パワハラ
あいがクラーケンにリンチされているのと同時刻
大きな画面が何個も並ぶ薄暗い部屋には2人の男がいた
「いやー、さすがはかせ。こんなにうまくいくなんて思わなかったよ」
教会で初登場したしたっぱの男がカタカタとキーボードを叩くはかせと呼ばれるメガネの男の背中をポンと叩き労う
「誰が転移装置を使ったかなんてログを辿ればすぐわかりますし、あとは魔法無効のモンスターを探し出して誘導するだけですから」
あまり喜びを表に出さずに淡々と話すはかせ
「そんなご謙遜しなくても」
大きなテンションの差も気にせず意気揚々と話し続ける
「そんなログの解析とかできるのはアニキとあんたぐらいしかいないんだから、もっとこう、俺はすごいことをしてるんだーていうの表に出しなよ」
「はあ」
話の内容はきっとロクでもないものだと決めつけているのか何一つ聞く気がないようだ
「おい、安田。あの女の件はどうなってる?」
部屋に大きな迫力のある声が響き渡った
2人は扉の方を見るとアニキと呼ばれる男が立っていた
「あ、アニキ。それはもうバッチリですよ。今頃クラーケンに殺られてるころでしょうよ」
「んな、何やってんだよお前、誰が殺せって言った?」
より凄みを帯びた声で怒鳴りつけるアニキに
「いやいや、アニキが言ったんじゃないですか??」
「お前なあ、あいつを殺しちまったらこの世界の創造者様の手がかりがなくなっちまうじゃないか。そんぐらい考えりゃわかるだろ?」
たしかにアニキは死ねや殺すといった乱暴な言葉をしょっちゅう使っていて口癖になっているけれども
「ややこしいんだよほんと」
「んあ?」
「何も言ってないっすよ」
思わず漏れ出てしまった言葉が地獄耳に届いてしまったので慌てて何も無かったかのように取り繕う
「ふんっ!まあいい。安田、何をすればいいかわかってんだろうな」
「そりゃあもちろんです。急いであの女を救助しに行って来ます」
「おう、さっさと行ってこいやっ」
そう言ってアニキは部屋を出て行った
「くそっ、あっちに戻ったらすぐあいつをパワハラで訴えてやるからな」
早く現実世界に帰ってあの男に社会的制裁を加えたい
その強い思いが安田という男を突き動かしているのだ
早速転移装置であいのもとへ向かおうとしたその時
「助けに行く必要ないですよ」
「ちょ、どういうことだはかせ?」
起動しかけてた装置を慌てて止めた安田に
はかせは言い放った
「クラーケン撃破されました」




