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第98話 妖精の森のお宿

妖精の花畑を抜けた誠司たちは、山奥の滝へ向かう道を進みます。

その途中、優から連絡が入りました。

花の妖精たちに見送られながら、誠司たちは花畑の奥へ進んだ。


花の間に隠れていた細い道は、少しずつ森の中へ続いている。

木々の間には、まだ花の香りが残っていた。


その時、誠司の端末が震えた。


画面には、優の名前が表示されている。


『警察署の方は、ひとまず終わった。今、入山入口にいる』


「優さんからです」


誠司がそう言うと、全員が足を止めた。


煌成がすぐに地図を開く。


「今からなら、まず猫山リゾートホテルを目指してください。そこまでは最短ルートがあります」


『分かった』


「途中で試練の端末が出るはずです。答えが分かっても、すぐに押さないでください。画面をこちらに送ってください」


大地が気まずそうに視線をそらした。


早希がすぐに言う。


「本当に、押す場所だけは気をつけて」


『……何かあったのか?』


「ありました」


レイナが短く答えた。


煌成は続けた。


「正解すれば安全に進めます。ですが、押し間違えると迂回ルートへ回されます。確認してから押せば大丈夫です」


『分かった。慎重に進む』


「ホテルに着いたら、また連絡してください」


優との通信が切れると、誠司たちは再び森の奥へ歩き出した。


花畑の明るさが少しずつ遠ざかり、木々の緑が濃くなっていく。

やがて、森の中に小さな光がいくつも見え始めた。


花灯りだった。


木の幹や枝の間に、小さな花の形をした灯りが並んでいる。

その奥には、太い木々の上に作られた家がいくつも見えた。


「ツリーハウス……」


久美子が見上げる。


木の幹に沿って階段が作られ、枝と枝の間には細い橋がかかっている。

窓辺には花灯りが揺れ、小さな妖精たちが飛びながら働いていた。


高い窓を布で磨く妖精。

手の届きにくい花灯りを拭く妖精。

天井近くの小さなランプのほこりを払う妖精。


小さくて飛べる妖精たちは、人間や猫耳族では届きにくい場所を整えていた。


花の妖精が言った。


「ここは、妖精の森のお宿なの。滝へ向かう旅人が休む場所よ」


森の奥から、猫耳族の夫婦が出てきた。


「ようこそ。ここは、滝へ向かう旅人のための宿です」


管理人の男性が丁寧に言った。


隣にいた女性も、軽く頭を下げる。


「妖精たちも、いつも宿を手伝ってくれています」


大地が木の上の家を見上げた。


「すごいな。こんなにたくさんあるのか」


「昔、ミッションで来た冒険者たちが、少しずつ作るのを手伝ってくれたんです」


管理人の男性が答えた。


「最近は、ミッションだけでなく、普通に観光で来る方も増えてきました。妖精の森に泊まってみたいと言ってくださる方が多くて」


管理人の女性も、ツリーハウスを見上げた。


「それで、少しずつ宿を増やしているんです」


花の妖精が、森の奥を指さす。


そこには、まだ途中までしかできていないツリーハウスがあった。

太い木のそばに、材料がまとめて置かれている。


端末が音を立てた。


【妖精の森クエスト】

【ツリーハウス作りを手伝ってください】

【木を傷つけすぎないよう注意してください】


「山奥の滝へ行く前に、少し手伝った方がよさそうですね」


煌成が言った。


レイナは森の奥を見た。


「優も明日には近づけそうだし、今すぐ滝へ行くより、ここで合流を待つ方が安全ね」


翔もうなずく。


「大きいミッションに入る前に、全員そろえた方がいい」


誠司たちは、ツリーハウス作りを手伝うことにした。


その前に、管理人の女性が困ったように言った。


「ただ、もう一つ困っていることがあるんです」


宿のそばには、小さな井戸と細い水路があった。


けれど、井戸の水は少なく、水路の流れも弱い。


「お客様に泊まっていただくにも、水が足りないんです。料理にも、飲み水にも、お風呂やシャワーにも、掃除にも水は必要ですから」


管理人の男性もうなずいた。


「トイレの水も弱くなっています。このままだと、宿として使える部屋を増やすのも難しくて」


誠司は井戸と水路を見た。


「少しだけなら、水を戻せると思います」


誠司は杖を取り出し、水の魔法を使った。


井戸の底に、澄んだ水が少しずつ満ちていく。

細い水路にも水が流れ込み、止まりかけていた流れが静かに動き出した。


管理人の女性は、安心したように言った。


「ありがとうございます。これで、今夜のお客様を迎えられます」


けれど、誠司は杖を下ろしながら言った。


「でも、これは一時的です。僕たちがいなくなれば、また水は弱くなると思います」


煌成も静かにうなずいた。


「根本は、やはり山奥の滝ですね」


誠司は森の奥を見た。


「必ず水が届くように、滝の方へ行って解決してきます」


管理人の夫婦は、深く頭を下げた。


その後、誠司たちはツリーハウス作りに取りかかった。


まずは、重い木材を作業場所の近くまで運ぶ。


大地と翔が太い柱を運び、煌成と誠司が別の木材を支えながら運んだ。


「この柱は、こっちでいいな」


翔が位置を確認する。


「はい。木を傷めないように、少し内側へ寄せましょう」


煌成がそう言って、支えの位置を調整した。


大地と翔が柱を立てる。

煌成と誠司が反対側から支え、枠を組んでいく。


太い木の幹に合わせて、床を支える梁を固定していく。

足場が安定するように、何度も位置を確認した。


梁が決まると、その上に床の下地を組み、床板を一枚ずつ張っていく。


早希は細い足場を身軽に動き、軽い道具や板を運んだ。


「これ、次に使う板でいい?」


「はい。こちらにお願いします」


久美子は、ツリーハウスで使うカーテンやクッションカバー、ベッドカバーを縫っていた。


布の端を整え、ほつれないよう丁寧に縫い合わせていく。


レイナは、扉の取っ手や金具、窓の留め具を確認していた。


小さな部品を一つずつ並べ、明日すぐ取り付けられるように準備する。


かすみは、木の家具に防水材と塗料を塗っていた。


雨や湿気で傷まないように、椅子や小さな棚の表面を丁寧に仕上げていく。


床ができると、次は屋根の骨組みだった。


誠司は翔たちと一緒に屋根の木材を持ち上げる。

大地が下から支え、煌成が角度を確認した。


「雨が流れるように、少し傾けた方がいいですね」


「分かった」


翔がうなずき、屋根の骨組みを固定していく。


小さな妖精たちも、高い場所で花灯りを整えたり、窓を磨いたりしていた。


「こっちの灯り、ついたよ」


「窓、きれいになったよ」


妖精たちの声が、森の中に響く。


日が傾くころ、ツリーハウスはかなり形になっていた。


柱と床は組み上がり、屋根の骨組みもできている。


けれど、壁板や窓、扉、内装はまだ残っていた。


「明日、壁と窓を付けて、内装を整えれば使えるようになりそうだな」


翔が作業場を見上げながら言った。


誠司もうなずいた。


「今日はここまでにした方がよさそうです」


その時、誠司の端末が震えた。


優からだった。


『無事、猫山リゾートホテルに着いた』


「優さん、ホテルに着いたそうです」


誠司が言うと、みんな少し安心した。


煌成は地図を開き、明日の合流場所を確認する。


「明日は、ホテルから近道の安全ルートを通ってください。途中の端末は、必ず画面を送ってください。こちらで確認します」


『分かった』


レイナが端末に向かって言った。


「それと、そのホテルは気をつけて。ラウンジ、部屋の飲み物、食べ物、変なサービスには乗らない方がいいわ」


翔も続ける。


「装備と薬品だけ確認して、今日は寝た方がいい」


『了解した。誘惑には乗らない』


「明日、花畑の奥で合流できるように案内します」


煌成が言った。


『分かった。明日向かう』


通信が切れると、森の中は夕方の色に包まれていた。


ツリーハウスはまだ途中。

優との合流も、明日。


山奥の滝へ向かう前に、やることがもう少し残っている。


花の妖精が、森の奥にある宿を指さした。


「今夜は、妖精の森のお宿に泊まってください」


管理人の女性も、静かにうなずいた。


「水も戻していただきました。今夜はゆっくり休んでください」


誠司たちは、妖精の森のお宿で一晩を過ごすことになった。

妖精の花畑の奥には、ツリーハウスが並ぶ妖精の森のお宿がありました。

宿では小さな妖精たちが高い場所の掃除や花灯りの手入れをしていて、猫耳族の夫婦が管理人をしています。

誠司たちは、宿の水不足を一時的に助け、新しいツリーハウス作りを手伝いました。

優も猫山リゾートホテルに到着し、明日合流する予定です。

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