エピソード10:ヒトをヒーローたらしめるのは正義の心であるが、正義の心だけでヒトはヒーローにはなり得ない。正義を実行する力がなければそれはただの"正義の心を持つヒト"に過ぎない。
場面は五干市育海海岸周辺!
地球内外からの観光客で賑わうグルメフェスの会場は、
突然のヴィラン来襲でもって地獄と化す!
「こちらです! 逃げて下さい! 落ち着いて避難をっ!」
「油圧カッター持ってこいっ! 瓦礫ぶった切んぞっ!」
「「「せー、のっっっ!」」」
「気道確保!」
「ストレッチャー乗せろ急げっ!」
「死なせるかああああっ!」
「チキショオオオッ! この怪人どもがあっ!」
「我々とて民を守るなら実質ヒーローだかかって来い!」
「これでも喰らいやがっ、ぐあわあああああっ!?」
消防士たちは民衆の避難誘導や負傷者の救助に奔走し、
警官や自衛官、自警団員らはあの手この手で怪人を食い止めようと必死だ。
「シマ荒らしの仁義外れどもがあ……!」
「イテコマシたらァっ!」
「怯むかっ、この程度でっっ!」
「灰ンなっとけえええええっ!」
「ゲージュツは、爆発やあああああっ!」
中には明らかにカタギらしからぬ、
ぶっちゃけ反社じみたガラの悪い連中も数多見受けられる。
……奴らとしても領土を荒らされるのは我慢ならねえんだろう、
普段なら天敵同士の警官とさえも助け合う始末だった。
だが……
『ふははははは! 軟弱軟弱うっ!』
『たかが人間如きが、我ら神殿十二勇将に敵うものかあ!』
『今こそ正義執行の時!』
『貴様らは己の罪を悔いる間もなく死ぬのだあっ!』
似たような姿
――具体的には各所に干支の各動物のレリーフをあしらった
シンプルな板金鎧って感じ――の怪人どもは、
持ち前の怪力や武装、異能でもって警官や自衛官、極道らを次々蹴散らしていく!
(……何も、できねえのかっ……! 俺たちは、無力なままかっ……!)
まさに絶望的な状況!
万事休す! 八方ふさがりってヤツだろう!
誰もが諦めかけた、その時……
『グエハハハハハ! 圧倒的じゃねえかっ!
ヒーローどももビビって出て来ねえようだしよお!』
ある怪人――鎧のエンブレムは亥だった――が、
如何にも"調子こいた噛ませ雑魚"みてえな台詞を声高に言い放つ。
それ自体はまあ、特に珍しくもねえ、
"この手のヴィランの王道ムーブ"だったワケだが……
『初陣でこれならよお!
こんなちっぽけな島国ぐれえ、
一日足らずで落とせんじゃ――ぬべあっ!?』
直後"亥鎧の怪人"は、
真上落ちて来た"黄金色の何か"に圧し潰されちまう。
『な、なんだ一体!?』
『何が起こったという!?』
『まさかヒーローの襲撃か!?』
『いや待て! 何かがおかしい!』
『……なんだ、あれは……?』
ともすりゃ他の怪人どもや、
現場で奔走してた消防士、警官、自衛官といった面々も思わず面食らう。
そして実際"亥鎧の怪人"の真上に落ちて来たのは……
『……死体?』
そう、まさしく身の丈数メートル、
推定体重数百キロは下らねえだろう圧倒的巨体を誇る、
ゴリマッチョで屈強な巨人の斬殺死体だった。
総統ヤバい奴に散々やられでもしたか、
損傷度合いは酷いもんだが、
作り物かってぐらい金属光沢のある黄金色と漆黒の皮膚やら、
辛うじて残ってる部位から推定される顔つき、
身体の各所から生えてるヒレとも飾り羽ともつかねえビラビラ、
防具とも鱗ともつかねえトゲ等から察するに、
まあ少なくとも人間じゃねえのは確かだろう。
『……ぅ、ぐ……! ん、のぉ……っっ!』
立場問わず辺りの時間が静止する中、
うめき声と共にもぞりと死体が動く。
……と言ったって当然、死体が生き返ったなんてワケはなく……
『こンッ、チキショウめぇぇぇぇぇっ!』
下敷きになってた"亥鎧の怪人"が立ち上がり、
死体を持ち上げたってだけだった。
『このラッシー・ドーマ・ブルガリン様をッ!
ナメんじゃあっ、ねえええええっ!』
"亥鎧の怪人"ことラッシー・ドーマ・ブルガリン。
元ボディビルダー兼プロレスラーである奴は、
改造で増し加わった持ち前の怪力でもって巨人の死体を、
なんと腰辺りから上下へ真っ二つに引き裂きやがったんだ。
『ブルギッピヒイイイイイイッ!
どこのどいつか知らねえがっ!
なんの狙いか知らねえがっ!
この俺が! 令和神殿騎士団が! 神殿十二勇将が!
こんな程度で止まるわきゃあ、ねえだろうがああああっ!』
巨人の血と内臓に塗れながら、
然しブルガリンは汚れも気に留めず吼える!
まさに荒っぽく貪欲な、老いた猪の如き男だ!
……が!
この一連の行動こそが、
ヤツに立った"死亡フラグ"の土台をより頑丈にしちまうんだ。
『おうともよ! この俺は止まらねえぜえっ!
この俺の筋肉は絶対だ!
筋肉! そう筋肉だ!
筋肉は裏切らねえ! 筋肉は全てを解決する!
筋肉さえありゃできねえことはなく!
筋肉さえありゃ防げねえものはねえっ!
銃弾も! 核も! 地震も雷も嵐も洪水も火事も! 病でさえもッ!
そうだ! 筋肉だ!
筋肉さえありゃウイルスだって怖かねえんだ!
鍛錬さえすりゃワクチンなんて必要ねえんだ!
俺たち神殿十二勇将は! その真実を!
この圧倒的武力でもって証明し――ぶぐわあっ!?』
刹那、無駄に冗長なばかりで中身のねぇブルガリンの演説は、
然し唐突かつ強制的に中断させられる!
『な、んだ、こりゃあ……ゴブッ!』
見れば、ブルガリンの胴は槍か銛らしきもんで貫かれていた。
全長一.五メートル、穂先だけでも三十センチは下るめえ。
太さも竹輪ほどは在ろうか。
そんなもんが、ものの見事に背から腹へと貫通してやがったんだ。
『なっ、ブルガリン……!?』
『い、何時の間にっ……!?』
これには同僚の怪人どもとて動揺せずにいられねえ!
「い、一体何があったんだ……?」
「わからねえ……わからねえが……
どうやら俺らは、お呼びじゃねえのかもな……」
怪人どもと敵対してた警官や自衛官、
ヤクザといった"戦闘者"連中も呆気に取られてた。
ただ、消防士や救急隊員はわりかし冷静で、
何ならこの隙に乗じて上手いこと要救助者を助けたほどだった。
どころかまだ余裕があったんだろう、
呆気に取られてる戦闘者連中の逃走さえ手助けしたほどだ。
……要するにこの時点で、どんな戦いが起ころうと
"無関係の民衆が巻き添え喰らう"可能性はほぼ皆無になったと言っていい。
そして……
『ぐ、ごお、あっっ……!
こんな、もん、で……!
俺が、止まるかっっ……!』
当のブルガリンはどうにかして突き刺さった槍を引き抜こうとする。
穂先は返しがついてるが、逆側からなら抜けるハズ……そう考えていた。
だが、次の瞬間……!
『そう、だあっ!
この程度……こんな、
もん、でっっ――がああ!?』
『『『なにいっ!?』』』
掴まれた途端、
槍の柄全体が展開・変形し鋭い刃が出現!
ブルガリンの体内と右手を切り刻む!
これだけでも大概地獄絵図だが、
惨劇はまだ終わらず……
『ぶっ、ぴぎ――ごっぼ、
ひっぶでっ、ばあああっ!?』
『『『『なあああああっ!?』』』』
程なく槍は大爆発!
腹の内側から盛大に爆破されたブルガリンは、
鎧ごと木っ端微塵の肉片と化す!
……当然だが、こんな傷を食らって生きてるハズもねえ。
『う、ウソだろっ……!』
『ブルガリンが……死んだ……!?』
『バカな……あり得ぬっ!』
『あやつは我ら神殿十二勇将でも五指に入る頑丈さの持ち主ぞっ!?』
『それがどうしてあんな攻撃如きでっ……!』
当然残りの怪人どもとしても動揺せずにいられねえ!
……もっとも、ブルガリンの死を悼む奴なんてその場には居なかったが。
ともあれそれまで圧倒的に優勢だった神殿十二勇将らは、
一気に『いつ殺されるか分からねえ』恐怖と緊張に苛まれるが……
一方、ならば現場に居合わせねえ奴なら"安心"できてるかっつーと……
(……どういうことだ、これは……)
少なくともモニター前のヒナミは、
内臓へ負担がかかりそうな勢いで困惑していた。
といえのも……
(あれは……あの武器は……
間違いなく"スピアグレネード"……!
"ナガシノマグナム"或いは"トキタガンナー"の
"ランチャーモード"でのみ発射可能な特殊弾頭っ……!)
加えて言うと、
ランチャーモードはかなり目方があり反動もえげつねぇ。
よってナガシノマグナムを使える人種の中でも
ごく限られた一握りの力自慢や規格外しか使わねえ。
(現セキガハラでランチャーモードを使いうるのは二人……
カイト殿とユウトくんだけだ。
そして大将殿は今も飲食店の仕事で大忙し、
ユウトくんとて敵を追って異世界に飛んでいる……
揃ってそうそう簡単にあの現場へ急行できるとは到底思えないが……
まさか、模倣品か? ……まあ、有り得ん話でもないな。
クロカミ・メイナが流出させたのが生体改造の技術だけとも限らんならば……
令和神殿騎士団の内乱があっても何ら不思議じゃないだろうさ)
仮にその憶測が事実ならそれはそれで厄介だが……
ともあれなんにせよ、
脅威だった神殿十二勇将の一人が死んだのはデカい事実だった。
(そうだ。敵の敵は味方……
ブルガリンだかいうあの怪人を殺したのが何者であれ、
奴らを全滅させてくれるならその点だけは感謝すべきだろう)
少なくともある程度の時間が稼げれば、
"やりよう"なんて幾らでもある。
(元より窮地なんてのはヒーローの常……
出来る限りの対策を練って迎え撃つ他あるまいさ)
だがこの直後、事態は誰もが予想し得ない方向に転がっていくんだ。




