表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/63

第63話 夢の続きへ

恋人としてもう一度マーメイドエリアを訪れた、かすみと煌成。


夢のような一日を過ごした二人は、花束と指輪を前に、これからの未来を約束しました。


今回は、その翌朝から始まります。

かすみが目を覚ますと、隣には煌成がいた。


静かな寝息を立てながら眠っている。


テーブルの上には、昨夜もらった花束が飾られていた。


白、水色、薄紫の花々が、部屋の中にやさしい香りを残している。


かすみは左手を持ち上げた。


薬指には、煌成から贈られた婚約指輪があった。


淡い水色の石が、朝の部屋で静かに輝いている。


煌成に出会ってから、ずっと夢を見ているような気がする。


マーメイドラウンジで言葉を交わし、友達として出かけ、恋人になった。


そして昨夜、二人は結婚の約束をした。


こんなに幸せでいいのだろうか。


そう思いながら指輪を見ていると、隣で煌成が動いた。


目を開け、かすみを見る。


「おはようございます」


「おはようございます」


二人は顔を見合わせ、そのまま笑った。


煌成の視線が、かすみの左手へ向いた。


「よく似合っています」


「ありがとうございます。朝になっても、まだ夢みたいです」


「僕もです」


煌成は少し照れたように笑った。


身支度を整えた二人は、ホテルの朝食会場へ向かった。


案内された席からは、大きな水槽と朝のプールが見えた。


夜とは違う穏やかな明るさが水面に広がり、魚たちがゆっくりと泳いでいる。


朝食を取りながら、二人の話題は自然とこれからのことへ移った。


「結婚式は、どうしましょうか」


かすみが尋ねると、煌成は窓の外を見た。


「僕は、ここで挙げたいと思っています」


「このマーメイドホテルで?」


「はい。昨日の思い出もありますし、かすみさんも気に入っているようでしたから」


かすみは、水槽の中を泳ぐ魚を見た。


友達として訪れ、恋人として戻ってきた場所。


花火の下でキスをして、指輪と花束をもらったホテル。


ここで結婚式を挙げられたら、きっと忘れられない。


「私も、ここがいいです」


「では、朝食のあとに相談へ行きましょう」


食事を終えた二人は、ホテル内のウェディングサロンへ向かった。


受付で名前を伝えると、すぐに個室へ案内された。


担当者は、式場や披露宴会場の資料を二人の前へ広げた。


「三宮煌成様、かすみ様。ご婚約おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「実際の会場もご覧いただけます。まずはチャペルからご案内いたします」


担当者に続いて廊下を進み、大きな扉の前で足を止める。


扉が開くと、その先には白いバージンロードがまっすぐに伸びていた。


左右の壁は、天井近くまで続く大水槽になっている。


銀色の魚たちが群れを作り、その奥を白いエイが静かに横切った。


水面から落ちる光が、白い床や椅子の上でゆっくり揺れている。


かすみは、バージンロードの先を見つめた。


「ここを、ウェディングドレスで歩くんですね」


「その時は、僕が前で待っています」


「はい」


かすみは笑顔で答え、煌成を見た。


煌成も少し照れたように笑っていた。


続いて案内された披露宴会場は、大きな窓の向こうにプールと水族館が広がる、明るく開放的な空間だった。


白と淡い水色を基調にしたテーブルには、真珠を思わせる飾りと白い花が置かれている。


「豪華ですけど、落ち着きます」


「皆さんとゆっくり過ごせそうですね」


「はい。ここなら、緊張しすぎずに楽しめそうです」


二人は、披露宴会場をもう一度見渡した。


ウェディングサロンへ戻り、日程を確認する。


担当者が端末を見ながら答えた。


「二週間後の休日でしたら、水槽チャペルと披露宴会場の特別枠をご案内できます」


煌成は、かすみへ顔を向けた。


「二週間あれば、皆さんにも予定を調整していただけそうですね」


「ドレスの準備もお願いできると思います」


「では、その日にしましょう」


結婚式の日取りが決まった。


招待客の名前を入力すると、水色と真珠を基調にした電子招待状が作られていく。


久美子。


早希。


大地。


優。


誠司。


リリア。


ほかの仲間たちの名前も確認し、かすみは送信をお願いした。


担当者が画面へ触れる。


電子招待状は、それぞれの端末へ一斉に届けられた。


最初に気づいたのは早希だった。


「えっ、かすみ結婚するの?」


すぐにグループチャットへメッセージが届く。


『もちろん出席するよ。おめでとう!』


続いて大地からも返事が入った。


『早くて驚いたけど、二人ともおめでとう。出席します』


優も参加すると返信し、短い間に出席の印が増えていった。


久美子は招待状に表示された新郎の名前を見て、しばらく画面を見つめた。


「相手……誠司じゃないんだ」


かすみが結婚するなら、いつか誠司とだと思っていた。


招待状に並んでいたのは、三宮煌成という名前だった。


驚きながらも、久美子はすぐに出席を選んだ。


その頃、リリアの端末にも招待状が届いていた。


「もう結婚するの……?」


あまりの早さに、声が漏れた。


そして、誠司の端末にも同じ案内が表示されていた。


かすみと三宮煌成。


二人の名前の下に、結婚式の日付が記されている。


二週間後。


誠司は画面を閉じることもできず、しばらくその文字を見つめていた。


かすみが、マーメイドラウンジで出会った男性と付き合っていることは聞いていた。


それでも、結婚という形になって届くと、胸の奥に残っていたものが強く痛んだ。


自分が先延ばしにした未来を、別の男が迷わず選んだ。


やがて誠司は、出席の欄へ触れた。


祝える自信はなかった。


それでも、かすみの幸せから逃げたくはなかった。


少し遅れて、リリアからも出席の返事が届いた。


同じ頃、久美子が働く洋裁工房にも、ウェディングドレスの注文が届いていた。


布地を整理していた久美子へ、先輩が声をかける。


「新しいウェディングドレスの依頼が入ったわ。二週間後だから、少し急ぎね」


「二週間後ですか?」


先輩から見せられた注文書には、先ほど招待状で見た名前が表示されていた。


「このドレス……かすみの結婚式の」


式の日付も同じだった。


招待状を受け取ったばかりの久美子に、今度は花嫁衣装の依頼が届いた。


久美子は注文内容を確認したあと、先輩へ顔を向けた。


「このドレス、私にデザインさせてもらえませんか?」


「久美子が?」


「はい。かすみは大切な仲間なんです。私が作りたいです」


先輩は、式の日付と希望されている納期を確認した。


「二週間しかないから、私たちも一緒に作ることになるわよ」


「分かっています」


久美子の声には迷いがなかった。


先輩は少し考え、端末へ採寸の予定を入力した。


「では、今日の夕方に採寸へ行きましょう」


「ありがとうございます」


久美子は採寸に必要な道具をそろえ始めた。


仲間の結婚式に出席するだけでなく、その日に着るウェディングドレスを自分が作れる。


胸の奥に残っていた寂しさよりも、今はかすみを綺麗な花嫁にしたいという気持ちの方が強かった。


打ち合わせを終えると、担当者が続けて案内した。


「結婚指輪も、ホテル内の宝石店でご用意できます。挙式日やお名前の刻印にも対応しております」


煌成は、かすみの左手にある婚約指輪を見た。


「プロポーズの指輪は、僕が一人で選びました」


そして、かすみへ笑いかける。


「結婚指輪は、二人で選びましょう」


「はい」


二人はホテル内の宝石店へ向かった。


ガラスケースには、海や波をイメージした指輪が並んでいた。


その中で、二人の視線が同じ一組に止まる。


細い波模様が刻まれた結婚指輪だった。


二つを並べると、それぞれの波が一つにつながる。


かすみ用の指輪には、淡い水色の小さな石が一粒だけ入っていた。


煌成用の指輪には石はなく、同じ波の模様が静かに光っている。


「これ、素敵です」


「僕も、この指輪がいいです」


内側には、二人の名前と結婚式の日付を刻んでもらうことになった。


結婚指輪を選び終えたかすみと煌成は、マーメイドレジデンスへ向かった。


案内担当者が、広いロビーで二人を迎える。


「まずは、実際にご夫婦がお住まいのお部屋をご覧いただきます。その後、現在空いているおすすめのお部屋へご案内いたします」


エレベーターで上階へ移動し、担当者が一つの部屋の前で止まった。


扉が開く。


中には、大きな水槽のあるリビングが広がっていた。


窓の外には、マーメイドエリアのプールと水族館が見える。


白と淡い水色を基調にした家具。


夫婦用の広いダイニング。


撮影にも使えるよう整えられた空間。


「こちらへ入居されますと、水族館やナイトプールの利用、ホテル内施設の一部を特別条件でご利用いただけます」


担当者が説明を続けていると、奥の部屋から女性が出てきた。


「案内の人? 今日は早いのね」


かすみは、その声に聞き覚えがあった。


女性も、かすみを見て足を止める。


「……かすみ?」


「レイナさん?」


続いて翔も姿を見せた。


「どうした?」


かすみを見て、翔も足を止める。


「かすみ?」


担当者は三人の反応を見比べた。


「お知り合いでしたか?」


「はい。初期エリアで、同じグループだった人たちです」


かすみは隣に立つ煌成へ顔を向けた。


「こちらは、三宮煌成さんです」


煌成が軽く頭を下げる。


「初めまして。三宮です」


「レイナです」


「翔です」


短い挨拶を交わしたあと、レイナの視線がかすみの左手へ向いた。


「え、ちょっと待って。その指輪……」


「はい。私たち、結婚することになりました」


「結婚?」


レイナと翔が同時にかすみを見る。


「いつ?」


「二週間後です」


レイナは驚いたまま、かすみと煌成を交互に見た。


「すごく早いね」


「私も、こんなに早く決まるとは思っていませんでした」


「でも、おめでとう」


「ありがとうございます」


かすみは少し考えてから、レイナと翔を見た。


「よかったら、お二人も私たちの結婚式に来ていただけませんか?」


「私たちも?」


「はい。初期エリアでは同じグループでしたし、こうしてまた会えましたから」


レイナは翔へ顔を向けた。


「どうする?」


「予定が合うなら、行こう」


翔が答えると、レイナもうなずいた。


「じゃあ、参加させてもらうね」


「ありがとうございます」


かすみはその場で端末を開き、レイナと翔へ電子招待状を送った。


二人の端末に、水色と真珠を基調にした招待状が表示される。


「本当に二週間後なんだ」


レイナが日付を確認する。


「やっぱり早くない?」


翔が隣から口を挟んだ。


「俺たちが言える立場じゃないだろ」


レイナは少し黙ったあと、笑った。


「確かに」


「ここに住むの?」


レイナが尋ねる。


「今、見学しているところです」


「生活するには便利だよ。水族館もプールも使えるし、ホテルも近いし」


翔もうなずいた。


「施設をよく使うなら、かなり暮らしやすいと思う」


担当者は、レイナと翔の部屋を一通り案内した。


部屋を出る時、レイナが笑いながら言った。


「せっかくだから、空いている部屋も一緒に見ていい?」


「もちろんです」


担当者の案内で、レイナと翔も一緒に廊下へ出た。


「現在、同じ階に一部屋だけ空きがございます。こちらがおすすめのお部屋です」


担当者は隣の扉の前で立ち止まり、部屋を開けた。


間取りはレイナと翔の部屋とほぼ同じだったが、窓から見える景色が少し違っていた。


大きな窓の向こうには、水族館とプールに加え、ホテル側のライトアップまで広く見渡せる。


夜になれば、レストランやバーの光も楽しめる造りになっていた。


「隣なんですね」


かすみが言うと、レイナが笑った。


「本当にここに決めたら、隣同士になるんだね」


翔も部屋を見渡した。


「知っている人が隣なら、最初は安心かもしれないな」


煌成はリビングやダイニングを確認したあと、かすみに尋ねた。


「ここは、どうですか?」


かすみは、もう一度部屋を見渡した。


煌成との出会いから今までの思い出が詰まったマーメイドエリア。


その隣には、初期エリアで一緒だったレイナと翔も住んでいる。


もう迷うことはなかった。


「私、ここがいいです」


「僕もです」


二人は、その場で入居を申し込んだ。


手続きが終わる頃には、外の明るさが夕方へ変わり始めていた。


ロビーへ戻ると、久美子と工房の先輩が到着したところだった。


「かすみ!」


久美子が駆け寄る。


「久美子さん」


「本当に結婚するの?」


「はい」


かすみが左手を見せると、久美子は婚約指輪を見つめた。


「すごく綺麗」


「煌成さんが選んでくれました」


煌成が少し照れたように頭を下げる。


久美子は二人を見てから、持ってきた採寸道具を持ち直した。


「ドレスの注文、工房に届いたの」


「そうだったんですね」


「私がデザインして作らせてもらうことになったよ」


かすみの表情が明るくなった。


「久美子さんが?」


「うん。工房のみんなにも手伝ってもらうけど、デザインは私が考える」


かすみは久美子の手を取った。


「うれしいです。久美子さんに作ってもらえるなんて」


その言葉に、久美子は笑った。


「絶対、かすみに似合うドレスにするから」


「お願いします」


レジデンス内の一室を借り、その日のうちに採寸が始まった。


久美子は仕事の顔に変わり、かすみの肩幅やウエスト、ドレス丈を丁寧に測っていく。


採寸した数値を端末へ入力しながら、かすみの体に合うドレスの形を考えた。


「少し動かないでね」


「はい」


かすみは背筋を伸ばした。


煌成は少し離れた場所から、その様子を静かに見守っている。


かすみが顔を向けると、煌成がやわらかく微笑んだ。


久美子は二人の様子を見て、端末へ新しいデザイン案を書き込む。


「絶対、綺麗な花嫁にするから」


「お願いします」


かすみの返事に、久美子は力強くうなずいた。


二週間後、久美子の作ったドレスをまとったかすみは、煌成の隣で花嫁になる。

読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、プロポーズの翌朝から、結婚式の日取り、新しい住まい、久美子によるドレス作りまでが一気に動き出す回でした。


二週間後、かすみと煌成は結婚式を迎えます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ