表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームに転生した冷静生徒会副会長のヒロイン観察日記  作者: 高天原ヒロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/9

第四話 交錯する気持ち〜なぜ、好きになるの?

ヒマリは、斗真と広報活動のため学校を巡っていた。

「さぁ、まずは生徒会室のすぐ下の四階から。ヒマリちゃんがいる一年生の階だね。」

新入生のヒマリへの学校紹介も兼ねて、斗真は丁寧に説明をしていく。


放課後ということもあり、大半の生徒は寮に戻るか、部活動に参加しているので、フロアにいる生徒はまばらだ。

斗真は、残っている生徒とにこやかに挨拶を交わす。

すると、廊下のあちこちから黄色い声が上がった。


「キャー、生徒会の水川先輩としゃべっちゃった!」

「はぁ~、あの優しい笑みとお声……浄化される〜。」

「ヒマリちゃん、いいなー。私も生徒会に入ろうかなぁ。」


その言葉を受けて、ファンサービスとばかりに斗真は笑顔で廊下の生徒たちに手を振った。

「水川先輩、アイドルみたいですね。」

横からくすくすとヒマリが笑う。

「これも、広報活動の一環だからね。ちゃんと、生徒会の良さをアピールしておかないと。」

「なるほど!」


二人は廊下の端に置いてある、一つの箱の前に立った。その箱に書かれているのは――。

「目安箱……?」

「そう。これは、みんなが生徒会に伝えたい意見や要望を書いて入れる箱なんだ。」

「へぇー!」

斗真はその箱を手に取って、上下に振った。

音はしない。

箱の中には、まだ何も入っていないようだ。


「一年生だから、まだみんな意見を言いにくいのかもしれないね。ヒマリちゃんも直接言いにくいことがあれば、紙に書いてこの箱に入れておくといいよ。」

「なるほど! って……私は何かあれば、直接ちゃんと言いますから!」

その言葉に、斗真がくすくす笑う。

「だよね? ヒマリちゃんって、そんな感じっぽい。思ったことは、すぐ口に出ちゃうタイプ。」

「あ、当たりです……。」

それを受けて、斗真はさらに爆笑する。

「あはは! ヒマリちゃんって、本当に分かりやすくて……かわいいなぁ。」

かわいい……その言葉にヒマリはドキッとした。

こんなイケメン先輩に、近距離でかわいいだなんて――。

「も、もう……先輩、からかわないでくださいよっ!?」

ヒマリはほんのり赤くなり、頬を膨らませた。



「じゃあ、このまま二年生と三年生のフロアも回って、目安箱を回収していこう!」

「はいっ!」


そのまま三階、二階と降りていき、二人は順調に目安箱を回収していく。

「二年生と三年生の箱は、たくさん紙が入ってましたね! やっぱり上級生になると、生徒会への意見も増えるんですね〜。」

ヒマリが感心していると、隣で斗真が苦笑した。

「あー、いや……これは……。ほとんどが、意見や要望というより――僕らへのラブレターだから。」

「えぇっ、ラブレター……!?」

(目安箱って……そんな使い方するの!? )


「え……それは一体どういう……?」

「ん? そうだな〜……『頑張ってください! 応援してます!』っていう軽いものから、『付き合ってください』『いつ結婚してもらえますか?』『ずっと、見ています』とか……ちょっと重たいものまで、色々あるよ?」

カラッとした笑顔で軽く言う斗真に、ヒマリは少し引いてしまう。

「そのうち、ヒマリちゃんにも届くかもしれないよ?」

「い、いえ! 私は……遠慮したいです。」

「あははは! ヒマリちゃんって……本当に面白い子だね〜。」

斗真は、心底楽しそうに笑った。



「失礼しましたー。」

凌は、数週間後に開催される「新入生歓迎レクリエーション」の書類を職員室へ届け終えると、そのまま生徒会室へ戻ろうとしていた。

廊下を歩いていると――。


「それでね、ヒマリちゃん――。」

ふと、聞き慣れた声が耳に入って足を止める。

声のする方へ視線を向けると、少し先の廊下を斗真とヒマリが二人で歩いていた。

「えぇっ!? そんなことがあったんですか!?」

「うん。あの時は本当に大変だったんだよ〜。」

「先輩でも失敗することあるんですね!」

「あはは。僕だって人間だからね?」

そんな二人の声が、静かな廊下に響いている。


凌は声をかけようと一歩踏み出したものの、その先が動かない。

楽しそうに笑うヒマリ。

そんな彼女を見ながら、斗真も笑っている。

「あれ? ……斗真って、あんな顔で笑うっけ?」

いつも笑顔の斗真だけど、今はそれとはちょっと違う――。


『斗真、ヒマリのことめっちゃ気に入っとるやん!』

ふいに、環季の言葉が脳裏をよぎる。

「……。」

凌は二人を見つめたまま、無意識に手を握った。

ツキン――。

痛いわけじゃない。

胸の奥でつっかえるような、小さな違和感。

「……なんだ、これ?」

凌は首を傾げた。

自分でもその正体が分からない。

ただあの二人を見ていると、妙に落ち着かない居心地の悪さを感じた。

「……。」

やがて凌は、上げかけていた手をゆっくり下ろした。

「……戻るか。」

誰に言うでもなく呟くと、二人に声をかけることなく(きびす)を返す。

そして、そのまま足早に生徒会室へ戻っていった。



「……あれ?」

斗真が、ふと足を止めた。

「どうしました? 水川先輩。」

隣を歩いていたヒマリが、不思議そうに斗真を見上げる。

今しがた、凌が前の方に立っていたと思ったのだけれど――。

ヒマリに視線を移していたほんの数秒の間に、そこには誰もいなくなっていた。


「……ううん。なんでもないよ。」

いつものように、斗真はニッコリと笑う。

「そうですか?」

「うん。それより……一通り回り終えたし、そろそろ生徒会室へ戻ろうか? 凌くんが心配してるかもしれないし。」

「会長が、ですか?」

ヒマリの少し嬉しそうな表情を、斗真は見逃さなかった。

「うん。かわいい雑用係が逃げ出したんじゃないか〜って。」

「えっ……私、会長にとって、そんな認識なんですか……!?」

「ふふふっ。」

斗真は笑うだけで、何も答えない。

(凌くんは、ヒマリちゃんのことどう思ってるんだろうね?)

斗真は心の中で独りごちた。


凌は廊下に立ってこちらを見ていた。

けれど、自分たちに何も声をかけなかった。

それが意味することは――。

「少なくとも……意識はしてるってこと、だよね?」


「水川先輩? どうかしました?」

「ううん。こっちの話。」

そう言うと斗真は、いつもの笑顔を浮かべて歩き始めた。



その頃――。

生徒会室へ戻った凌は、無言のまま自分の席に腰を下ろしていた。

「……。」

机の上に書類を置いて、ページをめくるが……読めない。

「……なんだってんだよ。」

凌は小さく眉を寄せた。

「……意味わかんねぇ。」

凌は小さくため息をつくと、再び書類へ視線を落とした。

その横顔を見ながら、ソノがちらりと目を細める。

(凌の様子がさっきと違う……。何かあった……? )


そこへ、斗真とヒマリが帰ってきた。

「ただいま帰りました〜。」

「おかえり〜。学校巡りはどうやった〜!?」

環季が明るく返事を返す。

ソノも視線を二人に向けた。

凌はチラッと二人を見たが、すぐにまた自分の書類に視線を落とす。


「楽しかったですよ? 水川先輩が色々教えてくれましたっ!」

ヒマリは純粋に、楽しかったことを告げた。

ソノには、ヒマリの背景にお花畑が見える。

「それは良かった。じゃあ、今度は一緒に図書室とか、特別棟の方に行ってみようか?」

斗真の方も、いつもと変わらない笑顔をヒマリに向けている。

どうやら、この二人は順調に好感度を上げているようだ。

ソノは、チラリと凌を見る。

まるで「自分は関係ない」とばかりに、仕事を続けている。


「そうそう。またみんなにラブレターを預かってるよ!」

斗真はそう言うと、ドサリと目安箱に入ったメモ用紙や手紙を机に置いた。

「はぁ~、毎度毎度みんなすごいな……。」

環季が引き気味に、そのメモに目を通していく。


「『あなたを、ずっと見てます』やって。熱烈やな〜。」

はいと、そのメモを凌に渡す。

「あ? 俺宛て?」

凌は顔を上げてメモを見ると、乱暴に丸めて(かたわ)らのくずかごにポイッと投げ入れた。

その様子に、ヒマリはびっくりして声を上げる。

「ちょっと……それはないんじゃないですか!? せっかく想いを伝えてくれてるのに……。」

その言葉に、凌の眉が跳ねた。

涼やかなアイスブルーの瞳が、ヒマリを見据える。

「じゃあ、どうしたらいいって言うんだ? どこの誰かも分からない相手に……俺の何が分かるって言うんだ!?」

「でもっ……。」

「……生徒会は遊びじゃねーんだよ。ヒマリ、お前も。」

「わ、私……?」

「学校案内もいいけど……。公私混同はしないでくれ。」

その言葉にヒマリの肩がビクッと震える。

「公私混同なんて……私……。」


その時、凌とヒマリの間にすっと斗真が立ちはだかった。

「その言い方はないんじゃないかな? ヒマリちゃんは別に遊んでないよ。」

凌が視線を斗真に向ける。

「公私混同は、むしろ凌くんの方だ。」

「……なんだと?」

「だって……僕とヒマリちゃんのこと、ずっと意識してる。」

「はぁ!? 俺が……ヒマリを?」


「はいはい、そこまで!」

空気を断ち切るように、今度は環季が、凌と斗真の間に割って入った。

「これ以上言うたら、誰かが傷付くだけやろ? ここで終いにしよーや!」

ソノも環季に同意する。

「そうですね。今回は、みんなが自分の意見を言い合った。誰が悪い訳でもない……。これ以上の言い合いは不要でしょう。」


二人の言葉に部屋が静まりかえる。

「すみません……。」

「悪かった。」

「僕も……言い過ぎました。」

ヒマリ、凌、斗真の三人は、顔を合わせて謝罪をした。

部屋の空気が幾分和んだ。


「だけど……。」

斗真が口を開いた。

「一つだけ、凌くんには共感するよ。」

「えっ?」

ヒマリは首を傾げる。

「僕もよく好きだって言われるけど――。なんで僕のこと、好きになるんだろうね? 僕のことを何も知らないくせに……。」


斗真は、柔らかな笑みを浮かべている。

ヒマリは、背筋に冷たいものが走るのを覚えた。

いつもと変わらない笑顔――。

それが、ヒマリには少し怖く感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ