GAME.6「True or Fake」その2
なんで龍臣がここにいる?
それが奴の顔を見て発しそうになった言葉だった。
これがゲームだからと言ってしまえばそれまでだが、そう考えると新たな疑問が生まれる。
奴はなぜ一目で偽物とわかるプレイヤーを用意したか、と。
いや。少し考えればわかることだな。
奴は俺にかなりのヘイトを持っているはずだ。
[*Hate(読み『ヘイト』)意味『憎悪、憎しみ 等』]
こんな殺し合いのようなゲーム、龍臣にとっては絶好の舞台ってわけだ。
まずいな。龍臣は、真っ先に『排除』しないとな。
――! 今、俺は何を考えた? ……排除だと? 俺はこの殺し合いみたいなゲームに染まりかけているとでもいうのか?
龍臣が席に着く。
「えー、これで今回のプレイヤーの方々が全員そろいましたねぇ。あ、もう声は出されてもよろしいですよ?」
気づくと、円卓上の発声禁止の紙はなくなっていた。
最初に声をあげたのは、まつりだった。
「おい。何人かは知った顔があるが、ひとりありえねぇ奴がいるなぁ?」
それは俺のことですか?
まつりは言葉を続ける。
「そこのお前。たしか、建築中のビルから落っこちた奴だよな? ニュースで見たぜ? なんで生きてんだよ? ニュースじゃ死んだっていってたよな?」
まつりの言う、ありえない奴は龍臣のことだったか。
まつりの言葉に、龍臣が反論する。
「ニュースなんざ知らねぇよ。俺は不死身なんだろ、きっと」
「そいつは驚いたな。で、その不死身さんは、なんでこの場所きたんだい? まるで未練たらたらで成仏できない幽霊みたいにさぁ」 まつりが龍臣を煽り出す。
「成仏できない幽霊とは面白いことをいうな、チビッコ。そうだよ、俺にはまだやり残したことがあるんだよ。なぁ、霧崎灰次?」
お前まで俺をフルネーム呼びしやがんのかよ?
「龍臣さん。彼女に『チビッコ』だなんて言って、怒られてもしりませんよ?」 今度は吉法師が会話に入ってくる。
「へぇ。どう怒られるっていうのかよぉ、吉法師?」
よくしゃべる、龍臣は。
「みんな、ちょっと待って」
そう声を出したのは神凪だった。
「みんなもゲームの説明を聞いて、このゲームがどういうゲームかはわかっているんでしょ? どうしていがみあおうとしてるのよ?」
神凪の一声でこの場はひとまずおさまった。
そして、そのタイミングを見計らったかのように、奴が話しかけてきた。
「えー。皆さんには基本ルールは説明したと思いますが、今度はこのゲームの舞台についてを説明したいのですが、よろしいでしょうか?」
ん? ゲーム舞台の説明?
「今回の舞台は、皆さんの今おられるこの円卓の部屋と皆さんが自室としてご利用できる待機部屋の二種類の場所でできています。当然ながら、自室として用意した待機部屋には本人以外立ち入ることはできません。皆さんが顔を合わすことができるのは、この円卓の部屋のみということです」
ちょっと待て。じゃあ、各プレイヤーが部屋に籠り出したらどうなる?
奴の説明に、龍臣が異議を唱える。
「じゃあ、なにか? 霧崎の奴が泣きながら怯えて部屋に籠ったら、ぶっ殺せねぇってことかよ?」
お前が想像している俺はどんな姿なんだよっ。
「いやぁ。霧崎灰次さんのその姿は見てみたいですねぇ。――龍臣さんの言う通り、部屋に籠られては手出しできなくなってしまいます。そこで、円卓の部屋の方にこんなものを用意してみました。皆さんの席の前に用意しておりますので、確認してみてください」
円卓に目を向けると、さっきまで発声禁止の紙が置かれていた場所に、6個のスイッチがついている機械らしき物体が置かれていた。
見渡すと、全員の席の前に同じ機械らしき物体が置かれている。
スイッチのあるパネル部分を確認してみる。
スイッチは全てが下を向いており、現在は『OFF』となっている。
スイッチのすぐ上には三段階のメーターランプ。さらにその上には『吉法師信市』『神凪明日穂』『伊達まつり』『霧崎美優』『霧崎灰次』『藤吉龍臣』とそれぞれの名前が書かれている。
どうやら、この6つのスイッチはそれぞれのプレイヤーになにかしらを起こすスイッチのようだ。
「では試しに誰か、霧崎灰次さんの名前の下のスイッチを入れてみてください」
なんで俺なんだよっ。
「いいぜ。アタシが入れてやんよ、霧崎」
「いいや。ここは俺が入れてやる。感謝しな、霧崎」
まつりと龍臣が、我先にとスイッチに手を伸ばす。
まつりと龍臣の目の前に置かれている機械の、俺の名前の書かれた部分のスイッチが入れられる。
ん? なんだ? まつりはスイッチに手を伸ばしたが、スイッチに触れていないぞ?
「へぇ。そういうことになってんのか」 まつりがそう呟いた。
「おやおや。どうやらまつりさんはそのスイッチがどういうものなのか理解したようですねぇ。ですが、今はまだゲーム前なので、皆さんにもわかりやすく説明いたしますよ、まつりさん?」
「もったいぶるほどたいした機械じゃないだろ、こいつは」
「それは言いっこなしですよ、まつりさん。――では皆さん。ご自身の前に置かれているスイッチを確認してみてください」
奴の言うとおりに、俺の目の前のスイッチを確認してみる。
俺の名前の書かれている部分のスイッチが上を向いている。そして、スイッチ部分は『ON』ではなく『追放』と書かれていた。
さらに、その上の三段階のメーターランプ。その一段階目の部分が点灯している。
「見ただけではまつりさんが気づいた部分はわかりにくいと思いますので、まずはまつりさんがなにに気づいたかを説明しましょう。霧崎灰次さん。一度、そのスイッチをOFFにしてみてください」
俺がスイッチを切ると、神凪、ミュウ、龍臣が表情を変えた。――吉法師は気づいていたということか。
「そういうことです。スイッチを切り替えた霧崎灰次さんにはわかりにくいかもしれませんが、そのスイッチの機械は皆さんの前に置かれているスイッチの機械すべてと連動しております。つまり、誰が自分のスイッチ機械で霧崎灰次さんのスイッチを入れたとしても、皆さんのスイッチ機械で霧崎灰次さんのスイッチが入ったことになるんです。――では、もう一度霧崎灰次さんのスイッチを入れてください」
奴がそう言った直後に、俺の目の前の機械の俺の部分のスイッチが勝手に入る。
見渡すと、まつりの顔がニヤけている。今度はまつりがスイッチを入れたのか。……早いな。
「さて。今度はその上のメーターについて説明をいたしましょう」
それよりスイッチの『追放』って部分が気になるんだが?
「そのメーターは、まずスイッチが『追放』に入ったところで一番下の部分が点灯します。そして、スイッチが入っている状態が三分が経過すると、二番目の部分が点灯します」
奴がそう言うと、俺の名前の下のメーターランプの二段目が点灯した。……まだ三分も経っていないんだが?
「あ、今は説明のためのテストなんで、こちらで操作させてもらってますよ? 本来二番目は三分したら点灯するようになっていますので安心を。――二番目が点灯してからまた三分が経過すれば、今度は三番目が点灯します。そして、三番目のメーターが点灯してから三分が経つと――」
俺の名前のところにあるメーターランプが全て点灯する。……もう、なんにも言いませんよ。勝手にしてください。
「さぁ、皆さん。スイッチ機械の霧崎灰次さんの名前の部分に注目してください」
俺の名前の部分?
言われたとおりに俺の名前の書かれている部分を確認すると――
「霧崎灰次さんの名前が徐々に消えているのがわかりますか? 完全に名前が消えてしまったら、追放成立となります。名前が消え出してから約一分で名前は完全に消えてしまいます。ですが安心してください。名前が消え始めると、その人の待機部屋では警告音がなりますので、それに気付いてスイッチを切りにこの部屋までこればいいのですから。スイッチを切れば、またスイッチを入れてもメーターは一番目から点灯します」
つまりはスイッチを入れられても、十分以内に切ればリセットされるってことか。
「追放についての説明は以上です。龍臣さん、これで部屋に籠る行為への対策はわかりましたか?」
「ああ。――で、追放された奴はどうなるんだ?」 龍臣が追放された者の顛末を尋ねる。
それは俺も気になっていた。 まさか、このゲームからの追放=脱出だなんては言わないだろうな?
「あれ? 最初に言いませんでしたっけ? 今回のゲームで私がお力添えするのは『排除』に関することだって。……追放された方は私が責任をもって『排除』いたしますので、ご心配は無用です」
追放=ゲームオーバーかよ。あいかわらずえげつねぇな。
「あと、もうひとつ排除についてお力添え出来ることがありましたねぇ。他のプレイヤーを排除するにあたって、さすがに何も得物がなければ排除に手間がかかってしまうでしょう? そこで私に言っていただければ、排除のための舞台を用意して差し上げますよ? ただ、そこで返り討ちにあったとしても、私は責任を取れませんけどね」
奴の舞台と言う言葉で、脳裏によぎったのは、吉法師とのWord card kill、まつりとのX word card killだった。
「それでは皆さん、待機部屋にお戻りください。皆さんが待機部屋に戻られたら、今回のゲーム『True or Fake』のスタートです」
待機部屋に戻ってくると、待機部屋の光景が変わっていた。
何もなかった待機部屋に、ベッド、テレビ、冷蔵庫、電話が置かれている。
気を利かせているつもりなのかも知れないが、これは正直に喜べない。
このゲームが、長期戦必至と言っているようなものだからな。
まずは冷蔵庫を開けてみる。1ドアの小型冷蔵庫。飲み物と簡単につまめる食材がいくつか入っている。
テレビを確認してみる。リモコンはなし、テレビ本体に電源スイッチもついていない。……おそらく、奴が排除のために用意すると言っていた舞台の光景を中継するためのものだろうな。
次は、電話か。
電話にはボタンが5つ。ボタンには俺以外のプレイヤーの名前が書かれている。
受話器を取ってボタンを押せば他のプレイヤーと連絡が取れるってわけか。
さっそくミュウに連絡を取ってみるか?
……いや、待て。連絡を取るなら、こっちか?
俺はスマートフォンを取り出してミュウに電話をかけてみる。
これが繋がれば、ここにいるミュウが本物か偽物かがはっきりとする。
ミュウに『今、お前どこにいる?』って聞けばいい。
ここにいるミュウが偽物ならきっと、本物のミュウは家にいるか友達と一緒にいるかだ。そう答えが返ってこれば、ここにいるミュウは偽物。もし、ここにいるミュウが本物だとしたら、ミュウは隠さず現状を話すはず。
電話は、なかなか繋がらない。――頼む、繋がってくれ。
『ガチャ』 !――繋がった。
「もしもしっ、俺だ。ミュウ、お前今どこにいるんだ?」




