第22話 白兵戦の真髄
遠隔攻撃や支援魔法を使うダークメイジが完全に駆逐されたのを確認すると、俺は浮遊を解除し、ふわりと地上のコーデリアの元へと降り立った。
彼女は何やら驚愕の表情で、俺に対して「お前、本当は何者だ」とでも言いたげな目で何かを聞きたそうにしていたが、あいにく今はそのマヌケな顔に説明を施してやる暇はない。
俺はまだ戦場の一帯を巡回している風の精霊たちにアクセスし、残存する敵の状況をサーチ。
残る敵影は、かっきり「十六」。
言うまでもなく、今回の軍勢のボスである魔将軍と、その直属の配下である魔人将どもだ。
連中、あまりの想定外のスピードで手勢の一千が一瞬にして全滅したもんだから完全に泡を食ってしまい、次の指示を乞うべく、魔将軍の元へと急速に集結しつつあった。
戦術的には各個撃破できた方が安全で確実だったが、こればかりは仕方がない。
俺がたった一人でこの軍勢を迎撃する場合に、最も懸念していたリスクがまさにこれだった。魔力耐性の極めて強い魔人将クラスを一撃で消し去るとなれば、それなりに魔力充填の長い高等術式を使用する必要があり、かつ相手を常に視界の正面に収め続けなければならない。そうなると、俺が魔法のロックオンで魔人将を一体ずつ処理している間に、残りの魔人将たちに超スピードで接近され、囲まれてタコ殴りにされる危険性が跳ね上がるのだ。
上空から撃ち下ろす手もあるが、奴らは高威力の投槍や弓矢、あるいは固有の魔術による対空攻撃を使ってくることもあり、安全マージンを最優先する俺のFIRE思想に反して危険極まりないことに違いはなかった。
(広範囲の大規模空間破壊魔法をぶち込めば一発だが、何度も言うように、我が家の源泉を守るためにはそんなプレートを歪めるような魔法は絶対に使えない。)
しかし――そこに「絶対的な前衛」がいれば、その戦術リスクはほぼゼロに急減する。
俺は黒鉄号から下馬したコーデリアと共に、魔人将たちの集結ポイント、すなわち魔将軍の本陣へと堂々と正面から走り込んだ。
魔人将たちは突然現れた人間のパーティーに驚いてこちらを振り返ったが、俺たちがたったの二人であるのを見て「勝機あり」と強気になったのか、あろうことか魔将軍の守りを離れて、自らバラバラとこっちに向かって突撃してきた。
この辺、所詮は力に頼った脳筋の魔人将だ。思考パターンが極めて単純で、戦術的に扱いやすくて本当に助かる。
「ハァッ!!」
裂帛の気合とともに、コーデリアが漆黒の魔王剣アビスキャリバーを豪快に振り抜いた。
バギャァァァン!!!
突っ込んできた魔人将は、自身の剣でその斬撃を真っ向から受け止めようとした。しかし、二つの刃が激突したその瞬間、不気味な異音と共に、魔王剣から禍々しい純黒のオーラがブワッと立ち昇り――魔人将の構えていた長剣が、まるで安物のガラス細工のように粉々に砕け散った。
あの魔王剣アビスキャリバーは、我が家では生活魔法レベルの冷気を発する高性能な冷蔵庫代わりに使っていただけで、術式としての属性付与も追加の魔法効果も一切出てこない。しかし、素材そのものの物理的な剛性と刃の質量だけは、この世の名だたる名剣、宝剣と並べてもズバ抜けて強力なのだ。
コーデリアは、一瞬にして獲物を失ってうろたえる魔人将を、流れるような横薙ぎの一閃で容赦なく切り捨てると、今度は息をもつかせぬスピードで大上段に構え、次なる魔人将の頭めがけて魔王剣を力任せに叩きつけた。
ギャリィィィィン!!!
頭上でクロスさせて受け止めようとした魔人将の二振りの剣は、その防御の役割を果たすことすらできずに一撃でへし折れ、その下にいた魔人将は、そのまま脳天唐竹割りにされて一刀両断となった。
予想はしていたが、あの魔王剣はコーデリアのような「ゴリ押し物理パワーキャラ」とは、戦術的にも肉体的にも最高に相性が良い。
俺は彼女が前線で豪快に切り結んでいる間に、単体攻撃用の高密度複合魔術の構築を完了した。術式の射出に合わせてコーリングシェルで彼女に即座の退避を促そうとしたが――
コーデリアは、背後で膨れ上がった俺の膨大な魔力発動の気配を、持ち前の野生の直感で完璧に察知したのか、絶妙すぎるタイミングでさっと身を翻し、俺の正面の射線を綺麗に開けてみせた。ナイス連携だ。
「――『フォトン・バースト』」
無数の鋭利な白色光線が、俺の正面に立ち尽くしていた魔人将を、オールレンジから容赦なく一斉に串刺しにした。一見すると外傷は少なく、ただの光のシャワーを浴びただけのように見えたが――
ボグウォォォンッ!!!
――次の瞬間、その魔人将の身体が、内部から激しく爆発して四散した。
魔人将の展開していた強固な魔力障壁を、高収束の超高密度魔力光線によって文字通り「透過」して貫通し、その破壊エネルギーを防御不可能な体内(内臓)で直接解放したわけだ。
「な、な、なあああ――っ!?」
コーデリアが、自分の背後で一体何が起こったのか脳の処理が追いつかないといった風に、目を丸くして驚愕の声を上げている。
「ボサッとしてんな! 次、右から来るぞ!」
俺は即座に彼女に発破をかける。
魔人将たちも、さすがにこれまでの個体の力押しでは勝てないと悟ったのか、少しは組織的な連携でもするつもりらしく、今度は三匹で綺麗なフォーメーションを組んで同時に襲いかかってきた。
タイミングを巧妙にずらしたり、三方向から同時に合わせたり、何とかコーデリアに狙いを絞らせまいと計算された猛攻を仕掛ける。だが、驚くべきことに、彼女はその三匹の連携を相手にしても、ただの一歩も退くことなく真っ向から大剣の力技で打ち合いを演じてみせた。
魔人将どもの剣は、魔王剣の圧倒的な硬度の前に打ち合うたびに見る間にボロボロになっていき、やがて柄だけになったそれを絶望の顔で放り出し、肉体による殴りかかりに切り替えようとする。
その瞬間を、コーデリアはフッと紙一重の一歩の引きで完璧に回避してみせた。かと思うと、次の刹那には、残像を残すほどの神速の踏み込みで、魔人将三体の首を、横一文字の円を描くように次々とまとめて跳ね飛ばした。
よし、こっちも次の広域攻撃の術式準備が完了したぞ。
残りの魔人将たちは、俺たちの規格外の戦闘力に本気で恐れをなしたのか、散開して俺たちを包囲しようと左右の横方向へと大きく広がり始めた。
コーデリアは、チラリと俺が右手の手刀を胸のあたりで水平に構えたその戦闘動作を見た瞬間、俺がこれから何をしようとしているのかを直感的に100%理解したようで、慌てて地上の泥の上へとその身を深く伏せた。本当に良い勘をしてやがる。
「――『アーク・スラッシャー』!」
今度は、長さ三十メートルほどの鋭利な棒状へと限界まで圧縮・延伸した高密度の光線を、俺を中心とした綺麗な弧を描くように、水平の横薙ぎで一気に振り抜いた。
俺たちを取り囲もうとしていた残りの魔人将たち数体は、周囲のぶっとい樹木ともども、その防具ごと上半身と下半身を綺麗に二つに切り分けられた。
未だ生き残っていたわずかな魔人将たちは、もはや見るからにうろたえて戦意を完全に喪失しており、そこに魔剣を肩に担ぎ直したコーデリアが咆哮と共に突進し、次々と無慈悲に各個撃破していった。
こうして、金髪の戦鬼と引きこもり大賢者による一分の隙もない最凶の連携の前に、魔王軍が誇る精鋭・魔人将十五体は、三分とかからずに文字通り全滅の運命を辿ったのである。




