第六陣:つまり直近四話は終盤553字のための前座である
場面は前回より引き続き、東海地方某所のファミレス店内!
『おのれ小僧~~~!
たかがオタクの分際で、高貴な我を愚弄するかあっ!
手始めに貴様から"焼却処分"してくれるわ~っ!』
ユウトの見せた一瞬の隙を突いて拘束から脱したヴェイドス四世は、
火炎系の攻撃魔術(?)でもって自分を嘲笑ったチャラ男のオタク、
略して"チャラ男タク"を焼き殺そうと手を翳す!
「ちょ、おまっ! ブフッ!
メッチャ効いてて草ァッ!
てか、そーゆーのあんならっ! クヒッ!
まずそこの"ほねほねザウルスおじさん"に使えっつーのよっ、フヒハハッ!」
しかも対するチャラ男タクは酒のせいか生来の性格か、
文字通り命の危機が眼前に迫りつつある状況下で尚、
平然と四世を煽りにかかる始末!
(クソッ、やらせるかァ!
あのヤローはひょっとしたら元の時代に戻る鍵かもしれねえ男!
ここで死なれたらいよいよ俺らはDORAARSに消されちまう!
そんなオチ、主人公として認めねェーッ!)
未曾有の事態に頭を抱えたユウトは然し、
即座に思考を巡らせ最適解を導き出す!
『――フッ』
『のおわっ!?』
手始めにチャラ男タクを殺させまいと、
四世の手元に形成されつつあった魔術の火球を、
鋭い貫手――微弱ながら"霊魂刈取"を纏わせていた――でもって破壊!
『なっ、魔術――ガッ!?』
直後、怯んだ四世の足元へ鞭の如くしなるユウトの尻尾が迫る!
杉の巨木さえ叩き斬りかねねぇ強烈な足払いを食らえば、四世は仰向けにスッ転ぶ!
『ごうへッ!?」
近くにあったテーブルの縁に後頭部をぶつける四世!
そのショックで髪や瞳の色は元に戻り、
尻尾や翼以外の鱗も引っ込むが……
ヤツの頭に生えた大ぶりな角が悲劇を呼ぶ!
「うわあっ!?」
「ぎゃっ!」
「あっ、鍋がっっ!」
それは全くの偶然だった。
席に座っていたのは三人組の屈強な偉丈夫ども……
奴らのテーブル席には、カサが三分の一ほどに減ったキムチ鍋!
炎で暖められたそれの淵に四世の角が引っ掛かり、
あたかも引き寄せられるが如く宙を舞う!
「ぎょわっぎゃあああああっ!?」
結果、引っ繰り返った鍋の中身が四世の顔面を直撃!
熱せられた赤いスープには、
珍しい食材に拘る店らしくキャロライナ・リーパーが配合されていた!
「あっぎゃぎっ! ぐぎゃらべばがらら、ぼごあっ!」
"カロライナの死神"。
米サウスカロライナ州ヨーク群フォートミル町の企業
パッカーバッド・ペッパー社の創業者"硝煙"ことエド・カリー社長が、
同州同群のロックヒル町に建つ温室で育て上げた唐辛子だ。
「い゛ぎぐぎえ゛っげえ゛え゛がっぎゃあ゛あ゛あ゛ッ!」
所謂"世界一辛い唐辛子"の五代目にあたる品種で、
2013年に前王者の"トリニダード・スコーピオン・ブッチ・テイラー"を打破して以来、
後の2023年に――同じくカリー社長が生み出した後継――"ペッパーX"に抜き去られるまで
十年間の長きにわたり王座を維持していた強豪と名高い。
その辛さたるやスコヴィル値換算で高く見積もれば二百万を余裕で超えるほど。
或いはスコヴィル値はブレが激しいが、
低く見積もっても百五十万は下らねえってんだから、
そのヤバさもご理解頂けるだろう。
「う゛ぎょえ゛あ゛ががががぎげぎゃごげぐぎい゛い゛い゛■■■■■■!」
……ヤバさが分からん奴向けに説明すると、
一般的なタバスコが二千五百から五千、
我が国が誇る(秘密結社じゃない方の)鷹の爪が四万から五万、
最強クラスの対人用催涙スプレーが二十八万、
群馬伊勢崎の『ペヤング 獄激辛Final』が凡そ九十二万弱……
「■■■■■■■■! ■■■■■■■■■■!
■■■! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■!」
とすりゃ、四世が地獄を見たのも想像に難くねえだろう。
だが店の中に、ヤツを助けようとする奴は居なかった。
というのもこのヴェイドス四世、
持ち前の圧倒的火力と2017年当時の異世界人を異様に甘やかす社会制度を悪用し、
この地域一帯をかれこれ二年もの間不当に独裁支配してやがったんだ。
勿論エトルリアはじめメイドたちが裏で動いてたお陰で
致命的な大事にこそ至っちゃ居なかったが、
それでも市民や観光客、自治体の為政者までもが
爬虫類モドキに頭を抱えていたのは紛れもない事実なわけで……
「へっ! ざまあねえぜヴェイドス四世!」
「今まで私らを苦しめた罰だよ!」
「精々苦しめ!」「てめえなんぞもう怖かねえっ!」
「あんたの敵はその骨恐竜じゃなくて、
あんた以外のこの街の全員なんだよぉ!」
四世が醜態を曝すと同時、
堰を切ったが如く客どもは口々に怒りをぶつけ始める。
挙句……
「オイッ! そこの骸骨恐竜!
躊躇うこたぁねぇ! やっちまえっ!」
「頼むよ!
あたし達はイシナミのバカが設定した法律の所為で、
異世界人に手を出すと逮捕されちまうんだ!」
「だが同じ異世界人のあんたなら奴らも手は出せねえ!
お願いだ! 頼れるのはあんたしか居ねえんだ!」
「心配いらないよ!
他の誰が見捨てたって、私はあんたを見捨てないからねぇ!
警察や政治家相手だろうと、私が庇ってやるさ!」
「当店も全面的に貴方を支持させて頂きます!」
「この街の治安を乱しお客様方をも苦しめたたこいつを、許してはおけないのです!」
こんな風に言い始めるヤツらが出始める始末だった。
しかもその中にはファミレスの店員も少なからず居たってんだから、
四世の暴虐ぶりが如何ほどだったかよくわかるってモンだろう。
(……余り目立ちたくはねえんだが……
いや、派手にやらかした方がかえってヒーローも出張る、か)
「うっぐうぅぅぅ! ぐぎいいいっ!」
"手を出した以上、終いまでやり切るのが筋"……
そう考えたユウトはぬっと席を立ち、
武器になりそうなもんはねえかと辺りを見回す。
(……店の備品使うのは忍びねえが、
どうせなら罪を重ねて派手にやってやらァ……)
そしてある客から手渡されたフォークを握り締め、
未だ刺激に悶える四世に振り下ろそうとした……その時!
「そこまでだ」
『……!』
ふと、背後から声をかけられ動きが止まる。
「それ以上は過剰防衛を通り越して私刑になる」
(……そんな、なんで……)
振り上げようとした手がだらりと垂れ下がり、フォークも床に転がる。
"その声"はユウトにとって"そうせざるを得ない"ほどの力を秘めていたんだ。
「幾ら今の時代とは言え、君も無事では済まされんぞ」
(なんで……こんなことが……!)
"まさか"と疑った。
"冗談だろう"と思いたかった。
"そんなこと有り得ない"と断定したかった。
それでも、ユウトの意識が、記憶が、
ヤツの内なる全てが"冗談じゃないぞ"と、
"そんなこととて有り得るぞ"と言っていた。
(なんでここにいるんだよ、あんたがっ……!)
だが、振り向いたユウトは確信した。
どころか寧ろ、確信させられた。
(こんな偶然が、あっていいのかよっ……!)
「一先ず落ち着きなさい。
その女はこちらに任せて、君は食事を楽しむといい」
ユウトへ紳士的に語り掛けるのは、
くたびれたコートを纏う、一見地味で冴えない風体の、
けれど見る奴が見れば"大物だ"と確信できる中年のオッサン……
「大丈夫だ、二度とこんな真似はさせないと誓おう」
つまるところユウトの――2017年当初はバリバリ存命中の――恩師……
ヒーロー"禍根ハンター"ことタチバナ・ソウキチその男だったんだ。
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