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乙女ゲームに転生した冷静生徒会副会長のヒロイン観察日記  作者: 高天原ヒロ


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第一話 陽だまりのような新入生

※本作は『バグフラ』から続く『恋するエグゼクティブ』シリーズ第3作です。

前作を未読でもお楽しみいただけます。

春――。

一人の少女が、学園の門をくぐった。

少女の名前はヒマリ。

明るいレモン色の巻き毛のツインテールがリズミカルに揺れ、鮮やかなエメラルド色の瞳は期待に満ちてきらきらと輝いている。


「新入生のみなさんは、廊下に張り出しているクラス表を確認して、各クラスに入ってください!」

拡声器から、凛とした女性の声が響いた。


声のする方へ視線を向けると、生徒会の腕章を付けた一人の女子生徒が、新入生たちを誘導している。

下の方で二つに結ばれた銀髪と、ブルーグレーの瞳。

落ち着いた佇まいからは、知的で大人びた雰囲気が漂っていた。

(わぁ、素敵……。私もこんなふうに大人っぽくなりたいな。)

そんなことを思いながら、ヒマリはその女子生徒へ駆け寄る。


「先輩、一年の教室はどこでしょうか?」

声をかけられた女子生徒――ソノは、静かにヒマリへ向き直った。

「一年生の教室は、三学年の中で一番上の階、四階になっています。」

「一番上の階ですね! ありがとうございましたっ!」

にこりと明るい笑顔を向けると、ヒマリは軽やかな足取りで校舎へ駆け込んでいく。

ソノは、その後ろ姿を見送りながら小さく目を細めた。

(明るい髪色に瞳の色、声優ばりの愛らしい声――もしかして、彼女は……。)


ソノに確証はなかった。

けれど、あの新入生の少女が妙に印象に残る。


ソノは、乙女ゲーム『恋するエグゼクティブ2』(通称『恋エグ2』)の主人公であり、この乙女ゲームに転生してきたプレイヤーだ。

つまり、ここは乙女ゲーム『恋エグ2』の世界。

しかし、ソノが知っている情報は昨年までのことで、ソノが知る限りその先のシナリオは存在しない。

続編の存在は聞いたことがない。

しかし、もしソノが知らない未来で、その続編が作られていたとしたら……?


(もしかして、ここは『恋エグ3』の世界……なの? )



「一番上、一番上――。」

そう呟きながら階段を上っていたヒマリは、いつの間にか学園の最上階まで来ていた。

新入生を迎える一年生フロアにしては、妙に静かだ。

目の前には、他の教室とは明らかに雰囲気の違う豪華な扉が一つ。

「ここが……教室?」

首を傾げながら扉のノブへ手を伸ばした、その時だった。


ガチャッ――。

突然、中から扉が開く。

「きゃっ!」

「わっ!?」

勢いよく開いた扉から現れた人影とぶつかり、ヒマリはその場に尻もちをついた。

目の前に立っていたのは、ダークグリーンの髪を後ろへ流した男子生徒。

アイスブルーの涼やかな瞳が印象的な少年――黒崎凌(くろさきりょう)だった。


「悪い。大丈夫か!?」

凌は慌てて手を差し伸べる。

「すみません……。」

ヒマリはその手を取りながら、思わず見惚れてしまった。

(何? このキラキラしたオーラ……。王子様みたい……。かっこいい……。)


「おい……大丈夫か? 頭は打ってないよな?」

ぼんやりしているヒマリに、凌が心配そうに声をかける。

「は、はいっ!」

「ならいいけど……。お前、ここで何してんの?」

「えっと……私、一年生の教室を探してて……。」

「あー、新入生?」

凌は納得したように頷いた。

「一年生の教室は一つ下の階。」

「えっ?」

「俺もちょうど下に行くところだから。一緒に来いよ。」

そう言うと、凌は自然な足取りで歩き出した。

「あ、ありがとうございますっ!」

ヒマリは慌ててその後を追いかける。



「ここが一年生の階。」

「あ、ありがとうございましたっ!」

ぺこりと頭を下げるヒマリに、凌の表情が少しだけ柔らかくなった。

「どういたしまして。それと――入学おめでとう。」

そう言ってから、穏やかに微笑む。

「これからの学園生活、楽しんで?」

その言葉に胸がどきりと鳴った。

凌は後ろ手にひらりと手を振り、そのまま階段を下りていく。

(な、何? あの人……すっごくスマートでかっこいいんですけど!)

突然訪れた恋の予感に、ヒマリの心臓は(せわ)しなく鼓動を打つ。

けれど――。

「あっ。でも……名前、聞きそびれちゃった。」

一目惚れした相手が誰なのか分からない。

そう思った瞬間、肩がしゅんと落ちた。

だが、その答えは意外なほど早く知ることになる。



入学式のため、新入生たちは体育館へ集められていた。

校長の祝辞。

来賓の挨拶。

(おごそ)かな式典は続いていく。

昨夜は緊張であまり眠れなかった。

ヒマリは重くなる(まぶた)をこすりながら、何とか意識を保とうとする。

周囲からも、欠伸を噛み殺す気配が聞こえてきた。

そんな時だった。


『生徒会長挨拶、及び生徒会紹介』

アナウンスが流れる。

次の瞬間、体育館後方の扉が開き、四人の生徒が整然と並んで入場してきた。

その姿を見た瞬間――ヒマリは息を呑んだ。

先頭を歩いていたのは、先ほど出会ったあの少年だった。

ヒマリの視線は、自然と彼へ吸い寄せられていく。

四人は壇上へ上がる。

先頭に立った凌がマイクを手に取った。


「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます!」

朗々とした、よく通る声。

その一言だけで、会場中の視線が凌へ集まった。

「私は本校二年、生徒会長の黒崎凌です。私たちはみなさんの入学を楽しみにしてきました。これから一緒に、この学園でより良い学園生活が送れるよう頑張っていきましょう。」

短い挨拶だった。

しかし、その堂々とした話しぶりと整った容姿は圧倒的な存在感を放っている。

この瞬間、会場中が彼に魅了された。

もちろんヒマリも例外ではない。

(黒崎凌くん。二年生。生徒会長。ビジュアルと声がめっちゃ良い!)

必死に脳内メモを取る。


続いて凌は、隣に立つ三人へ視線を向けた。

「それでは、みなさんの学園生活をサポートするメンバーを紹介します。」


最初に前へ出たのは銀髪の少女。

「生徒会副会長、三年のソノです。よろしくお願いします。」

簡潔な挨拶とともに、無駄のない所作で一礼する。

(あ、この人。門のところで誘導してくれてた先輩だ!)


次にマイクを受け取ったのは、水色の髪と瞳を持つ男子生徒だった。

優しい笑みを浮かべながら口を開く。

「僕は広報を担当しています。三年生の水川斗真(みずかわとうま)です。困った時や分からないことがあった時は、ぜひ僕たちを頼ってくださいね。」

(この人は、はんなり癒し系でめっちゃ優しい〜。)


最後に前へ出たのは、赤茶色の瞳が印象的な男子生徒。

「俺は会計担当、二年生の滝沢環季(たきざわたまき)や! みんなよろしゅうしてな? 困りごと、相談ごとは生徒会室へ!」

(関西ノリで話してて楽しそう〜〜!)


そして再び、マイクは凌のもとへ戻る。

「以上のメンバーで、現在は活動しています。」

会場を見渡しながら、凌は続けた。

「私は、この生徒会を『歴代で最強の生徒会だった』と後世で言われる存在にしたい。そのために力を貸してくれる方がいたら、ぜひ生徒会室へ来てください。一緒に頑張っていきましょう!」

言葉が終わると同時に、体育館いっぱいに拍手が響き渡った。



式典を終え、教室へ戻る。

クラスでは早くも生徒会の話題で持ち切りだった。

「凌会長、すっごくかっこよくなかった?」

「芸能人みたいに輝いてたよねー。」

「他の先輩たちも尊かった〜。」

「タイプが違って、みんな良い!」

その会話を聞きながら、ヒマリも何度も頷く。

だが、周囲からはこんな声も聞こえてきた。

「でも、生徒会に入るのは敷居が高いかなぁ。」

「確かに! あの中でやっていける自信ない。」

そんな声が飛び交う中――ヒマリの中に迷いはなかった。


ホームルームが終わるや否や、他の生徒とは逆方向へ駆け出す。

目指す先は一つ。

先ほど間違えて入りそうになった、生徒会室だ。

重厚な扉の前で立ち止まる。

深呼吸を一つ。

そして覚悟を決めると、ヒマリは勢いよく扉を叩いた。

「失礼します! 生徒会活動への参加を希望しますっ!!」

明るく元気な声が、生徒会室へ響き渡った。

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