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第96話 猫耳族の村

迂回ルートを抜けた誠司たちは、猫耳族の村へ向かいます。

そこでは、村人たちの小さな困りごとが待っていました。

正解ルートと合流した誠司たちは、山道の先へ進んだ。


遠回りをしたせいで、足には少し疲れが残っている。

けれど、トンネルを抜けた後のまぶしい太陽の下では、暗い場所にいた時よりも気持ちが少し軽くなった。


山道の向こうに、小さな家々の屋根が見えている。


「あれが猫耳族の集落ね」


レイナが前方を見ながら言った。


「やっと着いたな……」


大地は大きく息を吐いた。


早希がちらりと大地を見る。


「本当なら、もっと早く着いてたんだけどね」


「だから、それはもう……」


大地は言い返しかけて、途中でやめた。


「悪かったって」


翔が周囲を確認しながら歩く。


「でも、無事に着けそうでよかった」


「はい」


久美子も小さくうなずいた。


山道を少し下ると、木でできた門が見えてきた。

門の上には、猫の耳のような飾りがついている。


その奥には、木造の家が並んでいた。

石畳の細い道。

小さな畑。

洗濯物が揺れる庭。

煙突からは、細い煙が上がっている。


猫山リゾートホテルのような豪華さはない。

けれど、ここには生活の温かさがあった。


村人たちは、誠司たちを見ると、少し警戒したように耳を動かした。


猫耳族。


人間とよく似た姿をしているが、頭には猫の耳があり、しっぽを揺らしている者もいる。

子どもたちは物陰からこちらを見て、大人たちは様子をうかがっていた。


煌成が一歩前に出て、丁寧に頭を下げる。


「山ミッションでこちらへ来ました。村で何か手伝えることがあれば、協力します」


その言葉に、年配の猫耳族の男性が近づいてきた。


「旅の方々ですね。よく来てくださいました」


男性は村長らしかった。

白っぽい耳をゆっくり伏せ、深く頭を下げる。


「実は、村では細かな困りごとがいくつもありまして……まずは、村の者たちの願いを聞いていただけませんか」


誠司たちは顔を見合わせた。


「小さなクエストみたいなものかしら」


レイナがつぶやく。


煌成はうなずいた。


「村との信頼を作るためにも、受けた方がいいでしょう」


端末が音を立てた。


【猫耳族の村】

【村人の願いを手伝ってください】

【手分けして進行できます】


画面には、いくつもの依頼が並んでいた。


【川で魚を釣ってきてください】

【薬草を採ってきてください】

【防具を直してください】

【家の雨漏りを直してください】

【美味しい料理を作ってください】

【珍しいきのこを採ってきてください】

【農作業を手伝ってください】

【荷物を届けてください】

【洗濯機を修理してください】


「結構あるわね」


早希が画面を見て言った。


「でも、手分けすれば何とかなるだろ」


翔が言う。


煌成は依頼の内容を確認しながら、落ち着いて指示を出した。


「全員で一つずつやるより、分かれて進めましょう。危険な場所へ行く組は、必ず二人以上で行ってください」


「分かった」


誠司は端末を見ながら、自分にできそうな依頼を探した。


その時、近くの家から猫耳族の女性が出てきた。


「すみません。洗濯機が壊れてしまって……水は出るのに、うまく回らないんです」


「僕、見てみます」


誠司はすぐに答えた。


水まわりなら、自分の魔法も少し役に立つかもしれない。


「僕も一緒に行こう」


翔が言った。


「修理中に重い物を動かす必要があるかもしれない」


「お願いします」


誠司と翔は、その家へ向かった。


洗濯機は、木の壁に囲まれた小さな洗い場に置かれていた。

見た目はこの世界の道具らしく、端末と水の魔力を使って動く仕組みになっている。


誠司は水の流れを確かめた。


「水は来ているけど、流れが弱い……」


端末には、小さなエラーが表示されていた。


【水流不足】

【回転不安定】


翔が洗濯機の下をのぞき込む。


「詰まりか?」


「少し違うかもしれません。水の力が弱い感じです」


誠司は杖を取り出し、弱い水の流れを整えるように魔法を使った。


細い水が、少しずつきれいに流れ始める。

洗濯機は小さく音を立てて、ゆっくり回り出した。


「動いた!」


猫耳族の女性が嬉しそうに声を上げる。


「ありがとうございます。最近、水を使う道具の調子が悪い家が多くて困っていたんです」


「水を使う道具が……?」


誠司はその言葉を覚えておいた。


一方、大地は大きな荷物を抱えていた。


「すまないね。この荷物を、村の奥の家まで届けてくれないか」


猫耳族の老人に頼まれ、大地は大きな木箱を軽々と持ち上げる。


「これくらいなら任せろ」


「大地、持ちすぎないでよ」


早希が横から言う。


「大丈夫だって」


大地はそう言いながら、村の奥へ歩いていった。


木箱の中には、畑で使う道具や乾いた食料が入っていた。

村の奥の家に届けると、今度は畑の手伝いも頼まれた。


「最近、作物の育ちが悪くてね。土がすぐ乾くんだ」


畑の猫耳族が困ったように言う。


「水は足りているはずなんだが、どうにも元気がない」


「力仕事ならやる」


大地は袖をまくった。


土を運び、支柱を立て、重い道具を動かす。

押し間違いで迷惑をかけた分、少しでも取り返すように、大地は黙々と働いた。


久美子は、防具の修理を引き受けていた。


村の見回りをしている猫耳族の青年が、傷んだ胸当てを持ってくる。


「この金具が緩んでしまって……」


「見せてください」


久美子は防具を丁寧に確認した。


留め具。

肩の革ひも。

背中の接続部分。


「ここはまだ使えます。でも、この部分は補強した方がいいです」


久美子は持っていた道具で、金具を締め直した。

革の弱い部分には、応急の補強を入れる。


「すごいですね」


猫耳族の青年が感心したように言った。


「防具は、少しの不具合で動きにくくなりますから」


久美子は真剣な顔で答えた。


かすみと早希は、村の外れで薬草を探していた。


「この辺りに生えるはずなんです」


薬草を管理している猫耳族の女性が、草むらを指さす。


「でも最近、細くて弱いものばかりで……」


かすみは薬草を手に取り、葉の状態を見る。


「水分が足りないように見えますね」


「雨は降っているのに?」


早希が首をかしげる。


「土に力がないのかもしれません」


かすみは使えそうな薬草を選び、傷んだものは避けて採っていく。


早希は身軽に木の根を越え、奥の方にある薬草を見つけた。


「かすみさん、こっちに少し元気なのがある!」


「ありがとうございます」


二人は必要な分だけ薬草を採り、村へ戻った。


その帰り道、早希は珍しいきのこも見つけた。


「これ、依頼にあったきのこじゃない?」


かすみが端末で確認する。


【山白きのこ】

【食用】

【湿った木の根元に生える】


「これですね。でも、採りすぎないようにしましょう」


「分かってる」


早希は必要な数だけ、きのこを採った。


レイナは、魚釣りと料理を手伝っていた。


川辺では、猫耳族の子どもたちが困ったように釣り竿を持っていた。


「最近、お魚が少ないんだ」


「前はもっと釣れたのに」


レイナは川面をじっと見つめた。


「魚がいないわけじゃない。でも、流れの強い方へ寄っているわね」


「分かるのか?」


近くにいた翔が聞く。


「水面の動きで何となくね」


レイナは釣り糸を落とす場所を変えた。

しばらくすると、竿が小さく揺れる。


「来たわ」


引き上げると、小さな魚が跳ねた。


子どもたちが歓声を上げる。


「すごい!」


「お姉さん、もう一匹!」


「食べる分だけよ。採りすぎると、後で困るわ」


レイナはそう言いながら、必要な分だけ魚を釣った。


その後、村の共同の台所で、かすみと久美子も一緒に料理を手伝った。


魚のスープ。

きのこの炒め物。

薬草を少し使った温かいお茶。


豪華ではないが、山の村らしい食事だった。


「いい匂いですね」


久美子が鍋をのぞき込む。


「猫山リゾートホテルの料理とは全然違うけど、こっちの方が落ち着くわ」


レイナが言った。


かすみも微笑む。


「体に優しそうです」


その頃、煌成と翔は、雨漏りの修理を見ていた。


村の家の一つで、天井から水が染み出していた。


「雨が降っていないのに、ここが湿るんです」


家の主人が困ったように言う。


煌成は屋根と壁の状態を確認した。


「ただの雨漏りではなさそうですね」


「どういうことだ?」


翔が聞く。


「水の流れがおかしい。屋根から入っているというより、木材の中に余分な湿気がたまっているように見えます」


煌成は土と岩の魔法で、傷んだ部分を一時的に補強した。

翔は重い板を支え、釘を打つ場所を確認する。


「これでしばらくは大丈夫です。ただ、根本的な原因が別にあるかもしれません」


「根本的な原因……」


翔は村の方を見た。


洗濯機。

畑。

薬草。

魚。

雨漏り。


小さな困りごとが、少しずつ同じ方向を向いているように感じた。


夕方になる頃、誠司たちは村の広場に戻った。


村人たちは、口々に礼を言った。


「洗濯機が動きました」


「防具を直してもらって助かりました」


「薬草も、きのこもありがとうございます」


「畑まで手伝ってもらって、本当に助かったよ」


大地は少し照れたように頭をかいた。


「まあ、力仕事くらいならな」


早希が小さく笑う。


「今日はちゃんと役に立ったね」


「今日はって何だよ」


「押し間違えた後だから」


「まだ言うのかよ」


二人のやり取りに、村の子どもたちがくすりと笑った。


村長は、誠司たちの前に立ち、深く頭を下げた。


「みなさん、本当にありがとうございました」


「いえ。少しでも役に立てたならよかったです」


誠司が答える。


村長は、少しだけ表情を曇らせた。


「実は、村の困りごとはこれだけではありません」


誠司たちは顔を見合わせた。


「本当の困りごとがあるんですね」


煌成が静かに言う。


村長はうなずいた。


「はい。この村の水源になっている、山奥の滝の力が弱っているのです」


「滝の力……?」


誠司が聞き返した。


「この村の川も、畑も、薬草も、すべて山奥の滝から流れてくる水に支えられています。けれど最近、その水の力が弱くなりました」


村長は村の方を見た。


「魚は減り、薬草は育ちにくくなり、畑の作物も弱っています。水を使う道具も、うまく動かないことが増えました」


レイナが静かに言った。


「小さな困りごとが、全部そこにつながっていたのね」


「はい」


村長は耳を伏せる。


「滝へ向かうには、妖精の花畑を通る必要があります。ですが、最近はその花畑も元気がないと聞いています」


かすみが心配そうに眉を寄せた。


「妖精の花畑まで……」


「どうか、山奥の滝を調べてきていただけませんか」


端末が音を立てた。


【猫耳族の村クエスト】

【山奥の滝の異変を調査してください】

【目的地:妖精の花畑、その先の山奥の滝】


誠司は画面を見つめた。


海底神殿へ進むためには、山のミッションを進めなければならない。

そして、そのためには、この村の困りごとを放っておくわけにはいかなかった。


「分かりました。僕たちで調べに行きます」


村長はもう一度、深く頭を下げた。


「ありがとうございます。ただ、今日はもう日が傾いています。迂回ルートも通ってこられたのでしょう。今から山奥へ向かうのは危険です」


煌成もうなずく。


「そうですね。今日はかなり体力を使っています。無理に進まない方がいい」


「でしたら、今夜は村のロッジに泊まっていってください」


村長はそう言って、山の斜面に建つ木造の建物を指さした。


そこは、猫耳族が旅人のために使っている小さな宿だった。


木でできた壁。

小さな窓。

入口には猫の形をした木彫りの飾り。

中には暖炉があり、やわらかな火が揺れていた。


猫山リゾートホテルのような豪華さはない。

けれど、木の温かさと、村の生活の匂いがある。


「こっちの方が落ち着くわね」


レイナが小さく言った。


「分かる」


早希もうなずく。


大地は大きく息を吐いた。


「今日はもう、ちゃんと寝たい」


「それは全員同じだと思う」


翔が苦笑する。


ロッジの窓からは、森の向こうへ続く山道が見えた。

その先に、妖精の花畑がある。

さらにその先に、山奥の滝がある。


誠司は窓の外を見つめた。


リリアのところへ行くためにも、山のミッションを進めなければならない。

けれど、急ぎすぎて倒れても意味がない。


今日は休む。

そして明日、山奥の滝へ向かう。


誠司たちは、猫耳族のロッジで一晩を過ごすことになった。

猫耳族の村に到着しました。

村人たちの小さな困りごとを手分けして手伝う中で、魚や薬草、畑、水を使う道具など、さまざまな不調が見えてきます。

その原因は、村の水源である山奥の滝にあるようです。

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