表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
110/112

第110話 守り人の船

湖牙魚の試練を越えた誠司たちは、湖門の奥で誰も乗っていない船を発見します。


風もない霧の中で鳴り続ける鐘と、船の下を通る大きな影。


守り人が残した手がかりを探します。

守り人の船の下を、大きな影が通り過ぎた。


船が一度だけ大きく傾く。


リン――。


船の中央に吊るされた導きの鐘が、強く鳴った。


誠司たちは櫂を止め、誰も乗っていない船を見守った。


白い霧の中で、三隻の船だけが静かな水面に浮かんでいる。


「船の下に、まだ何かいる」


レイナが銃を構えた。


水面には、大きな波紋が残っていた。


しかし、先ほどの影は霧の奥へ消え、すぐには戻ってこない。


湖の妖精が守り人の船へ飛んでいく。


「この船で間違いない。守り人がいつも使っていた船」


「守り人の姿は見当たりませんね」


煌成が船の中を確認した。


守り人の船は、誠司たちが乗っている木製の船よりも細長かった。


船首には、銀色の魚と三日月を組み合わせた飾りがついている。


中央には導きの鐘。


船尾には、道具を入れるための箱と、丸められたロープが積まれていた。


「船だけ残して、どこかへ移動したのかもしれない」


優が言った。


「近づいて調べましょう。ただし、全員で乗り移るのは危険です」


煌成は三隻の位置を確認した。


守り人の船の下には、先ほどの大きな影が戻ってくる可能性がある。


船へ一度に乗れば、再び傾いた時に全員が湖へ落ちるかもしれない。


「翔さんと早希さんが、船の中を確認してください」


「分かりました」


翔が答えた。


「私も行く」


早希は短剣を鞘へ収め、立ち上がった。


大地と久美子が一隻目を守り人の船へ寄せる。


二隻目も反対側へ近づき、三隻が離れすぎないように並んだ。


久美子は新しいロープを端末ポケットから取り出した。


湖牙魚に傷つけられたロープを使い続けるのは危険だった。


「まず、こちらを交換します」


久美子は二隻をつないでいた古いロープを外し、新しいロープへ取り替えた。


さらに、守り人の船ともロープでつなぐ。


三隻は一定の間隔を保ったまま、水面に並んだ。


翔が先に守り人の船へ移る。


船の縁に手をかけ、静かに足を下ろした。


大きく揺れないことを確認してから、早希も船へ移った。


翔は盾を持ったまま、船尾へ進む。


早希は船首から中央の鐘までを調べた。


「誰もいない」


船の床には、水が薄くたまっていた。


濡れたロープ。


倒れた木製の椅子。


片方だけ残された櫂。


それ以外に、人が乗っていた形跡はほとんどなかった。


早希が導きの鐘を見上げる。


鐘は小さく揺れていた。


しかし、鐘につながるひもは動いていない。


「ひもを引いていないのに鳴ってる」


「船が傾いた時の揺れで鳴ったのではないか?」


翔が言った。


二人が見ている間にも、鐘がわずかに動いた。


リン……。


船は揺れていない。


風も吹いていなかった。


湖の妖精が鐘の近くへ飛んできた。


「この鐘には、湖の奥から流れてくる力が集まるの。守り人がいなくても、湖の道が開いた時や、何かが近づいた時に鳴ることがある」


「では、さっきから鳴っていたのは、何かが船の近くにいたからですか?」


かすみが二隻目から尋ねた。


「たぶん、船の下にいるものに反応している」


その時だった。


チャプン……。


守り人の船の左側で、水が小さく盛り上がった。


続いて、長いひげのようなものが水面から現れる。


水面が左右へ分かれ、大きな頭がゆっくりと浮かび上がった。


濃い灰色の身体。


横に広い口。


頭の両側から伸びる、何本もの長いひげ。


守り人の船と変わらないほど大きなナマズだった。


「大きい……」


早希が短剣へ手を伸ばす。


湖の妖精がすぐに声を上げた。


「待って。大湖ナマズよ」


巨大なナマズは攻撃してこなかった。


守り人の船の横へ頭を寄せ、何かを探すように船の周囲を泳いでいる。


「湖の生き物なの?」


久美子が尋ねた。


「うん。昔からこの湖にいるの。守り人の船について泳ぐこともあった」


大湖ナマズが身体の向きを変える。


その時、右側の長いひげに銀色の鎖が巻きついているのが見えた。


鎖の先は水中へ沈み、何か重いものにつながっていた。


大湖ナマズが動くたび、鎖がひげへ食い込んでいる。


ザバッ!


ナマズが身体を振った。


守り人の船が押され、三隻をつないだロープが強く張る。


「暴れているのではなく、鎖を外そうとしているみたいです」


久美子が言った。


「このままでは、ひげを傷つけてしまいます」


かすみも鎖の状態を確認した。


大湖ナマズは再び水中へ潜ろうとした。


鎖が引かれ、途中で動きが止まる。


水中につながっているものが、ナマズを引き留めていた。


「鎖の先に何があるか確認する必要があります」


煌成が言った。


「誠司さん。水の中を持ち上げられますか?」


「やってみます」


誠司が杖を構えた。


大湖ナマズの近くで、水がゆっくりと回り始める。


誠司はナマズそのものを動かさず、鎖の周囲だけに水の流れを作った。


水中へ沈んでいた鎖が、少しずつ持ち上がる。


鎖の先に、丸い金属の板が見えた。


さらに、その下には石の塊が絡んでいる。


「沈んだ石に鎖が引っかかっているようですね」


優が言った。


「鎖を切れば早いんじゃないか?」


大地が斧を見た。


「この鎖が、守り人の道具である可能性があります」


煌成が答えた。


「切るのは最後にしましょう」


久美子が端末ポケットから金具を外すための道具を取り出した。


「鎖のつなぎ目を外せるかもしれません」


しかし、鎖は船から少し離れた水面にある。


手を伸ばしても届かない。


「私が行く」


早希が言った。


「船の外へ出るのは危険だ」


翔が止める。


「水の上に足場を作ってもらえば大丈夫」


早希は誠司とかすみを見た。


誠司が湖面へ杖を向ける。


水が持ち上がり、船の横に低い水の足場を作った。


その上を、かすみの白い氷が薄く覆っていく。


湖全体を凍らせず、人が一人乗れる程度の小さな足場だった。


翔がロープを用意し、早希の腰へ結ぶ。


「危なくなったら、すぐに船へ戻れ」


「分かってる」


早希は氷の足場へ移った。


大湖ナマズは早希の動きを見ていたが、襲ってくる様子はない。


誠司は水の流れを一定に保ち、鎖を水面近くへ持ち上げた。


優も魔法で金属板を支える。


早希が久美子から受け取った道具を使い、鎖のつなぎ目を調べた。


古い留め具には、水草と小さな貝がいくつもついている。


「固まってる」


「少しずつ外してください」


久美子が船から言った。


早希は水草と貝を道具で取り除いた。


金属の留め具が現れる。


留め具の隙間へ細い道具を入れ、力を加えた。


カチッ。


古い留め具が開いた。


鎖の一部が外れ、水中の石から離れる。


大湖ナマズのひげに巻きついていた鎖も緩んだ。


「まだひげに残ってる!」


早希が鎖を持ち上げた。


大湖ナマズは動かず、水面に頭を出したまま待っている。


早希が鎖を少しずつ広げ、長いひげから外していく。


最後の輪が抜けた。


ジャラッ。


銀色の鎖が氷の足場へ落ちた。


大湖ナマズは湖の中へ潜り、船から少し離れた。


大きな尾が水面を叩く。


バシャアッ!


三隻の船へ波が届いた。


翔と大地が船を支え、傾かないようにする。


大湖ナマズは湖の中を一周すると、再び守り人の船の近くへ戻ってきた。


先ほどまでよりも静かに泳いでいる。


「外してほしかったみたいね」


レイナが銃を下ろした。


湖の妖精は大湖ナマズの前へ飛んでいった。


「守り人を知っているなら、どこへ行ったのか教えて」


大湖ナマズは答えなかった。


代わりに、守り人の船の船尾へ頭を向けた。


船尾には、翔がまだ調べていない道具箱がある。


ナマズは鼻先で船の側面を軽く押した。


コツン。


「この箱を見ろってことかな?」


早希は氷の足場から船へ戻った。


翔と二人で道具箱を確認する。


箱には、船首と同じ魚と三日月の模様が彫られていた。


中央には、小さな鍵穴がある。


しかし、船の中を探しても鍵は見つからなかった。


優が、早希の外した鎖を見る。


「鎖の先についていた金属板は?」


早希が氷の足場に残っていた鎖を引き上げる。


鎖の端には、丸い銀色の板がついていた。


表には魚と三日月の模様。


裏には、細長い突起がある。


「これ、鍵じゃない?」


早希が金属板を箱の鍵穴へ合わせた。


細長い突起が、鍵穴へ入る。


カチッ。


箱の中で鍵が外れる音がした。


早希がふたを開けた。


中に入っていたのは、油を塗った布に包まれた一枚の板だった。


翔が布を開く。


青色の石で作られた、薄い記録板が現れた。


端末が反応する。


【湖の守り人の航路記録を発見しました】


【端末で内容を確認できます】


煌成が端末を開き、記録板を読み取った。


画面に、湖の地図が表示される。


湖門。


霧の小島。


守り人の船が停まっている場所。


その先には、深い青色で描かれた区域があった。


【月映りの入り江】


さらに、入り江の中央から湖底へ続く線が描かれている。


【湖底の祠】


早希が画面を見る。


「湖の下に祠があるの?」


湖の妖精は表示された地図を確認した。


「湖底の祠……。守り人だけが入れる場所だと聞いていた」


記録板には、短い文章も残されていた。


【霧の異変を確認】


【湖の生き物が、導きの音に従わなくなっている】


【原因を調べるため、湖底の祠へ向かう】


【導きの鐘は船に残す】


【帰らない場合は、二つの湖の鈴をそろえ、月映りの入り江へ】


その先の文章は、水が入り込んだように薄くなっていた。


「守り人は、船をここに残して湖底へ向かったのですね」


かすみが言った。


「でも、どうやって湖の底へ?」


久美子が尋ねた。


湖の妖精は地図に描かれた月映りの入り江を見た。


「月映りの入り江には、湖底へ下りる古い階段があるって聞いたことがある。でも、入口はいつも見えるわけじゃないの」


「満月の夜にだけ現れるのか?」


大地が地図の月の印を指した。


「たぶん。湖に満月が映ると、入口の場所が分かるの」


優が端末で時刻と月の状態を確認した。


【本日の日没まで、あと二時間】


【今夜:満月】


「ちょうど今夜が満月だ」


優が言った。


端末のクエスト表示が更新された。


【湖の守り人の航路記録を入手しました】


【守り人は湖底の祠へ向かった可能性があります】


【満月の夜、月映りの入り江を調査してください】


【水中探索用品を準備してください】


大地が端末ポケットを確認した。


「水中呼吸薬は、数本しか買っていないぞ」


「全員分が必要になるかは、入口を確認してから判断しましょう」


煌成が答えた。


「ただし、夜の湖へ入る前に準備を整える必要があります」


レイナは霧の向こうを見た。


「湖の奥で買えば、価格も高くなるわ」


「一度、船着き場へ戻りましょう」


翔が言った。


湖の妖精も同意した。


「満月が昇るまで、まだ時間がある。湖の鈴が二つあれば、帰り道も開けると思う」


早希と湖の妖精が、銀色の鈴を同時に鳴らした。


リン……。


リン……。


二つの音が重なる。


守り人の船の前に広がっていた霧の中へ、淡い光の道が現れた。


大湖ナマズは守り人の船の周囲を一度回った。


その後、月映りの入り江がある方向へ向かって泳ぎ始める。


少し進むと振り返り、誠司たちの船を待っていた。


「案内してくれるみたい」


早希が言った。


「まずは船着き場へ戻り、夜の探索に備えましょう」


煌成の言葉を受け、誠司たちは守り人の船もロープでつないだ。


三隻の船が、霧の中に現れた光の道を進んでいく。


大湖ナマズはその少し前を、静かに泳いでいた。


湖門を抜け、霧の小島を通り過ぎる。


青白く光る湖明かりの花が、帰り道を照らしていた。


やがて、白い霧の向こうに船着き場の桟橋が見えてくる。


管理人と水辺の妖精たちが、桟橋から三隻の船を見ていた。


「守り人の船だ……」


管理人が桟橋の先まで走ってくる。


誠司たちは船を岸へ寄せた。


空は少しずつ夕方の色へ変わり始めている。


森の向こうでは、湖畔の宿の明かりが一つずつ灯っていた。


宿へ続く道の脇には、青や紫に光る小さなきのこが並んでいる。


湖の妖精は、暮れ始めた空を見上げた。


「もうすぐ満月が昇る」


静かになった湖面の向こうで、大湖ナマズの長いひげが一度だけ水面に現れた。


誠司たちは夜の湖底探索に備え、湖畔の宿へ向かうことにした。


守り人の船の下にいたのは、銀色の鎖に捕まっていた大湖ナマズでした。


船に残された航路記録から、湖の守り人が湖底の祠へ向かったことが分かります。


今夜の満月を待ち、誠司たちは月映りの入り江を調査します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ