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第十一話 近づく時 

「……ジェニファス」

「なんだい?」

「…眠たい。」

「わかったよ、野営できる場所を探そう。」

「ん……」

 静かに、音もなく降る雪。地面に降り積もった雪のせいで方角はまったく分からない。唯一の印は二人の足跡だけだ。

 足跡をつけた二人の少年と少女。

 右の少年の名はジェニファス・フォーゼン。

 分厚い毛皮のコートを身にまとい、身体のシルエットは外側からはわからない。

 フードから僅かに見えるその表情は笑顔。

 銀の髪は長く伸び、顔を隠している。

 彼は常に笑顔だ。それを絶やすことは滅多にない。

 アルクリア王国、王族一家の末っ子である。歳は十四。

 もう一人、背の低い少女の名はルーシエット・ルエット。

 彼女も同じデザインのコートを着ている。

 フードを深く被っているため、表情は伺えない。

 だが、膨らんだコートのシルエットでも華奢なことが見てとれる。

 一つ、この二人にはおかしいところがある。

 二人揃って剣や盾などの武装をしていない、手ぶらな状態だということだ。

「ルー、あの洞窟にしょう、きっと魔物もいない。」

「ん…」

「眠たいかい?なんなら抱っこしていくよ?」

「いい……」

 そのまま歩いていき、しばらくして洞窟に到着した。

「大して深くなくてよかったよ。じゃあルー、“結界”張るから入って。」

 言われるがまま洞窟の中に入る。

 少年はルーと呼んだ少女が中に入ったことを確認すると、本とチョークのような白く、太く長い物体を懐から取り出した。

 そして入口まで歩き、地面に真っ直ぐにチョークで線を引く。

 引き終わると、入口から少し離れ、本の文章を読み始める。

「えっーと、我が示した純白の印に我守りし障壁を造らん、ウォール。」

 少年が棒読みで読み終わると、印から真上にエメラルドグリーンの半透明の壁が出現した。

 コンコンッ と、音を鳴らしながら、半透明の壁を指で叩く。

「うん、だいじょぶだね。」

「…いい加減……そんな簡単なの覚えたら……?」

「まあまあ、戦闘で使うものじゃないし、いいじゃないか。」

「そ……」

「もー、無愛想だなー。でも、そんなルーも可愛いよ。」

 ビクッと身体を揺らした。

 そっと、無造作にフードに手を掛ける。

「……もっと褒めるのだ………」

 露になった彼女の容姿は一言では表せない美しさだ。

 桃色でわしゃわしゃになった長い髪。

 大きい眼は碧。

 とても幼い。十歳ほどに見える。というよりは彼女は十歳だ。

「んー?なんだってー?もっと、大きい声で言ってくれないと、分かんないよ?」

 顔を急接近させ、なおも笑顔で首を傾ける。

「も……もっと……可愛い…って言って……」

「何度でも言うよ、ルーはとっても可愛いよ。」

 返答は待たず、両腕で抱きつき、耳元で高く澄んだ声で囁く。

「壊したくなっちゃうぐらい………」

「もう……するの?」

「いやかい?」

「んうん……」

 首を横に振る。

「じゃあ………いただきます……」

 二人とも躊躇することなく、唇を重ねる。

 二度言うようだが、少年は十四。少女は十だ。

 あまりにも早い展開とは思うが、二人は止まることなく、最後まで済ませた。

 これが初めてではない。



 三十分後。

「ルー、すごくよかったよ。」

 なぜフォーゼン一家は全員「変態」なのであろうか。知る者はいない。

「恥ずかしい……やめて……」

 顔を赤らめ、身体ごとそっぽを向く。それと同時に白く細い裸体が見えた。

「フフフ、恥ずかしいならなおさら言いたくなっちゃうなー?」

「いいってば……もう……」

 まんざらでもない様子だ。

 彼らが向かっている先は青龍。

 あと二日ほどで着くぐらいの距離だ。

 着実に、再会の時は近づいてきている。










「こ、これは………」

「はあ……だから来たくなかったんだよ…ボクは……」

 おっさんに聞いた以上の酷さかもしれんな、この街。

 あれから二日掛けて、コルトにたどり着いた。

 まず驚いたのが門番がいないことだ。どんなヤツでも入っていいですよー状態。これでは街中に魔物がいてもおかしくないんじゃなかろうか。

 入ってみた街の印象は無論最悪。

 街全体が沈黙、風の音のみ。

 ボロい店と民家が適当に建ち並び、家と家の間隔もバラバラ。すれ違う人は皆、ほぼ十割と言っていいほど柄が悪いヤツばかりだ。

 挑発的なツンツンした髪形していたり、最早、顔が挑発的だったり。

 貧乏そうなボロい服を着て赤ん坊を抱えている可哀想な人もいた。

「こりゃ、治安が悪いなんてレベルじゃないな。」

「やだよ………くさいし、汚いし、気味悪いし………」

 そうなんだよなー。

 気味が悪い。確かにそんなオーラが街全体から滲み出ている。

 何処からでも平然と幽霊がこんにちはしそうな勢いだ。

「と、とりあえず俺から離れないようにしろよ?」

「言われなくても離れないよ……というか絶対離さない。」

「絡まれた時は退治したいから一端離れてな。」

「もう!それぐらい分かってるよー!」

 少しフィーが大きい声を出してしまい、周りにいた数名の人が俺達の方を向いた。

 彼らの目からは警戒と拒絶が感じられる。

 早々に立ち去った方が身のためだな。

「フィー、行こう。皆警戒してる。」

 小声で忠告する。

「うん、ボクもここには居たくないよ。」

 合意したところで立ち去ろうとしたその時。

「あ、あの」

 後ろから頼りない女性の声が聞こえてきた。

 振り向き、声の正体に目を向ける。

 あまりにも痩せた少女だった。歳は十歳前後だろうか。俺はその子の長い赤毛に自然と目がいった。

 きっと、ちゃんと洗ってればすごく綺麗だろうな。

「どうしたんだい?」

 しゃがんで、少女の背に合わせる。続いてフィーも。

「あの、あたし、アリアっていいます。旅人の方ですよね?」

「うん、そうだよ。」

 怖がらせないよう、柔らかい声音を意識する。

「あ、えっとその、お、お願いがあります!」

 声を若干大きくし身を乗り出してくる。

「幽霊を倒してください!」

「はっ?」

 こっからが大変だった。








「ラルー!ホントに幽霊探しにいくの!?」

「そうするしかないだろ、あんなか弱い少女のお願いを断るつもりか?」

「もう、イジワル!」

 事は、一日前にさかのぼる。


「ゆ、幽霊?」

 幽霊だとー?

「そうです、最近、夜になると幽霊が出るんです!だから皆怖がってて、その、困ってて」

 なるほどー。

 多分その幽霊は魔物だな。

 ここ最近は読書に没頭してたからな、いろんな知識が増えた。まあ、主に歴代の勇者が体験してきた記録から学んでるんだが。

 俺が本で得た知識では、確かに幽霊と呼べる不気味な魔物がいた。

 そいつらは、主に「ゴースト類」とかって呼ばれている。

 たしか、死者の魂が怨念まみれで蘇ったっていう、大層恐ろしいもんなんだが、個体数は少ない。

 でも中には悪さを一切せず、密かに過ごしている個体もいる。

 どちらにせよ、治安が悪くてどこもスラムみたいな此処じゃあ、結構いてもおかしくないな。

「それで、具体的にどんなことがあったんだ?」

「えっと、幽霊は人にとり憑くって誰かが言ってました。それで、とり憑かれた人は、急に笑いだしたり叫びだしたりで大変なんだそうです。」

 か、可愛い声でもの凄くおっそろしいこと言ったな、この子。

「へ、へぇぇーそっかー、それはー困ったねー。」

 フィーが冷や汗をかきまくりながら頑張って愛想良くしていた。

 フィーは恐いの苦手だからな。俺も得意ではないが。

「そうなんです……街の人は怯えながらも、なにもしようとしなくて……」

 全員が冷めきってる感じだもんな、この街。

 無責任な奴ばっかりってことだな。

「だ、だからお願いです!幽霊を倒してください!」

 どうする?

 その言葉が隠った目をフィーに向ける。

「ボ、ボクはか、かか、かまわ、ないよ?」

 大分動揺してんじゃねえか。

「アリア、わかったよ。俺達がなんとかする。」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 俺の手を握って上下にブンブン振ってくる。

「ただー、一ついいか?」

「なんでしょう?」

「まともに泊まれる場所を教えてくれないか?この街、いい宿ありそうもないし、さ。」

「わかりました。でしたらあたしの家に来てください。」

 というわけで家に上がらせてもらうことになった。

 たどり着いた民家は、まあ予想通りボロい。

 だが他のよりは若干ではあるが、木の質がいい気がする。

「お邪魔します。」

 同じ木材で出来たノブを倒し、ドアを開ける。

「入って入って!」

 アリアに引っ張られ、危うく靴のまま入りそうになったが、両足を上手く使って靴を脱いでから入った。

 フィーも同じように引っ張られ転んでいた。アリアはそれに気付く様子もなく嬉しそうに家の奥へと走って行く。

  部屋に入り、目に飛び込んできた光景はなんとも家庭観があるごく普通の家庭。


 とは、とてつもなくかけ離れているものだった。

「きゃゃゃゃあぁぁぁ!!」

 フィーの絶叫と逃げる足音が聞こえたのは部屋に入って一秒もしない間だった。

「アリア、こ、これは、どういう……」

「ん?どうしたんですか?」

 いや、どうしたんですか? じゃねぇよ。

 半端ない数の幽霊、フツーにいますけど。

 見えていないのか、奥にいたアリアの母親らしき人物が俺に平然と挨拶をしてきた。

「いらっしゃい。旅人さん。もう一人の方はいったいどうしたんだい?なにか見えたりでもしたのかしら、ウフフ。」

 見えたりでもしてます、はい。

 俺が見えている光景はこんな感じだ。

 十畳ほどの部屋に蝋燭の乗ったテーブル、二つのイス、暖炉だけがある。家具だけではだが。

 加えて見えるのは、大小様々な幽霊逹。

 足音は聞こえないが、走り回っている小さな男の子。

 壁に腕を組みながらよしかかっている若い男性。

 床に寝ているおっさん。

 じゃれあって遊んでいる二人の女の子。

 わーなんて愉快な大家族なんでしょーアハアハハ。

 ………マジか。

「アリア、それにお母様。この家からは早々に立ち去った方が……よろしい、かと……。」

「えー!なんでですか?」

 どう説明すっかな。

 正直に言うしかないか。

「ここに、十人ほどの幽霊が住んでるからです。」

 二人の表情が固まった。


 その後、外に出てうずくまって誰かに謝りまくってたフィーも加えて、話を進めた。

「まさか、自分の家にいるとは……まったく分かりませんでした。」

「仕方ないです。幽霊は特殊な魔物。魔力がある人にしか見えないですから。それと、あの人たちからは敵意はまったく感じなかったので安心してください。」

 ゴースト類のの魔物は普通の人間には見えない。

 僅かに魔力があればうっすらと見えるようだが、この二人は魔力は一切混じってないようだ。

 無論、俺とフィーはクッキリハッキリ見えた。

 説明してもなお、苦い表情をする二人。

 もうちょっと安心させないと。

「あの人たちは、この家にただ居たいだけなんだと思います。変に追い出したりしたら、それこそ危険です。だから、決心がついたら、家の中に入って、幽霊達を安心させてあげてください。そうすればなんの問題もありません。」

 ようやく二人の表情はましなものとなり、ホッと一安心。

 フィーも納得してくれたようで、さっきのが嘘のように胸を張っている。分かりやすいヤツだ。

「わかりました。では。」

 一つ大きく深呼吸し、ゆっくりドアを引く。


「あの」

 家の中の幽霊達が一斉にお母様の方へ視線を向ける。

「あなた達は、ここに居ていいです。だから安心して過ごしてください。私達も気にせず暮らしますから。」

 その言葉で、事は落ち着いた。

 頭を下げ礼をを言う幽霊達。その声はアリア達には聞こえていないであろう。

 それでも、なにかを感じたようで、今度こそ本当に安堵した表情を二人揃って見せてくれた。

「これで、大丈夫でしょうか。」

「あぁ、きっと大丈夫です。」


 夜十一時、俺は一つ余った部屋を借り硬いベッドで眠りについた。

 明日の夜には幽霊退治。

 問題はフィーだな。

兄弟全員が登場しましたね。

この三人に注目して書いていきます。


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