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第24話 蒼き炎

完全にキレ散らかした魔将軍は、ジャキィンと鞘を払い、見るからに身体に悪そうな紫色の呪いのオーラを放つ巨大な魔剣を抜き放った。――が、俺の視線が釘付けになったのは、その禍々しい剣の方ではなかった。

「……あれは……」

「どうした? ユーリ」

俺が思わず口元に手を当てて深刻な顔つきになったのを見て、コーデリアが怪訝そうに聞いてくる。

魔将軍の構える大剣もかなりの業物(レア魔剣)で、アビスキャリバーの無敵の剛性をもってしても、そう簡単には破壊できなさそうな難物だが……それ以上に、奴が身に纏っている漆黒の「鎧」のほうが、戦術的に極めてマズい特徴を示していた。


『ほう? 気づいたか、大賢者の小僧。この鎧こそ、我が偉大なる魔王様より受け継ぎし、不滅の魔鎧よ。キサマら人間の貧弱な物理攻撃など、避ける必要すらもないわ!』

あの魔王の野郎、生前にそんなチートレベルに便利な防具を装備してやがったのか? どうりで十年前の決戦時、勇者や剣聖の直接攻撃が妙に通じにくかったわけだ。

しかし、俺たちが魔王を討ち取った直後に魔王城は地響きを立てて崩壊し、勇者パーティーは命からがら脱出したわけだから……この魔将軍、城が崩れるあのわずか数分間の極限状態の隙を逃さずに、玉座の間へ全力で駆け込んで魔王の死体から「剥ぎ取り(死体漁り)」を敢行したことになるな。

戦後に素早くどさくさに紛れて魔王剣を接収した俺がいうのもなんだが、魔族の側にもなかなかどうして、負けず劣らず抜け目のない強欲な奴がいたものである。


「コーデリア、気をつけろ! あの不滅の鎧、あらゆる刃を無効化する効果を持っている! 剣でまともに斬りつけることは不可能だ!」

「??? どういうことだ? いや、理屈は面倒だ。どうすればいい?」

「お前のその剣は、今から刃を無視したただの『鉄の棍棒』だ!」

「なるほど、分かった! お前の大魔法の準備ができるまで、あいつを物理的にボコボコに殴って時間を稼げばいいのだな!」

理解が早くて大変助かるが……お前、王国軍の誇り高き剣士として、その脳筋100%の戦闘スタイルへの切り替え、プライド的にそれでいいのか?


ギャリィィィィン!!!

バキィィィィン!!!


鈍く重苦しい金属音を響かせ、コーデリアと魔将軍が激しく切り結ぶ。さすがに魔王の死体からかっぱぐ偏執的アイテムコレクターの愛剣だけのことはあり、魔将軍の魔剣はアビスキャリバーと正面から打ち合っても簡単に折れたり砕けたりはしなかった。

しかし、手数と純粋なパワーのパラメーターにおいては、完全にコーデリアの方が圧倒していた。魔将軍は、不滅の魔鎧の圧倒的な防御力の優位を誇示するかのように、あえて回避せず、コーデリアの剣撃をその胸元で余裕ぶって受け止めるのだが……。


ドゴォッ!!!

「ぬおっ!?」

魔王剣アビスキャリバーが、その「ただただ無駄にめちゃくちゃ硬くて重い」という固有の剛性を120%活用した、最悪の鉄塊棍棒として、魔将軍のみぞおち(腹)へと力任せにブチ込まれた。

不滅の魔鎧の自体は決して剣で破壊されることはないのだが……それはそれとして、外側からの凄まじい物理的衝撃波が、中の肉体に何も影響を与えないわけではないらしい。

「ぐふっ……がはっ……!? 小娘、貴様、いったい何の馬鹿力を……」

「また、私のことを小娘と言ったな! くたばれぇぇぇッ!!」

完全に天然の「憤怒バフ」が限界突破した彼女は、涙目で魔王剣をひたすら「質量打撃兵器」として、魔将軍の全身へ向けて容赦なく乱打し始めた。

バキィッ! ガスウッ! ドゴッ! ボカッ!

だんだんと、見事なボディブローのように鎧の内側へ鈍い衝撃が効いてきたのか、魔将軍の最高幹部らしい動きが目に見えて鈍くなっていく。

その完璧な前衛(壁)の維持の隙に魔力チャージした俺の気配を、例によって野生の勘で察知したコーデリアが、素早くそのしなやかな身体を横へとずらした。射線確保。俺は単体攻撃用の強力な貫通魔術を即座に放った。

「――『ニードルブラスター』!!」

極細のレーザー状に極限まで収束された高密度光線が、魔将軍の魔力障壁を突き破り、奴の脳天をめがけて一直線に走る。魔将軍は直感的に首を傾げてすんでのところで躱したが――完全には回避しきれず、高熱の光線によって、魔将軍の頭部に残されていた「左の角」が根元から派手に吹き飛ばされた。

(あ。……あっ、あ〜あ〜。確かに十年前の魔王城でも、俺のレーザー魔法で何かモンスターの角をへし折った、そんなイベントがあった気がするわ。)

まあ、今さら思い出したと言っても、魔将軍と仲良くしたいわけでもないからどうでもいいが。


『お、おのれえぇぇッ!!! 一度ならず、二度までも!我が誇り高き角を両方とも奪いやがってぇぇッ!! 今度こそ、今度こそキサマを肉片に変えて殺してやるゥゥッ!!!』

「やらせん!!」

ガギィィィン!!!

怒り狂って俺の方へと直線的に突撃しようとする魔将軍の前に、コーデリアが白銀の鎧を鳴らして立ち塞がり、魔王剣を振るって力ずくで弾き飛ばした。本当に頼もしい前衛職である。


彼女は魔将軍と少しだけ間合いを保ち、俺のすぐ隣へと後退して、耳元で素早く囁いてきた。

「どうだ、ユーリ? 何とかなりそうか?」

「奴を確実に仕留める奥の手はある。ただ、どうしても詠唱と魔力充填に時間がかかるんだ。……かっきり三十秒だけ、あいつの足を完全に止めて時間を稼いでくれるか?」

「三十秒でいいのか? ――ふん、私を誰だと思っている。任せろ!」

やだ……この人、男前すぎてめちゃくちゃ格好いい……。


コーデリアは力強く請け負うと、魔将軍に向けて再び凄まじい密着型の猛攻を開始した。

「ハァァァ〜〜〜っ!!! ウラウラウラウラ! ウララララララララァ!!!」

気合の咆哮に合わせた、神速の怒濤の連撃。しかもただ手数が多いだけでなく、一撃一撃のすべてに彼女の常識外れなパワーが乗っているため、魔将軍はすべてを防ぎきることができず、ドカドカバキバキと、不滅の魔鎧の上から悲惨な物理打撃を骨身に喰らい続ける。

『ぐ、ぐおおおっ!? 人間の、小娘の分際で、ここまでやるというのかっ……!』

なんだか必死に上から目線でセリフを吐いているが、お前、その魔王の形見のチート鎧がなかったら、とっくの昔に何回か死んでるからな?


と、心の中で冷静に突っ込んでいる場合ではない。

俺はあのしぶとい最高幹部に完全な引導を渡すため、とっておきの一撃の編纂を始める。


まずは、空間の精霊召喚。炎の精霊たちに指示を出し、東洋風の巨大な「龍」のフォルムを構築してもらう。別に形状なんてただの炎の弾丸でも何でもいいのだが、この方がビジュアル的に超格好いいからという、大賢者の純粋な趣味(厨二病)である。


次に、地獄の悪魔に対してシステムアクセス。炎の熱量を限界突破させて「十倍に強制加熱」するようディール(契約)を要求。当然、後でその分の等価の燃料をアカウントへ捧げよと悪魔から要求されるが、背に腹は代えられない村の木こりのおっちゃん、明日あたり我が家の玄関前に大量の規格外の薪を差し入れしてくれないかなぁ……。


最後に、天界の神様に向けて祈りの法術を並列接続。今セットした炎龍の術式は本来は一回こっきりの単発処理なのだが、「魔将軍の生命活動(HP)が完全にゼロになってくたばるまで、自動でループ(繰り返し)処理を繋げてください」という、自然界のエントロピーの総量を完全に無視した、あまりにも虫のいい例外処理(ハック)をお願いする。俺の日頃のボランティアでプールしていた大事な善行ポイントがごっそりマイナスされるが、我が家の愛する最高の源泉(FIRE)を守るためだ、これくらいの投資は惜しくない。


こうして大賢者の誇る三元系複合魔術の発動に向けて全てのチャージが完了すると、俺は魔将軍の方向に向けて右手を力強く構えた。

コーデリアが俺のサインを瞬時にして察知し、斜め後ろの安全圏へと高速で退避する。

行くぞ、俺のFIREライフを脅かすクソ魔族め!


「――『アズール・インフェルノ』!!!」

召喚術、魔術、そして法術の三つの頂点を極めた大賢者ユリウスにしか行使できない、完全無欠の究極奥義を魔将軍へと解き放った。


俺の右手から、夜の闇を鮮やかな深青へと塗り替える、何匹もの『炎の龍』が咆哮と共に次々と飛び出し、魔将軍に向かって突き進む。それは通常の赤き炎は言うに及ばず、黄色き炎、白き炎すらをも遥かに超越した、空間ごと対象を溶解する「超超高熱の蒼き光の顎(あぎと)」だった。

魔将軍は本能的な生命の危険を察知し、なりふり構わず飛び退いて必死に逃れようとするが、龍のベースとなった炎の精霊たちが明確な追尾の意思を持って、どこまでも奴の退路を追いかける。


ドグォッ!!!

一発目の炎龍が着弾。魔将軍が最期に展開した最大出力の魔力障壁が、一撃で霧散して粉々に砕け散る。


グボァッ!!!

二発目の蒼き炎龍が、魔将軍自慢の不滅の魔鎧とやらを正面から捉え、その超超高熱によってドロドロの液体へと融解していく。いくら魔王の加護があろうとも、世界の常識の範疇を完全に超えた超超高熱の前には、物質の結合などひとたまりもないのだ。


ズドドドドドド!!!

そして、不滅の防具を失って完全に動きの止まった魔将軍の肉体へと、残りの蒼き炎龍たちが次々と無慈悲に着弾した。


『キ、キサマぁぁぁぁ――ッ!!! この魔将軍が! 復讐に燃えるこの我が、人間ごときに滅ぼされるなど……! 認めん! 認めんぞぉぉぉぉぉ――――ッッ!!!』


魔将軍は黄昏の戦場に悲惨な怨嗟の叫びを上げながら、肉体だけではなく、その魂の根源までもが蒼き劫火に跡形もなく焼き尽くされ、この世界から完全に、永遠に消滅したのだった。


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