脱出劇(前篇)
なんとか…間に合って…ますよね?
"サンサ軍南方方面侵攻軍指揮所"
指揮所では軍議が開かれていた。かれこれ戦争が始まり3ヶ月を過ぎ、もうすぐ4ヶ月になろうとしている。状況は切羽詰まっている。しかし、軍議に参加するメンバーは椅子に対しまばらで、暗い雰囲気とイライラした空気が異様さを際立たせている。
そして、とうとう、南方方面侵攻軍の総指揮官、ラボライェッタ・ラズナーリはしびれを切らし、周りに座る各部隊の指揮官や、参謀に聞いた。
「まだ集まらんのか!」
参謀も他の将校も黙り込む。しかし、1人。ただの少佐だけその質問に怒気を含んだ声で答えた。
「大将閣下、他の部隊は長い包囲下に晒された挙句、十分な戦力を保持できず、そのまま的に連絡路を絶たれたものと思われます。また、物資を現地調達した結果、住民反乱が相次ぎ、同様の事態が起こったものとも推測されます」
「くそっ!こうなれば、大損害を覚悟で帝国首都まで…」
大将が思いつきを言う前に、先ほどの少佐が口を開く
「閣下、我が軍は分断、包囲された時点で大損害であります。ここは現地点から、国境に最も近い地点を食い破り撤退することがよろしいかと…」
「一介の少佐風情が王国の命運を握る戦争をなんと心得る!作戦は失敗しノコノコ帰り、生き恥を晒せというのか!」
どこかの部隊の指揮官が言った。階級は大佐で彼よりも上だ。だが臆することなく少佐は突っかかる。
「これは失敗ではありません。戦術的撤退です。この撤退で失した体面など、戦略的成功で幾らでも挽回できます!いらぬ体面に兵を浪費なさるおつもりか!」
そこまで言ったところで最高指揮官であるラボライェッタが止めにかかる。だがそれでも紛糾は止まらず、挙句には少佐の戦術的撤退を支持する部隊とこのまま正面に突撃して玉砕する方を支持する部隊で大揉めとなった。
名を取るか実を取るか、それはある種どの軍にも存在しうるジレンマのようなものである。
とうとうキレたのか、ラボライェッタは息を大きく吸い込み
「だまれぇぇぇぇぇい!」
と大声で叫んだ。続けて、
「少佐、サクバイエル少佐。君のいう戦術的撤退によって取り残されかねない包囲孤立している部隊はどうするかね?」
撤退案を出した少佐、サクバイエルはそれについて言い淀む。
「そ、それは…」
「そうだろう。どうにもならん。だが君の言を借りれば、君は被害を最小限に抑えた上で撤退したい。違うかね?」
「そ、そうであります…ですが、だからといって吶喊玉砕は兵の…」
「そうだ。だから我々はここで名も、実も両方取らねばならないし、何としてもとるのだ。だから少佐、君にある任務を任せたい」
「任務…でありますか?」
「そうだ。端的に言えば、君の撤退案を採用しよう。だがね、そうなると名をとるには包囲孤立した部隊も撤退しなければならない。あとは…わかるね?」
サクバイエルは絶望した。無理だ。と。
たしかに、一つ一つの包囲自体は薄く脆弱だ。しかし、それが連続しているのではなく、散在するためにどうしても時間がかかる。つまり、上官たちはこう言いたいのだ「作戦はみとめてやるから汚名を晒すな。我々は逃げる」と。
だが、認めてもらったからには拒否出来ない。
サクバイエルは苦虫を噛み潰したような表情を隠しつつ、了解の意を答えた。
ラボライェッタは満面の笑みで頷き、
「よろしい。決行は2日後とする。各員準備にかかれ。王国万歳!解散!」
ラボライェッタが敬礼をしつつ席を立つと他の指揮官も席を立ち敬礼する。そしてラボライェッタが指揮所から出るのを見送るとそれに合わせて肩の力を抜いて他指揮官も指揮所を出て行く。しかし、サクバイエルはしばらく立ち尽くしたままだった。他の指揮官が出て行くとき、論争を繰り広げた大佐は一瞬立ち止まってサクバイエルを見たが、彼はあまりにも呆然としすぎて、その視線には気づかなかった。
いつもいつも遅筆申し訳ありません。おかげさまで6万PVを突破しました!今後とも、タイトルと内容が相変わらず釣り合わない「気苦労の多い日本さん」をよろしくお願いしますm(__)m
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