GAME.6「True or Fake」その1
いつもとは違う、狭い部屋のような空間に俺だけが移動してきた。
もしかすると、きちんとゲームに参加した場合はこんな待機部屋に移動させられていたのかもしれないな。
「いえいえ。残念ながらいつもとは違いますよ、霧崎灰次さん」
ナチュラルに人の考えを読むな。
いつもどおり、奴が唐突に話しかけてきやがった。
「しかし、あいかわらずこのゲームがお好きなんですねぇ、霧崎灰次さんは。また一日で二回もこっちに来てくれるのですから」
出来れば来たくなかったよ、こんな場所。
「俺が今回、もう一度ここに来た理由はわかってるんだろ? ――さっさとペナルティを課せ」
「ありゃりゃ、気付かれちゃいましたか。あーあ、これで霧崎灰次さんにペナルティを課す楽しみが半減しちゃいましたよ」
そんな楽しみは捨ててしまえ。
俺の両足が痺れ始める。ペナルティがきたか。
「おや? 霧崎灰次さんはまつりさんの時のように足を叩きつけないのですか?」
俺はそんな特殊な趣味は持ち合わせていねぇよ。
しばらくして、足の痺れがおさまった。これでまつりに負けた俺へのペナルティは終了だ。
「――で、こんな部屋に通されるのが例外だっていうなら、その理由を聞かせてもらおうか」
あやふやにされそうだったので、俺は最初に奴が口にした 『いつもとは違う』という言葉を拾い上げた。
「そうですねぇ。……霧崎灰次さんなら、たぶんこれで理解できるんじゃないでしょうか」
カードが舞い落ちてくる。――ゲームのアルファベットカードか。
カードを確認する。
[ゲーム名『True or Fake』――]
True or Fake……真実か偽りかってとこか。難易度は――
[―― 『星6』]
背筋が凍りついた。難易度星6。吉法師がいっていた、壊れる覚悟がなければ攻略できないゲーム。
「これがいつもとは違うって言葉の意味か?」
「いつもと違うという意味では霧崎灰次さんが思っているとおりです。ただ、待機部屋を用意させてもらったのは、今回のゲームの特性上必要だったとだけは言っておきます」
ゲームの特性上? 今回のゲームはどういうルールだ?
「では、ルールの説明といきましょうか」
今、ルールの説明だと? ちょっと待て。他のプレイヤーはどうした?
「待て。俺以外の参加者はどうなっている? まさか今回のゲームの参加者が俺だけだなんて言わないよな?」
「大丈夫です。今回のゲームのプレイヤーの方は別の待機部屋におられます。ゲームの特性上、皆さんが顔をあわせるのは全ての説明が終わった後になりますがねぇ」
各プレイヤー別々にルール説明? まさか、プレイヤーごとに特殊なルールがあるとは言わないよな?
「心配しないでいいですよ、霧崎灰次さん。個別にルール説明はいたしますが、皆さん同じ内容を説明しますから。では、まず今回のゲームがどういうゲームなのかを説明いたしましょう」
今回のゲーム……True or Fake。ゲーム名から察するに真贋見極めのゲームということなのか?
「今回のゲーム、参加プレイヤーは霧崎灰次さんを含めて合計で六名です。ですが、今回のゲームではその内の何名かはこちらで用意した偽物のプレイヤーとなっております」
偽物のプレイヤー?
「プレイヤーの皆さんには、皆さんで話し合っていただいてプレイヤーの誰かを一人ずつ排除してもらいます。そうやってどんどんプレイヤーを排除していき、偽物のプレイヤーを全員排除するか、本物のプレイヤーの方が全員排除された地点でゲーム終了。脱出となります」
つまりは俺以外のプレイヤーが本物か偽物かを見極めて排除していくってゲームか。
……しかし、排除か。嫌な言葉だな。
「一応聞いておく。排除されたプレイヤーはどうなる?」
「それは霧崎灰次さんが想像されている通りのことですよ」
まぁ、まともな答えは返ってこないか。
「なら質問を変えよう。他のプレイヤーを排除する方法は?」
「それは霧崎灰次さんと他のプレイヤーの皆さんで決めてください。方法はお任せいたしますが、早い話が排除したいプレイヤーを絶命させればいいだけです。まぁ、排除に関してはお望みであればお力添えもいたしますよ?」
たとえ偽物のプレイヤーだとしても、殺せってことかよ? ……違う、そんな甘いものじゃない。本物のプレイヤーか偽物のプレイヤーかわからない状態で排除対象を決めて、殺せということか。
「ルールの説明はこれで終了です。なにか質問はありますか?」
「本物のプレイヤーと偽物のプレイヤーとの違いはなんだ?」 答えは返ってこないだろうが、一応聞く。
「それはご自身で見つけてください。そういうゲームですから」
やっぱりノーヒントかよ、くそっ。
「では霧崎灰次さん。もうしばらくこの部屋で待機をお願いします。まだ他の方にルールの説明をしなくてはなりませんから」
奴の気配が消える。
――これが、星六のゲームってことかよ。これが、吉法師が言っていた『自分が壊れるか、何かを失う覚悟がなければ攻略できない』ってゲームかよ。
しばらくして、待機部屋の扉が開いた。
ようやくゲーム部屋に移動出来るってことか。
開放された扉をくぐり、廊下へと出る。廊下は一本道。その先にはもうひとつの扉が見えている。あそこが、今回のゲーム舞台だな。
廊下を進み、問題の扉の前に立つ。
扉は自動ドア――といっていいかわからないが、最近よく見かける、『開く』のボタンが付いていて、そこを押すとドアが完全に開くというタイプの自動ドアだ。
……自動ドアっていうと、どうしてもセンサーで人を感知して勝手に開くモノをイメージしちまう。さしずめこれは『半自動ドア』とでも呼んだ方がいいな。
俺はその半自動ドアのボタンに手を伸ばした。――扉が、開かれる。
そこは、静寂に包まれた部屋だった。
部屋の中央に巨大な円卓が置かれている。
円卓には椅子が六つ。そしてその真後ろには俺が開けた扉と同じ半自動ドア。
すでに四人が椅子に座って待機していた。つまり、俺は五人目というわけだ。
――他の参加者の顔を見て、俺は凍りついた。そして、理解する。……そういうゲームかよ、と。
この部屋の円卓を時計に見立てて説明しよう。
12時の場所に座っているのは、吉法師 信市だ。
2時の席には――神凪。神凪、明日穂だ。
4時席は、伊達 まつり。
そして、俺の隣――6時の席に座っていたのは、霧崎 美優。俺の妹のミュウだ。
俺の席と思われる、8時の席に俺は座る。
円卓の上、各プレイヤーのそれぞれの席の前には紙が置かれている。
[全員が揃うまで、声を発することは禁止です。ルールを破った方はこの後のゲームで不利となりますのでご注意を]
これが静寂の理由か。
しかも、すぐになにかしらの罰を飛ばすのではなく、後に不利になるという明記が抑止力になっていやがる。
吉法師、神凪、まつり、ミュウ。……おそらく奴が用意した偽物だろう。
だが、全員が偽物ってありえるのか?
いや、このゲームがそういうゲームならあり得ない話ではない。
このゲームが真贋見極めのゲームではなく、『知人に扮した偽物を排除していくゲーム』だとしたら。
……狂ってやがる。これが自分が壊れる覚悟を要するゲームだとでもいうのか?
ダメだ。この考えは危険だ。先入観はすべてを見えなくする。
もし、あの四人の中に本当にこのゲームに参加した奴がいたら――
嫌な考えが俺の頭の中を巡る。
静寂の中、半自動ドアが開く音が聞こえてきた。
六人目の――最後のプレイヤーが来たようだな?
これが俺の知人に扮した 偽物を排除していくゲームなら、六人目は――神凪 近衛、ギコか?
入っていたプレイヤーの顔を確認する。
その顔を確認した時、俺は驚愕のあまりに声を発しそうになっていた。
そこにいたプレイヤーは、ありえない奴だったからだ。
六人目のプレイヤー。そいつは、藤吉 龍臣だった。




