第13話 雪辱戦(2)
「今こそ勝機! 我に続け!」
俺の通信を受けたコーデリアは大剣を抜き放ち、きらめく金髪のポニーテールを揺らしながら、数人の騎士を伴って魔人将の部隊へと突撃した。
前回の撤退戦で、コーデリアが自ら殿を務めて部下たちに死者を出さずに撤退する時間を稼いだという話を聞いた時、俺は「どうせ身内の身贔屓か、話半分だろう」と大した武勇だとは思っていなかった。
だが、実際にその戦いぶりを見てみると――確かに話半分だった。
ただし、方向がまったく逆だった。
コーデリアは話を盛っていたどころか、むしろもの凄く謙虚に自己申告していたのだ。
ハイオークの群れに突っ込んだかと思えば、最前列のハイオークが武器を振り下ろす間もなく頭から一刀両断。
他のハイオークがようやく反応した時には既に別の一匹の後ろに回り込んでおり、そいつを盾にしながら急所を一突き。
腰を屈めて次のハイオークに肉薄したかと思えば、下からの逆袈裟斬りでずんばらりん。
武器も別に特別な魔力が込められているわけではないはずだが、相当の業物なのだろう。
ハイオークやホブゴブリンをスパスパスパスパと、まるで豆腐のように斬って捨てていく。魔人将の護衛は、見る間にその数を減らしていった。
(おいおい、もしかして前回も一人で制圧できたんじゃないのか?)
それは言い過ぎにしても、「40匹くらいは一人で相手にできる」というのは大言壮語でも何でもなかった。コーデリアが敵陣に突撃して敵の注意を完全に引きつけ、部下が安全地帯からフォローに徹すれば、確実に敵の数を削っていき、時間をかければ力業で押し切ることも難しくなかったかも知れない。
「もっとも、それじゃあ意味がないんだよな」
今回は前回より敵の数も多く、何よりコーデリアが『指揮官としての成長』を見せなければならないのだ。
コーデリアが文字通り魔人将の護衛部隊を粉砕し、取りこぼしを後方の騎士たちが包囲して殲滅するという、見事な集団連携を見せていると、ついに魔人将が咆哮して自らコーデリアの迎撃に向かってきた。
「敵将! 来るぞ!」
「取り巻きどもはお任せください!」
「任せた! 無理に討ち取る必要はない! 30秒だけ時間を稼げ!」
(ほう、ちゃんと部下と連携しているじゃないか。……え? 30秒? 短くね?)
俺が内心で突っ込む間もなく、コーデリアは真正面から魔人将と激しく斬り結ぶ。
ガギイィン!
と重く鈍い剣戟の音が響き渡り、――信じがたいことに、彼女の斬撃は魔人将の巨体を力ずくで弾き飛ばしたのだ!
(マジかよ? 勇者パーティーの伝説の『剣聖』でも、あそこまで馬鹿力じゃねえぞ!)
たたらを踏んだ魔人将の脇へと、コーデリアは電光石火の踏み込みで飛び込み、逆袈裟の一閃!
肉を断ち切り、骨を砕く凄まじい音が響き、魔人将の右腕が宙を舞った。
「GAHHAAAAA!!!!」
絶叫をあげる敵に対し、コーデリアは容赦なく今度は逆側に回り込む。柔らかいわき腹へと容赦なく長剣を一突き。たまらず前に膝を突いて崩れた魔人将の首を、彼女は大上段から斧で叩き切るかのように、一刀両断にした。
勝負あった! と思う間もなく、コーデリアはまだピクピクと動く魔人将の死体をガシッと片足で踏みつけ、その首級を左手でひっ掴んだ。
そして、滴る血もそのままに頭上高く掲げながら、戦場全体によく通る大音声で言い放ったのだ。
「敵将、魔人将討ち取ったりいぃぃぃぃ!!」
――有言実行。制限時間として宣言した「30秒」にすら、十分すぎるほどの余裕を残した勝鬨だった。
モンスターに人間の言葉が分かるはずもないが、絶対的な将を失った魔族軍は見るからにうろたえ、我先にと逃走を開始した。こうなると、もはや戦いにすらならない。
戦術のレクチャー通り、騎士たちは余裕をもって逃げる敵に追いすがり、囲い込み、次々と仕留めていった。
なるほど、将を討ち取ったことを即座にアピールすることで、敵味方への心理的効果は計り知れない。
結果として、敵の士気を完全にくじき、自軍の損耗を抑えてスムーズに殲滅戦に入れるわけで、戦術としては実に合理的だ。うん、合理的、なんだけど……。
ただ、なんというか。
戦いを終えた達成感もあるのだろうが、魔人将の血だらけの首を笑顔で掲げ、流れた返り血で自分の美しい銀の鎧が汚れるのも一切意に介さず、「やったぞ!」と言わんばかりにこちらを向いて飛びっきりの眩しい笑顔を浮かべるコーデリアを見て――。(……こいつを本気で怒らせるのだけは、絶対にやめよう。マジで)
とかつて世界を救った大賢者が、内心で本気でビビって冷や汗を流していたのは、絶対に内緒である。




