新たな前触れ 後篇
遅れました。久々投稿です。
バルショイグラード周辺海域
日本艦隊がレーダーに機影を捉えてから30分後、最も速度のあるサザンクロス艦隊が到着。それと同時に機影の正体も判明、つまり目視確認ができ、戦闘が始まった。
はりま艦橋はおおわらわとまではいかないが、かなり忙しくなったのも確かである。しかし、焦りの色は一切ない。しかし大谷はそれも長くは続かないことも予期していた。
「CIWSファランクスも対空砲も全力で撃ちまくれ!残弾を気にするな!相手は鈍足な旧式レシプロ機、落ち着いて照準を定めろ!」
「司令!サザンクロス海軍の駆逐艦、ザラー級が一隻大破、二隻が中破!我が軍には依然損害はありませんが、この数は捌ききれません!」
「くそ!残る標的数は⁈」
「残り59!…!!し、司令!」
「どうした!」
「敵対航空機が飛来する方向より、新たな感あり!大きさから巡洋艦クラスが1、2…4隻接近中!」
「レーダーに映ったからといって慌てるな!距離はまだある。今はこの航空機を片付ける!」
ヴァァァーーーードン、ドン、ドン…
はりまとながと、他の護衛艦から繰り出される弾幕をレシプロ機は一瞬で蜂の巣になって落ちたり、空中で爆散している。
しかし、日本艦隊の周りは確実に落ちるが少し離れた他国艦隊はそうもいかない。既に3隻が戦闘、航行不能に陥り、5隻沈んでいる。
幸い、レシプロ機を8、9割型落とすとようやく諦めたらしく、レシプロ機は退却していく。
戦場は安堵の空気で満たされる。特に先進国でも戦列艦を使用していた艦隊は。
「退却するか…各員、対艦戦闘用意!他国艦隊にも伝えろ!.…船務、敵艦隊までの距離は?航空機があれだけ派手に飛んで退却ということはすぐ近くにいる筈だ」
「レーダーで捉えている距離では間も無く目視できます」
「CICに方位を伝え、射撃を開始。あと空母より航空戦力を投入し先制するんだ!」
「はっ!」
すぐさま空母からF-2戦闘機が10機ほど飛び立っていく。
他国艦隊はその速度、形状に圧倒されつつも、内心安堵と敵対した場合の恐怖が同時によぎった。
しかしこれはぬかよろこびに終わることを彼らはまだ知らなかった。
他国艦隊が出港してから15分程した頃バルショイグラード軍港にて…
戦艦サザンクロス機関室。そこは戦艦サザンクロスの足を司るところ。そしてそれをフル稼働すれば36ノットという高速を発揮する。しかしそれをやればエンジン、この場合魔石魔力エンジンだがすぐダメになる。しかし、魔石なしでもエンジンを動かすことはできないことはない。それは、外部から常に魔力を受け取り続けること、だ。
だが、そんなこと普通はできない。普通ならば。
そんな普通でない状況に、サザンクロス機関室室長は今まさに遭遇している。
「へ、陛下、本気ですか⁈その歳では無理です。無茶が過ぎます…30年前ならばまだしももはや御歳70を超えている陛下には…」
「黙れ室長!私はやると言ったらやるのだ!直ちに接続をしろ!」
「…わかりました。ただし無茶はなさらぬように」
シュードルは機関室を出て艦橋へ向かう。
それを見送り終わるとすぐに艦橋魔力注入器とエンジンの接続を急ぐ。
(この機関室で働いて早32年…若い頃のアレがもう一度見えようとは…流石『魔王』と言ったところか)
若い頃の思い出に触れつつ、機関室の船員を叱咤しながら接続を急がせる。
サザンクロス艦橋にて
第一艦隊司令ディミートとサザンクロス艦長のグリゴリーは同じように呆れかえっていた。
「…お前たちはいつ見てもにとるな…本当に赤の他人か?」
「「ええまあ一応。同じ孤児院で同じように育ちはしましたけどね」」
佐藤はシュードルの後ろからディミートとグリゴリーの行動を見ていたが確かにまるで双子のようだ。テレパシーとかできそうと思いながら艦橋においてある魔信機の一つから声がする。さっきの機関室室長のようだ。
『陛下、接続完了です。いつでもどうぞ』
「ああ…」
「本気でやるんですか…」
「やらねばならんのだ。たとえこの身が壊れようともな」
シュードルはそう言って艦橋の中央に置かれたパネル、魔力注入器に手を置く。
「「「⁈」」」
シュードルから魔力が注入されたと同時に船体が大きく揺れ、淡い光を放ちだす。
揺れが収まると、サザンクロスはひとりでに動きだす。まるで自分の意思で、当ても決めてあるかのように。
「やはりサザンクロスは賢い。どんな命令も素直に受け付ける。しかし陛下もすごい…サザンクロスの意思を操るのだから」
「え…本当に船に意思があるんですか…」
思わず佐藤はディミートに尋ねてしまう。
「あるとも。しかし彼女の意思を引き出せたのは『魔王』の異名を持つ陛下のみ…」
(魔王って…)
佐藤は異名に若干引いたその時、船が最高速度に達した。時速41ノット。戦艦が出していいどころの速度ではない。しかしその甲斐あって、20分程で目的地に到着できた。
そしてそこはちょうど艦隊決戦が今まさに起きようとしている場だった。
「撃て!撃て!撃て!撃ち続けろ!」
「ああもう!司令、ダメです!帆船の連中退いてくれません!」
「ちっ、ならもういい。放っておけ!」
「司令!後方より巨大艦が!」
「放って…はぁ⁈敵味方識別は?」
「我サザンクロス、戦線に加えられたし、と」
サザンクロス到着に大谷はガッツポーズを取ってしまう。
「っしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!指揮が楽になる!(後方支援を要請し、敵大型艦の撹乱を!)」
「司令、本音と建前があべこべになってます!」
ええやん別に…
まぁ指揮が楽になるのは本当だしさ…
とりあえず、サザンクロスが来てくれたのは嬉しい。指揮が楽になるのもそうだが、その火力はとんでもないものであることは見て取れる。見た所敵さんもそう長くは持たないだろう。
それから数分の後、佐藤ははりまに乗り込んだ。
「総理、サザンクロスの乗り心地はどんな感じでした?(総理、長旅ご苦労様です。)」
「司令、また本音と建前があべこべです」
「サザンクロスの乗り心地は大変良かったですよ。すごい快速でしたし」
佐藤は目をそらし、青ざめた顔で感想を告げる。
「は、はぁ…」
これ絶対なんかあったな、と大谷は予測する。
戦場では敵は既に撤退し、沈んだ帆船の残骸などが散らばっているだけで波の音以外静かだ。
しかし、その静寂を保ったまま、そう、ドアのをノックしないまま静かに部屋に入られ、その気配に気づいたような感覚がはりま艦橋のクルーを襲った。
「誰だ!出てこい!」
大谷は叫び、辺りを見回してもクルーと佐藤しかいない。
そして佐藤はと言うと何やら気配に覚えがあるのか少し動揺しただけで落ち着いている。というか面倒という顔をしている。
「子供じみたことしないでください。皆警戒してます。姿は見えずとも気配を漏らしていればわかりますよ、オオヒルメ様」
「あらら、気配を覚えていたの?意外と抜け目ないわね。でも気配を気取られるのはもう少し後だとおもったのだけれど…やはり転移の影響か、神々が地上に降り出した影響か…ブツブツ…」
「オオヒルメ様、先ほどとんでもないことを聞いた気がしましたがとりあえずそれは横に置いておきましょう。聞きたいことは一つ、何用でしょう?貴女様ほどの神となれば忙しいと思うのですが」
佐藤は真剣な顔でオオヒルメに問う。しかしオオヒルメは朗らかな表情、雰囲気のままほわほわと答える。
「別に〜。分霊でいくつもあるから言うほどでもないわ。この体だって分霊だし」
便利すぎる…
「そうでもないわ。妾の分霊を作るにも多少なりとて力が必要だもの」
「心を読まないでください…」
心を読まれるなら正直に話すのが楽だろうと本心をそのまま佐藤は語る。
「それは出来兼ねるわ。妾は神なのだから…それはそうと、要件を言うわ」
「やっとですか。で、何用です?」
「貴方達に危険が迫っているから助けの来たのよ。正直、ここまで危険なものだと、妾ら神とて介入せざるを得ないわ。なのでここから遠くまで飛ばします。時間がないので早速始めますと言うか始まってます」
オオヒルメはそう言って窓の外に視線を向ける。それに合わせて全員が窓の外に目をやると日本艦隊の周りだけ光っている。他国艦隊にはそれらしきものはなさそうだ。
「ま、まさか…我々だけ飛ぶのか⁈」
大谷はぶっきらぼうに叫ぶ。
「あっちは妾らの管轄外よ。向こうは向こうでなんとかするわ」
把握してないのかよ…
「把握なんてできないわ。人の子の心は読めても神同士の心は読めないもの。ただ言えるのは、妾ら神ゆえに世界の理を捻じ曲げ、それを新たな理とすることができる。それだけよ」
「本当に心を読むのか…」
「ええ、もちろん。神ですから」
えっへんとオオヒルメを胸を張る。しかし豊満な胸のせいか、張った胸がとんでもないほど揺れている。
う、うわあ…でけぇ…
「……では飛ばします…」
心の声が聞こえたのかオオヒルメは少しむすっとした顔をして艦隊を転移させた。
光から解き放たれた感じで、振動も何もなかった。それゆえに飛ばされたと言う感覚はほぼなかった。
しかし飛ばされたと認識したのは周りにあった残骸が無くなっていたが故だ。
そして前方彼方で大きな音と水飛沫、そして爆発が起こった。
「さっき貴方達がいたところです。間に合って間に合ってよかった…では妾はこれにて」
「あ、ちょっ…」
大谷が何か言う前にオオヒルメは姿を消し、気配も消した。
全く…勝手に現れたと思ったら勝手に消えよったよ…
ところで今の水飛沫はなんだったのだろうか…
艦隊は自らの座標を確認し、近くの港に寄港することにした。
魔界のどこかにて…
「やはり独裁者は無理か…まぁいいさ。代わりはいる…」
魔界のどこかにて、くらい声が、くらい場所で響く。
「ニホン…大変面白い…興味深い…くは、くはは!」
気色の悪い笑い声はしばらく止まることはなかった。




