救出者
クラーケンに拘束されてからかれこれ10分ほど経っただろうか
慣れというのは恐ろしく、めちゃくちゃ怖かったのに今はそんなもの微塵も感じなくなってしまった
鬱陶しいヌメヌメとした感触も迫り来る地面も今となっては毎日の登下校のような生活の一部のようになりつつある
まあ圭太と一緒にいれる登下校よりは格段につまらないものだけど
それにしてもまさか10分間ずーっと叩きつけることしかやってこないクラーケンさんには驚かされる
神話に出て来るような偉大なモンスターなんだからもっとすごいビームとか必殺技を放って来てもいいはずなのに物理技しかしてこないのだから流石に恐怖心は消え失せ退屈してきた
心の何処かにもっとすごい刺激を求める自分が出現してきたようだ
振り返ってみると登場したモンスターのほぼ全てを一撃で倒して3層まで来てしまったので気づかなかったが、敵のモーションや技が全体的にしょぼいのではないか
おそらくまったくもって特にこだわりもなく適当にこのゲーム
を作ってしまったためモンスターに気を配っていなくて既存のゲームから流用しまくったためにしょぼくなってしまったのだと思う
このゲームをより良くしたいという開発熱が燃えてきた私は、一回本格的にメンテナンスやアップデートをしようと決意するが、その前にこの状況を何とかしないといけないことを思い出して退屈だけでなく憂鬱な感情が発生してきた
「はああ、誰か助けに来ないかなー」
この誰かという語のうちの93パーセントは圭太を指し示している
やっぱりあの1層のボス戦みたいに圭太に助けられたいというのが正直な気持ちだ
でも、あの朝の一件が引っかかってしまい圭太と顔を合わせづらいなー
助けに来て欲しいけど顔を合わせたくはないというめんどくさい心模様に自分でうんざりしていたら
バサっ
「キュウウウウウウッ」
「うわっ」
ズドンっ
「イタタっ」
私を拘束していたクラーケンの足が突如斬り落とされ
私は地面に尻餅ついてしまった
ドタドタっ
その後も続々と足が落とされ続けていく
「圭太?」
圭太が助けに来てくれたのか
私はこの素早い剣さばきの主を見ようとするがあまりの素早さに目が追いつかなかった
全ての足が斬り落とされたとき、正体不明の剣士の影の動きは急にスローモーションになって踏み切りの体制へと移行した
そのとき初めて剣士の頭に馬の尻尾のようにゆさゆさ揺れるものを確認した
ポニーテールで剣さばきがすごい人といえばあの人しかいないだろう
「奈々さん?」
ポニーテールの剣士は高々と跳び上がり、悠々とクラーケンの頭上で狙いを定め
剣を突き出した
突き出された剣の先っぽはギリギリクラーケンには届かず
私は奈々さんが目測を誤ったと思ったのだが
次の瞬間
剣先から衝撃波が繰り出され、クラーケンの頭に大きな大きな穴を開けた
その後も斬撃を与え続ける奈々さんを見て私は
「はわわわわ」
ただ口をあんぐりとさせていた
本当にあっという間にクラーケンのHPは底をつき
「3層クリア」
電子音が鳴り響き私たちを祝福する
「あいちゃん大丈夫だった?」
奈々さんと思しき剣士はやはり奈々さんだった
「はい、なんとか。でも奈々さんどうしてここに?」
なぜ奈々さんがここに来たのか
純粋に疑問に思っていたので聞いてみると
「ここで救難信号が出されてたから来たんだけど、出したのあいちゃんじゃないの?」
「いやー、私それどころじゃなかったから」
きっと私以外にこのダンジョンでさまよっていた人がいたんだろう
まあその人も奈々さんがクリアしてくれたおかげで無事に逃げられただろうと願いたい
あいが奈々に感謝の思いを目一杯伝えた後
ヌメヌメとした感触を早く洗い流したくて一足先にホテルへと戻っていった
一方奈々は一緒に帰りましょとあいから誘われたが、修行をすると言いその場にとどまって
「無事おわったわ」
耳に手をやり何かを聞こうとしている
「ありがとう奈々ちゃん。こっちも無事に終わったわ」
イヤホンからは声が聞こえる
声に混じってダンジョンをクリアしたら圭太たちの歓声が聞こえてくる
「それで怪しいやつとかいなかった?」
「いや、いなかったわ」
「そう、また振り出しかー」
「ふふふっ」
露骨に落胆する声に思わず奈々は笑ってしまった
「もう、笑わないでよね」
笑われたのが癪なのか少し怒ってみせる
「いや、悪かったわ。あまりにも落ち込むから面白くってつい」
「あ、会長がこっち来る。じゃあまたね」
突然訪れる危機にあたふたしながら慌てて通話を終わろうとする声の主に奈々は
「またね。真衣」
そう言って通話を切った




