第五話 俺が守らなくちゃいけない
揺れる馬車。
二時間ほどたったが、今も馬車は走り続ける。
フィーは隣で寝息をたてている。
(そういえば、手紙の続き読んでなかったな)
ふとそう思い、また手紙を木箱から取り出す。
続きはよく見るとあった二枚目に記されていた。
そういえば、ラル。
お前達を今運んでくれている馬手がいるだろう。
たぶんそいつは、
“俺の国の騎士じゃない”
「は?ど、どういうことだよ……」
俺の疑問に答えるかのように手紙の文章は続きを記していた。
疑問に思っているだろう。
順を追って説明しよう。見慣れない新人が、一年前に入ってきたのを覚えているか?
ハッキリと覚えていた。
猿みたいな顔でじとっとした目をしていてやけに前髪が長い、暗そうな新人の騎士が一年前に確かにいた。あれから見かけていないな。
もう一度、手紙の文字の羅列に目を落とす。
そいつは、隣国の暗殺者、兼、スパイだろう。
「暗殺だと!……あっ!」
「王子?どうなさったのですか?」
やばい、声がでかかった。
「い、いや、なんでもない、父さんが変な食料入れてたから驚いただけだよ、アハハ…」
「ハッハッハ、そうでしたか。」
ふぅ、ごまかせた……
よし、前向いたな
もう一度続きを見てみる。
そいつが警備中に居眠りしてるのを見てな。ちょいと頭の中を覗かせてもらった。そしたらビックリ仰天ってわけだ。
「そっか、父さんは眠ってるヤツの考えてること覗けるんだっけ。」
今考えれば恐ろしい能力だ。父さん曰く、それも魔法の一つなんだとか。
だが、お前はここで一つ疑問に思っているだろう。
あぁその通りだ。
なんでそいつを騎士から外さない?
俺の危険が増えるだろうが。
なんだ、愛する息子に一日もしない間に死ねと?
けどな、ラル。俺はこの魔法を使えることを知られちゃまずいんだ。
俺が使った魔法、いや“呪文”は使ってはいけない禁忌の呪文の一つだ。
その文に目を疑った。
禁忌の呪文だって?
これを使えることがバレたらそれこそ俺が国から狙われ、殺されるだろう。そしたら国は崩落。仮に生きてもエルミナと共に逃げる人生になってしまうだろうな。
なぜ俺が禁忌の呪文を使えるかはまだ言えない。
いいか?この事は他言無用だぞ?フィーにも言わないでおけ。いいな?
さて、ここからが重要だ。
フィーにも言っちゃ駄目なのか。
いや、こいつなら町で仲良くなったヤツに勢いで言っちまったなんてことありうるもんな。
いいか?その男は日が暮れてきたら、どこか野宿できる場所を探すだろう。そして、お前が寝ている間に殺す。
そうならないようにする方法は、簡単だ。
教えなくても思いつくと思うが、“寝たフリ”だ。
おいおい、なんか頼りねぇ作戦だな…
野宿できる場所といっても魔物は出るだろう。ヤツは深夜まで警備を続けるだろうな。
そして、粗方魔物を片付けたらお前を襲ってくるはずだ。
だが、フィーも狙われる可能性は捨てきれない、用心しろ。
襲おうとしてくる瞬間に剣を抜け。
それだけは絶対に駄目だなんとしても。
こいつはなによりも大切だ。なによりも優先して助けなければならない。例えそれが俺の命だったとしても。
心配だとは思う。だが大丈夫だ。
お前の剣に勝てる者などいない。俺以外にはな。
だが、殺すなよ?精々身ぐるみを剥がして国に帰らせる程度にしておけ。
そこで、文は終わっていた。
「………」
確かに俺は誰にも負けない自信はある。だがそれは悪魔で木剣を使った模擬戦でのみだ。本当の剣を使って戦ったことなど一度もない。
「できるのか?俺に………」
「ん~~~……」
フィーが俺の服の袖を寝たまま掴んできた。
そうだ。俺にはこいつを守る使命がある。
勝手に死んだりしたら駄目だ。
ぜってぇ勝つ。
「王子、そろそろ日が暮れます。あそこで野宿しましょう。」
言うと、小さい洞穴を指差し、そちらに向かった。
「あぁ、そうしてくれ。」
俺は悪魔で愛想よく答えた。
そして夜、洞穴の前に到着し、松明を置く。魔物避けだ。騎士は外で警備をしている。その間俺は洞穴の中に寝巻きを敷き寝転がる。
フィーはもう寝てしまっている。
そして騎士、いや、俺を殺そうとしてる暗殺者は、外で近寄ってくる猪型の魔物を狩っていた。
(あいつ、大したことないな。)
奴の剣を見てすぐに思った。
アイツの剣は未熟だ。一撃が重たいだけの遅い剣。
俺が一番得意な相手だ。
やがて、魔物が近寄らなくなってきた頃に奴は洞穴に入ってきた。
俺は急いで目を瞑る。
右手には父さんから貰った剣。
俺は、目を瞑ったまま耳をすませる。
左から近づいてくる足音、その足取りは確実に俺の方へと向かってきている。
微かにだが、確かに剣を鞘から抜く音がした。
「さよならだ、王子さま。これで俺も貴族の仲間入りだな。悪く思うな……死ィィィィねェェェェエ!!」
絶叫しながら剣を降り下ろすのを、確かに見ながら、俺は即座に剣を抜刀し、仰向けのまま片手で剣をぶつける。
「なにぃ?!」
遅い
あまりにも遅い。ふざけているのか。
「遅いな。」
飛び起き、右下から、斬り上げを放つ。
暗殺者は辛うじて受け止め、後ずさる。
俺は容赦しない。左足を少し後ろに引き、同時に左横から水平斬り。
またも受け止められるが相当重かったらしく苦い顔で耐えている。
「お、お前、何者だ!?」
同様した様子で問いかけてくる。
「あ?王子ですけどなにか?」
「そういう意味ではっ……!」
剣に力を加える。
「知ってるよバーカ。最初はあんたのこと怖かったけど、悪いな。もうあんたのことちっとも怖くなくなった。」
そう、最初、あの絶叫を聞いたときは正直震えていた。たしかにこいつの剣は遅いことはわかっていた。だが、一歩間違えれば死ねと思うと怖くて仕方なかった。
でもなんでだろうな。
今も同じ状況なはずなのに。
ちっとも怖くねぇ。むしろ、
「むしろ楽しいぐらいだ。」
「なっ、なんだとぉ!?貴様ぁぁ!この俺をナメてんのかぁぁ!!」
また叫び、大きく振りかぶり真上から降り下ろしてきた。
が、もちろん避ける。奴の幅広な剣は地面に浅くめり込んだ。
「ったくうるせぇやつだな。アンタ本当に暗殺者かよ、笑えてくるわ」
心の底から嫌な笑い声を上げてやる。
俺は父さんに教わった。相手がどんな強者であろうと、常に余裕な態度にとれと。あの頃、意味わかんなかったけど、今ならその意味が理解できる。
奴は怒り狂い、眉間にシワを寄せ、汚い顔で襲ってくる。
「許さん!許さんぞ貴様ぁぁぁあ!!」
シュン、シュン
どの斬撃もラルの剣にも身体にもあたらず、空を斬る。
「おらよっ!」
「どごぁ!」
腹を思いっきり蹴り飛ばした。数十メートルは飛び、洞穴のゴツゴツした壁に激突した。
「く…くそぉ……」
「どうした?もう終わりかよ?ヘタレ暗殺者。」
「フン、まだ終わりではないぞ!」
「あ?……なっ!てめぇ!」
あの野郎……
フィーを。
「ハッハッハ!!動くなよぅ?動けばこいつの首が飛ぶぞ?ハッハッハ!!」
奴はフィーの首に剣を突き付けた。
フィー、なんで今まで寝てたんだよお前は!
「いやぁ!誰よあんた!離しなさい、この猿男!」
「だまれ!!」
再度、首に剣を近づけた。
くっそ、どうする?奴はフィーを盾にするような体勢だ。変に突進したらフィーが危ない……どうする……
「フッフッフッ、それにしても小娘、いい身体してんじゃねぇか、えっ?クックック…」
なっ…
「いやっ、やめて!」
こい、つ……
「フッハハハハ!!さあ、なにかできるのかな?王子さまぁ?」
俺の、フィーの、胸を……揉み………っ
許さんぞ猿野郎……!
「……殺す……」
「えっ?なんだって?聞こえねぇなぁ?」
殺す。
ぶっ殺す。
「はあぁ!!」
刹那。
俺の身体は男の目の前まで飛び、気付けば奴の首の数ミリ手前まで、俺の剣が近づいていた。
「死にたくなかったら…フィーを離せ今すぐ!!」
「ひ、ひぃぃー!!」
男は怯え、すぐにフィーを離し、去っていった。奴がどこに逃げたかわからない。だが、そんなことはどうでもいい。仕返ししてするほど度胸のある奴でもないだろう。
「あ……」
「おっ、と。」
フィーが脱力し、俺に倒れかかった。
「怖かったよな。ごめん。」
「ぅうん、あり、がと…っ」
泣いてしまった。ひどく怯えてる。相当怖かったんだな。
そっと、頭を撫でた。
「今日も一緒に寝よう。」
「ぐすっ……ぅん…」
「大丈夫だ。もう怖くないさ。」
すぐに寝巻きをもう一度広げた。
「あれ?…くるまないの……?」
「こうすれば一緒に寝れるだろ?フィーのを掛け布団にしよう。」
「…うん。」
俺の寝巻きを広げ、敷き布団にし、フィーのを掛け布団にする。少し小さかったが、二人で一緒に入れた。
「あったかいね…」
「あぁ。ちょっと狭いけど。」
「くっつけばいいんだよ。」
言うと、俺に抱きついてくる。俺も右腕をフィーの背中に回す。
なんて細い身体だ。戦うには頼りないな。
俺が守らなくちゃいけない。そのことを、改めて感じた。
今日みたいなことはあっちゃいけない。絶対にだ。
それにしても、俺はいったいどうしてしまったのだろうか。
自分でも信じられないような早さであの男に突進した。明らかに人間が生身で出せるスピードではなかった。てことは魔法か?
でも自分で発動するものだよな、魔法って。仮に今回みたいに怒ってとんでもない魔法が飛び出したりしてしまったら、危険だな。
「ラル?」
「ん、あ、ごめん。」
「怖い顔してたよ、大丈夫?」
「あぁ、ごめんな。」
つい色々考えてしまった。この事については今度だな。
「もう、謝ってばっかり…」
「そ、そうか?悪い…あ」
「ほらまた」
なんか謝ってしまう、なんでだ。
まあいいか、ちょっと元気になったみたいだし。
「フフッ、今日は早く寝よ?疲れたよ。」
「そうだな。俺もそうしたい。」
「でもっ、その前に…」
そっと、俺の左頬にキスをしてきた。
「おやすみ。」
「おう。おやすみ。」
目を瞑り、俺の方を向いたまま寝始めた。
俺じゃなくて、俺の息子が元気になる行為はやめてくれ。
その後何分か息子は元気百倍モードだったが、さっきの戦闘で相当疲れたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。
フィーももう寝たようだ。
最後に俺もフィーの頬にキスしてから、眠りについた。




