第100話 山奥の滝へ
優も合流し、妖精の森のツリーハウスも完成しました。
誠司たちはいよいよ、猫耳族の村と妖精の花畑を弱らせている原因を調べるため、山奥の滝へ向かいます。
翌朝。
誠司たちは、妖精の森のお宿の前に集まっていた。
昨日完成させたツリーハウスには、朝の光が当たっている。
窓辺のカーテンが風に揺れ、小さな花灯りも静かにともっていた。
猫耳族の管理人夫婦と、花の妖精たちが見送りに来ていた。
「本当にありがとうございました」
管理人の男性が、深く頭を下げる。
「水も一時的に戻していただいて、ツリーハウスまで完成して……助かりました」
誠司は首を横に振った。
「まだ、根本は解決していません」
管理人の女性は、静かにうなずいた。
「はい。山奥の滝ですね」
花の妖精が、森の奥を指さした。
「この道を進むと、滝に着くの。でも、気をつけて。昨日も言ったけれど、滝の近くには前にはなかった冷たい気配があるの」
「分かりました」
煌成が地図を確認する。
「今日は全員そろっています。慎重に進みましょう」
優も装備を確認していた。
「遅れた分は、ここから取り返す」
大地が笑う。
「頼りにしてるぞ」
「まずは押し間違えないことだな」
優がそう言うと、大地は少し気まずそうに黙った。
早希がすぐに言う。
「本当に、それは大事」
「もう分かってるって」
少しだけ空気がやわらいだ。
誠司たちは、妖精の森の奥へ進んだ。
道は少しずつ細くなっていく。
木々の根が地面を這い、岩の間を水が細く流れている。
けれど、その水の流れは弱かった。
本来なら、もっと勢いよく流れていたのだろう。
水路の跡は広いのに、今流れている水は、その半分にも届いていない。
かすみがしゃがみ、指先で水に触れた。
「冷たいですね」
「普通の冷たさとは少し違うな」
優が水面を見ながら言った。
「水が冷えているというより、力が抜けている感じがする」
煌成も水の流れを見た。
「滝から流れてくる途中で、何かに力を奪われているのかもしれません」
レイナが森の奥を見る。
「滝の近くに原因があるなら、そこを見れば分かるかもしれないわね」
端末が音を立てた。
【目的地:山奥の滝】
【水源の異変を調査してください】
【注意:滝付近に不明な反応あり】
「不明な反応……」
久美子が少し緊張したように言った。
翔が盾を持ち直す。
「敵が出るかもしれない。隊列を崩さず行こう」
前には、翔と大地、優。
その後ろに、早希と久美子。
中央に誠司。
後方に、煌成、かすみ、レイナが続いた。
しばらく進むと、森の音が変わった。
鳥の声が少なくなり、風の音も弱くなる。
代わりに、遠くから水の落ちる音が聞こえてきた。
滝の音だ。
けれど、それは想像していたよりも細く、弱い音だった。
「もう少しで着きそうね」
レイナが言った。
道を抜けると、目の前が開けた。
山の岩肌から、水が落ちている。
それが、山奥の滝だった。
本来なら、大きな水の流れが白く輝きながら落ちていたのだろう。
だが今は、水の量が少ない。
細くなった滝が、岩肌をなぞるように流れている。
滝つぼの水も浅く、周囲の草花は弱っていた。
「これが……村の水源」
誠司は滝を見上げた。
胸の奥が重くなる。
猫耳族の村。
妖精の花畑。
妖精の森のお宿。
あちこちで見た水不足が、ここにつながっている。
煌成が滝つぼの近くへ歩いた。
「水の流れそのものが、かなり弱っています」
優は岩肌を見上げた。
「滝の上か、奥に原因があるかもしれない」
早希が滝の横を指さす。
「ねえ、あそこ。岩の色、変じゃない?」
全員がそちらを見た。
滝の右側の岩に、黒く光る筋のようなものが走っていた。
まるで、岩の中に黒い氷が入り込んでいるようだった。
かすみが表情を引き締める。
「黒い氷……」
誠司は以前聞いた、かすみの魔法のことを思い出した。
氷に闇を重ねれば、黒い氷になる。
けれど、ここにあるものは、かすみの魔法とは違う。
もっと冷たく、重い気配がした。
端末が反応する。
【異常反応を確認しました】
【滝の水路に、黒氷の結晶が干渉しています】
【水源の力が弱っています】
「黒氷の結晶……」
翔が眉を寄せる。
「これを取り除けば、滝が戻るのか?」
煌成は端末の表示を確認する。
「可能性はあります。ただ、無理に壊すと水路そのものを傷めるかもしれません」
大地が斧を握った。
「じゃあ、叩き壊すのは駄目か」
「駄目です」
かすみがはっきり言った。
「この氷には、闇の気配があります。普通に壊せば、破片が水に混ざるかもしれません」
「水に混ざったら?」
久美子が聞く。
かすみは滝つぼを見た。
「村や花畑へ、もっと悪い影響が出るかもしれません」
レイナが静かに息を吐いた。
「面倒な仕掛けね」
優は滝の横を回り込み、岩の陰を確認した。
「奥に道がある」
「道?」
誠司が近づくと、滝の裏側に細い入口があった。
水の量が少ないせいで、滝の裏へ入れるようになっている。
岩の奥へ続く、暗い洞窟の入口だった。
端末に新しい表示が出る。
【山奥の滝・内部水路】
【黒氷の結晶の発生源を調査してください】
【注意:内部は滑りやすく、視界不良】
早希が小さく息をのむ。
「滝の中に入るってこと?」
「そうみたいね」
レイナが銃の残弾を確認する。
「ただ、ここで無理に入る前に、準備した方がいいわ」
煌成もうなずいた。
「内部は水場です。滑り止め、防寒、灯りを確認しましょう。水路を傷つけないために、火の魔法は控えた方がいい」
「火は使いにくいか」
大地が言う。
「じゃあ、俺は前で足場を確認する」
翔が盾を構えた。
「俺も前に出る。足場が悪いなら、無理に走らない方がいい」
優も短く言った。
「黒氷に触れる時は、全員で確認してからだ」
かすみは杖を握った。
「私の氷魔法で、黒氷の動きを見られるかもしれません。ただ、同じ氷でも性質が違うので、慎重に試します」
誠司は滝つぼの水に手を近づけた。
冷たい。
けれど、水そのものはまだ生きている。
完全に枯れているわけではない。
「少しだけ、水の流れを整えます」
誠司は杖を向け、水の魔法を使った。
滝つぼの水が静かに揺れる。
細くなっていた流れが、ほんの少しだけ整った。
けれど、黒氷の筋がある場所で、水の流れはまた弱くなる。
やはり、ここを何とかしない限り、村まで水は届かない。
「一時的には整えられても、これでは足りません」
誠司は杖を下ろした。
「原因を見つけるしかないですね」
煌成がうなずく。
「内部へ入りましょう。ただし、今日は調査が中心です。無理に奥へ進みすぎないようにします」
端末に確認表示が出た。
【内部水路へ入りますか?】
大地が端末を見て、すぐに手を出そうとした。
その瞬間、早希が横から止める。
「待って。全員で確認してから」
「分かってるって。押さないよ」
大地は両手を少し上げた。
優が端末を見た。
「選択肢は一つだな。内部水路へ進む」
煌成も確認する。
「はい。全員、装備を切り替えてください」
誠司たちは、滑りにくい靴と防寒用の上着を装備した。
灯りも端末から取り出し、必要な薬品を確認する。
翔と優が前に立ち、久美子がその後ろで盾を構える。
大地は斧を背負い直し、早希は足元を確かめた。
レイナは銃を持ち、かすみと煌成は杖を構える。
誠司は最後にもう一度、滝を見た。
弱った水が、岩肌を細く流れている。
この滝が戻れば、猫耳族の村にも、妖精の花畑にも、妖精の森のお宿にも、水が届くはずだ。
「行きましょう」
誠司の言葉に、みんながうなずいた。
端末の確認を終え、内部水路への入口が静かに開く。
冷たい空気が、洞窟の奥から流れてきた。
黒い氷の気配が、そこにある。
誠司たちは、山奥の滝の内側へ足を踏み入れた。
優も合流し、誠司たちは山奥の滝へ向かいました。
滝では、黒氷の結晶が水路に干渉し、水源の力を弱めていることが分かります。
滝の内側にある内部水路を調査します。




