GAME.6「True or Fake」その4
吉法師という男からの電話の内容は衝撃的だった。
まるで、このゲームのすべてを見切っているかのように。
もちろん、それは私を惑わすために口にした虚言なのかもしれない。
でも私は、あの男が嘘、偽りを口にしたとはとても思えなかった。
……あんなことを、自ら悟って口にできるのだから。
「私は、本物のプレイヤーではありません。このゲームの管理者が用意した偽物のプレイヤーです」
龍臣との戦いを終えて、俺は待機部屋に戻ってきた。
円卓の部屋に戻ってきたとき、龍臣との戦いで受けた傷は全てきえていた。
だが、龍臣を手にかけた感触は今もまだ残っている。
思い出しただけで強烈な吐き気に襲われる。
俺は待機部屋を廊下に出てすぐの場所にあるトイレへと駆け込んだ。……戻すことはなかったが、吐き気はしばらく続いた。
俺は部屋に戻って、電話に手を伸ばした。
だれでもいい、話がしたい。だが、なにを話す? なにを話せばこの気持ちから解放される?
そんな葛藤が繰り返され、俺は受話器を取ることができなかった。
ベッドに横になっている時だった。
突然、部屋のテレビの電源が入る。
なんだ? なにが始まるんだ?
「えー、ただいままつりさんが吉法師さんに対して戦いを申請しました。これより、伊達まつりvs吉法師信市の試合をお送りいたします」
まつりが吉法師に挑んだ? ――! このテレビは、誰かが円卓の部屋で排除をかけて戦いを挑んだ場合に電源が入るのかよ?
……つまり、俺と龍臣との殺し合いも――
ミュウと連絡が取りたかった。だが、あの戦いを見たミュウはどんな気持ちでいるんだ? 本物のミュウなら――
本物のミュウ? なにを考えている、俺。俺は、ここにいるミュウを、心の中では偽物とでも思っているってことかよ。
……俺が、壊れていく。そんな感覚に陥りかけているようだった。
テレビの画面の中では、まつりと吉法師の戦いが始まっていた。
ルールは俺と龍臣の時と同じ、ひらがな一文字のカードを駆使し、得物を作り出して殺し合うというものだ。
――そして、負ければ排除となる。
テレビの画面には丁寧にまつりと吉法師がそれぞれどんなカードを手にしたかが表示されている。
画面に表示されているカードは、まつりが『は』、吉法師が『く』。
すでにまつりの手には、Escaperで使っていた武器の『ハルバード』が、吉法師の手にはボウガン――『クロスボウ』が生成されている。
吉法師のクロスボウをよく見ると、弦を引く部分にハンドルの様な部品が見えている。
おそらく吉法師は『クレインクライン・クロスボウ』をイメージして武器を生成したのだろう。
[*クレインクライン『ボウガン等でより強く弓の弦を引くために取り付ける、ハンドルを回して弦を引く補助器具』]
クロスボウの矢は本体に内蔵してあるみたいだな。さすが吉法師だ、そのへんはぬかりない。
矢の装填に少し時間がかかるものの、距離を置いて戦える吉法師が圧倒的に有利だな。
まつりもうまく長柄を選んだようだが、飛び道具と長柄では勝負は目に見えている。
[*長柄『槍などに代表される、柄の長い武器の総称』]
吉法師は距離を取りつつ、矢を放つ。まつりは放たれた矢を交わしつつ、槍の間合いをはかっているようだが、手も足も出せない状況だ。
なんでまつりは明らかに有利になれる武器の『ハンドガン』じゃなく、『ハルバード』を選んだんだ? 俺の時と同じで、とっさに武器が出てこなかった?
いや、まつりがそんなヘマをするか?
画面の中のまつりが笑みを浮かべたように見えた。
まさか、まつりは自分の意思で不利になるハルバードを作り出したっていうのか? なんの考えがあって、そんなことを?
それは、何もない空間に向けてまつりがハルバードを振りかぶった時にフラッシュバックしてきた。
まつりがハルバードを使って戦っていた光景。――Escaperでのまつりの光景。
「! 吉法師っ、まつりのそのハルバードは――伸びるぞっ」
テレビに向かって叫んだ俺の声が、吉法師に届くわけもなく、まつりが仕掛けた攻撃に、吉法師は完全に虚を突かれていた。
まつりが何もない空間を突いたその瞬間、ハルバードの槍の先端が射出される。
吉法師は咄嗟の反応で槍先を回避するものも、それが鎖で繋がれているとは思いもよらなかったようだ。
鎖が吉法師に絡まり、吉法師の動きを拘束する。
テレビのカード表示画面に新たなカードが追加される。
まつりは、ハルバードを捨て新たなカードを引いていた。
テレビに表示されたカードは――『つ』。
そして、すでにまつりの手には剣が握りしめられている。
完全に間を詰められたら、吉法師のクロスボウは役にはたたない。
そして、まつりが剣を吉法師に振り下ろした。
「――俺はきっと、早い段階で排除されるだろう。それはまつりさんが俺に挑んできて敗北するか、偽物である俺がゲームを暴き始めたのに気づいて奴が俺を追放しにかかるかのどちらかでね」
電話口で吉法師さんはそう言った。
そして今、吉法師さんの言った通り吉法師さんはまつりさんに挑まれてあの場所にいる。
「だから、今から言うことをよく聞いて欲しい。このままでは彼――霧崎さんはこのゲームの本質に気づく前に、大事な何かを失うことになる。おそらく彼は俺が偽物だと気付くだろう。偽物と気付いた上で話を聞いてくれるならそれでもいい。だけど、今の彼では偽物=敵としか認識してくれないだろうね。だから、次に言う俺の言葉も耳にしてはくれないだろうね」
そして吉法師さんは言葉を続けた。
「俺が最初に気付いたのは、あの管理者なら誰を本物にするか、誰を偽物にするかを考えてみた時だ。そして、俺が奴ならどう参加者を募るかも考えた。まずそれではっきりとわかったのは、確実に本物だと言えるプレイヤー。確実に言える本物のプレイヤーは、神凪 明日穂さん、君ともう一人――霧崎 美優さん、彼の妹さんだ」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「その前に一つ、お聞きします。明日穂さんはどうして今回のゲームに参加されたんですか?」
「どうしてって、それは霧崎がピンチだから、手を貸すのならゲームに案内するって……」
理由は本当にそれだけ。まさか、こんなゲームだとは思ってもいなかった。
「言葉尻がはっきりしないのは、そんな理由でこのゲームに参加したと言っても信じてもらえそうにないからじゃないですか?」
言い返せない。その通りだから。
「これで確信しました。明日穂さん、あなたは紛れもなく本物のプレイヤーだと。そして、彼の妹さんもまた、似たような理由でここに呼ばれたんでしょうね。……俺にはね、ないんですよ。このゲームに参加する動機ってものが」
電話越しに吉法師さんが呼吸を整える音が聞こえてくる。そして、続ける。
「それが、俺自身が偽物だと気付いた理由ですよ。そして、奴が俺を偽物として選んだ理由を考えると、他の偽物プレイヤーが推測できました。……まつりさんと、彼――霧崎 灰次さんは偽物のプレイヤーです」




