エピソード9:世の中いい事も悪いことも唐突に起こるもんです。ええ、本当に容赦がないくらいに。
(いやはや、短期間ながらかなりの情報が集まったな)
場面はセキガハラ拠点内の執務室……
三代目"レールガンマイスター"ことニカイドウ・ヒナミは、
ここ最近で集まった"令和神殿騎士団"絡みの情報について、
改めて整理・確認しつつ纏めにかかる。
「……凄まじい量だ。これは文字通り、骨が折れそうだ」
自嘲するヒナミだが、
実際奴の全身各所には包帯が巻かれガーゼが貼られ、
右腕に至ってはギプスで動かせねえ。
だがその程度でヒーローが立ち止まれるハズもねえと、
女は傷付いた身体に鞭打ち器用にデータを整理していく。
(よもやあんな雑な、
しかも対価の提示すらないただの"呼びかけ"だけで
業界全体が動いてくれるとは……。
セキガハラが業界で信用されているのか、
はたまたヒーロー業界全体の"情"の深さがそうさせるのか、
どちらであれ有り難いことだ。感謝してもしきれんよ)
身内を含む各防衛組織からの報告書に目を通すヒナミ。
そこに記されていた"令和神殿騎士団"の結成経緯は、
まさにこの時代の"どこの誰でもヴィランになり得る"風潮を象徴するが如き有り様だった。
「……『令和神殿騎士団』。
『嘗て遺恨リーパームジョウによって壊滅させられたヴィラン組織
"新生女性至上主義社会革命者ネオフェミニニス党"残党が、
奇しくも同じ時期に解散した"REIWA天誅組"の元構成員と合流し、
結成に至った新興ヴィラン組織』……か。
政党を喪った所属議員やスタッフは、
大抵他の政党に移ったり無所属で活動したり、
さもなくば政界を去るのが定石……
ともすれば"天誅組"の奴らも軒並み"そうなった"ものと思っていたが、
まさか政界を去ってヴィランになる奴が出るとはな」
無論、政治家くずれのヴィランは歴史上数多いんだから特段珍しくもねえが、
大物ぶって『悪しき現政権に天誅を下す』などと声高に宣ってた連中が、
よもや本家"天誅組"よろしく短期間で壊滅したのみならず、
却って社会に仇なし"天誅を下される側"に零落れるとは何とも皮肉なもんだ。
若しくは、
僅か四十日間で壊滅したっつー規格外の短命ぶりながら、
『武力での"倒幕"ならぬ"討幕"を志した最初の集団』として、
後に続く薩摩や長州の志士らを奮い立たせ維新への起爆剤になった"本家"と比較すると、
どんだけ取り繕おうが所詮は"有り触れた安っぽい反政府野党"に過ぎず、
しかも中途半端に長生きするばかりで何も成し遂げられなかった辺り、
まさに"名が泣く"レベルの情けなさ、って解釈もできるが。
「さて、それで『主要な戦力』は……ああ、やっぱりか」
ヒナミの予想はまたしても的中していた。
というのも令和神殿騎士団……
その主立った戦力といえば人間を改造した怪人だが、
じゃあ怪人の素体になる人間はどこから確保してるかっつーと、
所謂"方々からかき集めた弱者や落後者"だったんだ。
まさに浮浪者や無職、
前科者から逃亡犯、多重債務者に不法移民、落ち目の反社や破落戸、
"宿主"に捨てられ"寄生能力"も失った港区女子に至るまで、
社会からあぶれた連中を甘言や美辞麗句で惑わしちゃ怪人に改造……
テキトー吹き込んで方々へ放っては
運用テストや戦闘データ取りを繰り返していた。
「そして……『拠点の所在地』については……ふむ。
末端どもは『厳密な位置こそ知らされていない』が……
記憶解析などの結果に基づくなら、
少なくともユーラシア大陸東部の
北緯二十五から三十度圏内にあるのは確実、か……。
ここは追加で調査せねばならんな。
拠点を見つけて叩かねば……」
さて、ともあれ最も肝心な所は"組織の最終目的"だろう。
これについても拠点の所在地共々末端どもは詳しく知らなかったようだが、
一応断片的な情報だけは掴まされていたらしく……
「……『推定される組織の最終目的』は、
やはり"そうだった"か
……『無敵・最強たる怪人軍団の創造』と『独立国家の宣言』
そして『怪人の圧倒的武力による地球文明の掌握』……
なんともはや、清々しい程に分かりやすい、
今日日いっそ珍しい程の"古典的な王道ヴィラン組織"だな。
『自分達を特別扱いしろ』と駄々を捏ねていたダチョウどもが、
性差別をやめたかと思えば今度は落後者同士で正義の反乱軍ごっこか。
全くどこまでも始末の悪い……
"始末の悪さ"はヴィランの常と言えばそれまでだが」
ともあれ目下最大の課題は"令和神殿騎士団"の所在地特定だ。
組織かどうかに限らずヴィランの住処ってのは、
当然だが得てして人目に付きにくいような場所にあるモンだ。
勿論、企業とかそういう"表向きの顔"があるならその限りじゃねえが……
「特に『神殿十二勇将』……
末端どもの口から断片的に語られているこの連中こそ
組織が生み出そうとしている"最強無敵の怪人軍団"の正式名称なんだろう。
クロカミ・メイナの技術が流出している以上、
もし完成に至ってしまえばどんな脅威になるか分かったものではない。
早急に手を打たなくては……」
ヒナミは頭を抱えるが……ともあれゆっくりしてる暇もねえ。
いざ行動を起こさねばと立ち上がろうとしたその時、
机に仕込まれた通信端末の着信音が鳴り響く……
それも、緊急事態を知らせる類のヤツが。
「こちら執務室よりニカイドウ。どうしたね」
『総司令っ、管制室のイマイです!
緊急事態です!
五干市育海海岸周辺のイベント会場を、
怪人の集団が襲撃中との通報あり!』
「なんだと……!」
通信機越しに聞かされたのは、まさに緊急事態の報せだった!
五干市は育海海岸の周辺と言えば、
この時期は毎年恒例になってるグルメフェスの真っ只中。
しかも同イベントは比較的短期間にも関わらず、
地球内外から毎年平均数千万人の観光客が訪れる人気ぶりだ。
ただでさえ混雑から事故や犯罪も増えがちだってのに、
そんな場所に怪人が襲撃したとなりゃ被害は計り知れねえ。
加えて言えば五干市はセキガハラ拠点のわりかし近所っちゃ近所だ。
ともすりゃヒナミとしても猶更ほっとくワケにはいかねえ。
「参ったな……怪人の数と内訳は?」
『はい! 確認できる限りですと現場に出現した怪人は十二体!
何れも純正もしくはサイボーグ型のバイオノイドです!』
「十二体の、バイオノイド型怪人だとっ……!?」
ヒナミは背筋が凍り付くような気分を味わった。
十二体のバイオノイドなどと……心当たりがあるどころじゃなく、
なんともタイムリー過ぎる話だったからだ!
「観光客の避難状況はどうだ? 周辺の防衛組織の対応は?」
『はい! 何分大人数なもので芳しくなく!
近隣の防衛組織も軒並み戦力は出払っているようで……』
「マズいな、どこもウチと同じ状況とは……」
そう。ヒナミの言う通り、
セキガハラのヒーローどもは今現在どいつもこいつも身動きが取れない状況に居た。
マズルフラッシャーの面々からして、
タイセイは大学で重要な試験の真っ最中、
ユライは仕事でフランスに飛んでてあと数日は帰国できねぇ。
カイトやユカもそれぞれの店が多忙を極めており、
ユメとマリエ、ユウトに至ってはそれぞれ地球上にすら居ねえ。
……それぞれ予定なんぞ切り上げてでも来いと言いたくなるかもだが、
ヒーローとて一人のヒトであり権利の軽視は倫理の崩壊に繋がる。
そして……
「かくなる上は、僕が出向くしか……」
『何言ってるんですか総司令! そんなのダメに決まってるでしょ!
貴女、今ご自分がどんな状況だか分かってないんですか!?』
"身動きの取れねえセキガハラのヒーロー"には当然、
他ならぬヒナミ自身も含まれていた。
というのも冒頭で描写した通りこの女は全身傷だらけ……
片腕は動かず、ギリギリ日常生活を何とか熟せるって状態だ。
……本来ならデスクワークだって避けた方がいいんだが、
当人の意向で無理を通してるってのが現状だったんだ。
『総司令、あなたはカイザージュピターごと巨大宇宙怪獣に食われかけたんですよ!?
普通だったら死んでるのが当たり前ぐらいの所だったんですよ!?』
そう。まさしくイマイの言う通り、
ヒナミはつい先日とんでもねえ巨体を誇る宇宙怪獣と交戦……
カイザージュピターを乗り回し果敢に立ち向かったものの苦戦を強いられ、
挙句その大口で"機体ごと食われかける"っつーとんでもねぇ目に遭っていたんだ。
『だってのにあなたは意識のある状態で生存できたんでしょうが!
となればそれだけでも大概奇跡!
デスクワークだって本来ならやっちゃいけないぐらいの重傷だってのに、
どうして戦場に出ていいなんて思うんですか!?
どんな判断ですか!? 命を育海海岸に投げ捨てるつもりなんですか!?』
「……だとしてそれでも、僕が動かずして誰が動くと……――!」
言い返しかけて、ヒナミははっと我に返る。
他の仲間たちが動けない、責任感から自殺同然の戦いに身を投じようとする……
その自己犠牲ムーブメントときたら、まるで……
(ああ、なんてことだ……
これではまるで、あの時のライホウくんそのままじゃないか……)
"有事が為実を粉にすべからず"……
"有事の備えは自らの養生にあり"……
"身を粉にせば、救える手もなし"……
嘗て"ライホウの悲劇的な末路から学ぶべき教訓"として述べたハズの言葉が、
今度は自分自身にブーメランの如く返ってきて、
しかもキャッチもできず身体に深々とブッ刺さるとは何とも滑稽だ。
「そうだな……すまなかった、イマイくん。
だが、ともするとあの怪人どもは……」
『……一応、近隣の組織で動けるヒーローが居ないか確認を取っている所です。
現場では消防や警察、自衛隊の他民間の自警団が対処に当たっているようですが……』
「……無茶だろう。
東京のテンバ組はじめ一握りの武闘派組織ならまだしも、
ヒーローでない民間人が太刀打ちできるほどヴィランは甘くないんだ。
……なんてことだ、こんな時に限ってっ……」
ともあれせめて現場の行く末だけでも見届けようと、
ヒナミはモニターを起動しチャンネルを事件現場付近の監視映像に合わせる。
見れば確かに、似たような姿の怪人十二体がイベント会場を荒らし回っていた。
「……完成した新戦力のデモンストレーション、
新しい装備の試し切り・試し撃ちでもしてるつもりか?
ふざけやがって……あの怪人どもめ、絶対に許さんぞっ」
怒りを露わにするヒナミ。
事実、モニターに中継される光景は散々なもんだった。




