第三話 旅路への道 準備と学習
二日後。
アルロスが準備をしている間、ラルは過去の勇者の文献を城の図書室で読んでいた。
一方でフィーは、自分も旅に同行するのだというのに城内ではしゃいで遊んでいるようだ。
「えーっと………これかな?」
城の図書室は広大な広さだ。
まず、図書室一階には、分厚い歴史の本から、物語ものまで様々な種類の本をぎっしり並べた背の高い本棚がずらりと二十個ほど奥に続いている。
一階が見下ろせる形になっている二階は、城内の人間しか読むことは許されていない、魔法書が置かれている。
ラルは今一階にて、本棚の高いところに見つけた、「第七の勇者 復習の炎 ガイアス・クローケル」という本を取ろうと脚立に登っていたところだ。
脚立に座ったまま、一ページめくってみる。
記されていた内容は、ガイアス・クローケルという七人目の勇者の魔王討伐までの経緯だった。
かなり長いが、内容はこのような感じだ。
世界の一番西の国にある大国、「タヤラナ」で生まれた平民の少年、それがガイアスだ。
彼は幼い頃から頑丈に育ち、力自慢であった。だが彼は魔法の適性はこれっぽっちもなかった。
そんな彼が勇者誕生の夢、「誕勇夢」を見たのは十二歳のときだった。
「十二歳……俺より四年も早く………」
彼もラルと同じく、魔王と戦う光景をハッキリと目にしたという。
そのことを知った国王は、すぐさまガイアスを城へ呼び、勇者にさせるべくあらゆる知識と力を与えた。
勇者がその国から出されるのは国にとって名誉なことだ。
だが、彼は拒んだ。
自分は、この国で普通の生活を送り、生涯を終えたい。勇者など他の者を探してくれ。と。
「ありゃま。俺みたいにファンキー!なヤツじゃないのな。」
何事もなかったかの様に読書を再開する。
王は悩む。なんとかして、この幼い少年を未来の勇者にできぬものかと。
そして思い至った結論は、なんと彼を単身で国から追放することだった。
そうすれば悩み、生きようと足掻こうとするだろう。
さらに彼には王から与えられた知識がある。
どうすれば金を稼ぎ、名声を上げられるのか。
どうすれば力のある戦士になれるのか。
彼の行き着いた先は隣の小さな町だった。彼はすぐに「ギルド」と呼ばれる建物に向かった。
そこは冒険者が集まる集会所だ。依頼を受けるため、仲間と酒を飲み交わすため、あらゆる者が集まっていた。
そんな光景にガイアスの心は震えた。
ここが、自分らしく生きていける場所だ。直感的にそう思った。
すぐに彼は強くなった。得意とする武器は、その力故に、大きい斧。
この斧を振るう自分に勝てる者はこの世にはいない。彼はそう思い増長した。
ある日、たった一人いた誰よりも信頼できる仲間を連れ迷宮に向かった。
「迷宮って…たしか罠がメチャクチャあって、魔物がメチャクチャいて、メチャクチャ危険なとこだよな…」
その迷宮は金稼ぎのため幾度も訪れ、馴れた場所だった。
だが。
彼の仲間は迷宮の罠に掛かり、即死した。
「なっ………!」
ガイアスはそれを目の前で見てしまった。
壁から飛び出した数多の剣に貫かれたその姿を。
彼は、たった一人の仲間を、たった一人の友人を、その一瞬で無くしてしまった。
ガイアスは膝を地面につき、下を向く。
俺が、俺が先に行っていれば……
彼は後悔した。
そして、怒り狂っていた。
この迷宮も、この罠も、全て作ったのは魔王だ。そうだ。
俺は奴を殺す。なんとしても。
彼は復讐を誓い、力を付けようとなんでもした。通常、四人ほどで連携とらなければとても敵わないような凶悪な魔物も彼は軽々と殺した。時には依頼の事情で人を殺すこともしばしばあった。
それから三年間、彼は孤独だった。孤独だった故、その強さは日を重ねるごとに恐ろしいものになっていった。
適性がなかったはずの魔法も軽々と使った。今まで両手でしか振れなかった斧を片手で短剣の様に扱った。
彼はもう人間ではなかった。一週間ほど寝ないで依頼に行き続けても、平気な顔で戻ってきたり、立てないほどの重傷を魔物から受けても、痛みを感じていないかの様に、その状態で戦い続けるなんてことさえあった。
復讐の炎に身を包んだ悪魔。そうなるのに時間はそれほどかからなかった。
彼はいつしか、特魔法であろうものを覚えていた。いや、造り上げた、というべきか。
魔法書にも、呪文書にも載っていない、彼自身が造り上げた魔法だった。
「彼、自身………」
その魔法は、どう見ても勇者が使うような、輝かしく、美しいものではなかった。
黒紫の炎、それを全身から放出し続けている。
悪魔だ。誰もがそう言い、彼を恐れた。だが彼の耳にはもうそんな言葉は届かない。
そして一年後、ついに魔王はその姿を現した。
魔王は天空から雲を裂くように現れた。だが、の姿を見た者はほとんどいないという。
「えっ?」
なぜなら、ガイアスがその姿を見た途端、魔王も追い付けないような凄まじい速さで殺したのだという。
その殺し方は、あまりにも代償が大きいものだった。
彼は復讐の黒炎を最大限まで出し、その身を焦がしながら魔王に突進していったのだ。
魔王は腹を貫かれ、苦しむ間もなく、復讐の炎に焼かれていった。
「マジかよ………」
ラルはそこで本を閉じた。
「こんなヤツもいたんだな………」
共感、したわけではなかったが、なんだか不思議な気持ちに襲われ静かに元あった場所に戻した。
「さて、もうちょっと頑張るかな。」
それから読んでいった勇者の文献は、どれも同じようなものだった。
誕勇夢を見、長い年月をかけ特魔法を習得し、魔王に圧勝する。といった流れだ。
第一勇者から、第八勇者まで読み終わったところで、日が暮れた。
「ラルぅー?はかどってるぅ?」
脚立に座り、本棚に体重を任せて休んでいると、右から聞き慣れた声が聞こえてきた。フィーだ。
「あー、まあね。てか、お前も手伝えっつーの。」
「え~、僕、昔の本なんて読んでもちんぷんかんぷんだよ?」
「だろうけどさ……まいっか。それじゃそろそろ部屋に戻ろう。」
その後、二人で部屋に戻り二人で寝たそうだ。
一方、日が暮れ、月が顔を出し始めた頃、アルロスは兵士と騎士に旅の準備を進めさせている間に、 一振りの剣を磨いていた。
片手で持つのにちょうどいいサイズの黒い柄と握り。柄頭は丸い銀が施されているだけで、装飾はない。左右に短く伸びた十字の鍔。刀身は細めで、ソードよりも細く、レイピアより太いといった感じだ。
銀色に輝くその真っ直ぐな刀身は、少し黒ずんでいるようにも見える。
「さて、これをアイツに渡す日は近いな。」
「いいの?それはあなたの大切な剣じゃあ……」
「いいんだ」
言うと、磨き終わったのか、剣を革の鞘に金属音を微かに響かせそっとしまう。
「この剣はもう俺には重すぎる。」
「そうですか………」
意味が隠った言葉を残し、アルロスは愛剣をそっと立て掛けた。
勇者の名前ガイアスって、お前が魔王みたいだなw
と、後で思いましたw




