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乙女ゲームに転生した冷静生徒会副会長のヒロイン観察日記  作者: 高天原ヒロ


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第六話 ご褒美ランチ〜シールが語る秘密の距離

新入生歓迎レクリエーションの翌日の昼休み。

学園謎解きラリーの優勝賞品としてもらった無料チケットを手に、ヒマリたちは学食へやって来ていた。


「わぁ……! どれも美味しそうですね!」

ずらりと並んだメニューを前に、思わず目が輝く。

普段なら少し迷ってしまうような豪華な料理も、今日は無料。

せっかくなので、ここは思い切って――。


「私、これにします!」

指差したのは、分厚いステーキがどんと乗った特大ステーキ定食。


「……お前、いきなり一番高いやつ選んだな。」

凌が、呆れたように私を見る。


「だって、せっかくの無料チケットですよ? 高い物を頼んだ方がお得じゃないですか!」


「それもそうやな!」

環季がメニューを覗き込み、にやりと笑った。

「ほんなら俺も、普段は頼まへん全乗せカレーにしよ。」


「じゃあ、僕は海鮮丼にしようかな。」

斗真先輩も楽しそうにメニューを選ぶ。


「ソノ先輩はどれにしますか?」

「私は、いつもの日替わり定食にします。」

「ええっ!?」

ヒマリは思わず声を上げた。

「もっと豪華な物にしなくていいんですか?」

「食べきれる量じゃないと、あとあと自分が苦しいので。」

「さすがソノやなぁ。」

環季が妙に感心する。


「凌会長は、何にするんですか?」

「俺は……ハンバーグとエビフライ定食かな。」


「あーーっ、それっ!!」

突然大きな声を出したヒマリに、凌の肩がビクッと震える。

「な、何だ? どうした!?」

「私、そのメニューと迷ってたんですよ〜!! ハンバーグとエビフライも美味しそうで……。そっちにすれば良かったかなぁ……。」

しゅんとなるヒマリをなだめるように、凌が声をかける。

「分かった分かった……。俺のも後で少し分けてやるから」

「本当ですかっ!?」

途端に目を輝かせるヒマリ。

その姿を見て、凌は小さく息を吐いた。

(はぁ〜。なんで俺……こんな食いしんぼう女のこと、気になってんだろう……?)


そんなやり取りをしながら注文を済ませ、五人で席についた。


すると、すぐに環季が声をかけてきた。

「……そういえばヒマリ、それ……。昨日のステッカー、剥がさんの?」


ヒマリの上着には、昨日の学園ラリーでもらった四枚のステッカーが、それぞれ貼られたままになっている。


「はい。かわいいし……なんだか先輩たちからパワーをもらってるような感じがして嬉しくて。なかなか外せないんです。」


その答えに、ふっとみんなの表情が和らいだ。

「ほんま、ヒマリは健気やね〜。」

環季は目元を押さえ、わざとらしく嘘泣きの仕草をする。


そんな中、斗真が口を開いた。

「ところで、ヒマリちゃん。そのシールの位置って、何か意味があるの?」


ヒマリは首を傾げる。

「シールの位置、ですか?」

言われて、ヒマリは自分の上着を改めて見渡した。


右腕には、ソノの藤の花のステッカー。

左腕には、環季の木の実のステッカー。

右胸には、斗真の雫のステッカー。

そして左胸には、凌の新月のステッカー。


「うーん……。なんとなく、ですかね? 特に意味は考えてなかったんですけど……。」


斗真は意味深に目を細めた。

「へぇー……なんとなく、ね。」

そう言いながら、左胸に貼られた凌のステッカーへ視線を向ける。


左胸――心臓に一番近い場所。

もちろん、考えすぎかもしれない。

けれど斗真には、無意識のうちにヒマリがその場所を選んだようにも思えた。


環季も同じことを感じたらしい。

「良かったなぁ、凌。大事そうに貼ってもろて。」

「は? 何のことだ!?」

当の凌は、その意味をまるで理解していない。


「せやから、ヒマリの一番大事な所に、凌がおるって話や。」

ようやく意味を理解したのか、凌の顔が一気に赤くなった。

「ただのシールの話だろ!? 変な深読みすんな!」


環季はニヤニヤしながら、今度はヒマリへ矛先を向ける。

「ヒマリも、凌のシールを大切にしとるやんなぁ?」

「当然です!」

ヒマリは至極真剣な表情で答えた。

「もちろん、みんな同じように大事なシールなんですけど……。凌会長のシールは、私のことを考えて作ってくれたシールだから……。」


その言葉を聞いた瞬間、凌の動きがぴたりと止まった。

「お、おい、ヒマリ! それ以上は……!!」

しかし、その言葉を遮るように環季が凌の口を塞ぐ。

「んぐっ!?」

その隣では、斗真が興味津々といった様子でヒマリに尋ねた。

「へぇー。それはどういう意味なの?」


「はい。私のシールを作るとしたら黄色の満月だって。だから、自分は深緑色の新月にしたって、凌会長が……。」

ヒマリは嬉しそうに、ことの経緯を説明する。


凌は魂が抜けたように固まり、斗真と環季は声も出ない様子で肩を震わせていた。


「満月に、新月……。とても素敵なデザインですね。」

ソノが静かに呟く。

するとヒマリは、さらに眩しい笑顔を浮かべた。


「はいっ! だから私のお気に入りなんです!」



そんな会話を交わしていると、料理が運ばれてきた。

目の前に並ぶのは、普段よりずっと豪華な料理ばかり。

それを眺めていると、なんだか嬉しくなってくる。


「約束通り、日頃の感謝を込めて、今日は私の奢りですから! 思いっきり食べてくださいね!」


「……ほんま、律儀な子やなぁ。」

環季が笑う。

「ごちそうになります、ヒマリちゃん。」

斗真先輩も微笑んだ。

「お誘いありがとうございます。ごちそうになります。」

ソノが丁寧にお辞儀をする。

「……ごちそうになります。」

凌は、なぜか少し気まずそうだ。


「じゃあ、みんなで、せーの!」

「「「「「いただきますーー!!」」」」」


ヒマリがナイフを入れ、一口頬張った。

「……美味しい!」

思わず声が弾む。

「本当です! すごく美味しいですよ!」


「そないに?」

環季が自分のカレーを一口食べる。

「……おお。これは当たりやな!」


「ヒマリ。」

隣で凌が呼ぶ。

「ほら、約束のハンバーグとエビフライ。一口ずつな。」

そう言うと、綺麗にナイフで切って、ヒマリの皿に取り分けてくれた。


「凌会長、いいんですか!?」

ヒマリの顔がぱっと明るくなる。

「じゃあ、私のステーキも良かったら食べてください!!」

そう言って、ヒマリも自分のステーキを少し切り、凌の皿へ移した。

「あ、ありがとう……。」

凌は少し照れくさそうに呟く。


「ヒマリちゃん。」

今度は斗真がヒマリに声をかけた。

「そんなに美味しいなら、僕にも一口くれる?」

「もちろん、いいですよ!」

ヒマリは斗真の皿にも、一口分を取り分ける。


「そうだ! 良かったら、みんなで少しずつシェアしません!?」


ヒマリの提案に、環季の瞳が輝いた。

「ええん?」

「はい!」


ヒマリは自分の皿から、環季、斗真、ソノへと一切れずつ取り分けていく。

「うん、うまいな!」

「本当、一番お高いメニューなだけあるね。」

「初めて食べましたけど……おいしいですね。」

環季、斗真、ソノがそれぞれ舌鼓を打つ。


そして最後に、凌が一口。

「……うまい。」

「ですよね!」

ヒマリはとても楽しそうに笑った。


「こうやってみんなで食べると、すっごく美味しいですね!」

ヒマリがそう言うと、環季が笑った。

「せやな。」

斗真も頷く。

「うん。こういう昼休みも悪くないね。」

ソノも静かに微笑んでいる。

「そうですね。」

「……まあ、たまにはな。」

凌も、小さく笑った。


五人で囲む昼食。

美味しい料理と、くだらない会話。

それだけなのに――それが、とても楽しくて、尊い。

これからも、ずっとこんな時間が続くんだ――。

この時の私は、そう信じて疑わなかった。

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