第五話 新入生歓迎レクリエーション! 生徒会と学園謎解きラリー
入学から、約一か月。
新入生たちが学園生活にも少しずつ慣れてきた頃――。
学園では、新入生歓迎レクリエーションが開催されることになった。
体育館には、一年生と生徒会メンバーが集まっている。
「わぁ……! すっごい人!」
体育館を見渡し、ヒマリは目を輝かせた。
今回行われるのは――『学園謎解きラリー』
学園内の各所に設置された問題を解きながら、ゴールを目指すというものだ。
「えーっと……。私は生徒会だから、今日は運営側なんですよね?」
「いえ、今日のヒマリさんは参加者ですよ。」
隣に立ったソノが、瞳を和ませてヒマリを見つめる。
「えっ!? いいんですか?」
さらにその隣から、斗真が柔らかい笑みを浮かべて顔を出した。
「もちろん。新入生歓迎レクリエーションなんだから、ヒマリちゃんも思い切り楽しんで。」
「やったぁー!」
ヒマリはパッと表情を明るくし、嬉しそうに両手を突き上げた。
反対側に立つ環季が、それを見てケラケラと愉快そうに笑う。
「せやかて、問題の答えは絶対に秘密やからな!」
「もちろんです!」
ヒマリはグッと拳を握りしめた。
「それじゃ、僕たちは準備があるから。ヒマリちゃん、また後でね。」
斗真が優しく手を振ると、ソノ、環季、斗真の三人はそれぞれの配置場所へと向かっていく。
「――それでは、ルールを説明します。」
静まり返る体育館の壇上、マイクを握ったのは生徒会長の凌だった。
「まずは、今から全員に最初の問題を発表します。」
問題①『学園の歴史を知るもののもとへ』
「スタートの合図とともに、各自で謎を解き、その場所を目指してください。」
ざわ……と体育館が一瞬で騒がしくなった。
「えっ、どこ!?」
「学園の歴史を知るもの……って、校長先生のことか!?」
混乱する生徒たちを前に、凌はコホンとひとつ咳払いをして言葉を続けた。
「正解の場所には生徒会メンバーが待機しています。そこでクリアの『証』と次のお題を受け取ること。制限時間は一時間。四つのチェックポイントすべてを巡って証を集め、最後にゴール地点を目指してください。」
(えっ、なにこれ……! 先輩たち、いつの間にこんな準備してたんだろう!? すごく楽しそう!!)
ヒマリの胸が高鳴る。
「なお、無事にゴールへ辿り着いた者には――学食の全メニューから好きなものを選べる『無料チケット一週間分(五枚)』を贈呈します!」
「「「わぁ――!!」」」
体育館全体を揺らすほどの歓声が上がった。
「俺、あの特大ステーキ定食食べてみたかったんだよ!」
「俺はカレーとハンバーグとうどんの全部乗せ!」
「私も! デザート全種類頼んじゃおうかな!」
豪華すぎる景品に、生徒たちの目の色がガラリと変わる。
「それでは――よーい、スタート!!」
凌の合図と同時に、猛ダッシュの足音が体育館中に響き渡った。
ヒマリも慌てて走り出した。
ふと壇上の凌を見上げると、パチンと視線がぶつかった。
凌は一瞬たじろいだが、すぐにニッと口角を上げ、右手の親指を立ててみせた。
「頑張れよ! ゴール地点で待ってるから。」
「はいっ!」
ヒマリは満面の笑みで大きく頷き、校舎へと飛び出していった。
◇
最初の問題『学園の歴史を知るもののもとへ』は、想像以上の難問だった。
校長室へと一直線に駆け込む者。
勤務歴の長いベテラン体育教師を探して、職員室へ突撃する者。
――しかし、どれも正解ではないらしい。
ヒマリは廊下で立ち止まり、深く首をひねった。
「学園の歴史を知るもの……誰のことだろう!?」
途方に暮れながら歩いていると、静まり返る図書室の前に辿り着いた。
「歴史を知る……『もの』……。待って、人とは限らない……!?」
ポンと、ヒマリの頭の中で電球が点灯する。
「学園の歴史を知る『もの』なら――学園の歴史書だっ!!」
答えを確信したヒマリは、勢いよく図書室の扉を開けた。
柔らかな光が差し込む窓際、一人の人物が静かに立っていた。
「ソノ先輩!」
「ヒマリさん。よくここが分かりましたね。あなたが最初のクリア者ですよ。」
ソノは満足そうに目を細め、穏やかに微笑んだ。
「やったぁ〜!!」
ソノはクリアの証明として、可憐な『藤色の花』のステッカーをヒマリの右腕にそっと貼った。
「では、次の問題です。」
渡された紙には、こう記されていた。
問題②『学園の外に存在する二つの時計。校舎の時計塔ともう一つのもとへ』
「学校の外にある時計……? 時計塔しか思い浮かばないよ〜〜。」
頭を抱えて唸るヒマリに、ソノがそっとヒントを添える。
「ヒマリさん、それは『時計の形をしていない』かもしれません。」
「えっ?」
「『時間を示すもの』と考えてみてください。……ふふ、ヒントはここまでです。」
「はい! ありがとうございます!」
元気に礼を言うと、ヒマリは風のように図書室を後にした。
ソノはその背中を温かい目で見送りながら、静かに呟く。
「さあ、見つけられますか?」
◇
校庭へ飛び出したヒマリは、答えを模索しながら周囲を見渡した。
空高くそびえ立つ校舎の時計塔以外、どこを見回しても時計らしき物は見当たらない。
「はぁ〜、一体どこにあるの……?」
行き詰まったヒマリは、がっくりと肩を落として足元を見つめた。
強い日差しが照りつけ、グラウンドの砂の上に、自分の影が長く伸びている。
「ん? 影……?」
ヒマリの脳裏に、昔理科の授業で習った知識が閃いた。
「そうだ、昔の人は影の長さで時間を測ってた……! 答えは――日時計だっ!!」
ヒマリは一直線に、校庭の端にある日時計の設置スペースへとひた走った。
息を切らせて駆け寄ると、そこに待っていたのは木陰で佇む環季だった。
「滝沢先輩!!」
「おー、ヒマリ! 順調そうやなぁ!」
「他に誰か来ましたか!?」
「いや、誰も来てへんで? ヒマリが一番乗りや!」
「やったぁーー!」
「ほな、これがクリアの印な!」
環季は嬉しそうに、ヒマリの左腕へ『赤茶色の木の実』のシールを貼った。
「ありがとうございます!!」
「次の問題はこれや。あと二つ、気張っていきや!」
「はいっ! 行ってきます!」
◇
手渡された紙を開き、ヒマリは走りながら文面を目で追う。
問題③『言葉を持たずして、想いを伝えるもののもとへ』
「言葉を持たずに想いを伝える……? 手紙? 書くこと……書道室とか!?」
書道室へと向かってみたものの、部屋はもぬけのからだった。
「違うかぁ……。じゃあ、言葉を使わずに伝える方法って何だろう……。」
その時、校内に響き渡るチャイムの音が聞こえた。
残り時間を告げる放送――レクリエーション終了まで、あと二十分。
(ん? チャイム……音……音で表現する……音楽!?)
「言葉を使わずに想いを伝える手段……音楽だっ!」
ヒマリは階段を駆け上がり、音楽室を目指した。
音楽室のドアを開けると、グランドピアノの前に腰掛けた斗真が待っていた。
「来た来た、ヒマリちゃん。待ってたよ。」
「水川先輩!」
「よく辿り着いたね。ここまで来られた人は、まだ誰もいないよ。」
「本当ですかっ!?」
「うん、本当。はい、クリア第一号の証。」
斗真は優しく微笑み、『水色の雫』のシールを手渡した。
「やったぁーー!!」
ヒマリは受け取ったシールを、制服の上着の右胸のあたりへ大切に貼る。
「じゃあ名残惜しいけど……あと十分くらいしかないから、最後の問題を渡すね。」
問題④『この学園を導く者たちが集う、「みんなの声」が最後に届く場所へ』
「ヒマリちゃんだったら絶対分かるはずだよ。最後まで諦めないでね。」
「はい、行ってきます!!」
◇
ヒマリは問題の文面を何度も読み返した。
学園を導く者たちが集う場所――先生たちが集まる職員室?
でも、それだと『みんなの声が最後に届く』という部分の説明がつかない。
残り時間は十分を切っている。
一度のミスが命取りになる――。
焦るヒマリの脳裏に、先日、斗真と一緒に学園内を案内してもらった時の光景が蘇った。
(みんなの声……生徒たちの要望が入る、あの箱……目安箱! 集められた意見や要望が、最後に届く場所といえば――!)
「生徒会室だっ!!」
ヒマリは全力で廊下を蹴り、最上階を目指して階段を駆け上がった。
◇
学園の最上階。
歴史を感じさせる重厚な生徒会室の扉を、ヒマリは勢いよく押し開けた。
「失礼します……っ!」
「――おっ! 来たな!」
大きな生徒会長デスクに軽く腰を掛け、凌が待っていた。
背後の大きな窓から差し込む光を背に受ける凌の姿に、ヒマリは思わず見惚れて言葉を失ってしまう。
凌は照れくさそうに微笑むと、ゆっくりヒマリへと歩み寄った。
「ここに辿り着いたのは、ヒマリだけだ。」
そう言って、最後の証――『深緑色の月』のシールを手渡す。
「深緑色の月……? 黄色じゃないんですか?」
「……そう。これは、新月なんだ。」
凌はどこか愛おしそうにステッカーを見つめ、静かに言葉を繋いだ。
「自分のステッカーのデザインを考えてた時、もしヒマリのステッカーを作るならどんな形になるだろうって想像したんだ。そしたら……黄色くて丸い、満月みたいなマークがパッと浮かんでさ。」
「凌会長……。」
「だから、黄色い丸はヒマリのマーク。それなら俺は、深緑色の新月にしようって思ったんだ。」
その言葉が、ヒマリの胸の奥をじんわりと温かく満たしていく。
(凌会長……私のいないところで、私のこと考えてくれてたんだ……。)
ヒマリは照れくささを隠しながら、新月のステッカーを左胸――心臓に一番近い場所に貼った。
――ブーーーーーッ!
その瞬間、校内に終了を告げるブザー音が鳴り響いた。
全問をクリアし、制限時間内にゴールへ辿り着けたのは、結局ヒマリ一人だけだった。
「ヒマリ、おめでとう! 優勝賞品の学食無料チケットだ。」
「ありがとうございます!!」
差し出された五枚のチケットを受け取ると、ヒマリはニコッと眩しい笑顔を弾けさせた。
「このチケット、ちょうど五枚ありますよね? 良かったら明日のお昼ご飯、凌会長、ソノ先輩、水川先輩、滝沢先輩と私の五人で一緒に食べませんか? もちろん、私の奢りです!!」
思いがけない提案に一瞬目を丸くした凌だったが、やがて耐えきれずに破顔した。
「ははっ、本当にお前らしいな! 俺は喜んでお供するけど……みんなが戻ってきたら聞いてみようぜ。」
「はいっ!」
こうして、学園中を駆け巡った新入生歓迎レクリエーションは大盛況のうちに幕を閉じた。
「先輩たちのステッカー、すごく可愛かった!」
「謎解き、めちゃくちゃ本格的で楽しかったな!」
惜しくもゴールできなかった生徒たちからも、満足げな声があふれている。
そして昼休み――。
ヒマリは、生徒会メンバーたちと明日のランチの約束を取り付けるのだった。
明日もまた、五人で過ごす時間が待っている。
そんな小さな約束を胸に、ヒマリは満面の笑みを浮かべた。




