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乙女ゲームに転生した冷静生徒会副会長のヒロイン観察日記  作者: 高天原ヒロ


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第七話 放課後の勉強会〜受け継がれるバトン

六月。学園生活にも慣れてきたヒマリのもとへ、最初の試練がやってきた。

――定期考査である。


放課後の生徒会室。

ヒマリは力なく机の上に突っ伏していた。

「もうあと一週間で定期考査ですよ〜。……どうしましょう〜……。」

どんよりと落ち込む姿に、斗真が首を傾げる。

「ヒマリちゃん、お勉強で分からないところがあるの?」

「はい……。得意なのは英語くらいで、それ以外は全然駄目なんです。もう諦めようかな……。」


すると珍しく、ソノが語気を強めて言葉を挟んだ。

「諦めてはダメですよ!!」

「ソ、ソノ先輩!?」

「定期考査は重要なイベントです! 赤点なんて取ったら活動時間は削られますし、好感度だってガタ落ちしてしまいます!」


「イベント……?  好感度……?」

聞き慣れない単語に首をかしげるヒマリだったが、要するに『赤点を取れば生徒会にいられる時間が減り、みんなからの信用も失ってしまう』ということだろう。

そう理解したヒマリは、瞳に炎を宿らせた。


「確かに、それは困ります! こうなったら……凌会長!」

「あ?」

「一緒に勉強会してください!!」

ガタッと椅子を鳴らし、目を輝かせて凌へ猛接近する。

突然の至近距離に、凌の胸がドクンと跳ねた。

「は、はぁ!? 勉強会!? 俺が教えるのか!?」

「はい! お願いします!!」

「いや……でもな……。」


どこか歯切れの悪い凌を見かねて、隣から環季がニヤニヤと口を挟む。

「えーやん。去年は凌も赤点スレスレでヤバい言うて、生徒会室で勉強会してもろとったやんか。」

暴露された凌の顔が、一瞬で茹でダコのように赤くなった。


「えっ?  凌会長って……おバカだったんですか?」

ヒマリが素で目を丸くする。

「そ、それは去年までの話だ! あれから死ぬ気で勉強して、今はそこそこ取れる! ……はずだ。」


語尾に向かって急速に弱気になっていく凌に、斗真がくすりと笑って助け舟を出した。

「じゃあさ、みんなで勉強会をしようよ。生徒の模範であるべき生徒会が赤点なんて、目も当てられないからね?」


ソノもしずしずと頷く。

「そうですね。各自が得意分野を持ち寄れば、効率よく網羅(もうら)できるはずです。」


「……そうだな。確かに赤点で補習なんて受けてたら、『最強の生徒会』の名が(すた)る。」

凌も腕を組み、腹を(くく)ったように大きく頷いた。

「よし。明日から一週間、この生徒会室で勉強会を行う!」



翌日の放課後。

五人は生徒会室の大きな机を囲んでいた。

三年生のソノと斗真、二年生の凌と環季が向かい合って座り、一年生のヒマリが分からない箇所を先輩たちに質問していくスタイルだ。


「えーっと、まずは数学を教えていただきたいんですけど……」

ヒマリがおずおずと尋ねると、環季が元気よく手を挙げた。

「はいはーい! 数字関係なら俺の出番や、任しとき!」

「はい! よろしくお願いします!」


鮮やかに数式を解き明かしていく環季に、ヒマリは目を輝かせる。

「滝沢先輩の数学、すっごく分かりやすいです! さすが会計担当ですね!」

「いやいや〜、前の会計担当と比べたら俺なんかまだまだや。」

「そうなんですか!?」

「おん。あの人はほんまものの天才やからな。」

「でも、滝沢先輩はその人に指名されて生徒会に入ったんですよね?」

「そうや。あん時はほんま驚いたで。『なんで俺なんですか?』って聞いたら……『君が一番適任だと思った』やて。」

そこまで口にすると、環季はどこか懐かしむような遠い目をした。


白砂(しらすな)先輩……俺なんかが会計でええんですか? あんたみたいにパソコンのプロでもないし、数字がずば抜けて得意なわけでもないのに……。』

『うん。俺から見て、君が一番適任だと思った。』

『へっ?』

『会計ってさ、数字に強いだけじゃダメなんだよね。どこにどれだけの予算が必要か、情に流されず見極める力が必要なんだ。君にはそれがある。』

前会計担当・白砂律(しらすなりつ)の言葉を思い出し、環季はふっと目元を緩めた。

「ほんま、天才の考えることは分からんわ。」



翌日、ヒマリは斗真から社会を教わっていた。

「やっぱり水川先輩、教え方が上手で分かりやすいです! こんな先生がいたら、私の成績も上がるのに〜。」

「あはは、ヒマリちゃんは褒め上手だなぁ。」

柔らかく微笑む斗真に、ヒマリはふと気になっていたことを尋ねてみた。

「水川先輩も、前の広報担当の方から指名されたんですか?」

「うん、そうだよ。ある日、突然廊下で呼び止められてね。『僕の後の広報を継いでほしい』って。でも僕、最初は断ったんだ。」

「えっ、断ったんですか?」

「うん。『僕はあなたのようにはなれません』って。」

斗真の瞳に、少しだけ切ない影が落ちる。


千早(ちはや)先輩、指名していただいたのは光栄ですが……僕はあなたのようにはなれません。あなたは如月(きさらぎ)会長を敬愛し、会長のために動いている。でも僕には、そんな風に誰かのために動くなんてできません。』

前広報担当・千早絢(ちはやあや)は、息をのむほど鮮やかな笑顔で微笑んだ。

『僕もね、最初は君と同じでした。誰のために働くわけでもない。自分は外見だけで判断される『薄っぺらい人間』だと思っていました。』

『……!』

『でも(れい)は……如月会長は『中身を見てほしいと頑張っている、僕の中身が良いんだ』と、僕の欲しい言葉をくれた。その時に僕は、この人のために働こうと思えたんです。』

『……。』

『水川くんにも、いずれそんな出会いがあるかもしれません。その時きっと、今の僕の言っていることが分かると思います。』


「……まあ、生徒会は楽しいけどね。あの時の答えは……まだ見つかりそうにないかな。」

流れるように微笑む斗真の横顔を、ヒマリは静かに見つめた。



その翌日、ヒマリは凌と向かい合って理科のノートを開いていた。

「凌会長、すごいです! 全然おバカじゃないじゃないですか!」

「おい、誰がおバカだ! 俺だって陰でちゃんと勉強してんだよ!」

「去年は、前生徒会長さんに教わっていたんですか?」

「あぁ。あの人は……完璧な人だったからな。」

「凌会長が素直に人を褒めるなんて珍しいですね。」

「褒めざるを得ないんだよ! 本当に何でもできる人だったから。」

悔しそうに、けれど誇らしげに凌は回想に目を細めた。


『凌くん! 君を正式に次期生徒会長に任命します!』

『はぁ!? いきなり何言ってんだよ! 俺はまだ一年だぞ? 引き継ぐなら二年のソノだろ!』

『ソノちゃんは、誰かを補佐する方が性に合ってるんだよ。凌くんはいざという時の度胸もあるし、面倒見もいい。舞台映えする声だってピッタリだ!』

『いや……俺、あんたみたいに完璧にこなす自信なんてないし……。』

『大丈夫! 私みたいになろうとしなくていい。凌くんは凌くんのやり方で、最高の生徒会を作って。』


前生徒会長・如月玲(きさらぎれい)の太陽のような笑顔に押し切られた日のことを思い出し、凌は肩をすくめた。

「はぁ〜……なんで引き受けちゃったんだろうな。……でも、引き受けたからには、絶対にあの人を超える生徒会にしてみせるけどな!」



勉強会、最終日――。

ヒマリはソノと並んで国語の読解に取り組んでいた。

「ソノ先輩は国語が得意なんですね。」

「得意というより……静かに文字を書く時間が好きなだけですよ。」

「ソノ先輩が引き継いだ時のことも教えてください!」

「私ですか? 私は……。」


思い出されるのは、半年前の慌ただしい生徒会室。

『ソノちゃん。』

呼びかけたのは、前副会長のサクラだった。

『はい、なんでしょうか?』

『来年度の副会長を、ソノちゃんにお願いしたいんです。』

『私ですか……!?』

『はい。来年は凌くんが生徒会長になる。最初はきっと、戸惑うことも多いと思うから……。その時に隣で支えられるのは、誰よりも生徒会を見てきたソノちゃんしかいないと思うんです。』

サクラの、光に溶けてしまいそうなほど優しい笑顔が脳裏に蘇る。


「あんな天使のように微笑まれたら……断れるはずがありませんよね。」

ソノはふと、少し離れた席で凌と環季が騒いでいる方へ視線を向けた。

偉大な前会長の背中を追いかける、不器用で真っ直ぐな新米会長。

「……私が、支えてあげなくちゃ。」

ぽつりと漏れたその呟きを、ヒマリの耳は逃さなかった。

(あれ……? ソノ先輩って普段あまり感情を出さないから分かりにくいけど……もしかして、凌会長のこと――。)


それぞれの胸に秘めた想いと、先輩たちから受け継いだバトンを抱えて。

こうして、試練の一週間は過ぎていくのだった。

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