第103話 黒氷の大山椒魚
氷岩ガニを倒し、内部水路の閉塞を解除した誠司たち。
しかし、水量はまだ半分ほどしか戻っていませんでした。
水路のさらに奥で、大きな何かが動き始めます。
ゴゴゴゴ……。
洞窟の奥から伝わってくる振動が、少しずつ大きくなっていた。
水面が波打ち、岩壁から小さな石が落ちる。
翔と久美子が盾を構え、大地と早希も武器を持って前へ出た。
レイナは銃口を暗い水路へ向ける。
その後ろでは、誠司、煌成、かすみ、優が杖を構えていた。
「来ます」
優が暗闇を見た。
次の瞬間、水路の奥から大量の水が押し寄せた。
「盾を!」
翔と久美子が前に並ぶ。
誠司も水の魔法を使い、正面から押し寄せる水流の勢いを弱めた。
水しぶきの向こうで、大きな影が動く。
太い尾が水面を叩いた。
ドンッ。
洞窟全体が揺れ、黒い水しぶきが岩壁まで飛び散った。
影はゆっくりと浅瀬へ上がってきた。
巨大な山椒魚だった。
大きな体は岩のような黒い皮膚に覆われている。
背中から尾にかけて、何本もの黒氷の結晶が突き出していた。
黒氷は周囲の岩や水路にも広がり、山椒魚の体と水源をつなぐように伸びている。
端末が警告音を鳴らした。
【黒氷の大山椒魚】
【水源に生息する巨大生物】
【黒氷の結晶に侵食されています】
【注意:本体を討伐すると水源が失われる可能性があります】
【背中の黒氷を取り除いてください】
「倒してはいけないんですね」
久美子が盾を握り直した。
煌成が大山椒魚の背中を確認する。
「もともとは、この水源を守っていた生き物なのかもしれません」
「助けるには、あの黒氷を全部外すしかないってことね」
レイナが黒氷へ銃を向けた。
かすみが止める。
「直接撃つと、黒氷が砕けて水に落ちるかもしれません」
黒氷の大山椒魚が低い声を響かせた。
大きな口が開き、冷たい水が吐き出される。
「来るぞ!」
翔が盾で水流を受けた。
久美子も横から盾を重ねる。
それでも勢いを止めきれず、二人の足が濡れた岩の上を滑った。
誠司が水の魔法を重ね、水流の向きを横へ変える。
冷たい水が岩壁へぶつかり、黒氷がさらに広がった。
「水そのものにも、黒氷の力が混ざっています」
誠司が言った。
大山椒魚が太い尾を振る。
大地が斧の柄で受け止めようとしたが、重い一撃に押し戻された。
「重すぎるだろ……!」
早希は岩の上を走り、大山椒魚の横へ回り込んだ。
「背中の結晶、六本ある!」
長く突き出したものが二本。
その周囲に、小さな結晶が四本。
どれも体の奥まで入り込んでいるように見える。
端末に新しい表示が出た。
【黒氷の結晶:六】
【結晶を同時に破壊すると、本体への負担が大きくなります】
【一本ずつ分離してください】
煌成がすぐに指示を出す。
「一度に全部は外せません。まず一番小さい結晶から分離します」
「どうやって近づく?」
大地が斧を構え直した。
「動きを止める必要があります」
誠司が大山椒魚の周囲へ水を集める。
水流を尾と脚へ巻きつけ、動きを遅くする。
優も魔法を使い、大山椒魚の正面に見えない壁を作った。
突進しようとした大山椒魚の頭が止まる。
「長くは支えられない」
「十分です」
煌成が岩の床を持ち上げ、大山椒魚の体の片側を支えた。
「翔さんと久美子さんは正面をお願いします。大地さんは尾を止めてください」
「任せろ!」
翔と久美子が盾を並べる。
大地は太い尾の動きに合わせ、斧の柄を岩の間へ差し込んだ。
「早希さん、右側の小さい結晶を確認してください」
早希が岩を踏み台にし、大山椒魚の背中近くへ移動する。
「根元まで黒い。でも、周りに少し隙間がある」
「レイナさん、その隙間を狙えますか?」
「やってみるわ」
レイナが黒氷そのものではなく、結晶の周囲にある岩のように固まった部分へ光弾を撃った。
乾いた音が響き、結晶の根元に細い亀裂が入る。
かすみが杖を向けた。
白く澄んだ氷が、黒氷の周囲だけを覆っていく。
「黒氷と体の間を分けます」
大山椒魚が激しく体を動かした。
翔と久美子の盾が押される。
「まだです!」
久美子は足を踏ん張り、盾を下げなかった。
誠司は亀裂へ細い水流を入れた。
水が黒氷の根元へ入り込み、結晶を少しずつ押し上げる。
「優さん!」
優の魔法が黒氷を包む。
小さな結晶が大山椒魚の体から抜け、空中で止まった。
そのまま水路から離れた岩のくぼみへ移される。
端末が反応した。
【黒氷の結晶を一つ除去しました】
【残り:五】
大山椒魚の体から、黒い霧が少し抜けた。
けれど、背中に残った結晶が強く光る。
大山椒魚が咆哮し、体を大きくひねった。
大地が押さえていた尾が岩から外れる。
「離れろ!」
太い尾が横薙ぎに振られた。
大地と早希が後ろへ飛び退く。
尾が岩壁にぶつかり、大きな亀裂が走った。
その上から、岩と土が崩れ落ちる。
「水路が塞がれる!」
誠司が杖を向けた。
煌成と優も同時に魔法を使い、落ちてきた岩を空中で止める。
大地と翔が岩の下へ走り、崩れた石を水路の外へ押し出した。
久美子は盾で細かな土砂が水へ入るのを防ぐ。
「このまま暴れられたら、直した水路がまた崩れます」
かすみが残る黒氷を見た。
煌成は大山椒魚の動きと洞窟の状態を確認した。
「次は、尾に近い結晶を先に外しましょう。尾の動きが弱くなれば、ほかの結晶も狙いやすくなります」
レイナが銃の残弾を確認する。
「簡単には近づかせてくれそうにないわね」
大山椒魚は水路の中央へ戻り、背中の黒氷を輝かせた。
周囲の水が冷え、足元から黒い氷が広がっていく。
端末が再び警告音を鳴らす。
【黒氷の侵食範囲が拡大しています】
【水源への影響が強まっています】
【滝の回復率:四十三パーセント】
「水量が下がっています」
誠司は杖を握り直した。
せっかく戻した水が、再び黒氷に奪われ始めている。
大山椒魚を傷つけずに、残る五本の結晶を取り除かなければならない。
翔と久美子が再び盾を構える。
大地、早希、レイナも攻撃の位置についた。
その後ろで、誠司、煌成、かすみ、優が魔法を準備する。
黒氷の大山椒魚が大きな口を開いた。
冷たい水と黒い氷が、渦を巻きながら集まっていく。
「次が来ます!」
誠司たちは、水源を守るための戦いを続けた。
水路の奥に現れたのは、黒氷の結晶に侵食された巨大な山椒魚でした。
水源を失わないため、本体を倒すことはできません。
誠司たちは大山椒魚の動きを抑えながら、背中に刺さった黒氷を一本ずつ取り除きます。




