第8話 お見合い当日
早くもお見合い日を指定された週末。私は制服に袖を通して、厳密に姿見を見て自分の姿をチェックした。いつもなら相変わらずの美しさだと自惚れる所だけど、相手が相手だからそういう理由にもいかない。
お母さんと一緒に車に乗って指定された場所に向かう。そこは恋愛成就で有名な大きな神社で、神主に名前を伝えると巫女さんに客殿に案内された。
外は年代を感じたけれど、こうしてお見合いの場として貸すからなのか中は綺麗だった。
そして通された客殿の奥の窓の前に、その人は居た。
漆黒で艶のある髪に黒い狐の耳、そして臀部に九つの尻尾が生えていて、神気?というのか圧巻する様な存在感に写真で見るより凄かった。
九尾といえば和服が似合いそうだけど、この人はシワ一つないパリッとしたスーツがよく似合っていた。
「始めまして新城由貴さん。新城の奥さん、私がお見合いを申し出た鈴木一郎です」
「始めまして!由貴の母です!!」
「は…始めまして、新城由貴です」
自己紹介されて頭を下げられて、慌てて私とお母さんは頭を下げて自己紹介する。
そんな私達の姿を見た鈴木さんは指をパチンと鳴らすと、圧迫感が消えた。何をしたんだと頭を上げてみると、九つあった尻尾が1本に減っていた。
「こうして由貴さんに会えて気が緩んでいたみたいですね。今神気を抑えましたのでどうぞお寛ぎ下さい」
「は、はい」
「どうぞ此方に」
尻尾って収納可能なんだとか思いながら、巫女さんに促されて長テーブルの横にある座布団の上に座る。私達が席に座ったのを確認してから鈴木さんも向こう側に座った。
「特殊討伐隊所属の鈴木一郎です、以後お見知りおきを」
「はい、始めまして黎明ヶ丘高等部1年B組、新城由貴です」
「ふふっ…」
私の自己紹介の何が面白かったのか、鈴木さんが小さく笑った。何だ?何か粗相したか?
「あの、特殊討伐隊の鈴木さん…でしたっけ?何故私の娘とお見合いを?」
「(お母さん良くぞ聞いてくれた!)」
「釣り書を見た所、24歳とありましたが、何故高3の花人ではなく入学したての由貴を選んだんですか?」
「…あれは忘れもしない10年前の事でした。黒の九尾として生まれ修行で心身ともに疲れ果て、屋敷を抜け出したことがありました」
「(ん?)」
「頭に椿を咲かせた女の子が私に向かって『どうしたの?気持ち悪いの?』って声を掛けてくれて、頭の椿を痛かろうにブチッと千切ると私に手渡したんです。『半神さんは具合悪くなると花人の花で回復するんだって、だからどうぞ』って」
「(あれ?)」
鈴木さんの説明を聞いてると霞がかっていた記憶が呼び起こされる。初花と違って大きい花を毟ると痛いんだよな…確かに過去1回椿の花を毟ったぞ?
「お嬢ちゃんに『お嬢ちゃん、赤い花を渡すのがどういう意味か知ってるかい?』と尋ねたら『知ってるよ、お兄さん格好良いからキープするね!』って威張りながら言ってね。幼いながらにおませな事を言うお嬢ちゃんに、修行で疲れていた私は久々に笑ったもんですよ」
「あ…あーーーっ!」
「ふふ…『お兄さん困った事あったらいつでも言ってね、私のお花食べたせてあげる』って言いながら、そのまま公園を出ていったんですよ」
やっっっば!完全に思い出した!!確かに言った!早乙女と待ち合わせの公園に向かう道中に、窶れて骨張ってて今にも倒れそうな着物を来た黒い耳と尻尾を生やした人が居た!救急車を呼ぼうとしても、誰も呼ばないで欲しいと弱々しい声で言われて、私は花人の蜜は半神や鬼人に栄養になるからって習って椿を1つ毟ってあげた!なにより…っ
「尻尾細かったけど猫じゃなくて狐だったんですか!?」
「お陰様でふっくらした尻尾に育ったよ」
「うーーーーーわっ幼い自分が不相応な事を…」
「いやなに、確かに苦くて酸っぱくて硬い椿の花だったが、アレを食べたお陰で私は人の道を逸れずに居られた…礼を言う」
「あわわわわわ…」
「ちょっと由貴ちゃん!落ち着いてっ」
そう言ってお母さんが肩で肩をどつく、いや白犬の半神のお母さんは知らないだろうけど、私は“赤い椿”をこの人に渡したのだ。
「花人の文化では、私はあの日、由貴さんから告白を受けたことになります。なので今回お迎えに来ました」
「え?愛の告白?」
「知らないのですか奥さん、花人が赤かピンクの花を渡す事は愛の告白になるんですよ」
「えっそうなの!?」
「わーーーわーーーっ!」
「そして半神や鬼人がそれを食すと、告白を受ける事になるんです…由貴さん」
そう言って鈴木さんが長い手を伸ばして、私の手を握った。
「今度は恋で熟した赤い花を食べさせて貰えますか?」
「…ひゃい」
オーバーヒートを起こしたけど、幼い自分がキープしていた事と、真剣な表情と声色でそう囁かれて、私は頷く事しか出来なかった。




