第35話 沈没船ミッション開始
海エリア初級編、沈没船調査ミッションが始まります。
人魚はまだ出ません。今回は沈没船、亡霊、骸骨、宝箱探索の回です。
海辺区域に集まると、全員の端末が同時に震えた。
【海エリア初級編】
【沈没船調査ミッションを開始します】
【目的:沈没船内部を調査し、残された宝を回収してください】
【追加任務:沈没船周辺および内部の敵を討伐してください】
【特別任務:沈没船に現れる特別敵を討伐してください】
【特別敵討伐後、宝物庫と大宝箱が出現します】
【大宝箱の開封には、沈没船内で入手できる鍵が必要です】
文字が消えると、空中に大きな映像が開いた。
黒い海。
荒れ狂う波。
雷に照らされた船が、激しく傾いている。
甲板では、船員たちが必死にロープを引いていた。
宝箱がいくつも転がり、積み荷が海へ落ちていく。
船長らしき男が、剣を握って叫んでいた。
声は聞こえない。
けれど、その顔には怒りよりも焦りがあった。
次の瞬間、船の奥から黒い影があふれた。
宝にまとわりつくような影。
逃げる船員。
倒れる仲間。
船長は宝箱ではなく、倒れた船員へ手を伸ばした。
その手が届く直前、大波が船をのみ込んだ。
沈んでいく甲板。
落ちていく剣。
暗い海の底へ消える宝箱。
最後に、船長の言葉だけが浮かび上がった。
【この船は、まだ終わっていない】
映像はそこで途切れた。
「……ただのお宝探しじゃなさそうだね」
早希が剣を握り直した。
端末に次の表示が出る。
【水中活動補助魔法を発動してください】
かすみは杖を高く振った。
足元に大きな魔法陣が開き、青い波が地面を走る。
光の泡が次々に弾け、久美子たちの体を包んだ。
まるで海そのものが味方についたように、周囲の空気が変わる。
胸の奥に、冷たく澄んだ息が流れ込んだ。
これなら、海の中でも呼吸できる。
続いて、優が杖を構えた。
「水中でも動けるようにします」
銀色の波紋が優の足元から広がり、全員の体の周りに細い水流を作った。
腕を動かすと、水の重さが少しだけ軽くなる。
「完全に地上と同じにはならないけど、動きは補助できるはずです」
誠司は端末を確認した。
「補助魔法、全員安定しています」
大地が盾を構える。
「じゃあ、行くか」
全員が海へ入った。
水の冷たさが体を包む。
けれど、息はできた。
足は重い。
それでも、優の補助魔法が体の周りの流れを整えてくれている。
海の底へ進むほど、光は弱くなっていった。
やがて、青暗い海底に沈没船が見えた。
裂けた帆。
傾いた船体。
割れた窓。
船腹に開いた大きな穴。
その奥で、白い影が揺れていた。
【沈没船区域に到達しました】
【敵性反応あり】
船の影から、鋭いとげを持つ魚の群れが飛び出した。
とげの先から、紫色の煙のようなものが広がる。
「毒です!」
かすみが叫んだ。
大地が盾を前に出す。
だが、一匹が横へ回り込み、大地の腕をかすめた。
端末が赤く点滅する。
【大地:毒状態】
「かすっただけだぞ!」
「動かないで!」
かすみが杖を振ると、緑の魔法陣が大地の腕に重なった。
紫の筋が光に吸い上げられ、水の中で砕ける。
【毒状態を解除しました】
「助かった!」
「まだ来る!」
早希が水を蹴った。
地上のようには踏み込めない。
だから、早希は流れに逆らわず、剣を突き出した。
大地が盾で魚の進路を塞ぎ、久美子が横から短槍を突き出す。
優が杖を振った。
「動きを鈍らせます!」
魚の周りの水が重く沈み、群れの動きが一気に遅くなった。
誠司が杖を構える。
「離れてください。電気を通します」
青白い稲妻が、水中に網のように走った。
毒棘魚の群れが痙攣し、次々に沈んでいく。
【毒棘魚を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【金貨を獲得しました】
【ドロップアイテム:毒棘魚のとげ】
「水の中だと、電気が広がるんだね」
久美子が言うと、誠司はうなずいた。
「強いですが、味方も巻き込みます。使う時は位置を確認します」
「次、来るよ」
早希が沈没船を見た。
船腹の穴から、骸骨兵が現れた。
錆びた剣を持つ骸骨。
丸い盾を構えた骸骨。
その後ろには、杖を持った亡霊が浮いている。
「魔法タイプもいる!」
亡霊の杖から、黒い水泡が放たれた。
触れた場所の水が濁り、視界が歪む。
大地が骸骨兵の剣を盾で受ける。
水中で剣と盾がぶつかり、重い振動が広がった。
「地上より受けづらい!」
「押し返さなくていい! 止めて!」
早希が横へ回り、骸骨兵の腕を斬った。
久美子は盾の陰から短槍を伸ばし、骸骨の膝を突く。
骨が砕け、姿勢が崩れる。
そこへ早希の剣が入った。
【骸骨兵を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【金貨を獲得しました】
【ドロップアイテム:錆びた剣の破片】
後方の魔法亡霊が、もう一度黒い水泡を作る。
優が杖を振った。
「水流を止めます!」
亡霊の周囲に渦が巻き、動きが鈍った。
誠司が続く。
「凍らせます」
白銀の魔法陣が水中に開き、氷の枝が亡霊の周りに伸びる。
水の中に、氷の花が咲いたようだった。
亡霊の動きが止まる。
「今!」
早希と久美子が同時に前へ出た。
早希の剣が亡霊の杖を弾き、久美子の短槍が中心を貫く。
亡霊の体が揺らいだ。
かすみが杖を向ける。
「少し、もらうよ」
赤い糸のような光が、かすみの杖から伸びた。
亡霊のHP表示が減り、その力がかすみを通って大地へ流れる。
大地の腕に残っていた痛みが引いていった。
【魔法亡霊のHPを吸収しました】
【大地のHPが回復しました】
「回復までできるのか」
「少しだけ。亡霊系なら、うまく流せるみたい」
魔法亡霊は崩れ、黒い水泡も消えた。
【魔法亡霊を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【金貨を獲得しました】
【ドロップアイテム:濁った魔石】
沈没船の中へ進む。
壊れた階段。
割れた食器。
海藻に絡まった木箱。
そこだけ、時間が止まったようだった。
船室の隅に、小さな宝箱があった。
「大地、開けて」
早希が言うと、大地は慎重に近づいた。
「罠じゃないよな?」
「分からない。だから慎重に」
大地が宝箱を開ける。
中は空だった。
「……何も入ってない」
久美子がのぞき込む。
「はずれ?」
優も端末を見る。
「宝箱に、はずれもあるんですね」
大地は少し肩を落とした。
「期待したのに」
早希は短く息を吐いた。
「全部が当たりとは限らないってことだね。次」
さらに進むと、別の宝箱があった。
今度は、箱の周りに半透明の腕がいくつも絡みついている。
【宝箱に敵性反応あり】
宝守りの亡霊だった。
顔は見えない。
ただ無数の手だけが、宝箱を守るように蠢いていた。
「気持ち悪い……!」
久美子が短槍を握り直す。
優が杖を振った。
「動きを鈍らせます!」
水が重くなり、亡霊の腕の動きが鈍る。
大地が盾で腕を受け止め、久美子が絡みつく手を払う。
早希が中心へ斬り込む。
かすみは後方から赤い糸の魔法を伸ばし、亡霊のHPを吸い取った。
吸い取った力が、前衛へ流れていく。
「これなら押せる!」
早希の剣が、亡霊の中心を切り裂いた。
腕がほどけ、海の泡のように消える。
【宝守りの亡霊を討伐しました】
【経験値を獲得しました】
【金貨を獲得しました】
【宝箱の封印が解除されました】
宝箱が開いた。
中には金貨と小さな宝石、古びた本の切れ端、そして細い鍵が入っていた。
【魔法書の断片を獲得しました】
【水中活動補助魔法Ⅱの一部】
【宝物庫の鍵・一を獲得しました】
「鍵?」
久美子が宝箱の中を見た。
誠司が端末を確認する。
「大宝箱を開けるための鍵の一つみたいです」
「一ってことは、他にもあるんだね」
早希は沈没船の奥を見た。
「宝箱を見つけたら確認しないと」
その時、船の奥から重い音が響いた。
ぎい、と古い扉が開く。
船長室。
そこから赤黒い光が漏れ出した。
端末が激しく震える。
【強敵反応】
【特別敵接近】
【海賊の亡霊】
水の中に、錆びた剣を引きずる音が響いた。
壊れた扉の向こうから、海賊帽をかぶった亡霊が現れる。
片手には剣。
もう片方の手には、古い鍵。
その目は、沈んだ船の奥でまだ燃えていた。
「この船の宝に、手を出すな」
声が、水の中を震わせた。
早希が剣を構える。
大地が盾を前に出す。
かすみが杖を握り直し、優と誠司が後方に下がる。
久美子は短槍を構え、息を整えた。
海賊の亡霊が剣を持ち上げる。
沈没船の本当の戦いが、始まろうとしていた。
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