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わーるどいくじっと  作者: 以龍 渚
Episode of "Haiji Kirisaki"
20/32

REAL PART「Penalty」

まつりが作り上げたコンボは、『灰次退去』。まつりは最初はなっから俺をここから強制退去させてペナルティを負わすつもりでコンボを作っていやがったんだ。

「霧崎。これでお前はここから脱出できるなぁ。もちろん、最初の取り決めは覚えているよなぁ?」

どちらかが脱出した場合は先に脱出した方が負けで敗者にはペナルティ、か。

「悪いが、ペナルティの軽減方法は教えられねぇなぁ。これで

アタシの勝ちなんだからな」

勝負が決したため、海に変わっていた対戦空間は元の何もない空間に戻った。

「けど、まぁ、土産代わりにお前がどうしてフルネームで呼ばれているかは教えてやるよ。どうせアタシが言わなくても、吉法師に聞けばわかることだろうがな」

吉法師に聞けばわかる? 正直、奴の悪ふざけとしか思えないが、奴が俺をフルネームで呼ぶのに、そんな明確な理由があるとでもいうのか?

「奴はな、自分のお気に入りのプレイヤーをフルネームで呼んでくるのさ。――霧崎、お前は奴のお気に入りなんだよ。あたしや吉法師と同じでな」

まつりや吉法師と同じ? なら、なんでお前たちはフルネームで呼ばれねぇんだよ?

「なんでアタシはフルネームで呼ばれていないんだって顔をしてんな? 安心しろ、アタシも最初の頃はウザいほど『伊達まつりさん』って呼ばれていたさ」

「いやぁ。懐かしいお話です。あの時のまつりさんはすぐに『まつりちゃんって呼べ』って声を荒げてねぇ。――懐かしいお話はさておいて、カードのコンボの執行により、霧崎灰次さんにはお帰り願いたいのですが、お話は長くなりそうですか?」

「これからアタシの思い出回想に入るところさ」

そんなモンはいい。なんでフルネームで呼ばれなくなったかを教えろ。

俺の身体が光を放ち始める。

「おやおや。どうやらタイムリミットのようですねぇ。まつりさん。思い出の回想は数秒程度でお願いしますね」

無理だろ、どう考えても。

「やれやれ。おい、霧崎。最後にひとつだけ教えといてやる。お前がまだフルネームで呼ばれているのは、お前はまだ本当のゲームのプレイヤーになっていないからだ。ただのお気に入りのゲストゲームプレイヤーでは、フルネーム呼びの客人対応しかしてもらえないんだよ」

本当のプレイヤー? どういう意味だ?

「まつり、本当のプレイヤーってどういう意味だ?」

「お前はまだ、本当のこのゲームを味わっていない。お前が星六以上のゲームを乗り越えた時、どういう意味かわかるさ。ただ、星六のゲームは――」

まつりの最後の言葉は聞き取れなかった。

今、強制退去が執行され、俺はゲームからの脱出に成功した。

いつ発動するかわからない、両足の痺れという爆弾をかかえて。


ゲームから帰ってきた俺は、力なくベッドに座り込んでいた。

……龍臣もゲームを終えた時、今の俺と同じ気分だったのかな?

俺は首を激しく振り、気合いを入れる。

こんな気持ちじゃダメだ。考えるんだ。まつりはペナルティの軽減方法を知っている。そのまつりが俺なら気付けるっていったんだ。なにかあるはずだ。……考えろ、Loophole。死なないための抜け道を。

――部屋の扉が二回叩かれる。

「兄さん、起きていますか?」 ミュウの声だ。

俺はスマートフォンを手に取り、時間を確認する。

スマートフォンが壊れたのは、あのゲーム中での事。戻ってきた以上――大丈夫、壊れていない。

時間は、七時半。俺が目覚ましをセットしていたのは六時だったから、一時間半が経過しているのか。

いつもの時間から一時間以上経っても俺が起きてこないんじゃあ、ミュウも心配するわなぁ。

ゆっくりと部屋の扉が開かれる。

ミュウが扉の隙間からベッドに座っている俺の姿を目にした瞬間、ミュウは勢いよく扉を押し開け、俺の元に駆け寄ってきた。

「どうしたんですか、兄さん。なにが、あったんですか?」

そんなにひどい顔をしているのか、俺は?

ミュウが泣きそうな顔で俺に声を掛け続ける。……隠すべきではないな。

「大丈夫だ、ミュウ。……いまさっきまであのゲームに呼ばれていた。それだけだ」

ミュウが俺の顔を見つめる。少し見つめた後、ミュウが口を開いた。

「負けたん、ですか?」 ミュウの核心をつく一言。

そこまで顔に出ていたか。

少しの沈黙。そして――

「ああ。負けた」 伝える。結果を。

ミュウに伝えなくては勝負の結果ではない。これから俺に起こりうることだ。

「ミュウ、聞いてくれ。俺は負けてペナルティを受けた。ペナルティがいつ執行されるかはわからない」

龍臣がどうなったかはミュウも知っている。だからこそ、これだけの言葉で今の俺が置かれている状況が伝わったはずだ。

「どんな、ペナルティを受けたんですか?」 ミュウはペナルティの内容を聞いてくる。

「受けたペナルティは、両足が少しの間だけ痺れるってペナルティだ」

ミュウは『その程度のペナルティで済んでよかったですね』と思ってくれるだろうか?

ミュウから言葉が返ってこない。

どうやら『その程度のペナルティ』とは思ってはくれなかったようだな。

ミュウの頭の中を巡っている考えは想像がつく。

きっと様々な場面でペナルティが執行された状況が頭の中を巡っているのだろう。

階段を降りている最中に執行されれば、階段落下はまぬがれない。

道路横断中に執行されれば、高確率で事故に巻き込まれるだろう。

龍臣みたいに、高所にいるときに執行されれば――

「ミュウ、聞いてくれ。さっきのゲームで戦った奴が言うには、このペナルティを軽減する方法があるらしいんだ。おそらく、最悪の状況で執行されるのを回避するなにかがある。俺はそれについてを考えてみる。……悪いが、学校の方には体調不良とでも伝えておいてくれないか?」

ミュウは、俺の部屋を出ようとはしなかった。

自分が学校から帰ってきた時、俺がいなくなっているかもしれないという考えが頭の中にあるのだろう。

だからこそ、一緒にいるわけにはいかない。

いつ終わるかわからないこの状況に、ミュウを巻き込むわけにはいかない。

しばらくして、ようやくミュウが納得してくれた。いや、納得というよりは、ようやく折れてくれたと言った方が正しいか。


ミュウが制服に着替え身支度を終える。

俺はミュウを見送るため、ミュウと一緒に玄関を出た。

ミュウが家を出て、学校に向かって歩き始める。

後ろ髪をひかれる思いなのか、ミュウは何度も玄関前にいる俺の方に振り返っていた。

ミュウの姿が見えなくなると、俺は家に戻り鍵を閉めた。


部屋に戻り、俺はスマートフォンを手に取る。

吉法師に相談するか悩んだが、平日の午前中に俺と同じ学生である吉法師に連絡がとれるはずもなく、結局なにもせずにスマートフォンを元の場所に戻した。

さっきのゲームを振り返って、ペナルティ軽減のヒントを探すしかないな。

『――おい。わかってんだろ? どうせアタシにペナルティを課したところで、面白い結果は見れないってことはよ』

思い返してみると、この地点ですでにまつりはペナルティの軽減方法を使うつもりだったってことがわかる。

『面白い結果』――これは予期せぬ場面でペナルティが執行された場合に起こる、想定外の連鎖のことを言っているんだろう。

龍臣は高所作業中にペナルティを執行されてビルから転落。死亡した。そしてそれを俺たちはニュースで知った。

だが、吉法師は言ってたな?

『……あの程度の罰ゲームがいつ、どこで、どうやって執行されたのか、だいだい八割くらいの確率で知ることができると言ったら、どう思います?』

つまりは、八割くらいは大事になるようなタイミングで執行されているってことだ。

もっとも、それは吉法師から見ての八割だ。実際はそれ以上の確率で大事になっているかも知れないし、もっと少ないかもしれない。

待てよ? たしかまつりは吉法師とやりあったことがあるって言ってたな?

吉法師は『罰ゲームは受けたことがない』って口にしてやがった。

まつりの反応から見ても、負けたのはまつりだろう。

だが、まつりが受けたペナルティは知られていない。いや、もしかすると、さっきのゲームの時みたいにその場でペナルティを受けたのか? ――ダメだ。こっちにヒントはないか。

……違う。重要なのはそこじゃない。吉法師が言ってたのは――

『――でもね、俺も龍臣さんも再度ここに呼ばれているということは、いまだ罰ゲームを受けたことがないってことなんですよ?』

そうだ。吉法師の言葉を読み解くと、罰ゲームを受けたのにまたゲームに参加してきた奴は見たことないってことだ。

それはつまり、罰ゲーム――ペナルティについては直接見たこともなければ、別のプレイヤーから体験談を聞いたこともないってこと。

なら、なんでまつりはその場で――しかも、あのゲームの中でペナルティを受けることが出来たんだ? そして、その結果まつりはペナルティをほぼ無効化している。

考えろ。なぜ奴がまつりのペナルティ前倒しに了承したのかを。

『――それより霧崎が勝負を受けたんだ、勝負中にちゃちゃ入れられても興ざめするだけだ。今すぐペナルティを課しなっ』

俺が勝負を受けたから? なんで俺が勝負を受けたことが、ペナルティ前倒しに関係があるんだ?

だが、まつりのこの言葉の直後、奴が珍しくうろたえていやがった。そしてまつりは、俺に感づかれるといって奴を挑発した。

まつりはペナルティを軽減する方法と言っていた。ペナルティの回避とは言っていない。

ペナルティは必ず執行される。これは回避出来ない事実ってことだ。

なら、いつに執行される? それがわからないから、大事になるんだ。

考えろ、Loopholeを。まつりが気づいた、ペナルティの盲点を。

……ペナルティが執行されるまで、家に閉じ籠るか? そうすれば、大事にはなるまい。

だか、それはいつまでだ? 何日間だ? 何週間だ?

――ちょっと待て。じゃあなんでまつりは俺との勝負中にペナルティが課されると思った? そして、それが間違っていなかったからこそ、奴がペナルティの前倒しに応じた。

ペナルティが執行出来る期間には限りがある?

……龍臣はゲームから何日も経ってから執行されている。なのに、まつりのペナルティの執行期限が数分だなんてありえるか?

時間じゃない、なにか他に――! そうか、俺が勝負を受けたから――つまりは、次のゲームが始まったからか!

そう考えると辻褄が合う。まつりが『勝負中〜』って言い出したのは、勝敗が決まれば次のペナルティを受けることが確定するからだ。

おそらく、ペナルティの重複ができないんだろう。だから、二重でペナルティを課すわけにはいかない。そんなことをすれば、前のペナルティは回避されてしまうからな。

まつりが見つけたペナルティの軽減方法は多分、次のゲームに参加するまで安全な場所で過ごして、新たなゲームに参加したときにペナルティ前倒しを要求するってことだ。

もちろん、安全な場所で待機している時にペナルティが執行されれば、それでよし。長期間の待機が出来なければ、スマホアプリから開催中のゲームに飛べばいいってことか。

俺はスマホを手に取り、ワールドイクジットのアプリを立ち上げてみる。

[現在げーむは開催されていません]

皮肉なモンだ。今回に限ってはゲームの開催が待ち遠しいとはな。


どのくらいの時間が経過しただろう。

スマホの時計はもうすぐミュウが帰宅してくる時間を表示していた。

ワールドイクジットのアプリを立ち上げる。

[現在開催中のげーむは『T』です。参加しますか?]

ゲームが開催されている。

まつりが『E』と言っていたのは、この画面のことを言っていたのか。

『参加しますか?』の部分をタッチすれば、参加の表明になると言ってたな?

……待ち望んでいたゲームの開催。だが、画面のタッチに躊躇してしまうのは、ゲームの性質を知っている以上は仕方がないだろう。

意を決し、画面の参加表明部分をタッチする。


そして俺はゲームの中へと誘われていった。


これから始まるゲームが、俺の人生をも変えるとんでもないゲームだとは、思いもよらずに。


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