Ash vs 「伊達 まつり」その3
「そこまでです。Ashさんが国外脱出に成功したので、このげーむは終了となります」
奴の声がAshの勝利を告げる。
何もない空間にAshとまつりが戻される。
まつりが聞き取れるか聞き取れないかの声でなにやら呟いている。
「……そういうことかよ。だから、墨汁を請求しやがったのか」
まつりはすぐに敗因の分析を始めていた。……それは、誰にでも出来ることではなく、それが出来る人間だからこそ、まつりが管理者のお気に入りのひとりである所以なのかもしれない。
「しっかし、よぉ。前の時はチェスのルールを全く知らなかったくせに、今回はキャスリング前提で策を練ってくるなんてなぁ。覚えたての専門用語を使ってみたくなったてか、霧崎ぃ?」
煽ってくるまつりに対し、Ashはなにも答えない。
「ちっ、だんまりかよ。まぁいいさ。――おい、わかってるんだろ? この後、本来の『D』のげーむを始めるんだろ? だったらもったいつけずに、とっととペナルティを始めやがれ」 今度は管理者に向けて声を上げる。
すると、管理者は少し考え込むように間を置いてから声を出した。
「いやはや、少し弱りましたねぇ。まつりさんには申しわけないのですが、今回は対戦げーむを予定していなかったんですよ。ですからペナルティについてはなんにも考えていないんですよねぇ」 管理者にあるまじき返答だ。
「んなもん、なんでもいいだろ? どうせこの場でやるしかねーんだからよぉ。それこそ、霧崎が前回やったげーむのヤツでもええわ」
「それを言われると元も子もないのですがねぇ。……うーん、げーむりぷれいに関してはちょこっと調整を入れる必要がでてきましたね。まぁ、調整は追々していくとして、今回のペナルティにはまつりさんの提案を飲みましょう。Ashさんの前回のげーむで執行したペナルティとなると――」
前回のげーむでのペナルティというと、Ashと火燐との対戦に負けた火燐が受けた『身体から摩擦がなくなる』というものだったはず。
「それでは、前回のAshさんのげーむで負けた相手が受けたペナルティを今からまつりさんに執行しましょう。ペナルティの内容は『少しの間だけ身体から摩擦がなくなる』という内容です。では、始めますよ」
ペナルティ執行の宣言の直後、まつりが身に付けていたズボンと下着が重力に流されて、まつりの足元に落ちていく。
上半身の衣服はまつりの身体に引っ掛かり、脱げ落ちることはなかったが、まつりは下半身が丸出しの状態となってしまった。
――だが、当のまつりは自身のそんな状態を全く気にすることなく、摩擦がなくなって足元が非常に滑りやすくなった状態を楽しんでいる様子だった。
しばらくして、まつりの身体の摩擦は元に戻った。
「なるほど。こりゃ、霧崎の相手だったヤツはもうどこかでくたばってるかもな。意識してないと直立するのも難しいわ」
まつりはなにごともなかったように、先ほど脱げ落ちた下着とズボンを履き直す。
そんなまつりを目にして、Ashは呆けているように見えた。……Ashの表情は仮面で実際はどんな表情をしていたのかはわからないのだけれども。
「どうした、霧崎? こんな貧相な身体を見て興奮でもしてんのか?」 呆けたように見えたAshをまつりが挑発する。
[本来のげーむのルール説明を希望]
まつりを無視し、Ashは管理者に最初に予定されていたげーむのルール説明を要求する。
「……つまらんなぁ。声を出せた頃の霧崎はもうちょっといい反応をしてたんだがな」
「はいはい。Ashさんをからかうのはそのくらいにしてください、まつりさん」
管理者が止めに入り、まつりはあからさまに不服そうな表情を見せる。
「それでは、今回のげーむの説明を始めましょう。――まつりさんはすでに把握されておられるようですが、今回のげーむは『D』のげーむとなっています。げーむたいとるはずばり『Dragon Hunt』。――どういうげーむかは簡単に想像できますよね?」
Dragon Hunt……単純に考えれば竜を狩るげーむなんだろうが。
「竜を狩るげーむってのは想像つくが、そのターゲットとなっている『竜』が想像できねぇわ」
「まつりさんの疑問はもっともですが、それが今回のげーむのキモとなってますからねぇ。多分、Ashさんも同じところまでは想像されていることでしょう。では、げーむの説明に入りましょうか。と、言っても説明すべきルールは一言でいえるくらい単純です。『これからあなたたちにはドラゴンと戦ってもらいます』」
管理人はどこかで聞いたような台詞を言い放ってきた。
[ドラゴンの種類と数は?] すぐさまAshが質問を飛ばす。
「――それにあたしらが使う得物も答えろ」 Ashの質問にまつりが質問を重ねてきた。
「本当にお二人はすばらしいですね。的確に知る必要がある情報の確認に出られるんですから」
とっさに自分の欲しい情報を口にする――なにもわからない状態から初めて耳にした内容から自分になにが足りないかを瞬時に判断する必要があるこの行為を自然に出来る者はそうそういないだろう。
「では、お答えしましょう。まずはドラゴンの数と種類ですが――数は1体です。ただ、種類についてはお答えできません」
「出せる情報は、謎のドラゴンが1体相手ってことだけか。ずいぶんとケチくさいな、おい」
「いえいえ。情報が出せないのではなくて、情報がないんですよ」
「情報が、ない?」 管理者の妙な言い回しに、まつりは違和感を感じ即座に声を上げた。
「おやおや。ちょっと余計な勘繰りをさせちゃいましたか。多分、Ashさんが種類と数をお聞きしたかったのはどういう状況での戦いになるのか知りたかったからでしょう。だから、その部分を説明させてもらいますと、お二人が戦うドラゴンは、ワイバーンとかアースドラゴンとか言った、よく物語などでお聞きするような種族名みたいなものはありません。言えるのは、巨大なドラゴンを相手に狩りをしていただくということだけです」
Ashがなにやら携帯に文字を入力し始める。
だが、その文字の入力が終わる前に管理者が言葉を続けた。
「あ。あと、もうひとつお伝えできることがありましたね。――今回のこのげーむ。Ashさんとまつりさんには協力して挑んでいただきます。つまりは、お二人の共闘げーむです」




