GAME.6「True or Fake」その5
霧崎が、偽物?
私にそう告げた吉法師さんは、さらに言葉を続けてきた。
「このゲームは誰が本物で、誰が偽物かを当てるゲームじゃないんですよ。これは、メインプレイヤーに設定された者が、いかに早く自分が偽物かと気付くゲームです。そして、本物と認定されているプレイヤーは、ただの人質ってわけですよ」
私と妹ちゃんは、霧崎の人質。
「最後に、俺が予想したこの後の展開を伝えておきます。俺が排除された後、まつりさんが残っていた場合、彼女はきっと霧崎さんに戦いを挑むでしょう。もしかすると彼女自身、自分が偽物ということも、霧崎さんが偽物ということにも気付いているかもしれません。ですが、彼女なら気付いていようがなかろうが霧崎さんに戦いを挑むでしょうね。――これからの事はどちらに転んだとしても、明日穂さん、あなたにかなりの負担を強いることとなります。心して聞いてください」
吉法師さんは、また深く息をついた。
「まつりさんと霧崎さんの勝負、まつりさんが勝って霧崎さんが排除された場合は、あなたがまつりさんと戦って勝たなくてはなりません。あなたが勝てば、残るのはあなたと妹さんだけとなりゲームクリア、脱出成功となりますから。ですが、霧崎さんが勝ってまつりさんが排除された場合、あなたは霧崎さんに勝負を挑んで引導を渡さなくてはなりません。当然、あなたが負ければあなたは霧崎さんの手で殺され、あなたを殺した霧崎さんは、さらに妹さんを手にかけなければいけない状況に陥り、ゲームを終えたとき、確実に壊れてしまうでしょう」
私が、あの舞台で戦う……
「すみません。その役を俺が変われればいいんですが……」
吉法師さんが私を気遣いそう言った。
「……大丈夫です。私はあいつを救うためにここに来ている。救う方法が偽物のプレイヤーを倒すことしかないのなら、私は覚悟を決める」
吉法師が排除され、テレビは切られる。
「吉法師が、負けた?」
俺はその光景を見ていたにも関わらず、それが信じられなかった。
吉法師に勝ったまつりは、きっと次は俺に挑んでくるだろう。
もしかすると、すでに俺を呼び出すためスイッチが入れられているのかもしれない。
俺は待機部屋を出て廊下を進む。
半自動ドアを開け、円卓の部屋に出ると、そこでまつりが待ち受けていた。
「へぇ、もう出てきたか霧崎。今、スイッチを入れて呼び出そうとしてたとこなんだがなぁ」
機械を確認する。スイッチはまだ入っていない。
「霧崎。そうやって出てきたってことは、アタシの次の行動はわかっているよな?」
「ああ」 俺はそう返事をした。
「いい度胸だ。――霧崎 灰次に勝負を申し込む。舞台に案内しなっ」
まつりがそう宣言すると、周囲の光景が円卓の部屋からあの空間に変わる。
カードが俺とまつり、それぞれの元に落ちてくる。
ルールの説明はない。互いに二戦目なのだから。
俺のカードは『ぐ』。躊躇している間はない。とにかく、思い付く限りの殺傷力の高い武器を。
俺の手に、巨大な火炎放射器が姿を表す。
『グリークファイア』、古代ローマに実在されていたと言われる、絶対に消えない炎を噴射する伝説の火炎放射器だ。
その、絶対に消えない業火がまつりに襲いかかる。
それと同時に、まつりが俺に向けてなにかを投げつけてきた。
投げつけてきたなにかは俺には届かず、俺の目の前に落下し、音を立てて割れる。
なにを投げてきた? 火のついていない火炎瓶? ――違う、ガソリンだ。
においですぐさまガソリンと気づき、俺は火炎放射器を投げ捨てる。
しかし、気化したガソリンに引火し、大爆発を引き起こす。
俺は爆風で吹き飛ばされたものの、火炎放射器をすぐに捨てたため、被害は最小限に抑えられた。
すでにまつりは次のカードを手にしている。
爆風でカードが飛び散ったため、俺もすぐにカードを手にすることができた。
カードは『つ』。カードはすぐさまカタチを変える。
爆煙を突き抜け、巨大な剣を手にまつりに斬りかかる。
俺が両手でないととても振ることのできない大剣『ツヴァイハンダー』だ。
だが、まつりも同様の剣を作り出していた。『クレイモア』、背丈ほどの長さが特徴の、有名な大剣だ。
互いの大剣がぶつかりあう。
まつりが鍔迫り合いのクレイモアを捨て、俺から距離を取る。
まつりの手には新たなカード。カードは液体の入ったフラスコに姿を変える。
まつりはそのフラスコの中の液体を俺にかけてきた。
俺は咄嗟に剣を捨て、腕で顔をかばった。
あれが目に入れば、俺の負けが確定する。
俺の両腕に激痛が走る。俺はまつりに硫酸をかけられたのだ。
俺の捨てたツヴァイハンダーをまつりが手に取る。
その小さな身体全身を回転させ、遠心力で俺の腹部を斬りつける。
剣先が俺の腹部をかすめ、俺の腹部と皮膚の一部を切り裂いた。
まつりは振りきった反動でさらに勢いをつけ、二撃目に入る。
俺がとっさに手にしたカードを変化させる。
カードは『た』。作るは『盾』。
まつりの二撃目は、俺が作り出した盾にはばまれる。
まつりは剣を捨て、舞い散るカードから新たな一枚を引く。
俺は舞い散るカードの中から三枚のカードを手に取る。
その内の一枚――『お』のカードをその場に投げ捨て、まつりから距離を取る。
そして、『え』のカードをまつりに投げつけた。
カードはまつりの目の前で爆発し、大量の煙を発生させる。
『煙幕』と化したカードにより、まつりは完全に視界を奪われる。
が、その煙の中から業火が発生し、俺に襲いかかってきた。
炎の勢いで煙が吹き飛ばされ、その業火の正体が判明する。
グリークファイア。俺が投げ捨てた、絶対に消えない炎を放つ火炎放射器だ。
まつりが、それを拾って放ってきたのだ。
俺は消えない炎に包まれる。さらに、手に持っていたカードが燃えてなくなる。
まつりは俺が無防備になった瞬間を見逃さなかった。
まつりがクレイモアを拾い、一気に俺との距離を詰めてくる。
炎に包まれた俺を、一刀両断できる間合いにまつりが入った時、一瞬にしてまつりの姿が消えた。
さっき俺が投げ捨てた『お』のカードが、落とし穴に変わっていたのだ。
俺は転がっているツヴァイハンダーを拾い上げる。
剣を突きおろしながら、落とし穴に飛び込んだ。
……まつりが、この空間から排除された。
テレビの電源がおちる。
まつりさんと霧崎の戦いは、霧崎が勝った。
これで私は霧崎に勝負を挑み、勝たなくてはならなくなった。
意を決し、霧崎との勝負のため円卓の部屋に移動しようとした時だった。
私の部屋の電話がなりだした。――電話をみると『霧崎美優』の文字が光っている。
妹ちゃん、から?
何故だろう。とてつもなく嫌な予感がする。
私は電話に手を伸ばし、受話器を取った。
「もしもし、美優ちゃん?」
受話器を取った直後に感じる違和感。なんだか変な音が聞こえてくる。
そんな違和感の中で、美優ちゃんは私に話しかけてきた。
「兄さん、勝ちましたね」
やっぱり美優ちゃんもテレビであの様子を見ていたんだ。
「大丈夫だよ、美優ちゃん。あと少し、あと少しでこのゲームは終わるから」
私は美優ちゃんを安心させるためにそう口にした。
この後、私と霧崎の戦いを美優ちゃんに見せることになるのは、正直、辛い。けど、それでみんなが助かるのだから――
「……警……り……秒で……霧……優さ……は――」
なに? 美優ちゃんの電話口の先から何かが、聞こえる?
「美優ちゃん? あなた、なにをしているの?」
……なに、この感覚? このたとえようのない、意味知れぬこの不安な感覚は。
「大丈夫ですよ、明日穂さん。これで、このゲームは終わりますから。兄さんと、明日穂さんが――本物のプレイヤーのみが残って終了となりますから」
! 美優ちゃん、まさか――
「警告。……告。残り……秒で……美優様……追放が……されます――」
今度ははっきりと聞こえた。美優ちゃんの背後から聞こえてきたのは、美優ちゃんの追放警告音。
私は受話器を投げ捨て円卓の部屋に向かって駆け出した。
扉のボタンを押して、扉を開く。
円卓の部屋には、あの空間から戻ってきたばかりの霧崎の姿があった。
「霧崎っ、美優ちゃんのスイッチを切って!」
慌てて発した私の声は霧崎にうまく伝わっていない。
私は自分の席の前に置かれている機械のスイッチに手を伸ばす。
美優ちゃんの名前は、もう確認できない状態だった。
そして――
「霧崎美優様はスイッチを戻されなかったため、追放となります」
無機質な機械アナウンスが、非情なメッセージを告げる。
私は、声にならない叫び声をあげていた。
そして、霧崎はそんな私の姿を見て、現状を察した。




