第二話 理想の王子様は野良猫チョロインでした!?
「失礼します! 生徒会活動への参加を希望しますっ!!」
バァン――!!
ヒマリが勢いよく扉を開けると、そこには先ほど壇上に立っていた四人の生徒会メンバーが、揃ってこちらを見ていた。
午後の日差しが差し込む生徒会室。
その光を背にして立つ四人の姿に、ヒマリは思わず息を呑んだ。
まるで、一枚のイラストのような光景。
「はぅっ! 眩しい……! 何、この神々しさ……。後光が差して見える!」
あまりの眩しさに、ヒマリは思わず手をかざして目を細める。
(選ばれた人間って……こんなに光を放つものなのっ!?)
そんなヒマリの一連の行動を目にしたソノは、確信した。
これは、自分が何度もプレイしてきた乙女ゲームの出会いのシーン。
(生徒会室での最初の出会い、光の過剰演出……。やっぱり間違いない。ここは続編『恋エグ3』の世界!)
ソノは目の前にいる、金髪の少女へ視線を向ける。
(そして――彼女が、このゲームの主人公……。)
そんなこととは露知らず、ヒマリはキョロキョロと生徒会室を見渡している。
その時――。
「あれ? お前は……さっき迷子になってた一年生?」
ソノの少し後ろに立っていた凌が、ヒマリに気づいて声をかけた。
「はいっ! ヒマリって言います。さっきは、ありがとうございましたっ!」
ヒマリは凌を見つけると、ほんのり頬を赤く染め、ぺこりとお辞儀をした。
「ん? 凌くん、彼女と知り合い?」
その隣で、斗真がゆったりとした動作で首を傾げる。
「いや、さっきこの部屋の前で迷子になってたからさ……教室まで案内しただけ。」
すると、凌の横で話を聞いていた環季が、大げさに声を上げた。
「えーっ! ぶっきらぼうで、他人とはできるだけ関わりたくないあの凌が、人助け……っ!?」
「おいおい……。俺だって困ってる生徒が目の前にいれば放っとかねーよ。曲がりなりにも、生徒会長だし。」
そう言って、凌はヒマリの方へ向き直る。
「ようこそ、生徒会へ。俺はお前を歓迎するぜ。これからよろしくな!」
ニッと笑い、凌がヒマリへ手を差し出す。
「はいっ! お役に立てるように頑張りますっ!」
嬉しそうに頬を染めながら、ヒマリはその手を握った。
その瞬間――窓の外で、桜吹雪がタイミングよくザァッと舞う。
(あー。きっと今、タイトルロゴとオープニングテーマが流れてるんでしょうね〜。)
ソノは、ヒマリの運命を揺るがす感動的な出会いのシーンを、一人無表情で眺めていた。
そして、改めて周囲を見渡しながら、今後の展開を予想する。
(きっと、今のところ攻略対象者は三人――。生徒会長の黒﨑凌、広報の水川斗真、会計の滝沢環季……。私は、サクラ先輩のようなアドバイザー枠って感じかしら……?)
「おい、ソノ!」
凌に呼ばれ、ソノの思考が現実へと引き戻される。
「なんですか?」
「ヒマリには、書記をやってもらおうと思うけど、いいよな?」
「そうですね。いいと思います。書記なら前年度は私が担当しましたから、私がアドバイザーになって業務を引き継ぎます。」
「ああ。よろしくな!」
凌はニッと笑いながら、ソノに親指を立てた。
ソノもそれに対して、無表情で親指を立てて返す。
凌とソノは、前年度から生徒会に携わっているメンバーだ。
これまでいろんな出来事を乗り越えてきた戦友として、それなりに深い絆で結ばれている。
そんな二人の様子を、ヒマリはじっと見つめていた。
そして、とことことソノの側へ寄ってくる。
「ヒマリさん、早速ですけど、書記の仕事について――。」
ヒマリは真剣な表情で、ソノに向き直った。
「ソノ先輩。その前に……聞きたいことがあります!」
「なんですか?」
「ソノ先輩は、凌会長と……付き合ってるんですか!?」
「「はぁ!?」」
凌とソノが、同時に声を上げた。
「くすくす……」
「ぷっ……」
斗真と環季も、同時に肩を揺らして笑い出す。
「んなわけねーだろ! こいつ、俺のノートを力尽くで奪う凶暴女だし!」
凌が言うと、ソノも額に青筋を立てる。
「あなただって! 『認めねー』って生徒会室に乗り込んでおきながら、前生徒会長に優しくされて絆された野良猫チョロインのくせに!」
二人の間に、バチバチと火花が飛ぶ。
「あ~あ、また始まった〜!」
のんびりとした声で環季が言うと、斗真もウンウンと頷く。
「会長と副会長の痴話喧嘩は日常茶飯事だからねぇ〜。」
そして、ヒマリの方を向くと、斗真はこっそりと耳打ちした。
「会長と副会長の間に恋愛関係はないから……安心して?」
自分が凌を気にしていることまで見透かされ、さらにそれを耳元で囁かれて――。
ヒマリの心臓は、飛び出そうなほどバクバクと音を立てていた。
そんな慌てた様子のヒマリを、とても楽しそうに見つめる斗真。
そして、誰にも聞こえない声で、ぽそりと呟いた。
「……今のところは、ね。」
一見、微笑ましい光景。
だが、それなりに付き合いのある環季は知っている。
(斗真のやつ……また『新しい玩具見つけた』って感じの、やらしい笑顔しとんなー。何も起こらんとええんやけど……。)
斗真に気に入られたヒマリに同情しつつも、自分に火の粉が飛んでこないうちは手を出さないことに決めている環季。
騒がしい生徒会室で一人、書類へ目を落とし、仕事を再開した。
「もう、せっかく新入生のヒマリさんが来てくれたんだから! こんなに騒いでたら、びっくりして逃げてしまいますよ!?」
我に返ったソノは、凌との言い合いを打ち切った。
そして、ゆったりとヒマリの方へ向き直る。
「……というわけで、安心してください。凌会長と私はあくまで同志ですので! 何かあれば、いつでも相談に乗りますからね?」
ニッコリと綺麗な笑顔を浮かべ、ソノは微笑んだ。
ヒマリは初日にして、分かってしまった。
自分の想像していた生徒会像とは――ちょっと様子が違うことを。
クールでキラキラした王子様だと思っていた生徒会長は、ツンデレのいじられキャラで。
凛とした、かっこいい女性副会長は、キレ芸が達者で。
はんなり癒やし系の先輩広報は、ドSな笑顔を垣間見せる。
関西ノリの楽しい会計は、我関せずの合理主義者。
(私、選択を間違っちゃったのかな?)
そんな考えも、少しだけ頭をよぎる。
けれど――。
ヒマリは、もう一度凌の顔を見た。
仕事を再開し、真剣に書類へ目を通している横顔。
(あ、やっぱりかっこいい……。)
ヒマリの視線に気づき、凌が顔を上げる。
視線が交差し一瞬戸惑いつつも、凌はヒマリへ向けて親指を立てた。
「これから、よろしくな!」
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
こんなの、断れるわけない!
ヒマリは覚悟を決めた。
私はこの学園で、恋に、生徒会に、全力で頑張るんだから――。
春。
生徒会に、新たな風が吹いた。
少女の名前は、ヒマリ。
『恋エグ3』の世界が、今、始まった――。




