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第69話 つながり始めた手がかり

リリアから体交換の真相を聞いた誠司。


一人では解決できないと考え、初期エリアからの仲間たちへ相談することにしました。


誠司の報告をきっかけに、それぞれが過去に感じた違和感が、少しずつつながり始めます。

リリアの部屋を出たあと、誠司は自宅へ戻った。


机の前に座り、端末を開く。


初期エリアからの仲間たちが入っているグループチャットを表示したものの、すぐには文字を打てなかった。


リリアは、もともと人魚だった。


エリーの本当の名前は美波。


二人は体を交換している。


美波は元の人間の体へ戻りたがっている。


リリアも、美波へ体を返した方がいいのか迷っている。


けれど、人魚へ戻れば、自分の力ではマーメイドラウンジから出られない。


伝えなければならないことが多すぎた。


誠司は、ゆっくりと文章を打ち始めた。


『今日、マーメイドラウンジで本物の人魚に会いました』


そこまで入力して、手を止める。


「これだけだと、何が起きたのか分からないな……」


一度消し、書き直す。


『人魚のエリーから、リリアさんと体を交換したと聞きました』


誠司は画面を見つめた。


「あ……やっぱり、最初にリリアさんが元人魚だったことを書いた方が、みんなに伝わりやすいかも」


また文章を消した。


何度も書き直しているうちに、どこから説明すればいいのか分からなくなってくる。


「これだと、報告だけで相談になってないな……」


誠司は椅子にもたれ、しばらく考えた。


自分が伝えたいのは、驚くような事実だけではない。


これからどうすればいいのか。


その方法を、仲間たちと一緒に考えたかった。


誠司はもう一度、端末へ向き直った。


『みんなに相談したいことがあります。


今日、マーメイドラウンジで、エリーという本物の人魚に会いました。


エリーの本当の名前は美波です。


美波さんは、もともと人間でした。


そして、リリアさんは、もともと人魚だったそうです。


二人は体を交換しています。


今のリリアさんは、美波さんの人間の体で生活しています。


水槽にいるエリーさんは、リリアさんの元の人魚の体に入っています。


美波さんは、元の人間の体へ戻りたがっています。


リリアさんも、体を返した方がいいのか迷っています。


ただ、リリアさんが人魚へ戻った場合、自分の力ではマーメイドラウンジから出られず、そのまま水槽で一生を終えることになるかもしれません。


リリアさんは、人魚へ戻るとしても、人間のままでいるとしても、もう一度竜宮城へ行きたいと言っています。


それから、リリアさんだけではなく、ラウンジにいたほかの人魚たちも、同じ漁師とその仲間によって連れてこられたそうです。


迎えに来ると言われた人魚もいれば、人間の世界へ連れていってあげると言われた人魚もいました。


でも、その漁師は誰のところにも戻ってきませんでした。


ミレナさんも、リリアさんと同じように、漁師が関係しているのかもしれません。


それから、もう一つ伝えておかなければならないことがあります。


本物の人魚に会うために、高額な面会料金を支払いました。


そのため、僕の手元にはもうほとんどお金が残っていません。


次にお金がたまるまで、僕一人ではラウンジの人魚へ直接会って調査を続けることができません。


ただ、リリアさんにはラウンジではなく、自宅で話を聞くことができます。


これからも、リリアさんが知っていることについては確認できると思います。


でも、エリーさんやミレナさんへ直接会うには、別の方法を考える必要があります。


お金を払って面会する以外に、調査を進める方法がないか、みんなの意見がほしいです。


美波さんとリリアさんを元の体へ戻す方法。


リリアさんが人魚へ戻った場合、マーメイドラウンジから解放する方法。


リリアさんをもう一度、竜宮城へ連れていく方法。


ミレナさんを助ける方法。


そして、人魚たちを連れてきた漁師とその仲間について調べる方法。


僕一人では、どうすればいいのか分かりません。


みんなにも、一緒に考えてほしいです』


誠司は、最初から最後まで読み返した。


今度は、ただの報告ではなく、相談になっている。


それでも、送信ボタンを押す指はすぐには動かなかった。


リリアから聞いた秘密を、本当にここへ書いていいのか。


けれど、仲間へ話すことについては、リリア本人から許可をもらっている。


誠司は小さく息を吐いた。


そして、送信ボタンを押した。


グループチャットには、次々と既読がついた。


最初に届いたのは、優からの返信だった。


『漁師と聞いて、思い当たる人がいます』


誠司はすぐに返した。


『どんな人ですか?』


『前に港でミレナさんについて聞いた時、一人だけ反応がおかしかった若い漁師です』


『ミレナさんの特徴を話した時ですか?』


『はい。銀色に近い髪と、薄い青の尾びれについて聞いた瞬間、その人だけ顔を曇らせました』


優は少し考えてから、続けて送った。


『でも、いきなり人魚のことを聞いたら警戒されると思います』


『魚屋の仕入れで港へ行った時に、まずは普通の魚の話をしながら近づいてみようと思います』


『分かりました。無理に問い詰めず、何か分かったら教えてください』


『はい。まずは、どんな仕事をしている人なのか確かめてみます』


しばらくして、大地からメッセージが届いた。


『そういえば、俺も運送会社で聞いた時に、引っかかったことがあったな……』


『何があったんですか?』


誠司が尋ねる。


『前に欲望区へ運んだ大量の海水について聞いた時、担当者が急に話を濁したんだ』


『人魚を運んだ車についても、その会社が関係しているかもしれないということですか?』


『まだ分からない。ただ、人魚も漁師の仲間の車で運ばれたなら、海水や魚を運ぶ仕事の中に何か手がかりがあるかもしれない』


『調べられそうですか?』


『今度は人魚のことを直接聞かずに、海水や生きた魚を運ぶ仕事について聞いてみる』


『お願いします。ただ、二人とも危険だと思ったら無理をしないでください』


優と大地からの返信が一段落したところで、かすみからメッセージが届いた。


『私と煌成さんが出会った時、煌成さんはマーメイドラウンジの人魚について調べに来たと言っていました』


少し間を置いて、続きが表示される。


『何か知っているかもしれません。煌成さんにも相談していいですか?』


『それと、レイナさんと翔さんにも、人魚やマーメイドラウンジについて少し聞いてみようと思います』


『二人は玲司さんと詩乃さんの仕事を手伝っているので、何か知っているかもしれません』


誠司は、すぐには返事をしなかった。


リリアには、仲間だけに話すと約束している。


人魚やマーメイドラウンジについて一般的に聞くことはできる。


けれど、リリアと美波の体交換について、仲間以外へ話していいかは確認していなかった。


『レイナさんと翔さんには、まだ体交換のことは話さず、人魚やラウンジについて聞く方がいいと思います』


誠司はそう返したあと、少し考えた。


煌成は、かすみの夫だ。


以前からラウンジの人魚について調査しているのなら、力になってくれるかもしれない。


それでも、リリアの秘密を勝手に話すことはできない。


『煌成さんに体交換のことまで話していいかは、僕からリリアさんに確認します』


『お願いします』


誠司はグループチャットを閉じ、リリアとの個別の画面を開いた。


何と聞けばいいのか少し迷ったあと、文章を打つ。


『さきほど仲間たちへ相談しました。


かすみさんの夫の三宮煌成さんも、以前からマーメイドラウンジの人魚について調べているそうです。


リリアさんと美波さんが体を交換したことを、煌成さんにも話していいですか?』


送信してから、しばらく返事はなかった。


リリアはまだ体調が悪く、休んでいるのかもしれない。


誠司が端末を置こうとした時、画面が光った。


『かすみさんの旦那様だけなら、言っても大丈夫です』


誠司は、その返事を読んで小さく息を吐いた。


『分かりました。ほかの人には、まだ話しません』


『お願いします』


誠司は再びグループチャットを開いた。


『リリアさんに確認しました。


体交換のことは、煌成さんだけなら話しても大丈夫だそうです』


かすみから返信が届いた。


『分かりました。私から煌成さんへ相談します』


港にいる若い漁師。


大量の海水を運んだ運送会社。


マーメイドラウンジを調べていた煌成。


そして、玲司と詩乃の仕事を手伝っているレイナと翔。


それまで別々に見えていた手がかりが、少しずつつながり始めていた。


誠司は、リリアと美波の体交換について仲間たちへ報告しました。


その中で、優は以前港で不自然な反応を見せた若い漁師を、大地は運送会社で海水について尋ねた時の違和感を思い出します。


さらに、かすみはマーメイドラウンジを調べていた煌成や、玲司と詩乃の仕事を手伝うレイナと翔からも、情報を集めることにしました。


それぞれが持っていた手がかりが、少しずつつながり始めます。

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