第106話 山の湖へ
山奥の滝の異変を解決した誠司たち。
猫耳族の村で装備を整え、次の目的地を決めることにしました。
猫耳族の村に水が戻った翌朝。
村の水路には、勢いのある水が流れていた。
水車は一定の速さで回り、畑へ続く細い水路にも水が行き渡っている。
誠司たちは村の広場に集まり、端末に表示された三つの目的地を確認していた。
【山の湖】
【深い洞窟】
【古い城】
「昨日、滝の内部水路を進んだばかりですから、次も洞窟だと少し似た道が続きますね」
煌成が地図を見ながら言った。
レイナは古い城の表示を確認する。
「古い城は、準備をしてから行った方がよさそうね。地図にも危険区域って出てるわ」
【古い城】の横には、赤い注意表示がついていた。
【夜間危険度上昇】
【吸血性魔物の報告あり】
【上級装備推奨】
大地が画面を見た。
「吸血性魔物って、かなり嫌な感じだな」
「古い城は後にしましょう」
かすみが言った。
「回復薬だけでなく、出血や吸血への対策も必要になると思います」
優もうなずく。
「今の装備で無理に行く場所ではなさそうだ」
残ったのは、山の湖だった。
【山の湖】
【推奨難度:中】
【水上移動あり】
【釣り・採取・探索クエストあり】
早希が表示を見る。
「水上移動って、船に乗るのかな?」
「湖なら、これまでとは違う景色になりそうですね」
久美子が答えた。
翔は地図上の道を確認した。
「猫耳族の村からも近い。今日は湖へ向かうのがよさそうだな」
煌成が全員を見た。
「では、次の目的地は山の湖にしましょう」
全員が同意すると、端末の表示が切り替わった。
【次の目的地を決定しました】
【山の湖へ向かってください】
同時に、滝のクエスト達成報酬が反映された。
【端末ポケットの収納上限が拡張されました】
【装備枠:三枠追加】
【薬品枠:二枠追加】
【素材枠:五枠追加】
「やっと持てる量が増えた」
早希が端末を確認する。
「手裏剣と短剣の予備を別の枠に入れられる」
レイナも銃弾の残数を確認していた。
「光弾と通常弾を追加しておくわ。ここなら通常価格で買えるものね」
猫耳族の村は安全な拠点として扱われていた。
山道や戦闘中に購入すれば、一・五倍から三倍になる品も、ここでは通常価格で買える。
翔は回復薬と予備の盾用部品を補充した。
久美子は防具の留め具や革ひも、修理用の小さな金具を端末ポケットへ入れる。
大地は斧の刃を整える道具と、攻撃力を一時的に上げる薬を購入した。
かすみと煌成は、回復薬や毒消し、状態異常に使う薬を分けて持つ。
優も魔法用の道具と予備の薬品を確認していた。
「湖なら、水辺の敵が出るかもしれない」
優が言う。
「水に落ちた時の装備も必要だな」
煌成が購入画面を開いた。
【水上探索用品】
【救命胴衣】
【防水袋】
【滑り止め付き水上靴】
【防水ランタン】
【水中呼吸薬】
【簡易浮き輪】
「水中呼吸薬まであるのか」
大地が表示を見る。
「湖の中へ入る必要があるかもしれません」
煌成は必要な数を確認した。
「ただし、今の段階で全員分を買うと高くつきます。まずは救命胴衣と防水袋を用意しましょう。水中へ入る必要が分かってから、追加購入します」
「湖の奥で買ったら高くなるんじゃない?」
早希が聞く。
「その可能性はあります」
レイナが答えた。
「でも、使うか分からないものを全員分買うのも無駄ね」
話し合った結果、水中呼吸薬は数本だけ購入し、必要になった時に前へ出る者が使うことにした。
準備を終えると、猫耳族の村長が見送りに来た。
「山の湖へ向かわれるのですね」
「はい。古い城へ行く前に、湖を調べることにしました」
煌成が答える。
村長は少し考えてから言った。
「湖へ続く道は、滝の道ほど険しくありません。ただ、最近は湖面に霧が出ることが増えたと聞いています」
「霧ですか?」
久美子が聞き返す。
「はい。晴れている日でも、湖の中央だけ霧に包まれることがあるそうです」
優が地図を見る。
「黒氷の影響とは別の異変かもしれないな」
「湖へ着いたら、まず周囲の様子を確認しましょう」
煌成が言った。
誠司たちは村長に礼を言い、猫耳族の村を出発した。
山の湖へ続く道は、水路に沿って緩やかに上っていた。
滝の水が戻ったことで、道の脇には小さな流れができている。
以前なら乾いていたと思われる土にも、水が染み込んでいた。
しばらく歩くと、森の木々が少しずつ低くなった。
風の向こうから、水辺の匂いが届く。
「湖が近いみたい」
早希が前方を見る。
木々の間に、青い水面が見え始めた。
森を抜けると、広い湖が目の前に現れた。
山々に囲まれた、静かな湖だった。
湖面は空の色を映し、岸辺には白い小石が並んでいる。
木製の桟橋と、小さな船着き場もあった。
「綺麗なところですね」
かすみが湖を見渡した。
大地は湖の大きさに驚いたように言う。
「山の中に、こんな広い湖があるのか」
船着き場の近くには、小さな管理小屋が建っていた。
その前に、釣り竿を持った猫耳族の男性と、羽のある水辺の妖精が立っている。
水辺の妖精は花の妖精とは違い、青や緑の薄い羽を持っていた。
「猫耳族の村から来た冒険者のみなさんですね」
管理人らしい男性が声をかける。
「滝の水を戻してくださったと聞きました。本当にありがとうございます」
「湖にも水が流れ込んでいるんですか?」
誠司が尋ねた。
「はい。水位は少しずつ戻っています。ただ……別の困りごとがありまして」
管理人は湖の中央を見た。
晴れた空の下、湖の中央だけが白い霧に包まれていた。
霧は風が吹いても動かず、同じ場所にとどまっている。
端末が反応した。
【山の湖へ到着しました】
【湖上に異常な霧を確認】
【調査クエストが発生しました】
【霧の原因を調べてください】
早希が湖面を見る。
「村長が言ってた霧って、あれだよね」
「普通の霧ではなさそうですね」
煌成が端末の反応を確認する。
水辺の妖精が誠司たちの近くまで飛んできた。
「霧が出るようになってから、湖の魚たちが中央へ近づかなくなったの」
「何かいるの?」
久美子が尋ねる。
水辺の妖精は首を横に振った。
「分からないの。でも、霧の中から時々、鈴みたいな音が聞こえるの」
その時だった。
湖の中央から、かすかな音が届いた。
リン……。
風鈴にも、小さな鐘にも聞こえる音だった。
一度だけ響き、すぐに静かになる。
レイナが銃を取り出す。
「霧の中へ行かないと、何も分からなさそうね」
管理人は桟橋につながれた船を指さした。
「湖を渡る船はあります。ただ、霧の中では方角が分からなくなります。これまで入った人は、同じ場所を回って戻ってきました」
優は湖面と霧の位置を確認した。
「進路を惑わせる力があるのかもしれない」
煌成が端末を開く。
「まずは岸辺を調べましょう。いきなり船で入るのは危険です」
誠司たちは湖岸に沿って歩き始めた。
白い小石の間には、水草や貝殻が落ちている。
ところどころに、魚が岸近くまで集まっていた。
水辺の妖精が言った通り、霧のある中央には近づいていない。
誠司は湖の水へ杖を向けた。
流れを確かめる。
滝から来た水は湖へ入っている。
水そのものにも、黒氷の気配はなかった。
「水は正常だと思います」
誠司が言った。
「滝の異変とは別ですね」
かすみも水面を確認する。
「黒氷の冷たさも感じません」
岸辺を進んでいた早希が、白い小石の間で何かを見つけた。
「これ、何?」
拾い上げたのは、小さな銀色の鈴だった。
古びているが、細かな模様が彫られている。
端末に表示が出た。
【湖の鈴】
【霧の中から流れ着いたものです】
【所有者不明】
早希が鈴を軽く動かす。
リン……。
湖の中央から聞こえたものと、同じ音がした。
その直後、霧の中から返事をするように音が響く。
リン……。
湖面に波紋が広がった。
霧の奥で、大きな影がゆっくりと動く。
翔が盾を取り出した。
「何かが反応した」
大地も斧を端末から取り出す。
「今度は何が出てくるんだ?」
しかし、影は岸へ近づかず、霧の奥へ消えていった。
水辺の妖精が銀色の鈴を見た。
「それ、湖の守り人が持っていた鈴に似ている」
「湖の守り人?」
優が尋ねる。
「昔、この湖には、船を安全に導く人がいたの。でも、ずっと前に姿を見なくなったって聞いているの」
煌成は鈴と霧を交互に見た。
「この鈴が、霧を抜ける手がかりになるかもしれません」
端末のクエスト表示が更新された。
【湖の鈴を入手しました】
【船で霧の中へ入り、湖の守り人を探してください】
レイナは桟橋の船を見た。
「結局、船に乗ることになるのね」
「準備してから入りましょう」
翔が言った。
「全員分の救命胴衣を用意しておいて正解だったな」
誠司は霧に包まれた湖の中央を見た。
リン……。
また小さな鈴の音が響いた。
今度は先ほどよりも近く聞こえた。
湖の霧の中で、何かが誠司たちを待っている。
誠司たちは船着き場へ戻り、霧の中へ入る準備を始めた。
誠司たちは次の目的地に、山の湖を選びました。
湖の中央には、風でも動かない不思議な霧が広がっています。
岸辺で見つけた銀色の鈴を手がかりに、霧の中にいる湖の守り人を探します。




