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第十三話 悪魔に見つかった鬼

 翌日、早々にコルトを後にした。

 流石にあんなところに長居はしたくないからな。

 けど、アリアとそのお母様には、本当に世話になったな。

 もし、またどこかで会ったら礼をしよう。


 さて、オータリアに向けて旅立ってから、それなりにたったが、遠いものだな。

 一ヶ月なら大したことないと、最初は思っていたりもしたが、予想を上回る大変さだ。

 短期間で色々ありすぎたというのもあるが、今俺は間違いなく人生で一番疲労しているだろう。

 まあ、城にずっといたから当然といえば当然なんだが。

 これからも多々面倒なことは起きるだろう。なるべく早くオータリアに着くっていうのが一番だな。

 いつも持ち歩いている、丸めた地図を、馬車の中で広げる。

「フィー、いいか?まずは……」

 フィーに説明しながら、最短ルートを探すことにした。

 オータリアまでの道のりは、街道が敷いてある所を通るばかりなのでかなり安全だ。

 だが、俺達の様に南から来る場合は訳が違う。

 俺の国から北上していくと、東から西に連なる山脈が並んでいる。

 それがまたデカいのだ。

 たった二人、しかも馬車付き。加えて登山経験無し。

 この最悪条件では流石に登る訳にはいかないので、洞窟を通る必要がある。

「この洞窟が面倒なんだよなー……」

「確か、名前はー……」

「トロールの巣。」

 そう、“トロール”。コイツが面倒なのだ。

 トロールとは、巨大な体躯で実に醜悪な容姿をした、三メートル程の巨人だ。

 鉄の如く硬い皮膚で、普通の武器では攻撃した瞬間に折れるか砕けるだろう。

 俺達の様な初心者冒険者では、気を抜けばすぐにでも殺されてしまう危険性がある。

「ねえ、ラルー、このトロールってなにか弱点とかないのー?」

「ある。光と炎だ。」

 洞窟は常にどこにいても暗い。そこに住み着いているのだから、当然奴らの目は暗いところでも活動できるよう、進化する。

 それを逆手に利用する。

 急に眩しい光を浴びせれば、かなりの威力の目眩ましになる。効果は絶大らしい。

 次に炎。

 大抵の魔物は炎を嫌うが、コイツは筋金入りの火嫌いだ。

 奴らの硬い皮膚は、熱に非常に弱い。炎を体に当てることが出来れば、これもまた効果は絶大。

「じゃあ、それを使えばそこ普通にとおれるんじゃーん。」

「それがそうでもないんだ。トロール相手だとまずその弱点を突くことさえ難しいんだ。」

 光は常に出しているだけでは効果がない。

 トロールは顔の中央に大きな目と、その左右に小さい目があり、合わせて三つの目を持っている。

 普段は中央だけを開いて活動しており、二つは閉じている。

 この中央の目がトロールの進化の大きな特徴だ。

 この目だけが暗視に長けているわけで、左右の目は人間の目となんら変わりないのだ。

 つまり、明るい光を確認した時点で、開く目を変えれば済む話なのだ。

「うーん、そんな反則なんじゃどうしようもなくない?」

「でもそこ通るしかないんだよな。」

「「うーーん…………」」


 結局。

 高い金を払って、護衛を雇ってどうにかトロールの巣を通り抜けた。

 護衛の動きは実に手慣れたものだった。

 生き物の命を奪うことになんの躊躇いが無い。むしろ当たり前とでも言うような動き方だった。

 まあ、素人の俺が偉そうに言っても信憑性無いが。



 トロールの巣を抜けて、二日。

 俺達はとても大きな町にたどり着いた。

「な、うおぉぉー!!」

「なーにあれぇー!!」

 城壁を見ただけで驚かされるとは思わなかったぜ。

 鉄と石で出来ているであろう城壁のさらに外側に半透明の魔法の障壁がハッキリと見えた。

「ここ、多分魔法都市シュトーリアだ。」

「えぇ!ここが!?」

「あぁ!間違いない!どこよりも魔法に恵まれ、誰もが魔法と共に生きている発展した都市。シュトーリア。」

 こりゃ、

 おもしれぇとこに来たな。










 アルクリア、城内王室。

 アルロスは珍しく一人で業務をこなしていた。

 いつもはエルミナが隣で手伝っているのだが、彼女は今二人用のソファに横たわっていた。

「まったく、いつも元気なくせに、こんなときに限って風邪なんかひきやがって……平和なヤツだな。ていうか、お前なら風邪ぐらいすぐに治せるんじゃないのか?」

 エルミナは頭まで被っていた毛布を少しだけずらし、美しい顔を出し、わざとらしく咳をする。

「ケホッケホッ、いいじゃないですか、私だって休みたいときぐらいあります。」

「だったらそう言えばいいじゃねぇか、元々俺の仕事なんだからよう。」

 それを聞くと口元に笑みを浮かべ、上半身を起こす。それと同時に毛布が落ち、薄い生地の服に包まれた豊かな膨らみが露になる。

「ウフフ…相変わらずですね。」

「な、なにがだよ?」

「そういうところです。」

「そうかい…」

 言うと、毛布を完全によけ、ソファから立ち上がる。

 体のラインがわかるような、薄く、小さい服は、見慣れているアルロスの目でさえも惹かれるものだ。

「アルロス、仕事が終わったら、私の部屋に来てもらってもいいですか?」

「あぁ、いいが、どうしたんだ?」

「ウフフ、もう、鈍感ですねー?わざとですか?」

「わあったから、早く行けっ。」

 赤くなった顔を見て、彼女は嬉しそうに笑いながら王室を出た。

 なんだかこの二人は、誰かさん達に似ている気がする。

「まったく、なんでこう、いつもアイツのペースになっちまうだろうな……」

 まあいい と頭の中で早々に割りきり仕事に戻った。

「それにしても今日は暑い……少し窓を開けるか」

 椅子から立ち上がり、部屋の右端にある、上に押し上げるタイプの窓を豪快に開ける。

 窓からの景色は最悪と言っていいだろう。

 城は大きい。どこまでも青い屋根しか無い。

「……むっ?………」

 アルロスは遠くの屋根の方に何か見つけた。

(人影か?あんな場所に………もし人なら考えられるとして………)

 と、思考を巡らせていたその刹那。

「!!っ!」

 一筋の矢がアルロスに向かって真っ直ぐ飛んできた。

 だが、残念。

 アルロスは人間離れした反射神経で矢の腹部分をキャッチして見せた。

 それだけではない。

 アルロスはそのまま床にゆっくり倒れた。

「暗殺者か?久しぶりに来たな。どこの国だ?俺に喧嘩売ろうとはいい度胸じゃねぇか……」

 アルロスがしたこと。

 矢が当たって死んだフリをしたのだ。

 こうすれば、暗殺者側の国がアルクリアの王は死んだと思い込み、一気に攻めこんでくるだろう。

 それを逆手に取る。

 アルクリアの戦力は圧倒的だ。そんじょそこらの国に負けるはずがない。

「戦争はなるべくしたくはないが、仕掛けて来るのであれば丁重にもてなしてやるとしようか。」

 余裕の笑みを見せ、ムクッと立ち上がり、部屋を後にした。


 矢を放った状態のまま、フードを被った男性はため息をついた。

「あーあ。避けられちゃった。結構自信あったんだけどなー。まあ、“鬼神の王”様には通用するわけないか。」

 言うと、常人なら引くのもやっとであろう長弓を背に戻す。

 彼は比較的小柄な方だが、何故この弓をいとも簡単に引けたのだろうか。

「さて、まだ鬼神さんが現役活動出来ることがわかったし、帰るとしますかね。」

 言うと、懐から一枚のトランプの様な群青に輝く鉱石が埋め込まれた分厚いカードを右手に持つ。

「開放、テレポ。」

 その一言で、鉱石の光は橙色に変わっていき、彼を包み込む。

 そして数秒でそこに微かな光の粒だけを残し、姿を消した。

 悪魔は悪戯好きだ。

 色々な方法で色々なことをしてくるだろう。

 彼の悪戯から免れた者はいない。

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