十一 ライオンのアップリケ
真っ黒事件から一週間が経つけど。わたしの部屋になる予定の奥の部屋はまだ掃除の途中で、わたしはレオの部屋兼寝室で彼と寝起きを共にしている。
(たまにコッソリ、レオのたてがみを触ってる)
それと最近、レオのシンプルな部屋に場違いなピンクのドレッサーが増えた。それは二日前の夕方、嬉しそうに『街でティーさん似合いそうだと思って買ってきたよ』と、レオがドレッサーを担いで帰って来たのだ。
驚くわたしを他所に自分の姿見が邪魔だと退かして、そこにドレッサーを置いてしまった。わたしはレオがドレッサーを王都から担いで帰って来た姿にも驚いたけど、このドレッサーはかなり高価な物だ。
『レオさん、これ?』
高いんじゃと、聞こうと思ったのだけど。
『ティーさん見てこれ凄いんだよ。普段はドレッサーとしても使えるし、こうすればテーブルとしても使えるんだ、ここで縫い物も出来るよ』
余りにも楽しそうにドレッサーの説明をしてくれるから、何も言えなくなって、レオにたくさんお礼を言った。
(わたしも何かお礼がしたいと模索中なんだ)
♢
早朝から書類整理の仕事があるらしく、レオの仕事が終わってから朝食にする予定だから、わたしはのんびり朝食をキッチンで作っていた。
「おはようティーさん。何か手伝う?」
「おはようございます。レオさん、これをテーブルまで運んでください」
仕事が終わったのか隣に覗きに来たレオに、出来立てのバタートーストとハムエッグのお皿を渡した。次にと、わたしはサラダを盛り付けてスープを温め始めた。
レオは朝食をテーブルに並べて座ると、キッチンで働くわたしを見ながら『今日こそは当てる』と真剣な顔をした。
「うーん、昨日と少し目の形が違うかな?」
彼はぶつぶつと後ろでアレかな? これかな? と思い当たるものを言っているようだ。
「わかったよ、ティーさん。それは猫だ!」
「ブッブーハズレ。正解はワンちゃんです……やっぱり猫に見えちゃうね」
自分でも微妙だなっと思っていた。
「うん、可愛い猫かと思ったよ」
わたしたちの間で尻尾穴に縫った、アップリケを当てるゲームが流行っている。しかし、わたしの下手すぎるアップリケの為、なかなかレオに当ててもらえないのだ。
「ティーさん、当てられなくてごめん」
「いいえ、レオさんのせいではありません。わたしのアップリケの腕前が下手すぎるせいです」
本当はカッコいいライオンのアップリケを縫いたいのだけど……何度やってもライオンに見えない。
レオが仕事や、お風呂の時間でいない時に下着で練習中。
(でも、何度やっても……たてがみボサボサなライオンにしか見えなくて、ちっとも上手くいかない)
♢
レオは思う、今日は犬だったか……と。
でも俺は早く、ティーが練習中のライオンが見たい。
なぜ俺が知っているかというと。
あれは二日前。お風呂上がりに"次どうぞ"と、ティーを呼びに部屋にいった。ノックをして声を掛けようとした時と同時に、部屋の中からティーの独り言が聞こえたんだ。
「あーん、上手くいかない。下着が全部、下手なライオンになっちゃった。これじゃ、いつまでたっても、レオさんに見せられない」
(え、ティー、ライオンのアップリケを下着で練習中なんだ)
「レオさんに上手く出来たのを見せたいし、当ててもらって喜んで貰いたいのに……不器用な自分が悔しい」
ティーが上手く出来なくて、苛つき、机を軽くパンパン叩いてる。うわっ、ヤバッ……普段の彼女が俺に見せない行動をしている。
なんてティーは可愛い人なんだ。それに下着にライオンのアップリケって……あー、ダメだ、ダメだ、想像してしまうじゃないか。
と、部屋の中と外で二人は同時に悶えていたのだった。




