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13 泥臭きかな、転生



 手足がやけに冷たい。視界に靄がかかっていく。

 そういえば現世では崖の上から落ちて首の骨を折り即死したためついぞ知ることはなかったが、今なら分かる。

 ――これが死の感覚なのだ。


「デュフフ、ザコ過ぎて手応えがありませんでしたぞ、経験値乙!」


 遥か彼方で、昔のオタク風の男が豚の鳴き声にも似た笑い声をあげる。

 しかしその声ですら、まるで別の世界から聞こえてきているかのごとく、遠かった。


 今度の人生はようやく生き残ったかと思えば、訳の分からんデブに訳の分からんまま殺されて終わりか。

 天にまします我らがドジっ子女神様、これは惨めポイントどれくらいもらえますかね。

 なんてくだらないことを考えながら、自嘲する。


「――キョースケ!!」


 視界の外から聞き慣れた声がする。

 そして地震とも紛う強烈な振動が数度あったのち、月明かりに対して金属質な光を返す黒鉄のボディが現れて、男の前に立ちふさがった。

 ゴーレムだ。


「おおっ! これは大物モンスターのヨカーン! wktk!」


 男は相変わらず気味の悪い口調で、一体誰に見せているつもりなのか高らかに声を張り上げた。

 その一方でゴーレムはというと――本気で怒っていた。

 機械人形になにを、と思われるかもしれないが、彼の五体より発散される怒気は到底そんなものでは測れない。今にも男に食ってかかりそうな雰囲気である。

 というか実際に彼は有無を言わさず、鋼鉄の拳をもって男を殴り飛ばしたのだ。


「オウフッ!?」


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 ???に 62 のダメージ!

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 それは殴る、というには少々圧倒的すぎた。まるでトラックの正面衝突だ。

 男の巨体がぶるんと波打ち、一瞬遅れて、巨体は砲弾のように撃ち出される。

 吹き飛んだ肉の塊はかつての建造物の残骸をいくつも破壊して、最終的には地面のぬかるみに投げ出された。


「貴様……よくもキョースケを!!」


『自動修復を一時中断、ユートピア・ゴーレム、戦闘モードに移行します』


 無機質な電子音性がそれを告げたかと思うと、ゴーレムの全身を流れる碧い光の血脈がやがて真っ赤な――本物の血液のごとく変化した。

 これに合わせて頭部と胸部に埋め込まれたエメラルド風の鉱石も、深紅のルビーに変わる。


 まるで風の谷のナウシカに出てくる王蟲のようだ。

 忘れていたけど、呆れるほどカッコいいなゴーレムは……

 薄れゆく意識の中でそんなことを考える。


「コポォwwwなかなかやるでござ……」


 男が何かを言いかけたが、戦闘形態となったゴーレムは、まさに神速であった。

 次の瞬間にはあれだけあった距離を詰め、男の目と鼻の先で拳を振りかぶっている。

 躱そう、などと思う暇なかっただろう。

 次の瞬間には振り下ろされたゴーレムの鉄槌が男の脳天に突き刺さり、そのままの勢いで男の身体を地中深くまでめりこませてしまったではないか。

 あまりの衝撃が地面に何本もの亀裂を走らせる。


 しかしゴーレムの追撃は終わらない。

 彼の振り下ろした拳が光を放ち、地中より何かを吸い出し始めたのだ。

 吸い出したものは、おそらく何らかの鉱石。

 ぱきぱきと音を立て、彼の手の内にただでさえ巨大な拳の三倍はあるであろう結晶が精製され、彼はこれを男のいたあたりに叩きつけたのだ。


 膨大な量の泥土が天高く噴き上がり、やがて泥の雨が降り注ぐ。

 場にしばしの静寂が訪れ、そしてこれを破ったのはゴーレムであった。


「キョースケ……!」


 決着を確信してゴーレムがこちらに振り返り俺の名を呼ぶのと、例の巨大な結晶がばらばらに砕け散ったのはほとんど同時の出来事であった。

 きらきらと降り注ぐ光の粒。

 ゴーレムがはっとなって振り返ると、そのすぐ背後には例の男がほとんど無傷の状態でたたずんでいるではないか。

 ゴーレムはとっさに回避の体勢をとるが、間に合わない。

 見苦しくも、目で捉えきれないほどの速度から繰り出される体当たりがゴーレムに直撃する。


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  ユートピア・ゴーレムに 207 のダメージ!

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「うぐうっ!?」


 ゴーレムの巨体が大きく仰け反って、そのまま倒れ込んだ。

 全身泥だらけになった男は、そんなゴーレムを見下ろして「ぷふふ」と嘲るように笑う。


「テメーは俺を怒らせたwww雑魚モンスターが主人公様に勝てると思ったら大間違いですぞwww」

「くっ!」


 ゴーレムがすかさず立ち上がって拳を叩き込む。


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  ???に 49 のダメージ!

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 これに返して、男は力任せに腕を振るう。


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  ユートピア・ゴーレムに 180 のダメージ!

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 ゴーレムの身体を覆う鋼鉄の装甲の一部が破損した。

 装甲の剥離した部分から、内部の構造が露わになってしまう。

 一方で男の方は多少鼻血を流しているくらいで、ゴーレムの猛攻を受けてなお全くダメージが入っていない。

 

 かたや一撃が致命傷、かたや一撃がかすり傷程度。

 戦闘の技術では間違いなくゴーレムの方が上であるのに対し、ずぶの素人である男の方が優勢という始末。

 それもそのはず、ゴーレムのステータスがいかほどかは知らないが、あの男のステータスはほとんどカンストしているのである。


 これがチートなのかと思った。

 この理不尽さこそが、女神の与えしチートの力なのだ。


「ぐうっ!」


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  ユートピア・ゴーレムに 202 のダメージ!

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 しかしゴーレムは諦めなかった。

 たとえ装甲が剥がれ、ひしゃげ、全身を流れる深紅の血流がばちばちと音を立てても、殴り合いを続けた。

 あれほどカッコよかった黒鉄の身体が、徐々にその原型を失っていく。


 男がふひひ、と気持ちの悪い声をあげながら不格好な蹴りを放った。

 これが決定的であった。

 男の蹴りがゴーレムの右腕にめり込み、肘より下が千切れて、地面に落下する。


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  ユートピア・ゴーレムに 254 のダメージ!

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 ゴーレムが悲痛な叫びをあげた。

 まるで電線が千切れた時のように、腕の断面からばちばちと大量の火花が散る。

 俺の背中をさすったあの腕が、いまやぬかるみの中に横たわっている。


 やめてくれ。

 もうやめてくれ。


 ゴーレム、お前は第二の生を拾った時、あんなにも喜んでいたじゃないか。

 生きたかったんだろう。そしてかつてのように人から頼られたかったのだろう。

 それが、俺みたいなつまらない人間の仇討ちなんかで死にかけて。


 いよいよ限界が来たらしい。

 彼は泥土の中に崩れ落ちて、そして最期の力を振り絞るかのように――仰向けになった。


「おっwww? これは俗に言う背中の傷は武士の恥、というやつですかなwww?」


 男は自らの勝利を確信し、うすら笑いを浮かべながらゴーレムににじり寄る。

 そしてヤツは、息も絶え絶えに、しかしどこか誇らしげにこう答えたのだ。


「――なにが恥か、ワシの背中には名誉ある赤錆と誇りが、今もべっとりとこびりついておる。貴様のような若造が触れようなどとは、おこがましいのじゃ」


 その瞬間、俺の脳裏を、この世界へやってきてからの一ヶ月の記憶が走馬灯のように駆け抜けた。


 明けても暮れても、ボロボロになった亀の子たわしでヤツの背中を磨き続けた日々。

 恐ろしい風に怯えながら、パゼロの中で震えていた日々。

 食うにも困ってそのへんの草やらトカゲやらを食って、ゲエゲエ吐いた日々。


 はたから見れば、きっと最悪の異世界転生なのだろう。

 きっとこれを小説にしたところで、誰も読みやしない。

 だって痛快でもないし、可愛いヒロインも出ない上に、途轍もなく泥臭い。

 だが俺はこの一か月間が、どうしようもなく楽しかったのだ。

 そしてそんな異世界ライフの傍には、いつだってアイツの姿があった。


 ゴーレムのくせにとんでもなく卑屈で、青臭くて錆臭いサラダばかり俺に食わせて、そのくせ頭が良くてカッコよくて、誰よりも素直で。

 そして、こんなクソみたいな世界、天国に最も近い地獄で出来た俺の、たった一人の――友人なのだ。


 俺は駆けだした。一も二もなく、遮二無二駆けだした。

 ぬかるみの中を、泥だらけになりながら駆けた。


 今にもゴーレムにトドメの一撃を食らわせようとしているあの男が、足音に気付いて振り返る。

 俺はそんなあいつの呆けた顔面に一撃、拳を叩き込んだ。


「おぶっ!?」


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  ???に 1 のダメージ!

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 男は、不意の一撃に身体を二度ほど回転させて、そのままぬかるみにダイブする。

 派手な音を立てて泥水が舞い、男は目を白黒させながら、口の中の泥水を吐き出す。


「おまっ、おま、苦、べええっ!」


 例の気味悪い喋り方を維持する余裕もなくなったようだ。必死で泥を吐き出している。

 なんだ、口に泥が入ったくらいでぎゃーぎゃーとわめきたてやがって。


 こちとら田舎育ちだ。

 田植えの最中田んぼに頭から突っ込んで死にかけたこともしばしば、こちらの世界に来てからも青臭い毒草を食らい、トカゲやらカエルやらを食らって生き延びてきたのだ。

 口に残るその泥の味が、俺だ。

 その泥臭さこそが、俺の異世界転生なのだ。


「きょ、キョースケ……? どうして、おぬしは……?」


 ゴーレムが驚愕の表情で俺を見上げている。

 信じられないのだ。

 何故俺がここに立っているのか、どうして死んでいないのか。


「ぶふっ、ぶふ……ななな、なんで生きてるんだよぉ! さっき僕の攻撃を食らって、5000ダメぐらい食らっただろぉ!?」


 そんなには食らっていないが。


 ……でも、確かに不思議だ。

 一か月前に確認した俺の最大HPは確か15ほどだったと記憶している。あれから1レベルも上がっていないから、この数値に変動はないだろう。

 そして先ほど食らった攻撃は、俺を軽く50人以上は殺せるほどのオーバーキルであったはずだが。


「く、くそ! 開示請求! ステータスの開示を請求汁!! 観察眼!」


 男の脂ぎった眼が、スキルの影響からかぎらりと光る。

 なるほど、レベルの高い観察眼なら相手のステータスすら分かるのか。

 ならば俺も遠慮なくステータスを見させてもらうとしよう。


 ステータス、口に出して唱えると俺のステータスウインドウが眼前に呼び出された。

 そして俺も、ゴーレムも、そしてあの古いオタク風の男も、一様に目を剥いた。



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  クワガワ・キョウスケ Lv1

 

  農民

 

  HP 999145/999999

  MP 4/4

 

  こうげき  6

  ぼうぎょ  8

  すばやさ  9

  めいちゅう 11

  かしこさ  15

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