第八話 技と力
俺の剣は、空を斬った。
驚きだ。結構自信あったんだが。
マッシュは素早く俺の右側面に避けた。それもかなり余裕があるように見える。
やはり凄まじい反射神経だ。
「速いな、王子。今のは見事だった。」
「そりゃどう、もっ!」
語尾と共に足の向きを彼の方へ向け、その勢いで剣を横に振る。
止められるのは当たり前だ。ここからが重要なのである。
彼は態勢を正面に向けて、斜め上から荒い一撃を下ろしてくる。
とても速いし、恐ろしい破壊力だ。まともに防御したら剣が折れるのではないだろうか。
その破壊力を物語っていたのは地面の石垣。
本気で振ったようには見えなかったが、石垣は当たったところだけ粉々に砕け散り、地面は浅くえぐれている。
「おー、怖いね、あんた。すげぇ馬鹿力、剣より、斧のほうがよっぽど向いてんじゃないの?」
やや挑発気味でもあったが、彼は冷静だった。
「武具は剣以外使ったことがなくてな。」
「そうかい。」
手練れにしては以外だな。
いや、逆か。
慣れた物を使い込んだ方が強いに決まってるよな。
「フンッ!」
「あっ!」
やべっ!
かろうじて剣で受け止めたものの、もろに彼の馬鹿力をくらってしまった。
俺の身体は、まっすぐ後ろに飛び、地面を転がる。
「ラルッ!」
フィーか?いててて……
大きい岩でもぶつけられたかのような衝撃だ。腕が痺れる。
「おっと、大丈夫か?王子。」
「敵の心配してる場合か、このっ!」
なめんなよ。
俺はまたも彼の方へ跳んだ。
俺には策がある。ただ闇雲に突っ込んでいるわけではない。
ヤツは自分の反射神経によほどの自信があるのか、一切構えようとしない。たしかにどう斬ろうとも、剣意外に当てるのはこいつの場合至難の技だ。さっきも止められたしな。
そして、止められたら、次に繰り出してくるのが規格外の威力を持った重い斬りだ。
ならば。
「っ!」
わざと軽く攻撃した。そしてすぐに剣を引く。
予想通り彼はまた同じように斜め上から斬りを仕掛けてきた。
(もらった!)
剣を両手で持ち、避けながら、相手の剣と火花を散らしながら擦らせ、威力を受け流した。
ヤツの身体はバランスを崩し、全身がら空きの状態が出来た。おまけに剣が地面にぶっ刺さってる。
「なに!?」
あえてゆっくりとした動作で、彼の首に剣を近づけた。
「はい、俺の勝ち。」
「「うおおおーー!」」
その瞬間、周囲が歓声を上げた。
マッシュの手をとり、立ち上がらせる。彼の表情はとても穏やかな笑みだ。
「完敗だ。見事な剣技だったぞ。」
「ありがと。でも、一つ聞いていいか?」
「うむ。なんだ?」
「あんた、なんで構えないんだ?」
こいつは一度としてまともな構えを見せず、棒立ちだった。
世界中に様々な剣技が存在するが、構えないものなど聞いたことがない。
「あれは相手を油断させるための一種の技だ。俺はそう習った。」
「え?どこで習ったんだ?」
言うと彼は少し困った表情をした。
「悪いが細かいことは言えない。」
「そっか。んならいいさ。」
別に詮索する必要もないしな。ちょっと気になっただけだし。
「では、約束通り、金だ。」
懐から金貨五枚を取り出してきた。俺はそれをありがたく受けとる。
「サンキュ。」
金はあって困るモノではない。集めれるだけ集めておきたいな。まあ、当分は苦労することはないであろうが。
「では、また。どこかで会える日を待っているぞ。王子よ。」
「あぁ、またな剣士さん。」
彼はもうここで勝負待ちをしないのか、街の路地に消えていった。
俺もすぐにフィーの元へ戻る。
「大丈夫?怪我してない?」
「してないわけないだろ。ほれ。」
さっき、ぶっ飛ばされたときに肘と膝を多少切ったようで、血が流れている。俺はこういう地味な痛みが嫌いだ。ずっと痛みがまとわりついて離れない感じがどうも気になって仕方がない。かといって重症に慣れている訳でもないがな。
「あぁ!もう、無理しないでよバカー!」
「戦闘で怪我しないほうが珍しいっつーの。だいじょぶだよ、こんなもん。」
なおも心配そうな表情のフィー。
「ちょっと、こっち来て。」
「えっ?ちょ、ちょどした?」
急に俺は腕を引っ張られ狭い路地に連れていかれた。
人気がない。二人だけの空間だ。それもギリギリ二人入れるぐらいの幅。
な、なにをしようっていうんですか?フィーさん?期待しちゃうよ?ねえ?ねえ?
だが、聞こえてきたのは誘惑の甘い声でも、服を脱ぐ音でもなかった。
「ラル、腕だして。」
「う、うん。」
言われるがまま、怪我した方の腕を出す。
すると。
フィーは傷口に手をかざした。
「ヒーリング。」
その一言で、淡いエメラルドグリーンの光が俺の肘の周りに唐突に現れた。
「えっ?こ、これは?」
「見たらわかるでしょ?治癒魔法だよ。」
「い、いやそうだけど、いつ覚えたんだお前?」
驚きだな。
みるみるうちに傷口はふさがり、血も出なくなった。
「洞穴を抜けた後に馬車の中で積んであった魔法書を見て覚えたよ。」
「なるほどな。」
そういうことか。ていうか、治癒魔法とはな。魔法を使えるだけでもすごいのに、さらに驚きだな。
治癒魔法というのは、数少ない魔法適合者の中でも、さらに限られた者しか使えず、加えて特別な魔力がないといけないらしい。
ちなみに俺は使えない。
「でもさフィー。」
「なに?」
「なんでわざわざこんなとこに来たんだ?」
俺とフィーの仲だ。変なことは考えてしまったても仕方無い。よな。
「ラルなら知ってると思うけど、治癒魔法って、レアな魔法じゃない?だから、変に人に見られるのも避けたほうがいいかなぁって、思ったの。」
たしかにそうかもな。治癒魔法が使えるとなると、まず冒険者からパーティの勧誘が殺到するだろうな。
いつ死んでもおかしくない仕事している彼ら冒険者にとって魔法で回復できるとなれば死亡率は格段に減るだろう。そうなれば誰だってそれを欲しがるに決まっている。
あと考えられるのが、簡単な医者の仕事だろう。世界中でも治癒魔法を使える医者はもちろん少ない。それゆえ、すぐに怪我人を治せる魔法使いがいれば、自分は仕事をしないで次々に怪我人を治せるからな。欲しがるに決まっている。
無論、どちらにせよ俺のフィーはやらん。
ていうか、
「お前、やけに冴えてんな?」
いつものフィーじゃないな、なんか不気味だ。
「そう?いつも通りだよ?フフ。」
疑われたくないのか、いつもの笑顔を、見せてくれる。ついでにちょっと跳ねて、いつも通り揺れている。
「そうだな。いつも通りだな。悪い悪い。」
「わかればいいのだー!」
ニカッと白い歯を見せ笑ってみせた。
「さあ、行こうぜ、次は宿探しだ。日が暮れちまったからな。」
「わーい!宿屋だー!ねぇラルー」
「ん?」
急に声音が変わったフィー。
「えっちぃことできるとこでもいいんだよ?」
なぬぅっ!?
「な、なな、なにを言ってんだお前は!」
「アハハ!顔が真っ赤だよ!ラルったら可愛い!」
ったく、今のはビビったぞ。本気にしちまうだろうが。
「う、うるせぇ!とっとと行くぞ!」
「ウフフ!はーい!」
まあ、旅の序盤からヤるつもりは流石にないさ。
それから、俺たちは街のあちこちを見て回りながら、安い宿屋を見つけ、一晩を一部屋で二人で過ごした。
も、もちろんすぐ寝たぞ。
少し短くなってしまいましたが、キリのいいところがここしかなかったので。
次回からは、少し違う人物にも目を向けてみようかと。




