第七陣:予想外の"再会"である
場面は前回から引き続き、
西暦2017年3月7日の東海地方某所に建つファミレスの店内。
「そこまでだ」
『……!』
「それ以上は過剰防衛を通り越して私刑になる。
幾ら今の時代とは言え、君も無事では済まされんぞ」
(なんで……こんなことが……!)
傍迷惑な異世界人ヴェイドス四世に引導を渡そうとした刹那、
ユウトは聞き覚えのある声に呼び止められ……
「一先ず落ち着きなさい。
その女はこちらに任せて、君は食事を楽しむといい」
(なんでいるんだ、おやっさん……!)
図らずも亡き――といってもこの時点ではまだ存命の――恩師、
"禍根ハンター"ことタチバナ・ソウキチとの"再会"を果たしたんだ。
(いや待て、今は2017年だっ。
おやっさんの没年は2020年だから、
生きてなきゃおかしい……)
ソウキチが殺気立つ群衆を説得し宥める傍らで、
ユウトは冷静に脳内情報を整理していく。
となると気になるのは、
果たしてあれほど四世への憎悪を募らせてた街の奴らが、
果たしてソウキチが宥めた程度で落ち着くのかっつー話だが……
「……というわけで、法改正がなされてね。
あのヴェイドス四世にもしっかりと罰が下されるだろう。
もう異世界人が地球で好き勝手できる時代は終わったんだ」
「そうなんですか……良かった……」
「ふ~む、なんだか釈然としないねえ。
要するにドサクサに紛れて陰でコソコソ法を書き換えたってんだろう?
全く、相変わらずイシナミ内閣はやることが汚いったらないよ」
「まぁそう言うなって祖母ちゃん。
確かに内閣のやり方は汚いし、
どうせ今回の法改正だってその場しのぎの支持率稼ぎなんだろうけど、
俺達民衆にとっていい方向に進んだのは事実なんだからさ」
「そうよお母さん。あのトカゲもどきがしっかり法の裁きを受ける。
それだけでも喜ばしいことじゃない」
そこは流石東海地方だけに、
誰もがソウキチの顔と偉大さを知ってるからだろう。
ヤツ自身の誠実かつ的確な説明もあって、
群衆は驚くほど素直に鎮静化していった。
「さて、それで君だが……」
『ああ、みんなを助けたかったにしても出過ぎた真似をしたとは思ってるよ。
警察にでも防衛組織にでも引き渡しゃいいや』
「何を言ってるんだ。君のやったことは正当防衛だろう。
所詮防衛組織付きのヒーローに過ぎん私には、
しょっ引く権限も理由もないよ。
この件以外にも余罪があったら話は別だが、
それなら既に通報の一つでも入っているハズだ。
……まさか通報されてないだけで何かやってるなんてことはあるまい?」
『ああ、誓ってねえよ。
こちらもちとワケありなんでね、
悪事なんぞに手を染めてる余裕もねえや』
適当に誤魔化すユウトだったが、
本心では具体的に悩みを打ち明けて相談したいとか、
何なら素性を明かして未来を変えたいとか、
そんな風に思わないでもなかった。
果たしてここで『自分は未来から来たあんたの弟子だ』と明かせたなら……
加えて『三年後にあんたは死ぬことになる』と警告できていたなら……
或いは未来は大きく、よりよく変わっていたかもしれねェ。
だが……
(……それじゃダメだ。
完成した工芸品の一部を強引に変えりゃ、他の一部に"シワ寄せ"がいく。
その"シワ"が、例えば油粘土や液体についたなら誤魔化せようが、
紙なら折り目、金属なら歪みになり、
陶磁器やガラスだったらそもそもシワにすらならず割れちまう。
そもそもシワを消し去るには手間がかかるし、
該当部分を丸ごと交換しなきゃならん場合もある)
シワ寄せを喰らう一部が何か分からず、
まして生じるシワが何なのかなど見当もつかねえなら、
最低限穏便に済ませるに越したことはねえ。
目の前の中年男が自分を"許す"と言ったのなら、
その判断に異を唱えるのもまた悪手だろう。
(……何よりそんな真似をすりゃ、
いよいよDORAARSに目をつけられかねん。
特定個人の逝去を取り消すなんざ、
奴らが嫌う歴史改変の典型だからな。
時間軸修正だとか言って生体兵器を放たれでもしたら、
いよいよどうしようもねぇ)
なわけでユウトは"流浪者タナトス"と名乗り、
史実をベースにでっち上げた偽の経歴を聞かせたりと、
ソウキチと他愛もない世間話を繰り広げる。
「つまり、その腕輪くんと一緒にあちこちの世界や次元、
惑星を転々としながら行く先々で悪党退治を?」
『まァ~そんなトコだな。
もう数百年かはたまた千年になるか……慣れ過ぎて記憶も曖昧なほど。
所詮はただの根無し草、そう格好いいモンでもねえ』
[He can't be said to have a well-developed personality,
even as a compliment, but his heart that doesn't forgive evil
and his ability are certainly solid.]
(和訳:彼はお世辞にも人格ができているとは言えませんが、
悪を許さない心と実力だけは確かですよ)
(……耳に聞こえる音声は間違いなく英語ながら、
なぜか日本語として理解できる……不思議なものだな)
その後適当に会話を切り上げソウキチと別れたユウトは、
すっかり事後処理が終わって何時もの調子を取り戻したファミレスの座席へ戻る。
すると程なく、数人の男女が歩み寄って来た。
内訳は使用人四人と少年一人……
言わずもがな、嘗てヴェイドス四世の被害に遭っていた面々だ。
「此度はあれの処分を一任してしまい、大変申し訳御座いません」
手始めに代表して頭を下げてきたのは、
使用人らのリーダー格ことエトルリアだった。
「私どもの方で早急に対処できていれば、
ここまでご迷惑をお掛けすることもなかったのでしょうが……」
『いやぁ構わんさ。君らは誰より奴の被害に遭ってたんだろ?』
[There is no need to feel any guilt. I am used to situations like this.]
(和訳:何も負い目を感じる必要などありません。
こういった事態には慣れていますので)
「だとしても、助けて頂いたのには変わりないというか……
本当に、有り難うございました。
お礼と言っては何ですが、お二人の飲食代を負担させてくれませんか?」
使用人エトルリアに続いて口を開いたサイトウ・カツマ少年……
ヴェイドス四世に"下僕"としてこき使われていた被害者なんだが、
その彼からの申し出は、耳を疑うモンだった。
なんせこのサイトウ少年ときたら、
見た所フツーの学生にしか見えず……
到底金を持ってるようには見えなかったからだ。
だが……
『いいのかい? そりゃま、
こいつはモノ食わねえから実質俺一人分だがよ』
[He has quite a big appetite, you know?
This may be rude, but from what I can see, you are a student, right?]
(和訳:彼は結構な大食いですよ?
失礼かもしれませんが、見た所あなたは学生ですよね?)
「お金なら大丈夫です、心配いりません。
……元々、大枚はたくのには慣れてますから」
聞けばどうやらサイトウ少年、
東海地方でも首位に食い込む富豪一族の分家筋出身らしく、
多忙な家族が家を空けがちなもんで親名義のクレカを持たされてるそうだ
(ともすりゃヴェイドス四世からしたら格好のカモだったのは言う迄もねえ)。
「お願いします。僕がそうしたいんです」
『……なら、お言葉に甘えさせて貰おうかい』
てなワケで図らずも"オゴリ"で飯を食う運びとなったユウトだったんだが……
「……じゃ、手筈通りにお願いね?」
「畏まりました」
一方奴らのあずかり知らぬ所で、
事態は思わぬ展開を迎えつつあったんだ。
https://mond.how/ja/69440_Uwabami
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