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わーるどいくじっと  作者: いりゅーなぎさ
Episode of "Ash"
31/32

Ash vs 「伊達 まつり」その2

まつりが黒色のキングの駒を手に取った瞬間、さっきまで「つまらない消化試合が始まるのか」みたいな雰囲気をかもしだしていた奴の雰囲気が一変する。

「ほうほうほうほう。これはまた、面白いコマを選びましたねぇ」

まつりが選んだ駒をEscaperに当てはめると、それは侵略軍の総大将を選んだということになる。

「ですが、まつりさん。まさか、そのコマを選んでおいて『すでに侵略国にいるから国外に脱出成功』とか『侵略で国境線を越えたから侵略国から国外に出た』とかは言いませんよね」

そんなことをされてはげーむが成立しないと言わんばかりにまつりに確認を取る。

「おいおい。あたしがなんのためにこのゲームのやり直しを要求したと思っている? あたしはな、負けっぱなしってのは気に入らないんだよ。今、霧崎とは一勝一敗。その一敗がこのゲームだろ? あたしが望むのは霧崎との勝負の決着、ただそれだけだ」

「ですが、このままげーむを始めても、競い合うことは出来ないと思いますが?」

まつりが敵国を選択した以上、まつりに『脱出』の選択肢はない。

「はぁ? なにを言ってやがる。この状況だからこそ勝負になるんだろうがっ」

この状況だから勝負になる? ……まつりはさらに言葉を続けた。

「単純な話さ。霧崎が逃亡に成功したら霧崎の勝ち、それを阻止したらあたしの勝ちってな」

本当に単純な話だ。だが、これではゲームは成り立たない。

「それだとAshさんが圧倒的に優位になってしまっていますねぇ。……うーん。では、こうしましょう。正確に言ってしまえばげーむりぷれいではなくなってしまいますが、すこしまいなーちぇんじといきましょうか。よろしいですね、まつりさん?」

「おいおい。それはかまわんが、カードはどうなるんだ? あたしはもうEのカードを使っちまってんだぜ?」

「その心配には及びませんよ。まいなーちぇんじなんで、げーむのイニシャルを変更するつもりはありません」

Ashを置き去りにして話が進んでいく。

「では、変更点を説明しましょう。Ashさん側はげーむの基本ルールに変更はありません。がんばって国外脱出を目指してください。まつりさん側はそれを阻止することになります。まぁ、ここまではまつりさんの言ったとおりですねぇ。それで、勝利条件を公平にするため、今回のげーむには制限時間をもうけます。……そうですねぇ。前回のまつりさんの脱出時間がいいでしょう。22分17秒でしたねぇ、たしか」

奴の言葉に、まつりは不機嫌そうな表情を浮かべる。

「あからさまに『嫌なことを思い出させやがって』みたいな顔をしないでくださいよ、まつりさん。――とにかく、Ashさんが22分17秒以内にEscapeしたらAshさんの勝ち、それまでにEscapeできなければまつりさんの勝ちとしましょう」

単純なルールだ。早い話がAshがまつりをどう欺くかが勝負の鍵となる。

「げーむたいとるは『Escaper VS』です。ではでは、お二人からご質問がなければ、げーむすたーとといきましょうか」

まつりからもAshからも声はあがらない。

そして、次の瞬間にはこの空間は草原の景色へと変わっていた。


草原にAsh一人が放り出されていた。

Ashの元に、一枚の紙が舞い降りてくる。前回のEscaperの時にも各自に配布されたこのゲームフィールドの地図だ。

書かれている内容もほぼ同じ。すでにネタバレしているげーむでは意味のないように思えるが、Ashは念入りに地図を眺めていた。

地図を仕舞い、地図に『敵軍南下中』と書かれている方角に目を向ける。――まつりはあの中にいるのだろう。

AshはNPCである駒たちを自分のまわりに集合させた。そして、奴が監視していると思われる空に向けて携帯電話の画面をかざす。

[要求。白い布、棒、墨汁]

「おやおや。Ashさんは戦う前に白旗をあげるおつもりですか?」

無論、何か策のあっての要求だろう。

――空から棒が落ちてきて、地に転がる。旗を作るためと思われる木の棒か。……いつのまにかAshのそばに置かれていた壺の中身には墨汁が入っている。

そして、ひらひらと白い布が舞い降りてくる。――Ashの要求は全て通ったようだ。


げーむが始まった。

まつりの指揮で黒い駒たちが南下してくる。

Ashは――王としてげーむのセオリー通りに南の方へと進んでいた。

数体の白い駒は、王が進む方向とは逆に進んでいく。

殿しんがりだろうか? ……それにしては数が少ない。

やがてまつり側の先遣隊と見える黒の駒と殿しんがりと見える白い駒たちが接触。交戦を始める。

決着はすぐだった。まつり側の先遣隊とAsh側の殿しんがりでは数に差がありすぎた。

殿しんがり隊の隊長と見える白のルークは白旗をあげ投降、敵先遣隊の隊長と見える黒いルークに捕縛され、連行されていった。

「これはこれは。Ashとは思えない采配ミスをしておりますねぇ。これでは時間稼ぎにもならなかったのでは?」

まつり側の先遣隊は白ルークを捕縛した黒ルーク以外は王であるAshを追って進軍していく。

そして、もう一体の黒いルークが捕虜の引き取りに来ていた。

先遣隊の黒ルークは白ルークを引き取り役に引き渡すと、すぐさま先行した隊に戻っていく。捕虜を引き取った黒ルークは、白いルークを本陣の方に連行していく。

捕虜を引き取った黒いルークが敵国側の境界線を越えようとした時だった。

「そこで止まれっ」 まつりが声をあげた。

黒いルークは境界線の手前で動きを止める。

「残念だったな霧崎ぃ。てめぇの魂胆は見え見えなんだよ。ルークを捕虜にしてこちら側に入ったらキャスリングってことだろ? させねぇよ。――そいつを破壊しろ」

まつりが黒ルークに白ルークの破壊を命ずる。

命を受けた黒いルークは白いルークを破壊する。

白いルークは境界線を越える手前で動けなくなってしまった。

これでAshの策は見破られ、失敗に終わったと思われた。

白いルークを破壊した黒いルークはなにも命を受けていないのに本陣の方に戻りだした。

そのおかしな行動に気づいたまつりが戦場を見渡すと、不自然な光景に目がついた。

こちらに戻ってくる黒ルークが、まるでコーヒーにミルクを入れたときのような黒と白の交じりあったまだら模様に変化していく。

まつりが近くにいる駒にまだらルークの破壊を命ずるが、Ashはすでに次の手を打っていた。

[――キャスリング]

Ashが携帯電話に打ち込んだ文字が空間に投影されるのと同時に、まだらルークとAshの位置が入れ替わった。

その瞬間、Ashの勝利が確定した。



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