温もり
うーん、サブタイトル...決まらないですねぇ...
「ガァァァ!」
亜人公国内部で、一つの咆哮が天を衝く。
紅い両眼。黒い体毛。
人で言うと尻にあたる部位からは21の赤黒い長尾が出ている。
そいつは、言うなれば二足歩行型の狼といった容貌だった。
それは周囲に乱立する樹木を、感情をぶつけるかの如く叩きおり、振り回し、破壊する。
その度に地が揺れ、空気すらも振動する。
この化物に、理性はない。ただ、己の感情に流されるまま、したいことをしているだけだ。
化物の理性は深淵、感情の坩堝の奥深くで眠っている。
破壊は、徐々に速度と範囲を広げていく。
木片が飛び散る様が、鮮血が飛び散る様に見えなくもない。
化物は今、人を殺しているつもりなのだろう。
今まで隠してきた本当の感情。それが、表面へとでてきたのだ。
アデルは今、ここには居らず、アデルだった者がここに居る。
いや、両方アデルだ。アデルの表の顔が、ここに居る。
やがて、周囲に木は無くなり、平地となった場所と大量の木片が散らばった。
そして、二足歩行の狼は、闇に溶けるように消え、
21ある尻尾の中の一本から、アデルの体が出てきた。
彼は意識を失っているのか、そこからピクリとも動かなかった。
「でる...く...あ...る...ん」
なんだ...俺を、呼ぶ声?
なのに、何故、あの腸が煮えくり返るほどの怒りを覚えない?
何故俺を呼ぶ声に嘲りの音がない?
なんで? なんで? なんで?
俺は無意識のうちに、手を伸ばしていた。
暗い、赤黒い世界に伸びてきた、真っ白な手に向けて。
俺はその手に掴まり、強く手を握った。
途端、急速に世界は色褪せ、蠢く黒が、何も無い黒に変わり、
何も無かった世界に、音と感触、感情が戻ってくる。
「アデル君!」
真っ先に視界に飛び込んできたのは、猫耳を生やした獣人。
キャンデルの焦燥に駆られた顔だった。
「キャンデル...さん...?」
俺には何故彼女がここにいるのか理解できなかった。
「よかった...よかった...」
嗚咽混じりの声で俺の体の無事を確認するキャンデル。
私が派遣員でよかった...と言っていることから、
キャンデルが今ここにいる意味がわかった。
それはそうだろう。
森が、一瞬で平地へと変わっているんだからな。
「これ、なに...?」
つぶやく。頭は理解していてもやはり何かの間違いだと否定する声があがる。
「わからないの...。突然国の中から叫びが聴こえて、来てみたらこの惨状だったの...。」
俺の独り言にキャンデルが答える。
俺は、なんで生きてるんだ?
「それにしても、よかったわ。生きててくれて、本当に...。」
なんで森が平地になってるのに俺の体は無事なんだ...?
なんで、さっきまでの記憶がないんだ?
嫌な予感がする...。これをやったのは...俺なんじゃないか...?
嫌な考えが俺の頭を暗い世界に落とし込んでいく。
「さあ、家に帰りましょう」
その時、俺の体が宙に浮いた。
後ろにはやわらかく暖かい感触。
キャンデルに抱き抱えられたのだとすぐ気づいた。
嫌な思考から抜け始める。
キャンデルに、俺の不安を吸い取られていくように。
俺は、キャンデルの体に、寄り添うように顔を埋め、一定の揺れを感じながら暖かい暗がりに落ちていった。




