対面
「神域へと転移します。よろしいですか?」
頭の中に、声が響く。
初めて聞くのに、どこか懐かしい声。
「ああ」
俺は迷わず許可する。
直後、視界が閉ざされ、謎の浮遊感が体を襲う。
そして、視界が回復した時、俺はメルクと思われる桃髪の女の子の前に立っていた。
「お前が、メルクか?」
込み上げるような怒りと殺意を抑え、目の前の女の子に問いかける。
「いえ、私はメルク様の補助係のようなものです。
メルク様は中においでです」
そう言って桃髪の子は光の中に消えていく。
俺も後を追って光の中に入る。
そこには、
20対の黄金色の大翼を背負う、女神のような美貌の何かがいた。
いや、何かではないか。俺の滅ぼすべき絶対悪。メルクがいた。
「やぁやぁ、ご苦労さま、アデル君」
体中を悪寒が走る。背筋が凍る。呼吸も荒くなる。
これは、圧倒的な生物としての格の違い。
「お前が、メルクか...?」
怯えるな。恐怖に飲まれた瞬間、俺は俺で無くなる。
「そうですよ?」
ちらとメルクの後ろを見る。
そこには
「SSランクの...魔獣...?」
「ん?ああこの子達かい?彼らは僕の優秀な駒だよ。様々な種族の天敵になるように強さを設定しているんだ」
メルクはにっこりと笑いながらそう解説する。
「駒...だと?」
何かがひっかかった。
「そう、駒。僕の指示でどんな行動も決定されるの」
その言葉は決定的だった。
「どんな行動も?」
「ああ、どんな行動もだ」
「じゃあ、聞かせろ。お前は2,3年前、モーリーに何らかの指示を出したか?」
ノーの答えは期待できないだろう。
「出したよ。ラルク領近辺の森で暴れろってね」
狂気に染まった笑顔がメルクの顔に浮かぶ。
「もうひとつ。これも2,3年前。グラストに連絡をとったか?」
溢れんばかりの殺意を抑え付け、問う。
「ああ、とったとも──おお、怖い怖い」
殺意が、抑えきれなくなる。
「もうひとつ。亜人公国のやつらに才能をやらなくなったのはお前の判断か?」
「うん、そうだよ」
感情が、爆発する。
才能を解放し、初手から決めにかかる。
振りかざした爪がメルクの体を引き裂き──
「がふっ!」
腹を強打される。
強烈すぎる破壊力は一撃で俺の腰を折り、下がった顎にメルクのアッパーが華麗に突き刺さる。
「ふむ。少し危険だな。『才能・封縛』」
仰向けに倒れた俺の体が縮む。
「な、馬鹿な...」
「才能・封縛はここで俺以外の才能の使用を禁止する業だ」
クソッ取られた。唯一メルクを倒しうる武器が、取られた。
「まあまあ、そんなムキになるなよ。ゆっくり話合おう」
メルクはそう言って指を鳴らす。
さっきの桃髪の子がお茶をもって入ってくる。
「断る」
俺には未だによくわかっていない能力ブーストがある。
それを使う条件も、何もかもわからない。
ただ、わかっていることが一つだけある。
感情に身を委ねる。
感情が異常な昂りを見せる今なら、発動できるはずだ。
視界が、徐々に紅く染まっていく。
できた。
その姿をメルクは興味無さそうに見つめていた。




