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第2話 初期小部屋と最初の選択

今回は、最初に与えられた小部屋、支給品、生活スキルの詳細、そして六人それぞれの最初の選択が少しずつ見えてきます。

まだ同じ場所にいる六人ですが、考え方の違いが少しずつ形になりはじめる回です。

 案内表示の光を追って歩くと、木造の小さな建物が六つ並んでいた。


 どれも同じ形だった。

 低い屋根、狭い玄関、細い窓。

 畑の手前にぽつぽつと建っていて、宿舎というより、開拓地に急ごしらえで作られた簡易住宅のように見える。


『初期小部屋が割り当てられました』


 端末にそう表示される。


 かすみは自分の部屋の扉をそっと開けた。


 中は思っていたよりも簡素だった。


 小さなベッドが一つ。

 机と椅子。

 浅い棚。

 簡易な流し。

 壁際には木箱が置かれ、その上に白いカードが一枚乗っている。


『初期支給品』


 かすみはしゃがみ込み、箱の中をのぞいた。


 保存パンのようなものが三つ。

 透明な水袋が三つ。

 小さな布。

 石鹸らしい塊。

 それから、種がいくつか。


「種……」


 小袋を手に取る。

 そこには小さく名前が書かれていた。


 早育ち芋。

 小麦草。

 薬草苗。


 見るからにゲームっぽい。

 けれど土の匂いはちゃんと本物だった。


 外からレイナの声が聞こえた。


「狭っ」


 かすみが外へ出ると、久美子と誠司もそれぞれの部屋から出てきていた。

 優は少し遅れて、眠たそうな顔でのそのそと歩いてくる。

 翔はすでに壁にもたれて立っていた。


 レイナは自分の部屋の前で、露骨に不機嫌そうな顔をしていた。


「こんなの、ほとんど物置じゃない」


「最初の部屋なんだから、そんなものでしょ」


 久美子が言う。

 そう言いながらも、その声には不安が混じっていた。


 誠司は手にしたカードを見ながら言った。


「三日分の支給品があるって書いてある。水、簡易食、生活用品、あと栽培用の種」


「種ってことは、自分で増やせってこと?」


 優がぼんやり聞く。


「そういうことじゃない?」


 かすみが答える。


 優は少し考えてから、


「まあ、なくなったら何か育てて食べればいいか」


 と、本気とも冗談ともつかない口調で言った。


 レイナが振り返る。


「そんな簡単に言う?」


「腹減ったら困るし」


「そういう問題じゃないんだけど」


 誠司が間に入るように言った。


「とにかく、三日は最低限どうにかなる。その間に稼ぎ方と仕組みを覚えるしかないな」


 その時、六人の端末が同時に光った。


『生活スキルの詳細を開放します』


 空気が少し変わる。


 かすみは端末を開いた。


『生活スキル:3 / Lv.36』


 その下に、新しい項目が枝分かれで表示される。


『詳細』


栽培

調理

錬金

釣り

木工

裁縫

採取

細工


 さらに、それぞれの数字も並んでいた。


『調理:3 / Lv.34』

『栽培:3 / Lv.31』

『採取:2 / Lv.26』

『錬金:2 / Lv.24』

『裁縫:1 / Lv.12』

『細工:1 / Lv.11』

『木工:1 / Lv.9』

『釣り:1 / Lv.8』


「細かい……」


 かすみが思わず呟くと、久美子も自分の画面を開いた。


『生活スキル:2 / Lv.22』


『裁縫:3 / Lv.30』

『細工:2 / Lv.20』

『調理:1 / Lv.13』

『採取:1 / Lv.10』

『栽培:1 / Lv.9』

『木工:1 / Lv.8』

『錬金:1 / Lv.6』

『釣り:1 / Lv.4』


「私、裁縫が少し高い……」


 久美子の声は、少しだけほっとしていた。


「家でちょっとやってたからかな」


「向いてるってことかも」


 かすみが言うと、久美子は小さく頷いた。


 誠司も自分の端末を見ていた。


『生活スキル:2 / Lv.17』


『木工:2 / Lv.17』

『採取:2 / Lv.16』

『細工:1 / Lv.10』

『調理:1 / Lv.10』

『栽培:1 / Lv.9』

『釣り:1 / Lv.8』

『錬金:1 / Lv.7』

『裁縫:1 / Lv.6』


「俺は採取と木工か」


 少し考えてから、誠司は続ける。


「開拓地なら悪くないかもな」


 優も端末を開く。


『生活スキル:2 / Lv.15』


『釣り:2 / Lv.18』

『栽培:2 / Lv.14』

『採取:1 / Lv.12』

『調理:1 / Lv.10』

『木工:1 / Lv.7』

『細工:1 / Lv.5』

『裁縫:1 / Lv.4』

『錬金:1 / Lv.4』


「俺、釣り高い」


「なんで?」


 久美子が聞くと、優は首を傾げた。


「前に親に連れてかれてやったことあるからじゃない」


 そう言ってから、どうでもよさそうに続ける。


「魚釣れたら食えるし、これでいいや」


 レイナは不満そうに画面を見ていた。


『生活スキル:1 / Lv.8』


『裁縫:1 / Lv.10』

『細工:1 / Lv.9』

『調理:1 / Lv.8』

『採取:1 / Lv.5』

『錬金:1 / Lv.6』

『栽培:1 / Lv.4』

『釣り:1 / Lv.3』

『木工:1 / Lv.2』


「……微妙」


「生活スキルなんて、そんなにいらなくない?」


 翔が自分の画面から目を上げずに言う。


『生活スキル:1 / Lv.9』


『細工:2 / Lv.14』

『採取:1 / Lv.10』

『錬金:1 / Lv.8』

『調理:1 / Lv.7』

『木工:1 / Lv.6』

『裁縫:1 / Lv.5』

『栽培:1 / Lv.4』

『釣り:1 / Lv.3』


「生きていくには必要でしょ」


 かすみが言うと、翔は少しだけ笑った。


「最低限あればいいよ。ずっとここで畑やる気?」


 その言い方に、レイナの顔がわずかに動く。


「私も嫌なんだけど」


 その一言で、空気が少し張った。


 誠司が先に言う。


「嫌でも最初はここで稼ぐしかないだろ。五百しかないんだし」


「その五百が少なすぎるのよ」


 レイナは端末を閉じた。


 かすみも自分の端末を見た。


『所持金:500』


 ゼロではない。

 でも、この世界で何がどれだけ必要なのかわからない今、その数字は頼りなく見えた。


 久美子が小さく言う。


「でも、やっぱり少ないよね」


「でしょ」


 レイナはすぐに端末を操作した。


「こういう時は、別の方法もあるじゃない」


 表示された画面を、みんなに向ける。


『簡易売却一覧』


『右頬のホクロ:30』

『皮下脂肪100g:20』

『ムダ毛1本:1』


 久美子は思わず息を止めた。


 レイナの軽い声を聞いた時、久美子の頭に浮かんだのは別の記憶だった。

 昔、男子に腕の産毛が濃いと言われたことがある。

 たった一言だったのに、その日から半袖になるたび少しだけ気になった。

 腕の産毛なら、売りたいかもしれない。

 そんなことを、一瞬だけ思った。


 レイナは画面を見たまま言う。


「私、ほとんど永久脱毛してるけどさー……残りのムダ毛もこの際売っちゃおうかな」


 軽い口調だった。


「顔とか頭以外の毛、別にいらないし。お金になるならその方が得じゃない?」


 久美子が顔を上げる。


「そんな軽く言わないでよ」


「軽くないでしょ。現実的な話」


 レイナは肩をすくめた。


「五百しかないのに、のんびり畑とかやってられないし」


 誠司が低く言う。


「売るのが早いのはわかる。でも、だからって最初から身体を削るのは違うだろ」


「削るってほど大げさ?」


「ムダ毛だって身体の一部だろ」


 レイナの声が少し冷たくなる。


「どうせいらないものでしょ」


 優が端末をのぞき込みながら言う。


「一本一って、地味だな」


「積もればそれなりになるでしょ」


 レイナはそう言って、少し笑った。

 その笑い方が、かすみには妙に冷たく見えた。


 翔は壁にもたれたまま口を開く。


「まあ、考え方としては間違ってないかもな」


「翔まで」


 久美子が見ると、翔は端末の別画面を開いていた。


『資産コース』

『短期間で大きな利益を得たい方へおすすめです』


「五百をちまちま使うより、元手を増やした方が早い」


「それも危ない気がするけど」


 かすみが言う。


 翔は少しだけ笑った。


「地道にやっても、上に行くのに時間かかるだろ」


 その言葉に、レイナの目が動く。

 久美子もまた、何も言えずに端末を見つめた。


 ホクロ。

 脂肪。

 ムダ毛。


 どれも、大切なものとは思えない。

 だけど、やっぱり怖い。

 こういう小さなところから、感覚がずれていくのかもしれないと思った。


 かすみは静かに言う。


「私は売らない」


 レイナが顔を向ける。


「今はそう言ってるだけでしょ?」


「今は、それでいいよ」


 かすみは端末を握ったまま答えた。


「食べるものがなくなるなら育てるし、足りないなら少しずつ稼ぐ」


 誠司も頷く。


「俺もそうする」


 優は眠たそうに目をこすったあと、のんびり言った。


「俺もまあ、最初は釣るか育てるかでいいや。毛売るのはなんかめんどいし」


 その言い方に、久美子は少しだけ笑いそうになった。

 でも、すぐには笑えなかった。


 レイナは端末を閉じる。


「私は、考えとく」


 保留の言い方だった。

 けれど、もう半分くらい答えは決まっているようにも見えた。


 その時、かすみの端末が小さく光った。


『人間性が上昇しました』


「え……?」


 思わず声が漏れる。


『他者を思いやる行動、協力的な選択は、人間性に影響します』


 その表示を見て、誠司も自分の端末を確かめる。


「俺のも出た」


 優がそれを見て言う。


「なにそれ、いい人ポイントみたいなやつ?」


「そういう言い方やめて」


 久美子が言った。

 でもその声には、少しだけ笑いが混じっていた。


 狭い小部屋。

 少ない支給品。

 頼りない所持金。


 それでも、この時点ではまだ六人が同じ場所にいた。


 同じ夕暮れを見て、同じ風を受けて、同じ不安の中に立っていた。


 けれど端末の中では、もう少しずつ道が分かれはじめていた。


 畑を耕す道。

 魚を釣る道。

 服を縫う道。

 上へ行く道。

 美しさを磨く道。

 金を増やす道。


 そして、その先に何があるのかを、まだ誰も知らなかった。

読んでくださりありがとうございます。


生活スキルの詳細と、最初の「売る・売らない」の感覚が少し見え始めました。

ここから少しずつ、六人の考え方の差がもっとはっきりしていきます。


次は、最初の仕事や金貨の稼ぎ方に入っていく流れが自然かなと思っています。

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