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第92話 山のミッションへ

マーメイドラウンジ問題はいったん区切り。


リリアに会うため、誠司は海底神殿へ進む条件を満たそうとします。


まずは、山のミッションへ。

誠司は、リリアのマンションのベッドに横になっていた。


レイナからの電話で、リリアがもう竜宮城へ向かって出発したあとだったと聞いた。


間に合わなかった。


その事実だけが、胸の奥に重く沈んでいた。


リリアは、竜宮城で待っているはずだ。


僕が迎えに行くのを。

僕が、ちゃんと海底神殿までたどり着くのを。


リリアが人間になるためには、海底神殿のミッションをクリアしなければならない。


そのためには、山のミッションと空のミッションを進めなければならない。


「……そうだ。みんなに連絡しよう」


誠司は体を起こし、端末を手に取った。


すぐに仲間たちへメッセージを送る。


『もうリリアは竜宮城へ帰りました。

リリアに早く会いたいです。

なので、山のミッションを進めたいので協力お願いします。』


送信してから、誠司は画面を見つめた。


最初に反応したのは、早希だった。


『OK。ミッションを進めよう』


続けて、早希からメッセージが届く。


『みんなはどう? 参加できそう?』


しばらくして、他の仲間たちからも返信が入り始めた。


『行ける』


『俺も大丈夫だ』


『私も参加するわ』


その中で、早希がもう一度メッセージを送ってきた。


『優はまだ警察署にいるから、来られるようになってから途中参加ということで』


誠司は小さくうなずいた。


今、来られる仲間で進むしかない。


リリアに会うために。

海底神殿へ行くために。


その後、誠司は集まった仲間たちと合流した。


誠司は端末を操作し、山のミッションを開いた。


端末の画面が切り替わった。


【山のミッションを開始しますか?】


誠司は迷わず、開始を押した。


次の瞬間、画面に山の地図が浮かび上がる。


川沿いの道。

猫耳族の集落。

妖精の住む花畑。

滝。

洞窟。

崖。

湖。

そして、山奥にある古い城。


その地図を見て、大地がぽつりとつぶやいた。


「海は人魚だったけど……今度は猫耳族や妖精か」


誠司は画面の中央に表示された文字を見つめる。


【山の住人に話を聞き、試練を達成してください】


その下に、最初の目的地が表示された。


【入山受付へ向かってください】


「まずは受付か」


早希が言った。


誠司たちは、表示された案内に従って入山受付へ向かった。


受付には、料金表が大きく掲げられていた。


一番安い通常入山料でさえ、高かった。


その金額を見て、大地が思わず声をもらした。


「……入るだけで、この金額かよ」


誠司も画面に表示された金額を見て、少し言葉に詰まった。


マーメイドラウンジの調査で、すでにかなりのお金を使っている。


そのことを知っている早希が、誠司の顔を見た。


「誠司、大丈夫?」


「……大丈夫です」


誠司はそう答えたが、声は少し小さかった。


すると、料金表の横に別の案内が表示された。


【エグゼクティブ会員様】

ホテルまで専用車で送迎いたします。


【特別入山プラン】

追加料金でホテルまで送迎可能。

ミッションクリアオプションも選択できます。


大地が顔をしかめた。


「何でも金だな」


レイナは案内板を見つめたまま、静かに言った。


「お金でミッションをクリアできる方法もあるらしい。この世界らしいね」


そして、少しだけ声を落とす。


「でも、お金で買うと後で後悔するのも、この世界だよね」


誠司は、ミッションクリアオプションの文字を見つめた。


お金を払えば、山の試練を進めたことにできる。


ホテルまで送迎してもらい、面倒な道を歩かずに済む。


けれど、それでは意味がない。


誠司たちが目指しているのは、ただのミッションクリアではない。


海底神殿へ行くこと。


そして、リリアを人間にしてもらうことだ。


「僕たちは、正規ルートで行きます」


誠司は受付に向かって言った。


「リリアを人間にしてもらうために神殿へ行くんです。お金で買ったクリアじゃ、きっと認めてもらえない」


煌成が静かにうなずいた。


「神様には嘘をつけない、ということだな」


「はい」


誠司は端末を握りしめた。


「だから、自分たちで進みます」


早希が短く言った。


「それがいい」


煌成、翔、レイナなら、払えない金額ではなかった。


それでも、三人だけ送迎を選ぶことはしなかった。


翔も料金表から目を離し、誠司の方を見た。


「俺たちだけ車で行っても意味がないしな」


レイナも小さく息を吐いた。


「私たちも通常ルートで行くわ」


受付で通常入山の手続きを済ませると、誠司たちは地図と端末を受け取った。


端末には、最初の案内が表示されている。


【川沿いの道を進んでください】


その先に、猫山リゾートホテルがあるらしい。


誠司は地図を確認し、山道の入口へ向かった。


リリアに会うために。


海底神殿へ進むために。


誠司たちは、正規ルートで山の中へ足を踏み入れた。


山道は、川に沿って続いていた。


澄んだ水が岩の間を流れ、木々の隙間から光が差し込んでいる。


遠くからは、滝の音も聞こえていた。


「景色だけは綺麗だな」


大地が川の方を見ながら言った。


その時、誠司の端末が小さく鳴った。


【山の試練・第一問】


画面に文字が浮かび上がる。


【月の光がもっとも美しく映る場所はどこでしょう】


一、花畑

二、洞窟

三、湖

四、廃城


「これは湖だろ」


大地がすぐに言った。


「そうね。地図にも湖があったし」


レイナもうなずく。


誠司は端末を確認し、三を選んだ。


【正解です】


次の瞬間、川沿いの道の先にあった木の門が、ゆっくりと開いた。


【近道ルートを開放します】


「正解したら道が開くのか」


翔が門の奥を見た。


「間違えたら?」


大地が聞くと、端末に別の表示が出た。


【不正解の場合、迂回ルートへ進みます】


「迂回ルートって、遠回りってことだよな」


大地が顔をしかめる。


早希は端末を見ながら言った。


「なるべく正解して進もう。時間を無駄にしたくない」


誠司はうなずいた。


「はい。早くリリアに会いたいので」


誠司たちは、開いた門を抜けて近道ルートへ進んだ。


川沿いの道はさらに奥へ続いている。


その先に、猫山リゾートホテルがある。


リリアに会うための最初の道を、誠司たちは一歩ずつ進んでいった。


川沿いの道を進むと、少しずつ山の空気が変わっていった。


水の音が近くなったり、遠くなったりする。


木々の間には、小さな花が咲いていた。


その花のまわりを、淡い光がふわふわと飛んでいる。


「……今の、何だ?」


大地が足を止めた。


光は一瞬だけ揺れて、すぐに草むらの奥へ消えた。


「妖精かもしれないわね」


レイナが静かに言った。


地図にあった、妖精の住む花畑。


まだその場所ではないが、この山に妖精がいることは間違いなさそうだった。


誠司は端末を見た。


目的地までの道は、まだ続いている。


「先へ進みましょう」


早希が言った。


誠司たちは再び歩き出した。


しばらく進むと、川の向こう側に大きな建物が見えてきた。


山の中とは思えないほど整えられた建物だった。


ガラス張りの入口。

広いテラス。

川を見下ろすように作られた白い外壁。


自然の中にあるのに、どこか不自然なほど豪華だった。


大地が看板を見上げる。


「猫山リゾートホテル……」


そこには、そう書かれていた。


誠司は足を止めた。


ここが、山ミッションの最初の拠点。


猫耳族の集落へ向かう前に、まず案内を受ける場所らしい。


その時、翔が看板の端にある小さなロゴに気づいた。


「……待て。このロゴ」


レイナも看板を見た。


そして、少しだけ表情を変える。


「うちの会社の系列施設かもしれないわ」


大地が小さく息を吐いた。


「こんなところにも、欲望区のホテルがあるのかよ」


誠司はホテルを見上げた。


美しい山の中に建つ、豪華なリゾートホテル。


けれどその場所にも、欲望区のにおいがした。


山のミッションが始まりました。


お金で楽に進める方法もありますが、誠司たちは正規ルートを選びました。



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