ」
私が貧乏なのは本当だけど……このルフという人は怖く感じた。この人は私よりも身長が高くて上から見下ろしてくる、これは絶対に獣人の人じゃなくても怖い。
でも"下手くそ"だと言ったけど、尻尾穴のアップリケ、ライオンに見えたんだ……それは嬉しい。
「お前、何笑ってんだ?」
「えっと、このアップリケは下手くそだけど、ライオンに見えるって言ってくれたから、つい嬉しくって……ルフさんありがとう」
その後の彼は、はぁ? おま、なんだ? と言ったあとに彼は黙ってしまった。でも、私のそばを離れることなく側にいてくれた。
「あの、ルフさん……レオさんて強いのですか?」
「お前、しらねぇの? ああ、強い、俺なんかよりも断然強いし仲間に優しい」
強くて、優しい。
「素敵な方ですよね、レオさん」
「素敵だと? お前さぁ、レオと一緒に住んでだろ? あいつ家ではどんな姿いる、あのままか?」
家での姿? あのままというと、今のレオのことだろうか。私はブンブン首を横に振った。
「いいえ、外に出るときには今の姿ですけど、家の中ではライオンの姿ですよ」
ルフの鋭い瞳が大きくなる。
「お前は怖くないのか? オレ達は獣人だぞ」
「ええ獣人さんですが、怖くないです……むしろ可愛い。あ、ああ! これはレオさんには言わないでお願い、ルフさん」
「おい、いわねぇ、って」
本音を言った私は頬が赤くなって、恥ずかしくて、ルフの服を掴んだ所にレオが戻ってきてしまった。
レオは私達を見て。
「ルフ、お前、まさか? ティーさんが可愛いからって口説いたのか? それは絶対にダメだからな」
レオは私の手を取り、背中に隠した。
「く、口説かねぇよ。オレは胸が大きい子が好きだ……、でも、オレたちの姿を怖がらない、いい子をレオは見つけたな」
ソイツは稀に見ねぇ、珍獣だ。と私を指差し笑って、またなっと、掲示板のところに行ってしまった。
「ほんと、ティーさん? ルフに口説かれてない?」
「はい、ルフさんはレオさん想いのいい人でした、あ、いい狼さんでした」
そっか、あいつは昔っからよくモテるから、心配したとレオが言った。ほんとモテそうだけど"レオの方が素敵です"よと、口にはださずに心の中で呟いた。
「そろそろ行こうか」
冒険者ギルドでの用事が終わったから、次は獣人街に向かおうとした私達のところに"待て"と、掲示板にいたルフが走ってきてレオに耳打ちした。
「それほんとか……アイツまだ諦めていなかったのか」
何を言われたのかはわからないけど、レオは眉間にシワを寄せた。
「近くにいた冒険がそんな話をしてた。王都でお前を"見た"と知らせれば大金が貰えると。金欲しさにお前がここに来たことを、誰かがアイツに伝えるかもしれない、レオ気を付けろよ」
「わかった、ルフ、ありがとう」
「アイツ、酷いことを言うくせに、迷惑な奴だな」
「ほんとそうだね、迷惑だよ」
ルフと冒険者ギルドで別れた。私の手を掴み早足で歩く、レオにあいつとは誰? と聞きたかったけど。レオの厳しい表情に何も言えなくなってしまった。
「ま、待って、レオさん?」
「ごめん、急いで獣人街に行くね……そうだ、こうすれば早いか」
(え、嘘、レオさーん?)
レオは私をお姫様抱っこをして、王都の中を走り出した。なんだと周りが振り向くし見られてる。
(うわぁ、恥ずかしい)
「ティーさん、僕の首にしっかり手を回して」
「う、うん」
言われて手を回す、そのときにレオの髪に触れた。
(うわぁ、レオの髪ってたてがみと同じでふわふわでさらさらだ)
私は自分で気づかないうちに、無我夢中でレオの髪に触れていた。自分の髪はゴワゴワなのに、どうしたらこんな髪になるの? と……それはレオに声をかけられるまで続けていたのだった。




