Ash vs 「武田 火燐」中編
げーむが始まった。
テーブルのジオラマに目を向けると、「一日目、開店準備期間」と表示されている。設定されている時間は2時間。
……この時間で店の構想を考えて、さらに売る商品を開発しろってこと? 現実じゃありえないな。
「あ、そうそう。表示されている制限時間はげーむ参加者に向けて表示している実際の時間ですよ? ……お二方にとっては2時間でも、ジオラマの中で何時間何日かかっているかはわかりませんよぉ」
また、人の考えを読んだみたいに答えてる。奴のそういうところが気に入らないんだよね。
Ashに目を向けると、Ashはすでに建物の建築に入っていた。
(……すでに店舗構想が出来ていたってわけか。さて、私はどうするか――)
メニューウィンドウをスクロールさせ、どんなパーツがあるかを確認する。
(ん? ベルトコンベア?)
火燐はベルトコンベアのパーツをテーブル上に展開した。
置いたベルトコンベアパーツに触れると、サイズの変更が可能だということに気づく。
(まぁ、当然か。ベルトコンベアを使いたいなら、長さの変更ができないと役にはたたないだろうしな。けど、ベルトコンベアを外食店で使おうなんて思わ――)
そう考えていたら、とあるお店の光景が思い浮かんできた。
(待って。このベルトコンベア、幅は変えられるの?)
試してみる。……長さ、幅、さらには形までもが変えることができる。
(……これは、いけるんじゃないの? 今までにない、誰もが考えなかったラーメン屋が。しかも、このげーむのルールでは断然有利となるとんでもないラーメン屋が作れる)
残り準備時間は15分を切っていた。
私の店舗の準備はほとんど終わっている。
商品の試行錯誤も終えて、販売するラーメンも決めた。
仮面男の方はどうなの?
火燐はAshのテーブルに目を向ける。――テーブル上のジオラマは、屋台のような店舗に10席ほどの椅子。あとは工場のような建物が併設されているが、そちらの内部は確認できない。
(工場? まさか、麺を一から製造するつもり? 麺は食材として指定できたはずなのに。……そんなこだわりより、店舗スペースを充実させるべきだと思うけど?)
悪いけど、そんな店舗に私は負ける気がしなかった。
おそらく、このラーメンゲームにだって何人ものプレイヤーが挑戦してきたはず。けど、私が考えた店舗はきっと、誰も考え付かないだろう。
食材以外の経費を度外視した、このげーむならではの店舗なんだから。
「それでは時間です。さて、お店のオープンといきましょうか」
店が開き、NPCのお客さんたちが一斉に店へとなだれ込む。
私の店の中は、加工したベルトコンベアが張り巡らされており、そのベルトコンベアに客席が隣接している。ベルトコンベアにはお椀サイズの器に茹でた麺が入ったモノが流れている。
客席には給湯器が備え付けられており、麺自体に様々な味を染み込ませてあるので、お湯を注ぐだけでラーメンがすぐに食べられるように配慮されている。
さらに全席にタッチパネル。これにより、チャーシューなどの追加トッピングや流れていない味のラーメンを注文することもできる。
そして、1杯100円の値段設定。
そう。イメージしたのは回転寿司屋だ。
普通のラーメン屋だと、1杯500円で販売したとしても、大抵は1杯のラーメンとサイドメニューの注文で満腹になって、客一人につき800円くらいの売り上げになってしまうだろう。
ところが、この販売形式なら、一人で何杯も食べられる上、サイドメニューの他にトッピングの追加も望める。しかも、1杯100円という価格なので、気軽に手がのび、食が進み――気づけば一人当たり1000円を越えていたってことも多いはず。
さらに、ベルトコンベアを張り巡らせた大型店舗は、通常のラーメン屋とは比べ物にならないくらいお客さんを収容できるのだから、あんな工場併設のこだわり麺の屋台しか構想できなかった仮面男に負ける要素はない。
あっという間に一日目の営業時間が終了した。
私の店は大繁盛。大型店舗にもかかわらず、お客さんを待たせてしまうくらいの盛況ぶりだった。
(もっと、席を増やさないとダメかな?)
一方、仮面男の店は、行列が出来ていたものの、たった10席では効率のいい客回転が望めなかったようで、何人かのお客さんが席に座らず帰っていくのも確認できたくらいだ。
ただ、トラックの出入りがやたらと多かったことが気になった。
二日目。仮面男の店舗は――席数に変化なし。依然、10席のままだった。
一方私はさらに客席を増やし、それでも待たせてしまうお客さんのために待機室を増築した。……駐車スペースの確保も考えると、これ以上の増設は難しいかな?
三日目。仮面男の店に変化があった。店舗屋台の椅子が撤去され、立ち食いスタイルの屋台に変わっていた。
さらに工場が増築されていて、工場の母屋が三階建ての立派な母屋に変わっていた。
(……え? なんで工場部分に力を注いでいるの?)
工場に力を入れる理由はわからなかったが、ひとつ参考になったことがあった。
四日目。仮面男の工場を見て、私の店をより大きく出来るヒントを得た。
私の店の店舗は、二階建てとなり、倍のお客さんを収容できるようになった。さらに、駐車スペースも立体駐車場へと進化し、駐車問題も解決。来客数は後を絶たない状態に。
……仮面男の工場を見て思い付いたのはシャクだが、利用できるものは何でも利用する。これが私の考えだ。
五日目。あいかわらず私の店にはお客さんが後を絶たない。
一方、仮面男の店は、たまにお客さんが訪れるくらいの状態。
大型トラックの出入りが頻繁なところをみると、大方長距離ドライバーに設定されたNPCが手早く食事を済ませるために立ち寄っているといったところだろう。
……私みたいに家族客をターゲットにしていればよかったのに。
六日目。仮面男の店は、大型トラックの出入りだけは激しいが、客には繋がっていない様子。
工場部分がまた増設されているけど、店は閑古鳥の鳴くレベル。
私の店は、さらに増設して三階建てにしたが、それでも席が足らないくらいなのに。
七日目、最終日。もう、勝負は見えているが、これが最後の営業日。仮面男の店は――見るだけ無駄か。この最終日にどんな販売戦略をたてようが、私の店の七日分の売り上げに届くはずがない。
結局、仮面男の店に大きな動きはなく、ゲーム内時間の七日目が終了し、得点の集計が始まった。
[武田 火燐『最終スコア 140296』]
「いやぁ。すばらしいです、武田 火燐さん。ほとんどの方が10000ptに届くか届かないかのスコアしか取れないと言うのに、その十四倍のスコアを叩き出すとは」
「それで、仮面男のスコアは?」
負けるとは思えないが、放っておけるとも思えない。
「Ashさんもすばらしい成績ですねぇ。まさか、双方10万超えとなるとは思いもよりませんでしたよ」
は? 仮面男も10万超え? あの状況で?
[Ash『最終スコア 1294409』]
12万! ……危なかった。けど、この勝負は私の――
「そういうわけで、今回の勝負はAshさんの勝利となります」
――はぁ!?




