第104話 水源の復活
黒氷に侵食された大山椒魚。
誠司たちは水源を守るため、大山椒魚を傷つけずに残り五本の黒氷を取り除こうとします。
黒氷の大山椒魚が大きな口を開いた。
冷たい水と黒い氷が渦を巻きながら集まっていく。
「来ます!」
誠司が声を上げた。
大山椒魚の口から、黒い氷を含んだ水流が放たれる。
翔と久美子が盾を並べた。
水流が盾へ激しくぶつかり、洞窟の中に重い音が響く。
「このままでは押し切られる!」
翔が足を踏ん張る。
誠司は二人の後ろから杖を向けた。
水の魔法を重ね、押し寄せる水流を左右へ分ける。
黒い氷の破片が岩壁へ飛び散った。
「水路へ落とさないでください!」
かすみが杖を振る。
白い氷の壁が水路の両側に生まれ、黒氷の破片を受け止めた。
優がすぐに破片を浮かせ、水の届かない岩場へ移していく。
煌成は大山椒魚の背中を見た。
残る結晶は五本。
尾に近い小さな結晶が二本。
背中の中央に大きな結晶が一本。
首に近い場所に、細長い結晶が二本。
「まず尾の結晶を外します」
煌成が全員へ指示を出した。
「誠司さんは水流で頭を右へ向けてください。翔さんと久美子さんは正面を止める。大地さんと早希さんは尾へ。レイナさんは結晶の根元を狙ってください」
「分かった!」
大山椒魚が再び前へ出る。
翔と久美子が盾で受け止めた。
大きな頭が盾にぶつかり、二人の足元で水が跳ねる。
誠司は横から強い水流を当てた。
大山椒魚の頭が右へ流される。
その隙に、大地と早希が尾の近くへ回り込んだ。
太い尾が大きく動く。
「早希、下がれ!」
大地が斧の柄で尾を受け止めた。
重い衝撃に腕が震える。
「長くは持たないぞ!」
早希は岩の上へ移り、尾に刺さった黒氷を確認した。
「根元が少し浮いてる!」
レイナが銃を構える。
「そこを狙うわ」
光弾が結晶の根元へ当たった。
黒氷の周りに細い亀裂が走る。
「かすみさん!」
煌成の声に、かすみが氷魔法を放った。
白い氷が黒氷の周囲だけを包み、体との境目を広げていく。
誠司が亀裂へ水を流し込んだ。
黒氷が少しずつ押し上げられる。
優が魔法で結晶を包んだ。
「外す」
小さな結晶が尾から抜け、空中へ浮かび上がった。
端末が反応する。
【黒氷の結晶を除去しました】
【残り:四】
尾の動きが少し弱くなった。
大地は斧の柄を持ち直す。
「もう一本もいけるぞ!」
同じ手順で、尾に残った結晶を外していく。
レイナが根元を撃ち、かすみが白い氷で分離する。
誠司が水を入れ、優が結晶を引き抜いた。
【黒氷の結晶を除去しました】
【残り:三】
二本の結晶を失った大山椒魚は、苦しそうに体を震わせた。
しかし、尾を激しく振り回すことはなくなった。
「少し落ち着いてきています」
久美子が盾を構えたまま言った。
「まだ油断できません」
煌成は背中の中央にある大きな結晶を見た。
「次は中央です。ただし、あれは深く入り込んでいます」
黒氷の大山椒魚が水路の奥へ下がった。
背中の結晶が強く光る。
周囲の水が凍り始め、黒い氷が床を広がっていく。
早希が足元を見た。
「このままだと動けなくなる!」
「氷のない岩へ移動してください」
かすみが白い氷を黒氷の前へ伸ばし、広がる方向を変えた。
煌成も岩を隆起させ、全員が立てる足場を作る。
優は大山椒魚の左右へ魔法の壁を作った。
「動ける範囲を狭める」
大山椒魚が壁へ体をぶつける。
洞窟が大きく揺れた。
天井から石が落ちる。
大地と翔が前へ出て、大きな石を水路の外へ押し出した。
「水路は絶対に塞がせるな!」
「分かってる!」
誠司は大山椒魚の周囲へ水を集めた。
体の下を流れる水を片側へ寄せ、バランスを崩していく。
「少し傾きます!」
煌成が岩をせり上げ、大山椒魚の体を下から支えた。
翔と久美子が盾で正面を止める。
大地が横から体を押した。
大山椒魚の背中が、こちらへ向いた。
「中央の結晶が見えた!」
早希が岩場を走り、結晶の根元へ近づく。
「根元が黒い膜みたいなもので覆われてる!」
レイナが照準を合わせる。
「膜だけを撃つわ」
光弾が黒い膜へ当たった。
一発。
二発。
膜に裂け目ができた。
かすみが白い冷気を送り込み、黒氷と体の間を固めて分ける。
誠司は細い水を裂け目へ入れた。
だが、大きな結晶は動かない。
「深すぎます」
かすみが言った。
煌成は結晶の周囲を確認した。
「無理に引けば、本体を傷つけます。根元をもう少し広げましょう」
優が結晶を包み、動かないよう固定する。
レイナが膜の残った部分を撃つ。
早希は短剣で、体から浮いた黒い膜だけを切った。
「今ならどう?」
誠司が水流を強める。
結晶が少しずつ持ち上がった。
大山椒魚が大きな声を響かせる。
翔たちの盾が押された。
「もう少しです!」
久美子は盾を下げずに支え続けた。
大地も体の横を押さえる。
「優、引け!」
優が魔法を強めた。
大きな黒氷の結晶が、ゆっくりと背中から抜けていく。
結晶が完全に外れた瞬間、黒い霧が周囲へ広がった。
「水へ入れないで!」
誠司が風を起こし、黒い霧を水路から遠ざける。
かすみが霧ごと白い氷で封じた。
優は大きな結晶を岩場へ移す。
端末が強く光った。
【黒氷の結晶を除去しました】
【残り:二】
大山椒魚の体から、黒い色が少しずつ薄れていく。
背中の皮膚も、本来の深い茶色へ戻り始めた。
「あと二本です」
誠司は首に近い細長い結晶を見た。
けれど、大山椒魚はもう暴れなかった。
水路の中央で伏せるように体を下ろし、苦しそうに息をしている。
「今なら近づけるかもしれません」
久美子が言った。
煌成は大山椒魚の様子を確認した。
「攻撃は止まっています。残りの結晶が弱っているうちに外しましょう」
翔と大地が左右から警戒する。
早希とレイナが結晶の位置を確認した。
かすみが一本目の周囲を白い氷で包む。
誠司が水を流し、優がゆっくりと引き抜いた。
【黒氷の結晶を除去しました】
【残り:一】
最後の一本は、大山椒魚の首の近くに刺さっていた。
黒い結晶は細いが、周囲の皮膚へ深く入り込んでいる。
「これが一番最初に刺さったものかもしれません」
かすみが言った。
煌成もうなずいた。
「根元が深い。慎重に外します」
レイナは銃を下ろした。
「ここは撃たない方がいいわね」
早希も短剣をしまう。
「傷つけたくないもんね」
かすみが結晶の周囲を白い氷で固める。
誠司は水を細く流し込み、黒氷と体の境目を少しずつ広げた。
優が結晶を包む。
煌成は岩の足場を調整し、大山椒魚の首が動かないよう支えた。
「ゆっくり外してください」
優が魔法を使い、最後の黒氷を引き上げていく。
大山椒魚の体がわずかに震えた。
誠司は水の流れを弱めず、境目を広げ続ける。
やがて、黒い結晶が完全に抜けた。
端末が大きな音を鳴らした。
【すべての黒氷の結晶を除去しました】
【黒氷の侵食が解除されます】
大山椒魚の体を覆っていた黒い氷が、少しずつ消えていく。
水路や岩壁へ広がっていた黒氷も光を失い、白い霧となって消えた。
大山椒魚はしばらく動かなかった。
やがて、ゆっくりと頭を上げる。
先ほどまでの荒々しい気配はない。
大山椒魚は誠司たちを一度見たあと、水路の奥へ向きを変えた。
太い体が岩の間を進んでいく。
その先には、大きな岩で塞がれた源流があった。
大山椒魚は頭と体を使い、岩を押し始めた。
「手伝おう」
大地が前へ出る。
翔と優も続いた。
煌成が岩の周囲の土を動かし、大きな岩を浮かせる。
大地と翔が押し、優が魔法で支えた。
誠司も水の力を岩の隙間へ送り込む。
大山椒魚が最後に強く体を押しつけた。
岩が大きく動く。
次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ――。
岩の奥から、大量の水が流れ出した。
「水が来ます!」
誠司が杖を構え、水の勢いを整える。
澄んだ水が内部水路を満たし、滝の方へ流れていく。
水路に残っていた土や小石も押し流されていった。
端末の表示が次々と変わる。
【源流の閉塞を解除しました】
【水源の力が回復しています】
【滝の回復率:六十五パーセント】
【滝の回復率:八十二パーセント】
【滝の回復率:百パーセント】
洞窟の奥から、力強い水音が響いた。
大山椒魚は戻った水の中へ入り、岩陰で静かに体を休めている。
「助けられたんですね」
久美子が言った。
「はい」
かすみは大山椒魚を見た。
「黒氷から解放できました」
誠司たちは滝の外へ戻った。
細くなっていた滝には、勢いのある水が戻っていた。
白い水しぶきが岩肌を流れ、滝つぼへ落ちていく。
端末に新しい表示が出る。
【山奥の滝の異変を解決しました】
【猫耳族の村へ水が届きます】
【妖精の花畑へ水が届きます】
【妖精の森のお宿へ水が届きます】
誠司は流れを取り戻した滝を見上げた。
一時的に水を作るのではなく、これからも水が流れ続ける。
猫耳族の村も、妖精の花畑も、妖精の森のお宿も、もう水に困らずに済む。
大地が斧を端末へ収納した。
「終わったな」
早希も水しぶきを見ながら言った。
「今度は遠回りじゃなくて、ちゃんと解決できたね」
「最後までそれ言うのかよ」
翔が二人の会話を聞きながら、盾を収納した。
レイナは端末の地図を見る。
「水が村まで届くには少し時間がかかりそうね。でも、これなら大丈夫そう」
煌成もうなずいた。
「一度、妖精の森へ戻りましょう。管理人の方たちにも報告した方がいいですね」
優は流れを取り戻した滝を見た。
「合流できてよかった」
誠司は静かにうなずいた。
全員で来たから、黒氷の大山椒魚を傷つけずに助けることができた。
水の流れは、再び山の下へ向かっている。
誠司たちは滝をあとにし、妖精の森へ戻る道を歩き始めた。
大山椒魚に刺さっていた黒氷の結晶を、すべて取り除きました。
黒氷から解放された大山椒魚と力を合わせ、塞がれていた源流を開いたことで、山奥の滝に水が戻ります。
猫耳族の村、妖精の花畑、妖精の森のお宿にも、再び水が届くようになりました。




