破壊の権化
「キャンデル...?」
地面に勢いよく突撃する。
背中が痛い。頭も今の衝撃でクラクラする。
でも、そんなのは関係ない。
見るのは氷柱。
そして、その下で紅く輝く大輪を咲かせている猫耳の女。
「今だ!やつは一人!捕らえろ!」
遠くで、声が聞こえる。
大きな氷柱が空に出現する。
多くの気配が、近寄ってくる。
「ああ、そうか。俺は、キャンデルに、仲間以上の感情を持ってないと思ってた。でも、今わかった。俺は、キャンデルに恋心に近い何かを抱いてたんだな」
じゃないと、この言葉に表せない痛みをどう説明する。
前にも一度味わったことのある痛みだ。認めざるを得ないだろう。
「なあ父さん」
それは、距離を詰めている兵士にも、ましてや父にも届くような声では無かった。
「あんたは、俺から何もかも奪っていくんだな」
家名。地位。信頼。そして、大切な人。
「この恨み、今ここで晴らさせてもらう」
世界に何もかも奪われた憎悪が、二人の女性が気づかせてくれた深愛が、喪失から気づいた哀しみが、今まで感じた全ての感情が激流の如く体の中に流れ込む。
視界が紅く染まり、体の底から力が溢れ出す。
体が膨張する感覚。
「ぁぁぁぁああああああ!」
体がミシミシと音をたて、膨張を食い止めようと反発する。
が、その力を破壊する。
視界が高くなる。視野が少し狭まる。
不思議な感覚だ。いつもよりも意識の伝達速度が遅く感じる。
「がぁ?(爪?)」
そうか、これが、俺の才能なのか。
つけるなら、破壊の権化と言ったところか。
それはそれとして。
「ガァアアアアアアアアアア!」
貴様らは、絶対に許さない!
地面が爆発する。目の前に瞬時に現れた兵士に向けて、最高速で爪を振るう。
瞬間、肉が引きちぎれ、臓腑が降り落ち、血が宙を舞う。
「ガァァァアアアアアアアア!」
使える!殺せる!復讐できる!
周囲から迫る兵士を一蹴し、大本命の父さんの方を向く。
「『焔天』」
空から大質量の炎の塊が降ってくる。
「ガァア!」
が、触れる前に構成魔力ごと破壊する。
爪を一振。足を振り上げ、地に叩きつける。
地面が、赤く染まっていく。
足元からは許しを乞う声や、あくまで戦う意志を曲げない声、
そして、メルクに祈りを捧げる声などがあった。
イライラする。
みんなメルク、メルクと...。
もうその名は聞き飽きた!
「ガァァァアアア!」
再度、強く地を叩く。
ドンッ!!
爆発...した...?
足を叩きつけた部分を中心に、爆発が三度起こる。
まだ、使いこなせてないが、ほとんど掃討できたな。
「さて、どう手前を苦しめようか」
才能を解除し、人の姿に戻る。
目の前にいるのは元父親。
武器は無く、ただ怯えて震えることしか出来ない無様な姿。
こんなやつに俺は恐怖し、逃げたのか...。
今なお怒りが降り積もる。
「た、助けてくれ...あ、アデルお前は、俺の息子だろ?」
この期に及んでまだ命乞いをする。
「な、なぁ、バルカス領だってお前に、やる!そうだ、可愛いお嫁さんもつけてやる!だから、助けてくれ、見逃してくれ...」
やはり、クズはクズだ──
「俺はお前から息子ではないと宣言されている。それに、バルカス領は最初から俺の物になるはずだったものだ。
最後に、可愛い婚約者だぁ!?ふざけるな!俺からその婚約者や、大切な人を奪ったのは誰だ!
俺はお前にもらうものなんて何一つ無い!」
「アデル...」
「その名をお前が口に出すな。ああ、そうだ。お前の物、全て奪ってやる。
命、財産、妻、子供、領地。それ以外も全部だ。
どうだ?嬉しいだろう?」
──そして、クズの子供はもっとクズだ。
「くくく、バカかお前。お前ごときが、ハイル王国の近衛騎士団に勝てるわけ無いだろう。例え私の全てを奪おうとしても、近衛達が立ちはだかり、お前を殺す。お前は死ぬまで、奪われ続けるんだよ!」
何を言っているんだこいつ。
「俺はもう死んでるさ。キャンデルが死んだ時に。
今お前の前にいるのは、ただの復讐者だ。
敵対するやつに容赦はしない。
たとえ近衛でも確実に殺す。
俺は、敵対した者全てを地獄に誘う。当然、ハイル王国のやつらは全員。亜人公国も、メルクだってそうだ。」
「お前らのせいで俺は未来を失った。なら今度はお前らの未来を俺が奪う」
「た、助けて...」
ここまで言っても命乞いか。
「もういい。お前はここで死ね」
両肘を折る。
爪を剥がす。
皮膚を裂き。
眼を抉る。
その度に絶叫が鳴り、元傭兵だった父親が気絶する。
他の痛みで気絶から起こし、
皮膚を削ぎ、内蔵を抉りだす。
心臓と脳を破壊し、元父親が絶命したのを確認し、
血塗れのまま。東に歩き始める。
「待ってろ。クズ王。この前の仕返し、今からしに行ってやるからよ」




