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第74話 再び沈没船へ

レイナと翔の海のミッションが始まります。


かすみたち八人は、最初の目的地である沈没船へ向かうことになりました。


海のミッションへ出発する日。


かすみたち八人は、海辺区域のミッション開始地点へ集まっていた。


かすみ、煌成、誠司、早希、大地。


そして、今回初めて海のミッションへ参加するリリア、レイナ、翔。


全員が海中用の調査服を着て、持ってきた装備を確認していた。


「補助魔法が使えなくなった時のために、酸素装備も全員分あります」


誠司が、予備の酸素装備を一つずつ確認しながら説明した。


「水中活動薬と呼吸補助薬も用意しました」


かすみは、防水ケースへ入れた薬を見せた。


「水中活動補助魔法は私がかけます。効果が弱くなったと感じたら、すぐに知らせてください」


「僕と誠司さんも、必要な時は魔法で援護します」


煌成が全員を見渡した。


「けがや体調不良があった時も、すぐに伝えてください。海の中では、小さな異変でも無理をしない方がいいです」


「分かりました」


レイナが、少し緊張した様子でうなずいた。


翔も、自分の装備が外れないか何度も確認している。


二人にとっては、初めて正規の順番で挑戦する海のミッションだった。


「前回と同じ内容なら、最初は沈没船の調査よ」


早希が言った。


「敵も出る。水の中では地上と同じように動けないから、勝手に前へ出ないで」


「最初は、経験した人たちの動きを見ながら進みます」


翔が答えた。


リリアは、水中でも扱いやすいように用意した短槍を握っていた。


人間の体で海へ入るのは初めてだった。


以前は、自分の尾びれで自由に泳いでいた。


しかし今は、補助魔法や装備がなければ、水中で長く活動することはできない。


それでも、竜宮城へ帰るためには、このミッションを進まなければならなかった。


やがて、全員の端末が同時に震えた。


【海エリア初級編】


【沈没船調査ミッションを開始します】


【目的】


沈没船内部を調査し、残された宝を回収してください。


【追加任務】


沈没船周辺および内部に出現する敵を討伐してください。


【特別任務】


沈没船に現れる特別敵を討伐してください。


【特別敵討伐後、宝物庫と大宝箱が出現します】


【大宝箱の開封には、沈没船内で入手できる鍵が必要です】


表示が消えると、空中に大きな記録映像が現れた。


黒い海。


荒れ狂う波。


雷に照らされながら、激しく傾く船。


積まれていた宝箱が甲板を転がり、船員たちは必死に船を立て直そうとしている。


やがて、船の奥から黒い影があふれ出した。


逃げる船員。


倒れる仲間。


船長は宝箱ではなく、倒れた船員へ手を伸ばしていた。


しかし、その手が届く前に、大きな波が船をのみ込んだ。


沈んでいく船。


暗い海へ落ちていく剣と宝箱。


最後に、一つの言葉が浮かんだ。


【この船は、まだ終わっていない】


映像はそこで消えた。


レイナは、しばらく海の方を見つめていた。


「宝を探すだけのミッションではないんですね」


「沈没船に残された過去も調べることになるみたいだ」


大地が答えた。


前回と同じ映像だった。


けれど、初めて見るレイナ、翔、リリアにとっては、この先に待つものを知らせる最初の手がかりだった。


端末に次の表示が出た。


【水中活動補助魔法を発動してください】


かすみは杖を構えた。


足元に青い魔法陣が広がり、光の泡が一人ずつ体を包んでいく。


水中での呼吸を助け、体の動きを安定させる魔法だった。


誠司は端末で全員の状態を確認した。


「補助魔法は、全員に安定してかかっています」


「では、行きましょう」


早希の言葉を合図に、八人は海へ入った。


冷たい水が体を包む。


レイナと翔は、最初こそ動きにくそうにしていたが、かすみの魔法に支えられながら、少しずつ水中での動きに慣れていった。


リリアも、人間の足で水を蹴りながら進んだ。


人魚だった頃のようには泳げない。


それでも、肌に触れる海水の冷たさは懐かしかった。


やがて、青暗い海底に大きな船影が見えてきた。


裂けた帆。


傾いた船体。


海藻に覆われた甲板。


船腹には、人が通れるほどの大きな穴が開いている。


【沈没船区域に到達しました】


【敵性反応あり】


船の影から、鋭いとげを持つ魚の群れが飛び出してきた。


「毒を持つ魚よ。とげに触れないで!」


早希が剣を構えた。


大地が盾を前へ出し、魚の群れの進路を塞ぐ。


誠司が杖を振ると、魚の周囲の水が凍りつき、動きが遅くなった。


「今よ!」


早希が前へ出る。


翔も早希の動きを見ながら武器を構え、横から近づく魚を攻撃した。


大地の横をすり抜けた魚が、後方へ回り込もうとする。


レイナは周囲を確認しながら武器を振り、近づいてきた魚を打ち払った。


リリアも短槍を伸ばし、別の魚を突き返す。


「後ろにも来ています!」


レイナが声を上げた。


煌成が後方へ杖を向け、魔法の壁を作る。


回り込んできた魚が壁へぶつかり、動きを止めた。


その隙に、リリアの短槍が魚を貫いた。


翔は前へ出すぎたところを、一匹の魚に狙われた。


魚のとげが、翔の腕をかすめる。


「翔さん、腕を見せてください」


煌成が近くへ移動した。


「これくらいなら大丈夫です」


「海の中では、小さな傷でも放置しない方がいいです」


煌成は傷を確認し、回復魔法をかけた。


赤くなっていた傷が、ゆっくりと塞がっていく。


「ありがとうございます」


「腕を動かせるか確認してから戻ってください」


その間にも、大地と早希が魚の群れを前方へ集めていた。


かすみは杖を向け、赤い光を放った。


魚たちから力が吸い取られ、その力が大地と早希へ流れていく。


誠司がもう一度周囲の水を凍らせ、魚の動きを止めた。


翔とリリアが前衛へ戻り、残った魚を攻撃する。


レイナは後方から近づく敵がいないか確認しながら、逃れた魚を武器で仕留めた。


【毒棘魚を討伐しました】


【経験値を獲得しました】


【金貨を獲得しました】


「全員、大丈夫?」


早希が尋ねた。


レイナと翔も、自分の体を確認してからうなずいた。


前回より人数が多く、魔法を使える三人が攻撃、補助、回復を分担している。


初めて参加する三人も、経験者の動きを見ながら戦えていた。


八人は、船腹の穴から沈没船の内部へ入った。


中は暗く、壊れた階段や家具が海藻に覆われている。


誠司が魔法で明かりを作ると、狭い通路の先まで照らされた。


「足元に気をつけてください。床が抜けている場所があります」


以前通った道を覚えていた誠司が、先に危険な場所を伝える。


大地と早希が前を進み、その後ろに翔とリリアが続いた。


かすみ、煌成、誠司、レイナは、少し距離を空けて後方を進む。


通路の奥から、錆びた剣を持つ骸骨兵が現れた。


その後ろには、黒い水泡を作る亡霊が浮かんでいる。


「大地が正面を止める。私と翔で左右から攻撃する」


早希が素早く指示を出した。


「リリアは、後ろへ抜けようとする敵を止めて。レイナは周囲を見て、後方へ来た敵をお願い」


「分かりました」


大地が盾で骸骨兵の剣を受ける。


早希と翔が左右から攻撃し、リリアは短槍で骸骨兵の足元を崩した。


骨が砕け、骸骨兵の姿勢が傾く。


その隙に、早希の剣が中心を切り裂いた。


後方にいた亡霊が、黒い水泡を放とうとする。


「亡霊が攻撃します!」


レイナの声に、誠司がすぐに反応した。


白銀の魔法陣が開き、亡霊の周囲が凍りつく。


黒い水泡も氷の中で動きを止めた。


かすみの赤い光が、亡霊の力を吸い取る。


吸い取られた力が、前で戦っている翔とリリアへ流れ込んだ。


最後に煌成が攻撃魔法を放つと、亡霊の姿が水の中で崩れていった。


【骸骨兵を討伐しました】


【魔法亡霊を討伐しました】


【経験値を獲得しました】


【金貨を獲得しました】


敵が消えると、通路の奥に小さな宝箱が見つかった。


大地が周囲を確認してから蓋を開ける。


中には金貨と、細い鍵が入っていた。


【宝物庫の鍵・一を獲得しました】


「この鍵を、もう一本見つける必要があります」


誠司が説明した。


「二本そろえば、奥にある大宝箱を開けられます」


「前回と同じ場所にあるんですか?」


翔が尋ねた。


「同じとは限りません。全員で探しましょう」


八人は、手分けして船室を調べた。


空の宝箱。


壊れた食器。


読めなくなった航海記録。


海藻に埋もれた積み荷。


やがてレイナが、倒れた棚の陰に、もう一つの宝箱を見つけた。


「ここに箱があります」


全員が集まると、箱の周囲に半透明の腕が絡みついているのが見えた。


【宝箱に敵性反応あり】


「気をつけて。宝を守っている亡霊よ」


早希の言葉と同時に、無数の腕が八人へ伸びてきた。


大地が盾で正面の腕を止める。


早希と翔が左右から切り払い、リリアはレイナへ伸びた腕を短槍で払った。


「助かりました」


「まだ来ます」


レイナも自分の武器を握り、別の腕を打ち払う。


魔法を使う三人は、後方から前衛を支えた。


誠司が亡霊の周囲を凍らせる。


煌成が魔法の壁を作り、横から伸びてきた腕を止める。


かすみが亡霊の力を吸い取り、早希たちへ流した。


腕の動きが弱くなったところへ、早希、翔、リリアが同時に攻撃する。


亡霊の腕が、泡のように消えていった。


【宝守りの亡霊を討伐しました】


【宝箱の封印が解除されました】


宝箱の中には、金貨と宝石、そして二本目の鍵が入っていた。


【宝物庫の鍵・二を獲得しました】


二本の鍵がそろった直後、沈没船の奥から重い音が響いた。


船長室の扉が、ゆっくりと開いていく。


赤黒い光が、扉の隙間から漏れ出した。


【強敵反応】


【特別敵:海賊の亡霊】


海賊帽をかぶった亡霊が、錆びた剣を持って現れた。


「この船の宝に、手を出すな」


低い声が、水の中を震わせた。


レイナと翔の表情が強張る。


早希は剣を構えたまま、二人へ言った。


「前に戦った時は、骸骨兵を呼び出して、周りの動きを遅くする攻撃も使ってきた」


「俺たちは、どう動けばいいですか?」


翔が尋ねた。


「翔は大地の近くで前衛を手伝って。リリアは横から来る敵を止める。レイナは後方を見て、敵が抜けてきたら知らせて」


早希は全員を見た。


「一人で倒そうとしない。魔法で動きを止めてもらってから、全員で攻撃する」


海賊の亡霊が、剣を振り上げた。


黒い水の刃が飛んでくる。


大地が盾を構え、その後ろへ早希と翔が入った。


衝撃で三人の体が後ろへ押される。


同時に、船室の床から骸骨兵が現れた。


リリアが短槍を構え、横から近づいてきた骸骨兵を止める。


レイナは後方へ回ろうとする別の骸骨兵を見つけた。


「後ろへ来ます!」


煌成が杖を向ける。


魔法の壁が後方に現れ、骸骨兵の進路を塞いだ。


レイナが武器を振り、その骸骨兵を壁へ押し戻す。


そこへリリアが短槍を突き出し、骨の体を崩した。


前方では、誠司の氷が骸骨兵の足元を固めている。


早希と翔が動けなくなった敵を倒し、大地は海賊の亡霊の攻撃を盾で受け続けた。


海賊の亡霊が古い鍵を掲げる。


周囲の水が急に重くなり、全員の体が海底へ引かれた。


【沈没船の呪圧】


【移動速度低下】


「解除します!」


かすみが杖を振る。


緑と白の魔法陣が開き、体へ絡みつく呪いを引きはがしていく。


誠司も水中活動補助魔法を重ねた。


「少しずつ動けるようになります。焦らず、位置を戻してください」


リリアは重くなった足を動かしながら、レイナのそばへ戻った。


人魚の体であれば、こんな水の重さに苦しむことはなかった。


けれど今は、人間の体で戦わなければならない。


それでも、竜宮城へ帰るために、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。


海賊の亡霊が、かすみへ剣を向けた。


「かすみ!」


煌成が前へ出る。


魔法の壁がかすみの前へ広がり、亡霊の剣を受け止めた。


大地がすぐに盾を押し込み、亡霊をかすみから引き離す。


「大丈夫ですか?」


煌成が振り返った。


「はい。ありがとうございます」


海賊の亡霊の周囲に、黒い水泡がいくつも浮かび始めた。


「黒い泡が来ます!」


周囲を見ていたレイナが声を上げた。


誠司が杖を振り、水泡の一部を氷で固める。


残った水泡は、煌成が魔法の壁で受け止めた。


壁に触れた水泡が次々に弾け、黒い煙のようなものが広がって消える。


「今よ!」


早希が前へ出た。


大地が盾で亡霊の剣を押さえる。


翔が横から武器を振り下ろし、リリアの短槍が亡霊の足元を突いた。


レイナは近づいてくる骸骨兵を武器で止め、前衛へ合流させないようにする。


誠司の氷が、海賊の亡霊の腕へ絡みついた。


動きが止まる。


かすみの赤い光が、亡霊の力を吸い取った。


吸い取った力が、大地、早希、翔、リリアへ流れ込む。


そこへ煌成の攻撃魔法が命中した。


「もう一度、全員で!」


早希の声に、前衛の四人が同時に動いた。


大地が盾で亡霊の剣を押さえ込む。


早希の剣が、亡霊の中心を切り裂く。


翔の攻撃が、その傷へ重なる。


最後にリリアの短槍が、赤黒く光る中心を貫いた。


海賊の亡霊の体が大きく揺らぐ。


赤黒い光が砕け、水の中へ散っていった。


【特別敵:海賊の亡霊を討伐しました】


【経験値を獲得しました】


【大量の金貨を獲得しました】


【宝物庫の封印が解除されます】


沈没船の奥で、閉ざされていた扉が開いた。


その向こうには、海藻と錆びた金具に覆われた大きな宝箱が置かれていた。


二本の鍵が光り、宝箱の金具が外れる。


中には金貨、宝石、海底の特殊素材、青い刃を持つ剣、魔法書が入っていた。


【水中活動補助魔法Ⅱを獲得しました】


【特別な剣:潮切りの剣を獲得しました】


【海底素材:沈銀を獲得しました】


【次の海エリアへ進むための鍵を獲得しました】


「これで、次へ進めるんですね」


レイナが、鍵の表示を見つめた。


「はい。レイナさんと翔さんの海のミッションは、これで最初の段階を越えました」


かすみが答えた。


端末が再び光る。


【ミッション終了映像を再生します】


水中に映し出されたのは、静かな船長室だった。


海賊の船長は、宝箱を抱えてはいなかった。


傷ついた船員たちを逃がそうとしながら、最後まで船に残っていた。


船が沈んだあとも、亡霊となった船長は、宝と仲間の眠る場所を守り続けていた。


映像の最後。


剣を持たない海賊の亡霊が、船員たちとともに現れた。


亡霊は、八人へ深く頭を下げる。


白い光が広がり、船員たちは泡のように消えていった。


映像が終わると、沈没船の中から赤黒い気配が消えていた。


「倒すだけの敵ではなかったんですね」


翔が静かに言った。


レイナも、亡霊たちが消えた場所を見つめている。


「この世界のミッションには、ここに残された人たちの事情もあるんですね」


早希が剣を下ろした。


「だから、敵を倒すだけじゃなくて、何があったのかを調べることも目的に入っているんだと思う」


端末に最後の通知が浮かんだ。


【沈没船調査ミッションを完了しました】


【次の海エリアへの進行条件を開放しました】


【帰還してください】


八人は沈没船を出て、海面へ向かった。


レイナと翔にとっては、初めて正しい順番で進めた海のミッション。


リリアにとっては、竜宮城へ帰るために越えなければならない最初の場所。


青暗い海底から光のある方へ進みながら、リリアは、その先にある故郷を思っていた。


竜宮城へ続く道は、まだ始まったばかりだった。


仲間たちの協力によって、沈没船調査ミッションを無事に終えたレイナと翔。


次の海エリアへの道が開き、リリアの故郷である竜宮城へ一歩近づきました。


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